第2章「いざ、駿府の街へ」第3話  ひかり号・岡山行き①

 成行と見事を待ち受けていたのは、連休初日、人通りが三割増しに思える橋本駅だった。この様子では、平日の朝よりも混んでいる。ここでJR横浜線の快速に乗り換える二人。

 と、次に待ち受けていたのは京王線と同じか、それ以上に混雑するJR横浜線・快速電車の車内だった。


 成行と見事の二人が新横浜駅に着く頃には、二人とも同じ考えに至っていた。

 「どうする?休憩しない?」と、話を切り出したのは成行。

 「もうちょっとの辛抱よ、成行君。ひかり号へ乗る前に何か買って、グリーン車でゆっくりしましょう・・・」

 「OK。じゃあ、その案で」


 新横浜駅に降り立った二人は、新幹線への乗り換え口へ向かう。向かったのは新幹線改札内の売店。

 京王線、横浜線と、連続れんぞく電車内で立ちっぱなし。お茶か、カフェオレが飲みたい気分だ。成行がそんなことを考えていると、見事が問いかけてくる。

 「成行君、普通にお茶にする?」

 「うん。そうしようかな?」と、言われるがまま、そう答えた成行。

 が、すぐにハッとする。待てよ。このままだと、普通におごってもらうことになるではないか?お茶くらいはポケットマネーを出そう。そう思ったが、ときすでおそし。

 見事はSuicaで会計を済ませていた。


 「行きましょう。成行君」

 緑茶のペットボトル2本と、キャンディーの入った袋を手にして、見事が戻って来る。

 「見事さん、ありがとう。お茶は―」

 成行は自分の財布に手を伸ばしたが、見事は笑顔で言う。

 「大丈夫よ。お茶代も、新幹線代も経費で何とかなるから」

 「経費?」

 「そう。経費」

 見事は屈託のない笑顔で言う。

「ありがとう、見事さん・・・」

 経費って何だろう?素朴にそう思ったが、取り敢えずペットボトルを受け取る成行。何となくだが、魔法使いの会計に関して首を突っ込まないのが身の為だと感じた成行。その動物的本能が、それ以上の好奇心を押しとどめた。


 「そろそろホームに向かいましょう。あまりギリギリだと、乗るときが大変だろうから」

 「そうだね。その意見には賛成」

 この点は見事の言う通りだった。新横浜駅・下り方面のホームは大混雑。乗車口へと続く列が、アナコンダのように伸びている。


 「グリーン車はこの辺りね。成行君、こっち!」

 ここに来て元気がよさそうな見事。連休の混雑に押され気味な成行とは対照的だ。二人が辿たどり着いたグリーン車・乗車口。ここもまた、人の列ができている。

 不思議だが、平日よりも、連休の混雑の方が気持ちのいいものではない。そう再認識する成行。そのせいか、連休前に感じていたグリーン車への罪悪感は消えつつあった。


 「くはぁ!快適」

 自分の席へ座るなり、思わず声をあげた成行。気分良く背伸びする。

 「やっぱり新幹線のグリーン車はいいものですなぁ」

 初めて乗るひかり号のグリーン車の感想を述べる成行。ここまでの苦労が報われた瞬間だと思った。

 「もう、おお袈裟げさね」と、苦笑しながら成行の右隣へ座る見事。

 見事は窓側で、成行が通路側。購入された座席はシンプルに二人席。

 どうせなら進行方向が大阪方面なので、三人席側がよかったと思う成行。そうすれば、相模湾も、駿河湾も見えるだろうに。

 「あっ!本当は三人さんにんせきすわりたかったって思ったでしょう?」

 透かさず見事のツッコミが入った。

 「いや、そんなワケないですよ!天下のグリーン車なんだから、右だろうと、左だろうと、ここは天国ですよ」

 咄嗟とっさに言い返す成行。

 「本当かしら?」

 「本当ですって」

 見事の疑念は正しいのだが、それを認めない成行。

 「まあ、いいけど・・・」

 見事は納得のいかないような表情だったが、それも直に治まる。

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