虚しさをついばむ
寝転がると、お腹がぐるぐると鳴る。そんなに急いで消化しなくてもいいんだよ。そう言い聞かせながらお腹を撫でると、グルっと返事をされた。
襖から月明かりが漏れてこない日は、照明を常夜灯にして、ぼんやりと眺めている。目がチカチカし出したら瞑って、白くなった明かりの残像を追いかける。今日は寝香水をつけすぎて、思わず顰めっ面になる。少し粉っぽくて柔らかい香りが部屋の中を満たしていて、なんだか変な夢を見そう。
母校の卒業展示に行った時、お世話になった先生が作品の案内をしてくれた。生徒が作った一冊の絵本を手に取って、小さな子供に聞かせるような声音でそれを読み始めた。最初こそ笑っていたけれど、幼少の頃に絵本を読み聞かせてもらえなかった思い出がふわっと通り過ぎてしまって、思わず泣きそうになった。幼少の頃の僕が、やっと救われたような気がした。
春が近づいてくる。梅の花が咲いて、甘い匂いに誘われて、足を止める。彼女が花粉症でズビズビする季節だ。赤くなった鼻や充血した目を見ると、可哀想と可愛いの狭間みたいな気持ちになる。今まで気にも留めなかった花粉予報なるものが、気になるようになった。恋人の身体は華奢で小さいから、すぐに花粉の容量がいっぱいになったのだろう。可哀想で可愛い人。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます