第5章「渥美半島の戦い」第3話 援軍来る

 雷光が目にしたのは、波打ち際へせまるる無数の甲冑かっちゅう姿すがたの武士たちだった。

 戦国時代風のよろいかぶとに身を包み、整然とこちらへ向かって来る。そのかずは、一目見ただけでも数千名はいるだろう。

「いつの間に・・・」

 唖然とする雷光。

「!」

 よく見れば、その武士たちに槍を向けられて南波と総一郎がこちらに歩いて来る。二人とも武器を奪われ、両手を挙げた姿で歩いていた。捕虜になってしまったらしい。

 それに雷光はあることに気づいた。侍たちの掲げるはた指物さしものだ。そこにしるされた家紋に見覚えがあった。

「あの家紋は・・・」



                ※※※※※



「おーい!見事、無事か?」

 砂浜を悠々と、呑気に雷鳴が歩いて来る。まるで武士の集団が来ることを予期していたかのようだ。

「無事じゃないわよ・・・」

 熱波動弾に耐えた見事だが、全身砂まみれ。それを言えば、彼女の側にいた双子魔女や成行も同じだった。

 見事は自身を守りつつ、棗姉妹や成行も円形防護魔法で守っていた。

 砂を振り払い、立ち上がる見事。彼女もまた無数の侍たちの姿に目を奪われていた。

「この侍たちって・・・」

 かつて渥美半島も乱世らんせの時代は、いくさとは無縁ではなかったはず。だが、この近辺で、これほど沢山たくさんの侍が戦ったという歴史的事実を知らない見事。亡霊のたぐいではなければ、これは魔法だと言わざるを得ない。


 無数の武士たちが歩みを止めた。と、その中から一騎の騎馬武者が、波打ち際に向かって来る。陣羽織じんばおりり、一際ひときわ立派な甲冑姿。いかにも名のある武将という


「おーい!雷鳴殿!」

 その騎馬武者は雷鳴に向かって手を振る。すると、機嫌良く手を振り返し、笑顔を見せた雷鳴。

「えっ!ママの知り合い?」

 母親に戦国武将の知り合いなどいるのかと、いぶかな表情をする見事。

 一方、雷光は表情をしていた。


「気分は殿様だな?一期いちご

「久しいの、雷鳴殿。それに雷光殿も」

 一期いちごと呼ばれた戦国武将(?)は、馬上より気さくに雷鳴と雷光に話し掛ける。どうやら二人と面識があるようだ。

 一方で、見事はその珍しい苗字みょうじに記憶を巡らせる。

 どこかで聞き覚えのあるような。そんな風に考えていると、のことを思い出す見事。


「あっ!」と、思わず声に出てしまったので、口を手で覆った見事。

 すると、戦国武将の視線が見事に向く。

「おはつにお目にかかる。キミが雷鳴殿の娘・見事さんだな?」

「えっ?あっ、はい。そうです」としか答えようのない見事。今まで戦国武将と会ったことはないわよね?と、自分自身に問いかけてみた見事。

「そのように緊張なさらず」

 そうは言うものの、数千名の武士と戦国武将を目の前にして、緊張しない人物はいないだろうに。


「困りますな、雷光殿。このような騒ぎを起こされては・・・」

 一期いちごという名の武将は渋い顔しながら言う。一方、雷光はそっぽを向いてしまった。

「雷鳴殿も不運でしたな」

 一期は雷鳴に話しかける。

で済むか!馬鹿姉貴のおかげで天下のゴールデンウィークも台無しだ」

「なに!誰が馬鹿姉貴やて?」

 雷鳴の発言には敏感に反応する雷光。

「事実だろう?成行ユッキーをさらって、その上、熱波動弾まで撃つとは」

「アホぬかせ!こっちは身内棗姉妹がピンチやったんや!仕方ないやろ!」

 言い争いを始める雷鳴と雷光。それを遮るように一期が言う。


「そこまでです、二人とも!」

 一期の強い語気に雷鳴、雷光の言い争いが止まる。

 一期は睨むように雷光へ言う。

「雷光殿、今回はあなたに落ち度がある。くだん少年成行のことは私も存じているが、如何にせよ、やり方に問題がある。あの少年は雷鳴殿にお任せする。今すぐ解放するように!追って西日本魔法使い協会からご沙汰がありますぞ」

 雷光を相手に、その毅然とした態度はと言っても過言ではない。

 その姿に感服する見事。その一方で、彼女はこのの正体を思い出していた。


 馬上の武将は、一期いちごいわお。戦国武将などではなく、れっきとした魔法使いだ。鎧兜姿はとても似合っているが、顔つきや体格は現代人。決して小柄で華奢な印象はないのだが、言ってしまえば、どこにでもいそうなおじさんである。

 だが、そんな彼は岐阜県の大垣を拠点とする魔法使い。かの御庭番おにわばんのナンバー2に当たるなのだ。


 この人が一期いちごいわお。本人には初めて会うが、こんな能力魔法は見たことがない。

 見事は初めて会う御庭番・副番長と、その能力魔法をただ呆然と見つめていた。とにかく、一期のおかげで問題は解決しそうだった。それにはひと安心あんしんの見事であった。

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