虚しさをついばむ

寝転がると、お腹がぐるぐると鳴る。そんなに急いで消化しなくてもいいんだよ。そう言い聞かせながらお腹を撫でると、グルっと返事をされた。


襖から月明かりが漏れてこない日は、照明を常夜灯にして、ぼんやりと眺めている。目がチカチカし出したら瞑って、白くなった明かりの残像を追いかける。今日は寝香水をつけすぎて、思わず顰めっ面になる。少し粉っぽくて柔らかい香りが部屋の中を満たしていて、なんだか変な夢を見そう。


母校の卒業展示に行った時、お世話になった先生が作品の案内をしてくれた。生徒が作った一冊の絵本を手に取って、小さな子供に聞かせるような声音でそれを読み始めた。最初こそ笑っていたけれど、幼少の頃に絵本を読み聞かせてもらえなかった思い出がふわっと通り過ぎてしまって、思わず泣きそうになった。幼少の頃の僕が、やっと救われたような気がした。


春が近づいてくる。梅の花が咲いて、甘い匂いに誘われて、足を止める。彼女が花粉症でズビズビする季節だ。赤くなった鼻や充血した目を見ると、可哀想と可愛いの狭間みたいな気持ちになる。今まで気にも留めなかった花粉予報なるものが、気になるようになった。恋人の身体は華奢で小さいから、すぐに花粉の容量がいっぱいになったのだろう。可哀想で可愛い人。

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