第5章「渥美半島の戦い」 第4話 美濃国の住人

 御庭番・副番長の一期いちごいわおが登場し、成行の誘拐騒ぎは終焉した。


 雑木林ぞうきばやしにいた南波と総一郎の二人は、一期いちご配下はいかの武士たちに捕縛されていた。槍を向けられて大人しく砂浜に座る南波と総一郎。


「あっけないな。お前も魔法使いの端くれ。もっとガッツを見せてもよかったのに」

 総一郎に話しかけた雷鳴。

「無茶言わないでよ!岐阜のお巡りさんから逃れたと思ったら、今度は鎧武者の集団に追われるし、それに連中武士、おかしいでしょう?見た目は戦国時代でも、鉄砲足軽は火縄銃種子島じゃなくて米国アメリカ製のM14で武装しているし、大砲おおづつの代わりに無反動砲カールグスタフを装備してるし!イジメレベルで時代考証や軍事考証を無視してるよ!」

 総一郎は鎧武者たちを指差して反論する。


 確かに時代劇で見るような鉄砲足軽たちは、火縄銃ではなく、今でも米軍が使用しているM14自動小銃を携えていた。それにカールグスタフ・無反動砲を背負った足軽もおり、非常に不自然な光景だった。

 すると、そんな総一郎の指摘に一期が答えた。

「うーむ、それに関しては私の趣味だな」

 さも何事もないかのように答える一期。


「いや、それなら武士じゃなくて、現代風の軍隊でいいでしょうに」

 総一郎のツッコミに一期はムッとした表情で言った。

「うるさい小童こわっぱだな。突き刺しちゃうぞ?」

 すると、足軽たちの持った槍の穂先が総一郎の目の前に迫る。

「うわあっ!ちょっと、危ないですから!っていうか、僕は警官なんだから、こんなことは許されないんだぞ!」と、凄む総一郎。だが、槍を向けられては迫力に欠ける。


 一期は南波に目を向ける。それに気づく南波。

「南波は相変わらず雷光殿の使い走りか?いかんな、公僕こうぼくがそんなことでは」

 たしなめるように言う一期。

「アンタには言われたくないね」と、言ったきり視線を逸らした南波。

「やれやれ・・・」

 呆れ気味に肩をすくめる一期。


「一期、この後はどうする気や?」

 雷光は足軽ではなく、腕の立ちそうな鎧武者に囲まれていた。

「雷光殿は豊橋の街へ。事情聴取じゃな。西日本魔法使い協会や、執行部がこちらへ向かっているし、何よりも地元愛知の魔法使いが怒っていますぞ」

「ちっ!」と、不満げな顔をする雷光。


「それと南波」

 一期は再度、彼に目を向ける。

「お前は私と岐阜へ戻るぞ」

 ハアッと溜息をして、南波は黙って頷いた。


 一方、大人たちのやり取り眺めていた見事に一期が話しかける。

「今日は災難でした。雷鳴殿からの連絡で駆けつけたが、お怪我はないかな?」

 紳士的ならぬ、武士的な態度で接してきた一期。

「いえ、砂まみれになりましたが、怪我はないです。それよりも―」

 自分のことよりも、一期の家来に手当てされている成行を心配する見事。

「彼も怪我はない。あの瞬間、熱波動弾を防いだお手並みは、まさにです」

 感心した様子で頭を下げる一期。その反応には、見事も却って照れてしまう。


「部下に着替えを持たせました。陣幕を用意しております。そこで着替えを。これ!着替えを持て!」

 配下の武士に叫ぶ一期。すると、鎧兜姿の若い女性が現れる。20代前半で、スラッとした端麗な容姿だった。その立派な武者ぶりに、見事も同性ながら見とれてしまう。

「この者は私の近習です。まあ、秘書ってことですな」

 一期は女性武者を紹介しながら微笑む。女性武者は無言ながらも、礼儀正しくお辞儀した。それにつられて、見事はお辞儀してしまう。


「見事さんを陣幕まで案内なさい」

 一期に言われた女性武者は再度、お辞儀して見事に近づく。

「ご案内いたします。こちらへ」

「はっ、はい・・・」

 思わず緊張してしまう見事。それほどに、女性武者の立ち振る舞いには、戦国ののような武士らしさがあった。


「それと見事さんー」

 陣幕へ案内されそうになる見事を引き留めた一期。

「一つお願いがある」

「お願いですか?」

 何をお願いされてしまうのかと身構えた見事。

「今日、見た私の魔法能力は、他言無用でお願いしたい」

「一期さんの魔法ですか?」

 一瞬、考えてしまった見事。何のことかと思ったが、十中八九、この武士達のことだろう。

「わかりました。誰にも言いません」と即答した見事。他人に話そうにも、一期の魔法をどう説明すればいいか、自分でも思いつかない。

「感謝いたす!」

 そう言って気持ちの良い笑顔をみせた一期。


「では、私はこれにて。みなもの、これまでじゃ!雷光殿と南波を連れて行け!」

 配下の武士に命じる一期。雷光と南波は鎧武者たちに連れて行かれる。

 それと同時に、一斉に鎧武者たちが海岸から撤収し始める。その様は整然と、堂々としていて、時代劇のワンシーンを思わせた。

「陣幕の引き上げは最後にします。慌てずに着替えを―」

 一期は見事にそう言い残して軽い会釈をした。


「雷鳴殿!」

 見事から雷鳴へ馬を近づける一期。

「あの双子姉妹はお任せする。今回の件は、あの二人のアイディアではないでしょう。それに聞きたいことがあれば雷鳴殿からお聞きなされ」

「そうする。覚悟しろよ、チビども!」

 不敵な笑みを棗姉妹に見せる雷鳴。

「「ひいいっ!堪忍してえ」」

 棗姉妹はまたも抱き合って怯える。


「南波は同じ美濃者岐阜県民ゆえ、引き取ります。雷光殿は話を聞いた上で釈放を。仮にも、ですから。私も無下むげにはできません」

 苦笑しながら話す一期。

「なあに、たまには雑な扱いでも構わんさ。あの偉そうな態度は、変わっていない」

 雷鳴がそう言うと、一期は一瞬いっしゅんあたりを見回して、他の者に聞こえないように話した。

「雷鳴殿もあおはしぶといゆえ」

 一期の忠告とも思える言葉に、雷鳴は静かに頷くだけだった。


「では、これにて。やあっ!」

 馬に鞭を入れて、一期は海岸から引き上げる軍勢に合流した。



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