第2章「いざ、駿府の街へ」第5話 油断大敵


 ひかり号が新富士駅に差し掛かる頃だった。スッと立ち上がる成行。

 「どうしたの?成行君?」

 突然のことに少し驚く見事。

 「トイレ」と、一言だけ答えた成行。ペットボトルのお茶のせいだろうか、トイレに行きたくなった。大きな声で言えないが、大きい方のパターンだ。

 成行はトイレの位置を確認する。トイレはこの車両の後方に位置している。残念ながら、進行方向とは真逆だ。

 席を立つ成行に見事はこう言う。

 「新富士を過ぎたから、遅くならないようにね」

 「任せて!」

 「何でそんなときだけ頼もしい答え方なのよ・・・」

 呆れた様子の見事。


 一方、成行はトイレに向かって通路を早歩きで進んだ。

 何で、こうも間が悪いのだろう。このパターンだと静岡駅までに間に合うだろうか?急な生理的欲求に焦る成行。そのため、双子姉妹の脇を通り過ぎたことに気づくはずもなかった。


 しかし、双子姉妹はさりげなく成行が通り過ぎたことを確認していた。互いに顔を見て頷く双子。

 ショートボブ少女がスッと立ち上がり、デッキ方面へ向かう。成行のすぐ後に続いたが、彼は気づいていない。


 運良く空いていたトイレ。

「ラッキー」

 成行は一目散に入る。流石、日本が世界に誇る新幹線。グリーン車のトイレなんて初めてだが、こんなにも立派なものか。

「感心している場合じゃない!」

 ズボンを下して、戦闘態勢に入る成行。

 洋式トイレに腰掛けて、彼の視線が一瞬だけ床の方を向いた。


 もう一度、成行の視線が上を向いたときだ。彼は息を呑んだ。

 何と、目の前には自分と同い年くらいの少女がいた。黒髪のショートボブヘア。自分と同じく、どこかに旅行でも行くような印象を受けたが、だとしても、どうやってここに入った。

「何故だ!」

 率直な感想を叫ぶ成行。

「堪忍やで、お兄ちゃん。ノックもせえへんで」

 ショートボブの少女はニコッと微笑んだかと思うと、いきなりステッキのような物で成行の眉間を突いた。



「うっ!」

 成行は反撃する間もなく意識を失った。そのせいで、彼は体ごと崩れ落ちそうになる。

 透かさず、ショートボブ少女は成行の体を抱きかかえるように支える。彼女の視線が下を向く。その先には・・・。

「わわっ!」

 頬を赤くするショートボブ少女。

「新幹線で象さんを見たわ。いや、そんなこと言ってる場合やない!」

 ショートボブ少女は、成行を洋式トイレにもたれ掛けさせるようにする。そして、上着のポケットに入っていた成行のスマホを取り出した。


 不意にチャイムと共に車内放送が流れ始める。

『まもなく静岡です。お出口は左側です。東海道線はお乗り換えです。静岡を出ますと、次は豊橋に停まります』

 これを聞いたショートボブ少女は成行のスマホを勝手に使い始める。

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