ソテツ

2週間か3週間に一度ほど、恋人と電話をする。価値観の合わない両親と毎日話していると「僕の方がおかしいのか?」という感覚に陥ってしまうため、恋人におかしいと思った話を聞いてもらう。恋人から共感を得て、はじめて安心する。田舎特有の、両親の、歪な価値観は、どろどろとしていて胸のあたりが常に苦しい。一人になるとため息ばかりが出るようになった。


以前、自分では容易く買ってもらえないようなものを買ってもらったとき「老後は、あなたに頼らなきゃ生きていけないからね。お父さんが死んでしまったら、一人じゃ生きていけない」という言葉を添えられた。買ってもらったものを見るたびに、その言葉がよぎって眉を顰めてしまう。「育て方を間違えた」と言われたときに、僕の中の親への気持ちはぶつりと切れた。その時に感じた絶望を味わわせてやりたいという気持ちをずっと抱えて生きてきたけれど「一人でいろいろなことを後悔しながら死んでゆくんだろうな」と思ったら、もうどうでもよくなった。子供の僕からみても母の人生は空虚で、可哀想だと思う。だからと言って、親孝行をするほどの親への愛情は、もう持ち合わせていない。


両親は常に、些細なことでも僕に何かを期待している。両親が望むような答えを出さないと、途端に不機嫌になって黙り込む。父親は酒を煽って、ため息をついて「もう寝る」という。閉める扉の音はいつもより大きくなる。寝て起きたら、怒ったことなんて忘れていて、いつも通り笑顔で僕に接する。吐き気がする。僕ばかりがストレスで体調を崩していて、本当に馬鹿らしい。両親ともに、不機嫌を振りかざして僕をコントロールする。幼少のころから、そうすると僕がしばらく両親の言うことを聞くからだ。幼少のころから10年は経つのに、何も変わっていない。微かに胃痛が出始めたので、ここで終わる。


もっと明るい日記を書きたいのに、指が探してしまうのは、暗い言葉ばかりだ。

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