第2章「いざ、駿府の街へ」第2話 出発の朝②

 成行と見事の到着を待っていたかのように、橋本行の区間急行が入線してきた。終点の橋本駅まで、およそ20分弱の旅だ。

 ちなみに、京王相模原線・稲城駅のすぐ隣(調布方面)には、有名な遊園地に隣接する駅がある。そこへは行かず、静岡競輪場へ向かう高校生二人組は、そうそういないだろうに。


 区間急行に乗り込んだ二人。まだ、午前8時にもなっていないのに、車内は混雑している。これも連休ゆえか、残念ながら二人とも座ることができなかった。

 すると、見事はスマホで何やらメッセージを打ち始める。

「誰に連絡しているの?」との問いかけに、見事は顔をあげる。

「ママよ。今、出発したってね」

「そうか、雷鳴さんはもう静岡市にいるんだよね」

「そうよ。そうだ、ママが言ってたわ。観光タクシーを用意したって。それで静岡県内を観光しなさいって」

「観光タクシーか・・・」

 成行は昨年、中学の修学旅行を思い出す。京都、奈良を巡った際には、現地の観光タクシーにはとても世話になった。だが、こんなにもすぐ観光タクシーに乗る機会に巡り合うとは思わなかった。


「橋本駅に着いたら、すぐに横浜線へ乗り換えね。ちょうど横浜線の快速に乗れそうだから」

 見事は成行に言う。

 二人の旅路は京王相模原線で橋本駅まで向かい、JR横浜線に乗り換える。そこから新横浜駅を目指す。新横浜駅からは、ひかり号で静岡駅に一直線である。


「それはそうと、これを」

 見事は成行に何かを差し出す。

「あっ、これは・・・!」


 成行が手渡されたのは新幹線の乗車券。しかも、ひかり号のグリーン車。

「すげえ。マジで金持ち旅行だ・・・」

 まだ高校1年生だが、ここまでの人生で何回新幹線のグリーン車に乗ったことがあるだろうか?この問いには、すぐに答えられる。一度も無い。

「私だって、そんなにグリーン車に乗る機会はないわよ。そもそも、そんなに新幹線に乗る程、遠方には行かないし。ママは別だけど」

 見事はそう言って、車窓の向こうへ目を向けた。それにつられて、成行もそちらに目を向けた。


 区間急行が緩やかにカーブに差し掛かる。西の方角には山々が見える。そちらが丹沢山の方角ほうがくなら、もう橋本駅も目前だ。

 JR横浜線と相模線の線路も目に入る。

「そろそろ、乗り換えね」

「うん。じゃあ、準備をしますか」

 成行も、見事も、せいぜい自分のバッグを持っている位。なので、大袈裟に言うほどのこともない。だが、そこが旅行らしくて、楽しいと純粋に感じる成行だった。

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