第1章「ゴールデンウィークのお誘い」第4話 旅行の計画
以前、聞いた言葉。競輪場に行けば、魔法使いに会える。魔法使いに競輪ファンが多いというのであれば、日本選手権競輪はビッグイベントと言えるだろう。
「つまり、日本選手権競輪を一緒に見に行けばいいの?」
「そういうこと。勿論、ママやお姉ちゃんも一緒に静岡へ向かうわ」
「それって、もしかして日本中の魔法使いが静岡競輪場へ集まるとか?」
「そうね。大体、そんな感じ。静岡の魔法使いがホスト役で、日本各地の魔法使いを招待するの。今年はダービーが静岡競輪場だから、静岡県の魔法使いがホスト。例えば、宮記念のとき、岸和田開催のケースが多いから、大阪の魔法使いがホスト。競輪祭のときには、福岡の魔法使いがホスト役を務める。まあ、特別競輪のときには、開催地の魔法使いがホスト役だから、みんな気合が入っているわね」
見事は楽しそうに話した。その様子から、何かお祭りめいた集まりなのかと思った成行。
「でも、魔法使いみんなで集まって、競輪を楽しむだけ?」
「それだけとは言えないわ。ある意味、定期会合の場でもある。日本中の魔法使いが集まって、意見の交換や情報交換も行うの」
「なるほど。そうすると、新米魔法使いの僕も参加しないといけないワケだね?」
「う~ん」と唸る見事。
「えっ?僕に関して、他の事情があるの?」
見事の反応に一抹の不安を覚える成行。彼女は少々難しい顔をして、何か考えるような表情をしている。
「成行君は有名人なのよ?」
「僕が?」
いつの間にそんなことになっていた?だが、すぐにあることを思い出す。
「そうか・・・。この前の一件が原因か・・・」
先日、自分自身が魔法使いになるきっかけになった誘拐事件。そして、自身の炸裂魔法で引き起こした爆発事故(ということなっている)。
「九つの騎士の書といい、炸裂魔法の事件といい、魔法使い業界を騒がせるには十分すぎることを、成行君は起こしているんだから」
たしなめるように言う見事。
「いや、ごもっともで・・・」
神妙な態度の成行。
「でも、全てが成行君のせいとはいえないし、私、ママ、お姉ちゃんもいるから安心して」と見事は微笑む。
「話を本題に戻すわね。ゴールデンウィークの予定はどう?」
改めて見事に問われる成行。
今のところ予定はなかった。魔法使いになっていなければ、新しくできた友人、中学からの同級生と遊びに出かけた。そのつもりだった。
だが、今年それは無理だろう。魔法使いになり、そう感じていた。なので、誰にも遊びの誘いをかけていなかった。
「今のところ、予定なし。しいて言えば、魔法の練習をしようかなって思ってたくらい」
「真面目か」
見事からツッコまれてしまった。そんなことを言われると思っていなかったので、思わず笑ってしまう成行。それに対して、しどろもどろする見事。
「なっ、何よ!そんなに面白かった?」
「いや、見事さんにツッコまれるとは思ってなかったから」
「もっ、もう!じゃあ、ゴールデンウィークの予定はOKね?」
「うん。いいよ」
「ありがとう。ちょっと、待ってね」
スマホを眺める見事。どうやら、カレンダーアプリを見ている様子。
「何を調べているの?」
見事のスマホを覗き込むような仕草をする成行。
「ダービーの日程確認よ。覗かないで」
見事に避けられるような仕草をされてしまった。
今年のゴールデンウィークは四連休。しかし、日本選手権競輪は、6日間の開催。そのため、連休の始まる3日前、つまり今週の水曜日からスタートする日程になっていた。
「でも、静岡までの旅費はどうしよう?」
成行は大事なことに気づく。行き先が首都圏ならまだしも、目的地は静岡市。早くも旅費のことを考える成行。
「移動手段に関しては心配しないで」と、何事もないように言う見事。
「それは、もしや『特定ドア』を使うの?」
移動手段として、真っ先にそれが脳裏に浮かんだ成行。
「違うわ。ひかり号で行くのよ」
「新幹線なのかい・・・」
見事の回答に拍子抜けした成行。そこは魔法使いなんだから、もっと魔法と用いた移動手段を駆使すればいいのに。
だが、そうなると新幹線代の面倒をみてもらうことになり、余計に申し訳ない気がする。そんな心配が表情に出ていたのか、成行の顔に目を向けた見事は言う。
「大丈夫よ!新幹線代くらい気にしなくていいわ」
見事はサラッと答える。一般人と魔法使いには価値観の相違がありそうだが、自分と見事では家計の差にも大きな相違がありそうだ。そう感じる成行。
「んっ?待って。そもそも日帰りで行くの?」と、見事の顔に目を向けた成行。
すると、彼女の頬が赤くなる。そして、少し口ごもるようにこう言った。
「その、泊りで行くのよ・・・」
「泊まり?泊まるの?」
驚きのあまり素っ頓狂な声をあげた成行。
「そっ、そうよ。宿泊先は私たちで用意するから、その辺は心配しなくてもいいわ」と言う見事だが、論点はそこではない。
まさか見事と同じホテルとかに泊まるのか?それは心の準備が必要だ。いくら師弟関係とはいえ、見事と同じ部屋とかに止まるのか?何なのだ、その展開は!
何か考える表情の成行を目にした見事。彼女はすぐに感づいた。
「何か変なことを考えているでしょう!」
怒りと恥ずかしさが混じったような顔で睨んでくる見事。
「何を言うんだ!僕はやましいことなど少しも考えてない。日本人の所得がどうすれば上がるかを考えていたんだ!」
「絶対に嘘でしょう!それ!」
流石に口から出まかせ過ぎたと反省する成行。しかし、そこで話すのを止めない。
「まあ、とにかくゴールデンウィークは静岡へ行くということでOKですね?」
強引に話題を逸らそうとする成行。
「そうよ。おバカなこと考えていたら許さないんだから!」
見事は呆れながら言った。
どうにか誤魔化せた。そう一安心する成行。
「あっ!どうにか誤魔化せたとか考えているんでしょう?」
透かさず見事に問い詰められる。
「それでは、続いて芸能ニュースです」とワイドショー・アナウンサーのような口調で喋る成行。
「もう、成行君!」
「シッ!そんな大きな声を出さないで!落ち着いて、落ち着いて。誰かに気づかれたらマズいですよ!」
なだめるように言う成行。
「誰のせいなのよ!」
そろそろ本気で怒りだしそうな見事。次はルパン三世のモノマネをしようかと一瞬考えたが、それはやめようと思う成行だった。
この後、日が傾くまでゴールデンウィークの相談をした成行と見事。
取り敢えず、成行の旅費は静所家が全て負担してくれるという大盤振る舞い。ラッキーというよりも、やはり申し訳ないような後ろめたさがあった成行。
だが、そこは気にしないように見事から言われた。
むしろ、そういう気持ちがあるなら、魔法使いとしての自覚をよりしっかり持ってほしいと言われる始末だった。耳が痛い限りだった。
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