第2章「いざ、駿府の街へ」第4話 ひかり号・岡山行き② 

 成行と見事を乗せたひかり号が、西に向かって走り出す。

 連休初日だけあってグリーン車も混雑していた。いているせきは少ない。家族連れ、夫婦、友人同士など、客も様々さまざま。行き先も様々さまざまだろうが、競輪場へ向かう高校生二人組を見つけるのは難しいだろう。


 ひかり号が動き出して間もなく、チャイムが流れる。

『この電車はひかり号・岡山行きです。途中の停車駅は、静岡、豊橋、名古屋、京都、新大阪です。新大阪を出ますと、終点・岡山までの各駅に停まります』

 日本語の放送に続いて、英語での車内放送が流れる。

 目的地が静岡だから、次で下車。少し味気あじけないが、それを見事にやぶられそうな気がしたので平静を装う。


「はい、成行君」

 不意に見事が何かを差し出してきた。

「これって・・・」

 見事が差し出したのはフルーツキャンディーだった。夏みかん味。あまり馴染みのないフレーバーだが、食欲はそそられる。

「ありがとう、見事さん」

 成行がキャンディーを受け取ると、見事も自分用にキャンディーの包みを開けていた。彼女は桃味。そっちがよかった。

「あっ!『桃味のほうがよかった』って顔してる」

 そう言いつつ、見事は桃色の球体を口に運んだ。一瞬、気を抜いたのがよくなかった。一発で彼女に心中を見破られる。

「いや、そんなことないよ。夏みかん味も、通な味わいで美味しいから好きだよ」

 自分自身でもよくわからない言い訳をした成行。


 キャンディーの包みを開ける。そこには黄色きいろと言うよりも、琥珀色こはくいろをしたキャンディーが入っていた。蜜柑みかん彷彿ほうふつとさせる黄色ではなく、琥珀色こはくいろであることに風情を感じた。

 もうつべこべ言わず、口にキャンディーを入れる。

「んっ・・・」

 甘さは抑えつつも、口の中に清涼感を与えてくれる味わい。思わず声が出た成行。

 すると、そんな表情を目にした見事が微笑む。

「成行君ってわかりやすい」

「んっ?」

 思わず見事と目が合う成行。


「一目で美味しいってことがわかって、よかった」

 見事の優しい笑顔に一瞬、心を奪われた成行。そのせいで、夏みかん味キャンディーが喉に詰まりそうになる。

「うっ!」

「ちょっと!成行君、大丈夫!」

「うっ、うん。一瞬、死にかけたわ・・・」

 咽ながら答えた成行。

「もう!気をつけてよね」と言いつつも、背中を擦ってくれる見事は優しいと言わざるを得ない。

 目的地の静岡駅までは、およそ40分。長すぎず、短すぎず、ちょうどいい乗車時間。咳が治まり、ようやく夏みかんの味をじっくり堪能する成行。


 キャンディーを口の中で転がしながら成行は思った。これが見事の『気遣きづかい』か、と。

 長くも短くもない乗車時間。静岡駅へ着くのは昼前くらい。この状況で、クッキーやポテトチップでは多すぎる。昼食前という時間帯を加味かみすれば尚更なおさらだ。お茶を飲み、飴玉を舐める。これが丁度いいのだ。


 景気けいきよく走るひかり号。車内に降り注ぐ日差しが、幸先さいさきたびのスタートを思わせた。

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