第1章「ゴールデンウィークのお誘い」第3話 放課後、満月の広場にて

 放課後になった。成行が帰り支度をしていると、見事からのメッセージが届く。

 『先に満月の広場へ向かって。私も後から向かうわ』

 内容を確認し、素早く返信する成行。

 『OK。じゃあ、また後で』

 メッセージを送信後、見事を一瞥いちべつしたが、彼女はクラスの女子と話をしている。そんな様子を確認し、成行は教室を離れた。


 森林ゾーンの入口まで来た成行。相変わらず人気ひとけのない遊歩道。そもそも、人を寄せつけぬ雰囲気の木々たち。この雰囲気は変わらずとも、成行は変わっていた。ここでの出会いが成行の運命を変えたのだ。

 もしも人がいたらどうしようかと考えながら歩いた成行。が、それは杞憂きゆうであった。誰にも、猫にも会わなかった。心配するだけ無駄だった。いや、もしや見事の魔法で誰も来ないようになっているのだろうか?一瞬、足を止めたが、すぐに歩き出す。


 満月の広場へ着く成行。ここにも誰もいない。魔女との密会には最適だろう。取り敢えず、スマホを取り出す成行。見事へメッセージでも送ろう。何気なく振り返る。すると、そこには既に彼女がいた。

 「ビックリした!いつの間に!」

 文字通り音もなく現れた見事に驚いたが、これでメッセージを送る手間が省けた。成行はスマホをブレザーの内ポケットへ戻す。

 「この程度ていどは、何のこともないわ」

 素っ気なく言う見事。そんな彼女に質問する成行。

 「見事さん、今は魔法を発動中?」

 「一応ね。普通の人間はここへは辿たどり着けない」

 そう言いながら、満月の広場のベンチへ腰かける見事。

 「成行君もこっちに」と言われたので、見事の隣へ腰かける成行。

 今や魔法の師匠である見事。彼女のような美人の横に腰掛けるのは、やはりドキドキする。


 ベンチに座ると、成行から話を切り出す。

 「早速だけど、ゴールデンウィークのことなんだけど―」

 「えっ?何か予定があるの?」

 少し曇った表情をする見事。

 「いや、そうじゃないよ。僕じゃなくて、見事さんの方が、用があるんじゃないの?」

 「うん。まあ、そうだけど。私の用事であるけど、成行君にも関係があるの」

 また意味深な言い方をする見事。何だろうかと首を傾げる成行。取り敢えず、このまま彼女の要件を聞いてみる。

 「単刀直入に言うわ。ゴールデンウィークなんだけど、私と出かけてほしいの」

 「出かける?」

 見事の言葉を聞いて目を丸くする成行。まさか、朝の冗談が本当になりつつある。

 「それって、もしかして、やっぱり―」

 「べっ、別に、デートとか、そんな風に考えなくてもいいから!」

 その点を先に指摘されたくなかったのか、成行の発言を遮るように見事は言った。やはり、朝のメッセージを気にしていた様子だ。


「ゴメン、見事さん。調子に乗り過ぎました。」と、正月でもないのに観音様へ手を合わせるような仕草をする成行。

「べっ、別にいいわよ」

 彼女の反応を見て、おやっと思う成行。そんなに怒っていないのか?見事は、成行から少し顔を逸らしてもじもじとしていた。

「何か特別な用事なの?」

 成行の問いかけに、見事の表情が変わる。

「そうね。単なる旅行とは言い切れない。でも、そんな過剰に心配しなくてもいいわ」

 それを聞いた成行は、核心へ迫る問いかけをする。

「具体的に、どこへでかけるの?」

「静岡よ」

「静岡?」

 静岡に何があるのかと一瞬、思案した成行。だが、すぐにある答えを導き出す。

 

 成行の表情を目にして、見事はこう言う。

「どうやらわかった様子ね?」

「うん。気づいた」

 見事の顔を見れば、自分の答えが当たりだと確信できる。

「日本選手権競輪だね」

「正解!」

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