第2章「いざ、駿府の街へ」第6話 異変

 静岡駅の新幹線改札口の外。その片隅で一人、成行を待つ見事。彼女の足元には、彼女自身と、成行のバッグが置かれている。

 新幹線改札口周辺は人だらけ。ゴールデンウィークで、多くの人が訪れたり、またどこかへ向かおうとしている。


 「もう!成行君ったら」

 見事はご機嫌斜めだった。

 静岡駅・下車の直前。彼女に突如届いたメッセージ。

 『トイレがギリギリになりそうだから、荷物を持って下車して。静岡駅の改札口の外で、また会おう』

 成行から一方的なメッセージが届いた後、すぐ見事は返信した。

 『大丈夫なの?』

 『大丈夫。何とかなるから、静岡駅の改札の外で』


 そのやり取りの後、一向に成行が現れない。改札口を出て、既に十五分は経過している。行き交う人の中に成行の姿を捜すが、見つけることができない。

 まさか新幹線から降りそびれたのか?だが、成行にメッセージを送っても返信が来ない。電話をしてみると、スマホの電源が切られていることに気づく。これはおかしい。そう感じ始める見事。何か胸騒ぎがする。


 見事は取り敢えず、母・雷鳴へ電話することにした。今の状況では、メッセージのやり取りをするよりも、これが早い。

 スマホを取り出し、母・雷鳴のナンバーをダイヤルする。十数秒の発信音の後、雷鳴が電話に出る。

『もしもし?もう、静岡に着いたか?』

『うん。今、静岡駅なんだけど―』

 見事はここまでの経緯を話す。

 すると、それを聞いた雷鳴の声色が変わった。


『それは何か発生したな。新幹線の中では、何か異常はなかったか?不審者は?』

『ううん。特に何もなかった。変な人もいなかったし。それこそ、成行君がトイレに行ったことくらいかしら?』

『トイレ?具合でも悪くなったのか?』

『普通におトイレだと思ったから、気にしなかった』

『まあ、流石さすがにトイレまでついて行くわけにもいかないしな・・・』

 電話の向こうで、母・雷鳴が思考を巡らしているように感じた見事。


『で、未だに連絡がつかない状態だということだな?』

『そう。というか、電源が切られていて、どうしようもないのよ』

 ここまでの事実を一つ一つ整理しながら話す見事。だが、徐々に心の奥底で焦りが湧いてくる。また、成行が何者かにかもしれない。


 先程のひかり号では、空間魔法を使用して、グリーン車内に魔法使いがいないかを警戒していた見事。だが、あの車内では少なくとも魔法使いを感知できなかった。

 今更ながら、車内にいた人の顔を思い出そうとするが、それには無理があった。どの乗客も単なる旅行客にしか見えなかったし、そうとしか認識していなかった。警戒心が足らなかったと後悔する。


『とにかく、私も静岡駅へ向かう。そこで待っていろ』

『わかった。じゃあ、静岡駅の南口で待っているから』

 一旦、電話を切る見事。

 スマホでもう一度、成行に電話をする。しかし、自動音声がOFFむねを伝えてくるのみだった。




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