第4章「HR(人質救出作戦)」第3話 降下用意

 快晴のもと、NH90は渥美半島の目前もくぜんへ迫っていた。

 そんな中、ヘリの機内でスマホをジッと見つめる雷鳴。その隣で母を見つめる見事。そして、そんな二人を呑気に眺めている総一郎。


 雷鳴は誰かとメッセージのやり取りをしている。すると、席を立った彼女がコクピットのパイロットに近づく。

 機長と副操縦士に何かを伝えている。見事の座る位置からはよく見えないが、雷鳴はコクピットに映し出されている地図や、進行方向を指さして何かを指示している。それを聞いて操縦席の二人も頷いている。


 「どうやら、目的地が近い様子だね?」

 「ひゃっ!」

 気づかぬに、総一郎が目の前にいた。ビックリして変な声が出た見事。

 その声に気づいたのか、キャビンを振り返る雷鳴。彼女は総一郎を睨む。

 首をすくめてキャビンの席に戻る総一郎。

 要件をつたえた雷鳴がキャビンの席に戻ってきた。歩きながら、またも総一郎を睨む雷鳴。


 「やだなあ。そんなに怖い顔をしないでよ?僕は何もしてない」

 両手をオーバーに振って自身の潔白を訴える総一郎。

 「もうすぐ降下だ。用意しろ」

「えっ?降下?」

 突如、降下だと言われても、どんな用意をすれいいのか?

 「えっ?何をすればいいの?」

 すると、見事の質問に即答する雷鳴。

 「パラシュートだ!」

 「ウソでしょう!」

 「ああ。本気じゃないから安心しろ」

 ニコッと微笑んだ雷鳴。

 「もう、ママってば!」

 思わず雷鳴の肩を掴む見事。こんなときに、そんな冗談を言っている場合でもないだろうに。


 が、すぐに真剣な表情で話す雷鳴。

 「冗談はさておき、目的地は田原市の遠州灘にめんしたがわの海岸だ」

 雷鳴はスマホアプリで地図を見せる。国道42号線沿いの海岸だが、見事はその海岸名を聞いたことも、見たこともなかった。

 「ここに成行君が?」

 「ああ。ここだ。そして、ここからが本題だ。恐らく魔法使いがユッキーを誘拐した。となると、こちらが奪い返しに来ることを想定しているかもしれない。そうなると、どうなる?」

 「えっ?」と、一瞬考えた見事。すると、彼女はある悪い予感がした。

 「反撃されるってこと?」

 自身の懸念を伝える見事。

 「そうだ。その可能性は考えないといけない」

 見事の悪い予感をサラッと肯定した雷鳴。

 「それじゃあ、危ないんじゃないの?」

 「ああ、危険だ。映画『ブラックホークダウン』みたいにRPGが飛んでくるかもしれない」

 「いや、それどころか魔法で攻撃されたら一貫のおしまいでしょう?」

 「正解!」

 「やった!って、そうじゃなくて―」

 即席漫才のような会話をする雷鳴と見事。


 だが、不意に右手をかざして、会話を打ち切る雷鳴。彼女は自身のスマホ画面をジッと見つめている。

「どうしたの?」

 誰かから連絡が来たのか?雷鳴のスマホ画面をのぞき込もうとすると、それを避けるように立ち上がる雷鳴。

「そういうことか・・・」と、呟くように言い、再びコクピットに向かう雷鳴。そして、またも操縦士に何かを指示する雷鳴。前方を指さして何かを言っている。


 見事もその方向に目を向ける。すると、ヘリが陸地に接近していることがわかった。前方に見える陸地は渥美半島だろう。

 指示をし終えると、雷鳴が再び見事の元に戻ってきた。

「からくりがわかったよ。これで対策もできる」

 少し安堵したような表情を見せた雷鳴。

「何のこと?」

「ユッキーを連れ去った連中の正体だよ」

「えっ?」

 驚きのあまり立ち上がる見事。そして、掴みかかるように母へ問いかける。


「誰なの!成行君を誘拐したのは!」

「落ち着けって!今、教えるから!」

 凄まじい勢いで体を揺さぶられる雷鳴。

「そっ、総一郎。お前にも説明する。こっちへ」

「はーい、ママ」

 見事とは対照的にお行儀のよい総一郎なのであった。



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