哀しき軍艦巻き
武城 統悟
第1話
うちの近所に回転寿司ができた。
半年ぐらい前、それまで営業していたコンビニが閉店して、しばらく空いていた場所だ。
建物は残ったままだったけど居抜きで使うにはやっぱりコンビニぐらいしかないだろうなあ、と思っていたら僕の予想に反し、オープンしたのは全国チェーンの回転寿司だった。
寿司の好きな妻は行きたくて仕方がなかったようだが、こんな時世でもあるし、少し落ち着いてから行こうと話していた。
最近は来店する客も少し落ち着いてきたようだし、そろそろ行ってみようかと思い、妻と一緒にやってきたのである。
昼ごはんの時間を少しずらしていったせいか、すぐにテーブル席に案内された。
妻が注文用の端末でメニューを選んでいる間、僕は横のレーンでゆっくりと流れている寿司たちを眺めてみる。
回転寿司と言うけれど、どのチェーン店も寿司だけじゃなくいろいろなメニューが流れてくる。
枝豆や唐揚げなどのつまみやフライドポテト、アクリルケースに書かれたデザートの皿にはケーキやプリンの写真が乗っていた。うどんやラーメンは出汁が効いていて、下手なラーメンよりもおいしいなんて口コミも見たことがある。
寿司屋なので当然寿司もたくさん流れている。
マグロやサーモン、エビやイカなど、我々こそが定番なのだよというレギュラー陣から、炙りチーズサーモンやえびアボガドなんていう、わしらひと手間かかっとるけんそのへんのネタと一緒にせんといてというようなレギュラー並の実力者たち。
海苔巻き勢はあまり目立ちはしないが、いぶし銀のベテランたちが並んでいる。
ちなみに僕はカンピョウ巻が大好きでいつもトップを切って注文するのだけど、世の中的にはカンピョウ好きというのは圧倒的少数派であるらしい。嘆かわしいことである。
そんな海苔陣営にあって古き伝統の中でも攻めの姿勢を貫いているのが軍艦巻きの一党である。
イクラ、ねぎトロという不動のツートップを旗艦に、ウニ、甘海老、納豆などの護衛艦隊、コーン、ツナサラダ、から揚げなど、昔はヤンチャだったものの今ではすっかり市民権を得た一団が過ぎていく。
そんな中、ネタであるハンバーグがシャリから転がり落ちている軍艦巻きが流れてきた。
まわりを囲んでいる海苔が湿り気を帯び、ぐったりとしてハンバーグを支えきれなくなってしまったのだろう。
伝統ある軍艦たちに対し、唐揚げやエビフライ、イカ天などの新鋭艦は海苔で巻かれた船体部分に対し、ネタが大きすぎるのだ。周回中になにかの拍子で崩れ落ちることは十分想定される事態である。
軍艦巻きのネタ部分と言えば、これはもう艦船の艦橋部分と同義である。
つまりこのハンバーグの軍艦巻きは艦橋部分を大破したまま航行しているということになる。
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