第3章「西の魔法使い」 第4話 電話の魔法

 カブリオレを一旦いったん近くのコンビニへ停車させる雷鳴。

 「どうだ?上手くいったか?」

 雷鳴は見事に尋ねた。

 「うん。やってみたんだけど、上手くいかなかった。いや、この場合、成行君を探知できなかったと言うべきかしら・・・」

 見事は力無く話した。

 「ということは、もうこの静岡市の近辺きんぺんにはいない可能性が高いな・・・」

 雷鳴は窓の外に目を向けながら言った。


 見事が雷鳴に話したこと。それは『自分自身の連絡先に、魔法を仕掛けた』ことだった。

 成行のスマホには、見事の連絡先が登録されている。彼女のスマホの番号。メールアドレス。メッセージ用のアカウント。一見すれば、只の連絡先。だが、そこに魔法を仕込んだことにより、見事の連絡先がGPSのような役割を果たしているのだ。


 成行が炸裂さくれつ魔法で大爆発を起こした後の話だ。見事は、彼に通告つうこく無しで自分の連絡先に魔法を仕込んでいた。空間魔法の応用技で、見事みこと本人ほんにんから半径はんけい十キロ以内ならば、探知たんちすることが可能なのだ。

 こうすれば、成行のスマホを介して、彼の居場所を確認できる。魔法理論としては単純だが、実用するにはかなりの魔力がないとできない。


 雷鳴は自らのスマホで地図アプリを開いていた。

「ここから10キロ以内いないには、のか・・・」

「ママ、ダジャレを言っている場合じゃあ―」

「いや、今のは普通に呟いただけだ」

 地図アプリを見ながら何かを考えている様子の雷鳴。一方、見事も成行を捜す手立てだてを考えていた。

 先程さきほど乗ったひかり号は岡山行。静岡以降の停車駅は、豊橋、名古屋、京都、新大阪。新大阪以降は、各駅に停車だったはず。このどこかで降りたのだろうか?ならば、それはどこになるのだろう?焦燥感だけが増していく。

 また、九つの騎士の書を狙う者の仕業なのか?それを考えると、冷静ではいられない。


「なあ、見事?」

 不意に雷鳴が問いかけてくる。

「何、ママ?」

 思わずわれに返る見事。

「聞いてもいいか?」

「うん。何を?」

 母親を見つめる見事。どうやら、雷鳴は何かを思いついた様子だ。


「見事の能力だと、10キロ圏内けんないが探知範囲だな?」

「うん。私の力だとそれが限界かな・・・」

 他に成行を捜す手立てを思いついたのだろうか?怪訝そうな表情の見事。

「ユッキーのスマホに登録された連絡先を探知するということでいいんだよな?」

「ええ。そうよ」

「わかった」

「えっ?」

 母親の言葉に首を傾げる見事。何が『わかった』のだろうか?


「ママ、何か良いアイディアでもあるの?」

 雷鳴に問いかける見事。

「まあな。試す価値はあるはずだ」と、言う雷鳴。

 その言葉に益々ますます戸惑とまどう見事。母親の魔法使いとしての力量は知っている。凄い魔法使いであることは百も承知だが、何をする気なのか?

「これしか手段はないかな?今の場合。二人とも、車を降りろ」

 運転手と見事に車を出るように指示した雷鳴。

「えっ?何で?」

「電話の魔法さ」

 ニコッと笑ってみせた雷鳴。

「電話の魔法?」

 見事には何のことか理解不能だった。少なくとも『電話の魔法』なんて今まで聞いたことがない。


「かしこまりました、雷鳴様」

 タクシー運転手の方は速やかに運転席を離れて、車外に出る。

「ほら、お前も」と母親から急かされて、同じく車外に出た見事。

「二人とも少しだけ車外で待ってくれ」

 雷鳴はそう言い残してカブリオレの車内に残った。

 何をするのか気になった見事だが、母親の言うことに逆らわなかった。今は雷鳴の秘策ひさくにかけるしかない。


 車外に出た所で、見事は運転手の男性に話しける。

「あの、運転手さん・・・?」

「はい。何でしょう?」

 運転手は愛想あいそ良く、ひん良く答えた。

「運転手さんは、の方ですか?」

 見事は魔法使いにしか通じない質問をした。このというのは、魔法使いのことを指す。人前で魔法の話題ははばかられる。そこで考えられたのが、この隠語いんごなのだ。


「ええ。そうです」

 即答する運転手。

「表向きはタクシー運転手兼、このタクシー会社の社長なんですよ」

 穏やかに笑う運転手。

「そうなんですか?」

 その答えには少し驚いた見事。しかし、観光タクシーにこんな高級車を使うタクシー会社なのだ。普通のタクシー会社とは少し事情が違うのかもしれない。

「タクシーを舐めてもらっては困ります。これでも重要な役割はありますから」

 そう言って少し自慢げに答えた運転手の男性。だが、謙虚な雰囲気を崩さないで話す点は、客商売に向いているのかもしれない。


「成行君・・・」

 青い空を見ても気分が晴れない見事だった。

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