最終章「タクシーの車窓から」 第4話 今日、最後の目的地
東名高速道路を移動中、渋滞に巻き込まれなかった三人。
静岡県内は東名高速道路、新東名高速道路の二本の大動脈が横断している。これによって、連休時の渋滞が大幅に改善されている。
ここは静岡市内において、静岡競輪場に最も近いスマート・インターである。車でここを北上すれば、五分程で静岡競輪場に至る。
スマート・インターを下りて、赤信号で止まるカブリオレ。
新居さんは、見事と成行に話しかける。
「見事様。目的地まで、海沿いのルートを使います。短時間ですが、駿河湾の目の前を走るので、良い景色が楽しめますよ」
「わかりました。ルートは新居さんに任せます」
見事は答えた。静岡競輪場はどのみち、この連休中に行くことなる。ならば、今からそこへ向かうよりも、別な所に行きたい。
カブリオレはスマート・インターから南下して、国道150号方面に向かう。
すると、
ここは
見事は交差点での信号待ちで、空を眺めた。時刻は既に15時を過ぎている。周囲はまだ明るいが、あまり時間がないかもしれない。そんな不安が彼女にはあった。
信号が青になり、カブリオレは交差点を左折し、駿河湾沿いの国道150号を東に向かう。同じ海沿いでも、渥美半島の海岸や浜名バイパスから見る海とは
駿河湾の潮の匂いを感じつつ、三人の乗ったカブリオレは150号を通過した。
国道150号では少し渋滞にはまった。そのため、見事のリクエストした場所、正確に言えば、そこへの経由地へ時間ギリギリに着いた。そこは、「日本平ロープウェイ」の駐車場だった。
駐車場内へカブリオレが入ると、車を停車するスペースがない。当然だ。このゴールデンウィーク中、日本平ロープウェイや、このすぐ
新居さんは混雑状況から、
「お二人はここで降りて、ロープウェイへ向かってください。私を待っていては時間がないので」
それを聞いた二人はすぐに決断した。
「わかりました。私たちは先に行きます」
「新居さん、ありがとうございます」
挨拶もそぞろに二人はカブリオレを降りて、日本平ロープウェイ乗り場へ向かった。
「ヤバい。想像していたよりも混んでる・・・」
見事は焦りから少し弱気なことを言った。すると、成行はすぐに彼女へこう言う。
「大丈夫ですって。きっと間に合う!」
見事とは対照的に、成行はこの状況を楽観視している。だが、それ以上に彼の笑顔は見事を励まそうとしているように見えた。
二人はロープウェイのチケットを購入し、ロープウェイ乗り場への行列に向かう。道路の混雑や、連休の人の多さで時間ばかりが過ぎていく。時刻は16時を過ぎた。
行列に並ぶ見事と成行は、ようやくロープウェイ乗り場の目の前まで来た。ここに来てようやく一安心できた見事。かなり無茶なお願いをしたかもしれない。そんな風に反省していた。
見事がリクエストした行き先は、久能山東照宮だった。ここで、『これ以上のトラブルに見舞われませんように』と、お詣りをしたかった。
行列に並んでいる最中、成行は見事に言う。
「これなら間に合いそうだね?」
「うん。少し安心した・・・」
見事が正直な心中を吐露すると、成行は微笑みながら言った。
「よかった。見事さんの願いが叶いそうで」
「えっ?」
成行の言葉に少し驚く見事。
「見事さん、今日はゴメンね。僕のせいで一日が無駄になったし、何よりも心配かけたから・・・」
成行は苦笑しながら言った。
それを聞いた見事は顔を手で覆う。恥ずかしながら、成行の言葉に思わず泣きそうになった。しかし、彼女はそれを堪えて成行に言う。
「それはいいわ・・・。だから、その、ありがとう・・・」
いつもの見事らしくない歯切れの悪さだが、成行は彼女に言う。
「僕からもありがとう。助けに来てくれて」
成行の優しい笑顔に見事は目が滲む。
「うん・・・」
見事は静かに頷いた。
そんな会話をする間に、ついに二人がロープウェイのゴンドラへ入る順番が来た。
※※※※※
久能山東照宮側のロープウェイ乗り場へ到着した二人。双方とも疲れた様子だった。
混雑するゴンドラ内は、想像以上に密だった。
しかも、見事も成行も、ゴンドラの窓際に追いやられてしまったので、想像以上に外の景色が見える位置になった。窓際からなら、綺麗な景色が見える。本来ならば。
だが、日本平ロープウェイへ初めて乗る二人には、外の景色が想像以上に迫力があるものに感じた。見事と成行が想像していたよりも、高い場所をゴンドラは通っていた。
眼下には、深い谷が見えた。落ちたらひとたまりもない。改めて日本平ロープウェイが、いかに高い位置を通るのかを身をもって体感した。
「遠くの景色より、眼下の谷が迫力あったね・・・」
「うん。思った以上に高かった・・・」
二人は久能山東照宮側のロープウェイ乗り場から、いよいよ東照宮へ向かう。
ロープウェイ乗り場から階段を下ると、すぐ目の前に東照宮の社務所がある。
ここで東照宮拝観の為のチケットを購入し、いよいよ久能山東照宮の参拝を開始する。時間ギリギリだったが、拝観はできる。
見事と成行は、他の参拝客に続いてご社殿に向かって歩き始めた。
「何か、本当に修学旅行みたいだね?」
「うん。それはわかるわ」
歩き始めてすぐ、見事は成行の手を握った。
「おっと!」
驚いた成行が足を止める。
すると、見事が頬を赤くして言う。
「傾斜があるから、ちゃんとエスコートしてよね・・・」
「はい。喜んで」と、答えた成行。その様子を年配夫婦が微笑ましそうに二人を見ていた。
それに気づいた見事は成行に言う。
「早く行きましょう!じっ、時間もなさそうだし!」
「よかった」
見事の言葉を聞いた成行は、突然そう言い出す。
「何がよ?」
見事には何のことかわからない。
「見事さんが教科書通りのツンデレ的反応で、僕も
そう言って成行は笑った。
「もう!お馬鹿なんだから」と、言った見事。しかし、彼女は怒ったような素振りを見せなかった。
二人は手をつないで境内を進んだ。
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