6:05

祖母が亡くなった。今日の朝早い時間に、魂だけそっと身体から出ていって、空に昇っていってしまった。


ぼくはいま入院中で、祖母の顔にも骨にも触れることはできない。火葬されている間にのぼる煙も、見ることはできない。今すぐにでも祖母に会いに行って、わんわんと大声をあげて泣きたい。今は一人、祖母のことを思い出しては声を押し殺して、泣いている。


本当に真面目で優しい人だった。小さいとき、お気に入りのおもちゃを少し高い場所から落として泣いていた時、祖母はそこから降りておもちゃを拾ってくれた。眠れないときは子守唄を、ぼくが好きだといったお菓子は、祖母の家に行くたびにあった。


2年半前、東京に行くことを祖母に告げずに飛び出してしまった。実家が嫌で飛び出して、転がり込むような形で恋人と同棲した。祖母は体調が悪くなっていって、入院した。ぼくの母や伯父が見舞いに行くたびに、ぼくの名前を呼んでいたらしい。また、どんどんと体調が悪くなって、声も出せなくなった。先月、実家に帰った。一度、祖母のお見舞いに行こうと、伯父が連れて行ってくれた。面会時間前で会えませんと、警備員に言われて「ぼくが退院したら、会えるでしょ。次はちゃんと時間把握しておかないとね」って、伯父と会話したのを覚えている。会えずに、さよならしてしまった。


ぼくは、祖母になにもできなかった。なんでももらうばかりで、何一つとして返すことができなかった。もっと何かできたはずだと、今更考えてもしょうがないけれど、それでもやっぱり考えてしまう。いつでも祖母を思い出せるように、もっと触れておいたらよかった。祖母は照れ屋で、抱きしめられることを恥ずかしがったけれど、たくさん抱きしめていればよかった。


毎朝、祖父の仏壇にお参りをしていた小さな祖母の背中。「今日も一日見守っていてください」と小さく言っていたのを覚えている。もう天国で、祖父に会えているだろうか。真面目で優しい祖母のことだったから、きっと道に迷わずに会えただろうと思う。


天国はどうですか。あたたかいですか。おばあちゃんの好きな食べ物は、たくさんありますか。会いたい人には、もう会えましたか。ぼくは今日、何をしていてもおばあちゃんのことを思い出して、泣いてしまいます。会いに行けなくて、ごめんなさい。会っていない間も、ぼくのことを気にかけてくれて本当にありがとう。偶然にも、今日病院内で流れた子守唄に、おばあちゃんの歌ってくれた子守唄を重ねて、声をあげて泣いてしまいました。おばあちゃんからもらった愛情を、上手く返すことができなくて本当にごめんなさい。本当に本当に大好きでした。これからも、それは変わりません。


ぼくはまだ、現実味がありません。退院したら、会いに行って「痩せたね」なんて軽口を言ってくれる気がずっとしています。甘いものが好きだったから、二人でケーキでもつついて話したいよ。何も言わずに、急にいなくなるなんて、おばあちゃんらしくないよ。


退院したら、その足で真っ先に会いに行くね。おばあちゃんの好きな食べ物なんでも買っていくから、待ってて。こんなこと書いてないで、真面目に仕事しなさいって怒られそうだから、ここらへんで終わります。


長い長い闘病生活、本当にお疲れ様でした。天国では思う存分好きなことをして、ゆっくり休んでください。気が向いたら、ぼくに会いにきて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る