第5章「渥美半島の戦い」第2話 「話術師を倒せ」

「この二人は、どんな能力を持っているんですか?」

 見事は総一郎に尋ねる。

「この双子姉妹はね、『話術師わじゅつし』なんだよ」

話術わじゅつ?それって、あの?」

 見事もはなしには聞いたことのある魔法能力だった。


 話術わじゅつ。会話そのものが呪文になるという、かなりレアな魔法能力

 主に関西圏で発達した魔法で、上方落語の発展とともに、魔法使いが編み出したといわれている。そのため、関西圏以外では使うことができる魔法使いは少ない。

 また、会話した内容がダイレクトに魔法になるため、特定監視能力ブラックリストになっている。所謂いわゆる、催眠術的な特性があるので、誰かをコントロールすることに使えてしまうのだ。


「うーん・・・」

 思わず考え込んでしまう見事。戦う相手として、難しいと直感したからだ。

 迂闊うかつに接近すれば、話しかけられただけで、向こうの魔法にかかってしまう可能性が高い。だが、成行を救出するには棗姉妹との接触は避けられない。


 見事が一人悩んでいると、雷鳴がアドバイスする。

「そんなに悩まなくてもいいんじゃないか?」

「でも、話術師って催眠系の魔法でしょう?そんな簡単な相手ではー」

「いや、こちらにも似たような力を持った奴がいるだろう?」

 母の言葉に一瞬考えた見事。

「あっ!」と、声を上げて大事なことを思い出す。


「そうよ!こっちにも似たような力を持った魔法使いがいるわ!」

「思い出したようだな?」

 雷鳴からのヒントを得て、見事は自分のスマホを取り出す。そして、彼女はにメッセージを打ち始めた。あの子なら、何か助けてくれるはず。見事はそう思いながら、メッセージを送った。



                 ※※※※※



 棗姉妹を目の前に、おのが心をしずめる見事。二人棗姉妹の能力は手強い。冷静さを欠いては、せっかく貰ったアドバイスも無駄になる。


 無言で二人に迫る見事。すると、沙織が見事に向かって何かを口にした。恐らく、を発動したのだろう。

 しかし、見事にはそれが効いていない。彼女はゆっくり棗姉妹に迫る。それを見て焦っている様子の双子魔女。まさか、話術が効かないのは想定外だったようだ。もう一人の資織も何か喋った。それも見事に効いていない。いよいよパニックになり、震える棗姉妹。

 成行を連れ去られて怒り心頭の見事。本人見事は抑えているつもりでも、それが表情に出てしまっている。さらに、必殺技であるが効かないのですべがない二人棗姉妹


「「あーん!ママ、助けて!」」

 見事の圧に耐えられなくなった双子魔女棗姉妹。二人は思わず抱き合って叫んだ。

「!」

 棗姉妹が叫んだのと同時に、背後から放たれたに気づく見事。それは彼女を目掛けて高速で迫ってきた。

 反射的にという選択をした見事。空間魔法では基本となる防御技・円形防護を発動する。

「ぐっ!」

 砂浜は砲撃を受けたかのように、天高く砂を舞い上げる。その攻撃は、見事の想定を上回る威力だった。しかし、そこは空間魔法を得意とする見事だ。体は弾き飛ばされても、ダメージは最小限にとどめた。

 見事を直撃したのは、ねつ波動はどうだん。炎系魔法の大技おおわざで、例えば大型船舶(空母や駆逐艦)や、地上目標(ビルや飛行場)を破壊するわざだ。本来は対人用に使うものではない。


「この技を使えるのは・・・」

 見事が知る限り、この場で、この技を使えるのは、ほんのわずか。

「流石やな、見事みこと。ホンマにおごとや」

 気づけば、見事の目の前には雷光がいた。

「雷光さん・・・!」

「双子魔女を可愛がってくれたようやな?しかし、これまでやぞ?」

 不敵な笑みを浮かべる雷光。彼女は見事の展開する円形防護をいとも容易く破壊した。

 一瞬で、防護を破壊されたことに目を丸くする見事。雷光の方が格上とわかっていても、簡単に自身の魔術を無効化されると力の差を痛感する。


「悪いな、見事。今回、成行坊やはワシらのお客さんや。せやから―」

 砂浜に倒れ込む見事をろすように話す雷光。しかし、そんな彼女にスマホの振動が水を差す。

「なんやねん!エエところやのに!」と、着信を無視しようとする雷光。だが、未だに怯えた様子の棗姉妹が雷光に向かって言う。

「ママ、あれ見て・・・!」

 沙織が指さす方向に目を向ける雷光。

「何があるって―」

 雷光はそちらの方角を見て驚愕した。

「ウソやん・・・」

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