愛に背いて

両親からの無償の愛(と言いつつ、見返りはしっかり求めている)が苦しい。


欲しいものは大体買ってくれた。行きたい場所にも連れていってくれた。はたから見れば、ごくごく普通の家庭だったと思う。家に帰ればいつも誰かと比べられた。「あの子はできるのに、あんたは何でこんな出来ないの」頭は、たくさん叩かれた。今でも誰かがぼくのそばで手を挙げると、反射的に反応してしまう。


中学生。「育て方を間違えた」と言われた。ぼくも、育ち方を間違えたと思う。言われた日のことは、今でも鮮明に思い出せる。ぼくも母親も傷つけ合って、本当に苦しかった。その日の夜中に遺書を書く。窓を開けて、星を見る。何時間も、何時間も。空が白んできて、遺書は破り捨てて、学校に行った。育て方を間違えても、毎日ご飯は出してくれるし、洗濯もしてくれる。欲しい本だって買ってくれた。怖くなって、両親のことが何一つ分からなくなった。分かりたくなかった。


この前、帰省した。両親の話す声で目が覚めて、寝たふりをしながら話を聞いていた。両親の間での僕の呼び方は「あの馬鹿」だった。もうダメだと思った。壊れた関係なんて一生修復できない。寝てる間も、名前すら呼んでもらえない。


家族からの愛って何だろうと思う。帰省した時も、ぼくが欲しがっていたやつはほとんど全部買ってくれた。手術代も入院費も出してくれた。今後の通院代だって出してくれる。自分達が病に倒れた時に世話してもらう借りを今作っているんだろうか。あんたの欲しいものは全部買ってあげたでしょ、親に恩返ししなさいとでも言うのだろうか。ぼくは両親にそこまで出来ない。勝手に産んで、勝手に育て方間違えて、散々罵倒したくせに。それで何かを求めないで欲しい。


いつだって恋人に会いたいけれど、こういう夜は特に恋人に会いたい。居心地の良い場所に、早く帰りたい。機嫌を伺って愛想笑いをしなくてもいいし、両親が求めていそうな答えを考えなくてもいい、ただ恋人と食べたいものを食べて、好きなだけ眠って、他愛もない話をたくさん話して、それだけで1日が終わるような、そんな日常に早く戻りたい。


敷いたレールを思い切り脱線するような、そんな子どもに育ってごめんなさい。





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