第3章「西の魔法使い」第5話 秘密の相談相手

 見事と運転手を一旦いったん車外に追いやった雷鳴。彼女はスマホで誰かに電話をしていた。


 外の二人を気にしながら、雷鳴は電話をする。

『もしもし?私だ』

『お前か?警官相手に振り込め詐欺か?』

 電話の向こうから男性の声がした。

 中年男性の声。だが、その声には張りがあり、雷鳴に対して少しの隙を与えずに淡々たんたんと話す。

『たわけが!そんなつまらんことを言っている場合じゃない。協力してほしい』

 窓は締め切った状況だが、小声で話し続ける雷鳴。しきりに車外の二人へ注意を払う。いや、警戒していると言った方がいいかもしれない。この会話を聞かれたくないのだ。


『人を好き勝手に使うな。使い走りのような立場じゃないんだ』

『それはわかっている。聞いてくれ。緊急事態だ。がいなくなった。この前の爆発事故の関係者だ』

 雷鳴がそうはなしを切り出すと、スマホの向こうから反応がない。十秒ほどして、電話相手の男が声を発する。

『どうしろと?』

『そんな難しいことじゃない。今から言う電話番号を調べてくれ』

『そんなことか。造作もないが、私も暇人じゃなくてね』

 電話相手の男性に嫌味いやみを言われる雷鳴。ムカッとするが、成行を捜すためだ。我慢するしかない。


『面倒な男だな。相変わらず』

『キミに言われたら、私もおしまいだな』

『とにかく、今から言う電話番号を探知してくれ。頼む』

 そう言って雷鳴が電話相手に伝えたのは、何とだった。成行の電話番号ではない。

『折り返す。少し待て』

 電話相手の男性がスマホを切った。

 ここは雷鳴も向こうの指示に従うしかなかった。彼女は大人しく折り返しの電話を待った。


 3分と待たぬうちに雷鳴のスマホが振動する。透かさず電話に出る雷鳴。

『渥美半島へ向かえ。豊橋から田原方面へ移動しているようだ』

『わかった。助かった!礼を言うぞ』と、言って素早く電話を切った雷鳴。今度は別の人物に電話をし始めた。


『もしもし?雷鳴だ。急にすまんが、ガンシップを貸してくれ。緊急事態だ。東京から静岡まで来てくれ。至急、渥美半島に向かいたいんだ』

 手短にお願いごとをする雷鳴。普段、落ち着いている雷鳴にしては珍しく、少し早口だった。

『警察や自衛隊以外では、お前さんたちに頼むのが早いからな。ああ、わかっている。先日の大爆発事故に関わるがピンチでね』

 必死に電話相手との交渉をする雷鳴。

『すまないな。感謝する』

 雷鳴は電話を切った。先方せんぽう了承りょうしょうを得ることができた。彼女はすぐに車の窓を開けた。


「車を出してくれ。ヘリポートに向かうんだ」

 雷鳴はタクシーの運転手に言う。

「ヘリポートですか?」

「ああ、これから渥美半島へ向かう」

「急なお話ですね」

 雷鳴とは対照的にマイペースに話す運転手。

「急いでくれ。見事も乗った乗った!」

 運転手と見事をかす雷鳴。二人はすぐにカブリオレに再乗した。


 再び雷鳴の隣に座った見事。彼女は雷鳴に問う。

「渥美半島って愛知県でしょう?成行君はそこにいるの?」

「そのようだ。豊橋方面から田原方面に向かっている」

「何でそんな場所に・・・?」

 不安そうな表情をする見事。

「確かに。何があるかはイマイチ想像がつかないが・・・」と言う雷鳴だが、彼女なりに考えていた。

 渥美半島の近辺には何がある?海だ。三河湾、伊勢湾。いにしえより海上交通の要所ようしょうだ。よもや、成行を船でどこかに連れ出そうと考えている連中がいるのか?そうなると、不味まずいな。

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