第3章「西の魔法使い」第6話 静岡ヘリポート

「渥美半島へ向かう」という母親の言葉に面食らった見事。なぜ、成行がそんな所にいるのか全くワケがわからなかった。

 しかし、どんな手法を用いたかわからないが、母・雷鳴は成行の居場所を突き止めたのだ。今は母の言うことに従うしかない。


 正直な話、今回の旅行が楽しみだった見事にとって、成行の失踪は災難でしかない。成行本人もそうだろうが、見事にとっても、せっかくのゴールデンウィークが台無しだ。


 見事、雷鳴を乗せた超高級タクシーは静岡市内のヘリポートに向かった。静岡県に空港があることは知っていた見事だが、静岡市内にヘリポートがあるとは知らなかった。

 見事は車内で雷鳴に尋ねる。

 「ねえ、ママ。どうやって成行君を見つけたの?」

 空間魔法を使ったのだろうか?だが、雷鳴が誰かと電話していたことも気になっていた見事。それも何か関係している気がする。


 「何を言う。見事のおかげだぞ。お前の電話番号のお陰さ」

 「私の電話番号?」

 何をしたのだろう?自分見事の電話番号というのなら、やはり空間魔法を使って探知したに違いない。そうすると、雷鳴は防空レーダーばりの空間魔法を使ったことになる。

 だが、そんなだいそれた魔法を使った気配けはいがしなかった。雷鳴ほどの魔法使いなら、不可能ではない話。しかし、あんな目の前で、強力な空間魔法を発動すれば気づくはず。いや、それすらも感知させないほどの実力があるのだろうか?

 「ん?何で、そんな顔をしているんだ?」

 雷鳴は見事に言う。

 「えっ?えっと・・・」

 「まあ、どんな手でユッキーを見つけたかが、わからんようだな?」

 不敵な笑みを見せる雷鳴。

 「うん。空間魔法で私の電話番号を探知したの?」

 「ほぼ正解」

 曖昧な回答を即答する雷鳴。

 「ほぼ正解って・・・」

 「まあ、魔法は不思議なことだらけだ。見事にも知らないことはあるのさ」

 そう言って雷鳴は笑った。

 「う~ん・・・」

 雷鳴は、これ以上聞いても教えてくれなさそうな雰囲気だった。



 静岡市中心部から車で二十五分。連休の混雑で、いつもより時間がかかったと言う運転手。見事と雷鳴は静岡ヘリポートに着いた。

 カブリオレから降りる見事と雷鳴。

 雷鳴は運転席に向かって言う。

 「私と見事は田原へ向かう。荷物はホテルへ運んでくれ。その後に悪いが、カブリオレで田原まで追ってきてくれ」

 「かしこまりました」

 嫌な顔せず運転手は快諾する。

 「それともう一つ」

 雷鳴は運転席に顔を近づける。


 「今―。いや、今日急にいなくなった魔法使いがいないか調べてくれ。今回、静岡に来ているのに急に帰った奴。しくは、直前に参加辞退した奴だ」

 「喜んで」

 「すまんな。支部長に話せば協力してくれるはずだ。あの爺さんに連絡はしておく」

 「わかりました。では、私も田原へ向かいます」

 「頼んだぞ」

 雷鳴との会話を終えると、カブリオレはヘリポートから早速出発した。

 車を見送ると踵を返す雷鳴。

 「さあ、中へ行くぞ。直にヘリが来る」

 「うん」

 見事と雷鳴は静岡ヘリポート内に入った。



 二人が到着してから20分後。どこからともなくヘリコプターのローター音が聞こえてきた。無論、それはヘリポートに向かって近づいて来る。

 「来たな・・・」

 雷鳴は空を見上げた。彼女と同じ方向に目を向ける見事。

 「ん?どこ?」

 すぐにヘリの姿を目視できなかった見事。だが、音が大きくなるにつれ、その機体をハッキリと目にすることができた。

 「えっ?あれ?」

 見事は思わず天を指す。

 「そうだ。あれだ」

 何事もないかのように雷鳴は頷いた。


 「えっ?デカっ!」と、思わず口にする見事。もっとこじんまりしたヘリコプターを想像していたので、あんな大型機が来るとは思わなかったのだ。

 ヘリポートに濃いグリーンの塗装を基調としたヘリが着陸してくる。

 「そんな大きくないさ。あれは『NH90』だ」

 『NH90』は、主にフランス、ドイツやイタリアなど、欧州各国で採用されている軍用ヘリ。素人しろうとには大きな機体に見えるが、分類上では中型ヘリコプターになる。濃いグリーンの塗装は、森林迷彩を連想させた。その機体の側面に、『GSC』のロゴマークがあった。

 「GSC・・・」

 見事もその社名は知っている。グローバル・セキュリティ・カバー社。品川に本社を構える国内最大手の警備会社。見事と成行の通う柏餅幸兵衛学園も、ここが警備を行っている。


 ヘリが着陸すると、濃いグレーのスーツを着た男性が降りてきた。20代半ばくらいの若い男性。メガネがよく似合うさわやかな容姿は、若手の人気俳優といっても差し支えがないくらい色男だった。

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