第5章「渥美半島の戦い」 第6話 二人きりの時間①
見事は、雷鳴たち四人を乗せたNH90を見送った。ヘリは瞬く間に東の空へ消えていく。残されたのは、相変わらず青く晴れた空のみ。
雷鳴がこの海岸を去る前、見事にとある提案をしてきた。
今日の18時まで、空間魔法で、この海岸には誰も来ないよう細工したとのこと。そして、二人のために、静岡からのタクシーを待機させておくことだった。
砂浜に腰かけて海を眺める見事。予定外だったが、こうして落ち着いて見れば、渥美半島からの太平洋も良い眺めだ。本来なら、静岡市から駿河湾を眺めていたかもしれないのに。
「もう、起きなさいよ。いつまで師匠を待たせるのよ?」
いつまでも目を
見事は
「ううん・・・?」
今までピクリともしなかった成行が意識を取り戻したのだ。
「えっ!マジ!」
まさかこんなことで意識を取り戻すとは思っていなかったので、かなり焦る見事。
「成行君!大丈夫!」
思わず成行の体を揺さぶろうとする見事だが、
「うん・・・?」
成行はパッと目を覚まし、体を起こす。彼と目が合う見事。
一方、成行は周囲を見回す。
「あれ?何で海に・・・?」
頭をかく成行。
「よかったああああああっ!成行君!私がわかる?
成行に飛びつく見事。
「わああああっ!落ち着いて、見事さん!見事さんのことはわかりますから、落ち着いて!」
見事の記憶はあるようだが、自分が抱きつかれている状況が理解できていない成行。
「よかったわ。本当によかった・・・」
見事の目に涙が薄っすらと浮かぶ。すると、それを見た成行が彼女を抱きしめた。
これには頬が熱くなるのを感じる見事。勢いで成行に抱きついてしまったが、まさか彼に抱きしめてもらえるなんて、想像もしていなかった。
「成行君、怪我はない?」と、一応、彼の健康状態の確認をする見事。
先ほど、
「僕は平気みたいだけど、ここは
成行も抱きしめた見事から手を放し、またも周囲を見回す。彼が状況把握できないのは無理もないだろう。
見事はここ渥美半島へと至る話をし始めた。
※※※※※
「つまり僕は、その双子姉妹に連れ去られて、ここ渥美半島にいると?」
ここまでの経緯を聞いて、思わず溜息をする成行。
「何てこった・・・」
頭を抱える成行。
「そうよ。新幹線から成行君がいなくなって、凄く焦ったんだから」
見事も溜息を吐いた。彼女の疲れたような表情を見て、
「でも、僕は魔法をかけられた覚えなんてないのに。見事さんも、それはかわるでしょう?」
成行は新幹線へ乗るまでのことを思い出しながら、見事に問いかける。
自宅を出発し、京王線、JR横浜線と、見事と二人で行動していた。ゴールデンウィークの混雑もあったが、不審な人物に出会った覚えはない。どこで魔法にかかる要素があったのか?
「それはね、話術師の話術っていうのは、
見事は自身のスマホを眺めながら答えた。
「今、ママから連絡が入ったわ。双子姉妹を尋問しているみたい」
そう言って見事は、成行がさらわれたトリックを話し始める。
「あの双子姉妹、始発の東京から乗ったみたいね。それで私たちが
「新幹線の座席に?そんなこと可能なの?」
怪訝そうな顔する成行だが、見事は特に驚くでもなく話し続ける。
「それが話術という魔法の特異性ね。何というか、条件魔法の要素も持ち合わせているの。話術って魔法は」
「それで、新幹線の座席にはどんなカラクリが?」
「成行君、急にお腹が痛くなったでしょう?それが全てよ」
「お腹が?そう言えば・・・」
確かに静岡駅到着を目前に腹が痛くなった。それがきっかけで、成行は自分の座る席を離れたのだ。
「そうだ!そうだよ!あの時、トイレに行ったら、いきなり知らない女の子がー」
記憶が蘇り、思わず立ち上がってしまう成行。
「それが
「その子の仕業だったの?」
成行は見事に尋ねる。
「正確に言えば、二人の連携プレーかしらね?姉の資織が座席に話術を仕掛けたの。『静岡駅到着目前になったら、成行君がトイレに行きたくなる』って」
「話術って魔法は、そんなことが可能なのね・・・」
再度、
「成行君、棗沙織に何か話しかけられたでしょう?そこで成行君は気を失ったはずよ。その後、沙織が成行君のふりをして、私にニセのメッセージを送ってきた。私はそれに騙されて静岡駅で下車。成行君は豊橋駅経由で、ここ渥美半島まで来た。そんな流れね」
「そんなことになっていたなんて。全く気づけなかった・・・」
そんな様子を目にした見事は彼に言う。
「成行君が責任を感じることはないわ。全ては雷光伯母さまの
見事は少しムスッとした顔で話す。
「でも、その雷光さんの目的は、僕だったんでしょう?」
「その様子ね。まあ、先日の工場大爆発で、成行君は日本中の魔法使いの話題の的だから。でも、今日の一件で、これ以上、成行君に手出ししようとする魔法使いはいないはず。御庭番も、東西の魔法使い協会も動いているから、今度こそ安心できるはずよ」
見事は背伸びする。
「そうじゃないと困るんだから。せっかくのゴールデンウィークなのに。これ以上、台無しにされたくないわ」
見事はそう言って成行に肩を寄せた。
「!」
これにはドキッとしてしまう成行。そして、彼は見事にあることを指摘する。
「ところで、見事さん。その服、素敵だね・・・」
「!」
すると、今度は見事が驚いて、成行から体を離した。彼にドレスのことを褒めてもらえるなんて、思っていなかったのだろう。
「これはあれよ。その、成行君を助けるときに着ていた服が砂で汚れちゃったのよ」
何故かしどろもどろする見事。
「砂?ここの海岸?」
「そう。さっきも話したけど、雷光伯母さまとガチバトルになったの」
「こんな風光明媚な場所で・・・」
成行は何気なく、また周囲を眺めた。すると、波打ち際に不自然な大きな穴が開いている。まるで砲撃を受けたかのようだ。
「あの穴、空間魔法で修復しないと。変にニュースになったら、困るから」
見事は大穴を指差して言った。
「凄い。大砲の
成行は率直な感想を述べる。本当にガチンコ魔法バトルになっていたこと改めて思い知らされた気分だった。
二人きりの海岸で成行は、あることを思いついていた。彼の決心は早く、すぐにそれを見事に提案しようと決めた。
「「あの!!」」
すると、成行と見事の声が重なりあった。
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