第2章「いざ、駿府の街へ」第7話 目が覚めると・・・ 

 ひかり号の車内にチャイムが流れた。その音で、ハッと我に返る成行。

『まもなく豊橋です。お出口は左側です。東海道線、飯田線、名鉄線はお乗り換えです。豊橋を出ますと、次は名古屋に停まります』


「ヤバい!」

 思わず席を立ちあがる成行。静岡駅で下車のはずが、乗り過ごした。

「どないしたん?お兄ちゃん?」

 不意に誰かが成行に声をかける。

「えっ?」

 成行は声がした方に目を向けた。自分の右隣の席。そこには黒髪ショートボブの少女がいた。


「えっ?」

 誰だ、この子は?成行の率直な感想。キョトンとこちらを見る顔には、まだ幼さを感じたが、としは自分と同じか、少し下くらいに見える。中学生くらいか。

「どちら様?」と、思わず声をあげる成行。おかしい、今日はクラスメイトの―。

 その黒髪ショートボブ少女と目が合った瞬間だ。一瞬、立ち眩みがした。そして、そのまま席に座り込む成行。

「もう!お兄ちゃん、今日はウチらとお出かけやん」

 黒髪ショートボブ少女が少しムスっとしながら言う。

 何かがおかしい。記憶が混乱しているのか、どうして今、新幹線に乗っているのか思い出せない。

「えーと・・・」

 必死に言葉を絞り出そうとする成行。まず、この右隣の少女が誰なのかを調べなくては。

「大丈夫?お兄ちゃん?」

「えっ?」

 今度は成行の左隣の席から声がした。そちらに視線を向けると、そこには黒髪セミロングヘアの少女がいた。驚くべきことに、その顔は右隣のショートボブ少女と全く同じ顔。違うのは髪型と服装だけ。

 自分をはさむようにすわる二人が、双子だというのは深く考えなくてもわかることだった。


「もう、お兄ちゃんたら!今日はウチらと海に行く約束やん!」と、まくし立てるショートボブ少女。

「そうやで。私も、沙織さおりちゃんも、今日のお出かけ楽しみにしていたのに・・・」

 セミロングヘアの少女が少し悲し気な表情を見せる。

 二人の少女に話し掛けられて、まるで乗り物酔いのような感覚に陥る成行。

「大丈夫なん?お兄ちゃん。具合、悪いの?」

 ショートボブ少女が心配そうな表情で問いかけてくる。今の会話から、恐らくこちらのショートボブ少女が、『沙織さおり』ちゃんだろう。では、もう一人は?

「お兄ちゃん、大丈夫?お水でも飲む?資織しおりのお水でも飲む?」と、セミロングヘア少女が自分のリュックからミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。こちらが、『資織しおり』ちゃんか。

 二人の名前はわかった。だが、ここまでの経緯がわからない成行。この二人と、お出かけの約束したはずがないのに・・・。何か大事な用を忘れている気がしてならない。


「ほら、お兄ちゃん!立てる?豊橋で降りるで。三人で海を観に行く約束やん」

 沙織が成行の右腕を持つ。

「あかんよ、沙織ちゃん。お兄ちゃんに無理させたら。お兄ちゃん、大丈夫?」

 心配しながら左腕を持つ資織。こっちの方が優しい。

「わかった、わかったから。待って、取り敢えず降りよう」

 ここは二人の言う通りにした方がいい。成行の頭の整理がつかないうちに、ひかり号は豊橋駅へ着いた。

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