第5章「渥美半島の戦い」第1話 「双子の正体」

 青い空と果てしなく広がる太平洋の優美さとは裏腹に、見事の怒りは限界を超えていた。

 目の前の双子魔女の正体をすでに把握していた見事。ショートボブの方がなつめ沙織さおり。そして、セミロングヘアの方がなつめ資織しおり

 今日の事件の首謀者である静所おとなし雷光らいこう、つまり見事の伯母おばにあたる人物の一門なのだ。

 だが、棗姉妹とは直接の面識はなかった見事。二人の存在は、話に聞いたことがある程度だった。関西かんさい静所おとなし一族には、双子魔女がいると。年齢は自分とはほぼ変わらない中学3年生。そして、かなりレアな魔法が使えることも。

 楽しいゴールデンウィークを潰した罰として、双子魔女を潰したい気分だが、そうもいかない。二人のすぐ後ろには成行がいる。彼を巻き込むワケにはいかないし、双子魔女の能力に警戒しなくてはならなかった。



                 ※※※※※


 渥美半島を目前にしたNH90の機内。そんなときに、雷鳴は見事と総一郎に向かって言う。

「二人とも、ユッキーを連れ去った奴らの正体がわかったぞ」

 母の言葉を耳にして、目を丸くして驚く見事。

「本当!本当なの!ママ!」

 見事は雷鳴に飛びかかる。

「わあっ!だから、落ち着けって!ヘリが落ちる!」

 オーバーなことを言って娘を振り払おうとする雷鳴。

「誰がそんなことをしたの!成行君は無事なの!ねえ!」

「まあまあ、落ち着いてよ。見事さん―」

 流石に見かねた総一郎が声をかける。

「アナタは黙っていてください!私の弟子がピンチなんです!」

「えーと、はい・・・」

 見事の勢いに押されてあっさり引いてしまった総一郎。


「見事、落ち着け!」

 自分の娘をようやく押し返した雷鳴。

「話を聞け。ここからがユッキーを助けるためには重要な話なんだぞ!」

 雷鳴の言葉を聞いてハッとした見事。ようやく、冷静さを取り戻す。

「ゴメン、ママ・・・」

「まあ、取り敢えず話をゆっくり聞け」

 雷鳴は見事を宥めた。

「結論から言うと、ユッキーを連れ去ったのは、『雷光らいこう』だ」

「えっ・・・!」

 その名前を聞いて驚きを隠せない見事。その人物の名は、見事のみならず、このヘリに同乗している総一郎も知る名だった。

「なるほど、の仕業ね。なんか納得」

 そう言ったのは総一郎だった。彼は見事とは対照的に、そんな驚いている様子はない。


 静所おとなし雷光らいこう

 雷鳴の実の姉にして、関西圏では絶対的な影響力を持つ魔法使い。その影響力は関西だけにはとどまらず、中部地方、山陽道方面まで顔が効く。わかりやすたとえれば、『本能寺の変』直前の織田信長と同じくらいの勢力圏を持っている。通称・『大阪のママ』。対して、雷鳴は『東京のママ』である。

 この『ママ』と呼ばれる魔女(魔法使い)は、雷鳴と雷光を含めて日本国内に四人のみ。この『ママ』という呼ばれ方は、魔法使いの格付けでは最高ランクにあたる。


「雷光おばさんの目的は―」

「ユッキーのことしかないだろう?連中も、この前の大爆発事故で、ユッキーのことを知ったんだろう。まあ、西日本執行部や御庭番の伝手つてで関西や九州の連中魔法使いもユッキーの存在を把握しているだろうし。だが、それでも荒っぽい真似をする雷光だ」

 ムスっとした表情で言う雷鳴。

「でも、どうして雷光おばさんだとわかったの?」

「まあ、こっちにも伝手つてはあるからな。なっ?総一郎?」

 話を彼に振る雷鳴。

「僕はコメントを差し控えたい」と、愛想笑いをした総一郎。色男なので笑顔は素敵だが、絶対に何かを隠している表情だと見事は感じた。


「だが、面倒なのは雷光だけじゃない。情報源に偽りがなければ、この二人がいる」

 そう言って自身のスマホ画面を、見事と総一郎に見せた雷鳴。

「これって・・・?」

 スマホの画面を見て首を傾げる見事。初めて見る顔だった。

 一方で、「ああ、この二人ね」と、事情を知っている素振りの総一郎。彼の反応に、何で知っているんだと言いたくなった見事。

 それもそのはず。雷鳴のスマホの画面に映るのは、自分として年齢の変わらない少女が二人。しかも、顔は瓜二つで、違うのはヘアースタイルだけ。この二人は双子魔女だろう。


「ママ、この二人は誰?」

 自身の記憶を辿るが、どうしても名前が思い浮かばない見事。思い出せないのではなく、会ったことがないということだ。

「見事は知らないだろうな。この二人は双子。雷光の一門で、棗姉妹だ」

「棗姉妹?」

 その名を聞いて、何となく思い出した見事。

「何か聞いたことがあるような、ないような・・・」

 ハッキリ思い出せずモヤモヤする見事だが、二人を知る様子の総一郎が話し始める。


「この二人は雷光さんの曾孫ひまごだったよね?確か、中学3年生だったかな?」

 思わず総一郎に問いかける見事。

「何で二人の事を知っているんですか?」

 総一郎と同世代の女性ならまだしも、自分とほぼ同い年の少女の事をどうして知っているのか?変な意味で気になっていた見事。ジトッと総一郎に目を向ける。

「あれ?僕、何か誤解されてる?」

「私の誤解だといいんですけど・・・」

 見事からを向けられて、少し焦っている様子の総一郎。


「総一郎、自分自身の口でしっかりを晴らせ」

 雷鳴が彼に助け船を出す。

「ではー」

 わざとらしく咳払いし、総一郎は話し始めた。

「この二人棗姉妹は、特定監視能力ブラックリストに載っているんだよ」

「この二人が?」

 見事は改めて雷鳴のスマホ画面に目を向ける。この二人が、一体どんな魔法能力を持っているのか?すぐには想像できなかった。

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