第1章「ゴールデンウィークのお誘い」第6話 またもシビックお姉さん

 高校の敷地外へと出た成行と見事。

 今日は朝から天気が良くて、夕方に近い時間になっても、未だに雲が少ない。気持ちの良い週末の午後だ。

「見事さん、アリサさんはどこに?」

「近くのコンビニにいるわ。そこで待ち合わせ」

 見事は成行に言う。


 校門のそばに路線バス停がある。そこから南に約100メートル。そこにくだんのコンビニがあった。

 駐車場もそこそこ広いし、学校からして離れていないので、利用する柏餅幸兵衛学園の生徒も多い。


 朝夕の路線バスから何度も見ているコンビニだ。ここならば、アリサはシビックで来ているのだろう。案の定、コンビニの駐車場には、見覚えのある赤いシビック・タイプRが停車していた。


「いたわ!」

 アリサはシビックに駆け寄る。彼女は運転席をのぞき込む。しかし、その後すぐに周囲をキョロキョロとし始めた。

 どうしたのだろうと思いつつ、シビックに近づく成行。すると、振り返った見事と目が合う。


「お姉ちゃんがいない」

 そう言われたので、シビックをのぞき込む成行。確かに、車内には誰もいない。

「このシビックじゃないとか?」

 確かに赤のシビックというのは符合ふごうするが、生憎とナンバーまでは覚えていない成行。

 が、見事はその説を即座に否定する。

「このシビックで合っているわ。ナンバーがそうだし、それに見慣れたお姉ちゃんの車を間違えないわよ」


 二人で会話をしていると、コンビニ内からアリサが現れた。

「あっ!二人ともやっと来たな」

 アリサは缶コーヒーを一本手にしていた。

「もう!お姉ちゃんこそ、コンビニで買い物してたじゃない」

「それは二人が遅いからでしょう。さあ、乗った、乗った」

 アリサは二人をシビックに乗せた。


「わかりました。では―」

 成行は後部席に乗る。見事は助手席に座った。

 相変わらず綺麗な車内。煙草は吸わない人らしいので、嫌な臭いは皆無。しいて言えば、綺麗なお姉さんと、クラスメイトの女子の良い匂いがする。

 しかし、そんなことを言うと、どんな目に遭うかわからない。年頃の少年の想いは、心のおくそこにしまっておく。


「ユッキー、綺麗なお姉さんと見事ちゃんの良い匂いでクラクラするだろう?」

 運転席に座ったアリサが後部席を振り返る。ニヤニヤと人をからかうような表情のアリサ。

 すると、見事も同じように後部席へ視線を向けてくる。彼女の方は、まるで金剛力士像の吽形うんぎょうのような表情をしている。つまり、恐いということだ。


「なっ、何を言い出すんですか!そんなこと、僕は少しも考えてません!」

 アリサからの疑惑を即座に否定する成行。この人、やっぱり人の心を読めるのではないのか?そんなことを考えつつ、シビックの外に目を向ける成行。さっさとシビックが発車しないだろうか?


「それ、本当なの?成行君」

 そっぽを向いた仕草が怪しまれたのか、見事は成行への視線を外さない。

「そっ、そんな顔をしないでください。僕はとは無縁な人生を送る男ですよ?」

「じゃあ、何で私は裸にされたわけ?」

 耳の痛いことを言う見事。確実に追い込まれる成行だが、彼は即座に答える。

「それは捜査中の案件につき、コメントは差し控えます・・・」

 何か悪いことをした国会議員のようなコメントをする成行。

「何ですって!」

 そろそろ見事の目からビームでも飛んできそうな雰囲気になってきた。思わず身を屈める成行。


「見事ちゃん!弟子をいじめるな。めっ!」

 変なタイミングでフォローするアリサ。

「だって、成行君が!」

「まあまあ、そんなに怒っても見事ちゃんが素っ裸になった過去は消えないんだ。そこは仏の心で許すことだね。『仏の顔も三度まで』って言うし」

「そうね。そうよね?じゃあ、成行君は残り二回でアウトね?」

 見事に睨まれたので、通学鞄を盾代わりにする成行。


「もう!成行君ってば!」

 成行の通学鞄を掴む見事。

「おっ、お客様!車内で暴れないでください!誰か、警備員を!」

「そこまでだよ、二人とも。夫婦漫才はそこまで。お家に帰るよ?」

「夫婦漫才って何よ!お姉ちゃんもいけないんだからね!」


 抗議する見事を無視し、シビックのエンジンをかけるアリサ。

「機長のアリサです。お客様、シートベルトをお締めください。また、生命保険に未加入の方は、申し訳ありませんが、ご搭乗を拒否いたします」

 毒の効いた機内放送と共に、シビックをバックさせるアリサ。

 成行と見事も、ここは素直にシートベルトを装着した。

「さあ、実家に向かって出発!」

 アリサは意気揚々とシビックを発進させた。

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