第3章「西の魔法使い」第1話 豊橋駅にて①


「お兄ちゃん、こっちや!」

 ご機嫌な様子のショートボブ少女。彼女の名前は沙織さおり

 成行に先んじてはやあるきする。少々しょうしょう押しが強いが、それが彼女の特徴であり、魅力というべきか。元気が良くて明るい性格。すぐに誰とでも友達になってしまうだろう。


 「慌てないで、沙織ちゃん。走ったら、危ないよ」

 方や、セミロングヘアの少女は成行の隣を歩く。こちらの少女の名前は資織しおり。顔は沙織さおりうりふたつ。双子なのだから当然だろう。

「もう、沙織ちゃんたら。他のお客さんに迷惑やで」

 沙織に向かって叫ぶ資織。

「大丈夫や!はよ、タクシー拾うで!」

 そう言って、沙織は新幹線ホームの階段を駆け上がる。


「はしゃぎ過ぎだな。小さい子供じゃないんだから」

 半ば呆れる成行。沙織も、資織も15歳の中学3年生。

 沙織は実年齢よりも子供っぽく感じる。一方で資織には、沙織のような子供っぽい仕草はない。落ち着いた雰囲気。というか、控えめな性格と言うべきだろう。

 沙織が陸上部やバスケ部のエースなら、資織は学年一位の成績を収める優等生と言うべきだ。双子でも、こうも違うものなのだろうか?


 成行はひかり号の中でウトウトしたせいで、不覚にも記憶が混乱していた。

 今日はゴールデンウィーク連休の初日。沙織さおり資織しおりの双子姉妹と、海へ出かける約束をしていた。そう、二人と渥美半島の海を見に行く予定だった。そうだよな?なぜか、自問自答する成行。


「まあ、いいか」

 少しだけ考えたが、そのまま歩き続ける。

 成行の隣を歩く資織が言う。

「お兄ちゃん。ウチらとお出かけ楽しい?」

 資織は少し不安げな表情で尋ねてくる。

「楽しいよ。久しぶりだけど、そんな緊張しなくていいよ」

 資織の顔を見て、彼女の不安を解消させようと思った成行。

「でも、本当に久しぶりだよな。どれくらいぶりたったかな?」

 何気なく資織に問いかける。

「えっ?えっと・・・」

 成行の問いに、余計に困り顔になった資織。思わず彼女の足が止まる。

 すると、資織の様子に気づいたのか、沙織が勢いよく二人のもとへ走ってきた。


「もう!二人とも遅いわ!はよ、タクシー拾わな!駅の西口にタクシー乗り場があるから。はよ、行かな」

 成行と資織の手を引っ張る沙織。

「わかった、わかった!急ぐから。だから、引っ張らないで!」

 意外にも握力のある沙織に驚く成行。

「わかったわ、沙織ちゃん。そんな引っ張らんで」

 資織も思わずよろけそうになる。


「せっかくのゴールデンウィーク!時間は無駄に出来んで!ほな、早く!」

 相変わらずたのな沙織。

「じゃあ、行こう。資織」

「うん」

 成行、沙織、資織の三人は豊橋駅・西口に向かった。

 ここ豊橋駅も連休初日で混雑している。渥美半島への玄関口で、言わずと知れた競輪の街でもある豊橋市。新幹線の他に、JR東海道線と飯田線。それに名鉄線や、隣接する豊橋鉄道(新豊橋駅)など、鉄道の要衝でもある。


 人混みをかき分けながら駅の西口へ向かった。駅の外へ目を向けると、ここ東三河地方も晴天に恵まれている。まさに『お出かけ日和』の名に恥じぬ良い天気。天気が良すぎていささか暑くも感じる。

 沙織を先頭に、三人はタクシー乗り場に到着。タクシーを待つ人の列に並ぶ。これも連休初日の宿命なのか、少し待たないといけない雰囲気だった。パッと見ても、行列には十名の人がいた。


「やっぱり、みんなお出かけなんやね」と、話しかけてきたのは資織だった。

「そうだな。みんな、レジャーに行くんだろうね」

 そうは言うも、ここ東三河地方の地理や観光には詳しくない成行。『レジャー』といっても正直な所、詳しくないのだ。

 豊橋競輪場は知っているが、まだ行ったことのない競輪場。あと知っているのは、蒲郡と浜名湖(これは静岡県だが)の競艇場。これらも知っているだけで、行ったことはない。

「まあ、しゃあないわ。気長きながに待とうや」

 ここに来て落ち着いた様子の沙織。気持ちの良いお日様を浴びて、グッと背伸びをした。


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