第1章「ゴールデンウィークのお誘い」第2話 1年C組の教室

 成行の通学ルートは、自宅から最寄りの京王相模原線・稲城駅へ徒歩で向かい、そこから調布駅へ向かう。調布駅で下車後、今度は路線バスで高校まで向かう。

 この間、成行は見事へどんな言葉をかけるべきか考えていた。教室へ着いたとき、彼女がムッとした顔で自分を待ち構えていると思うと少し気が滅入めいる。

 だが、その原因を作ったのは誰でもない自分なのだが・・・。


 明瞭めいりょうな答えを出せないまま、成行は学校へ着いた。柏餅幸兵衛学園。ここに通い始めて早くも2週間以上経過していた。

 四月も折り返しを過ぎて、ゴールデンウィークは目前。この時期、晴れた日には外へ出かけたくなるような心地よい季節。空の青さと、新緑の新鮮さが調和している。

 高等部の校舎へ入り、1年C組を目指す成行。彼が高等部の校舎へ着く時間帯が、登校時のピークと言える。1年生から3年生まで、多数の生徒が朝の校舎内を行き交う。


 午前八時を過ぎて、1年C組内も多数の生徒が登校していた。

 教室内へ入る成行。何人かの生徒が、「おはようと」と声をかけてくる。成行も愛想よく朝の挨拶をする。しかし、彼が気にかけていたのは、席に腰掛けてそっぽを向く一人の少女だった。

 静所おとなし見事みこと。成行のクラスメイトにして、魔法の師匠でもある少女。彼女のオレンジがかった茶髪のロングヘアは、朝の陽ざしに当てられて艶やかに見えた。


 一瞬、見事と視線が合った気がした成行。しかし、彼女はプイっと、そっぽを向いた。とてもわかりやすくご機嫌きげんななめだと態度で表している。

 まるで警戒心の強い野良猫のように、そっと近づく成行。

 「おはよう、見事さん・・・」

 ぎこちない笑顔で挨拶する。すると、ふくれっ面でこちらを向く見事。

 「おはよう、成行君・・・」と言って、再度そっぽを向いてしまった。

 これは参った。見事のご機嫌は斜めな様子だ。これでは転げ落ちるどころか、真っ逆さまに落ちてしまう。


 一旦、自分の席へ通学鞄を置きに行く成行。もう一度、見事への接近を試みる。

 ムッとした表情で成行を睨む見事。だが、先程とは異なり、落ち着いた口調で彼女はこう言った。

 「放課後に満月の広場に集合。そこで話しましょう」

 そう言うと、見事の表情からマイナスのオーラが消え、いつもの穏やかで優等生な雰囲気に切り替わる。

 「わかった。じゃあ、放課後に・・・」

 成行も短くそう答えると、自分の席へ引き返した。思わず『助かった』と、心の中で呟いたことは内緒だ。彼が席に着くと、ほぼ同じタイミングで朝のHRが始まる。

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