第33話
ぱちっと目を開け、時宗は天井を眺めた。
あっっっっつ!!
なんだこの暑さ。汗で体がべたべたする。なんで俺は自分のベッドなのにこんなに汗だくで狭いとこにはさまって寝てんだ?! 両側から、なんか知らんが滅茶苦茶締め上げられている。
外は明るくなっていて、カーテンから漏れた光が天井を薄く照らしていた。
一体全体、自分はどうなってる?
首を動かして、時宗はやっと自分の状況を理解した。
自分のベッドで寝てはいる。いるが、左から海斗がしがみつき、右から敬樹がしがみついている。シングルベッドでこの状況は乗車率300%、ラッシュの山手線もびっくりだ。
……なんで俺はこんなアホなこと考えてる?
2人分の体温がみっちりと肌を覆っていて、時宗は身動きもとれない。
記憶は昨日の風呂で途切れている。どうやら意識を失くしてから、ここまでしっかり2人に面倒をかけたらしい。ちゃんとパジャマを着ていて、髪も肌もバリバリではないところを見ると、大変丁寧にお世話して頂いたものとみえる。
俺は……すっ裸でトんだのか。
みっともないし、海斗に裸を見られたのが、とんでもなく恥ずかしい。
これはつらい。人生で多分一番つらい。風呂で溺れかけ、むせ込んで汚い顔をさらし、さらに意識をトばすというコンボを好きな男の腕の中でやらかすなんて、時宗くん一生の不覚。
溜息をつき、2人を見る。心配してくれたのだろう。2人とも、離すまいと必死な感じで時宗にくっついている。暑いせいか、海斗の眉間には皺が寄っていた。敬樹の方も時宗の腕を抱き締めたまま、少し寝苦しそうな顔をしていた。
ありがたいんだけど、俺も暑いんだよな。
暑いだけじゃなく、体がこわばっている。抜け出したいが、2人を起こしたくはない。困り果てて、時宗は海斗を見つめた。ふよふよの髪が、時宗の息に微かに揺れている。そういえば海斗の寝顔を見るのは初めてだということに、時宗は気づいた。青森では寝顔を見る前に逃げ出したわけだし。
眠っている海斗の顔は、しっとりした色気があった。けっこう睫毛が長くて、頬のラインがすっきりと綺麗だ。
うん、あんまり見ない方がいいな? 敬樹もいるのに、2人の真ん中で時宗の真ん中がアレなことになっても困る。
そういうことをすぐ考えるから、海斗にサムいって言われるんか。
そろそろと腕を抜き、ヘッドボードのリモコンを手探りで取る。暖房を切り、掛け布団を少しめくって風を入れると、時宗は天井を眺めて考え事を始めた。一応きちんと寝られたらしく、頭はちゃんと動いている。
弥二郎が残したメモは、今のところ2枚。『ばーかばーか』はこの際無視するとして、『お前のじいさんマジでボケてやがる。頑固でほんと頭にくる』『箱の中身はなんだ? 掃除の時に邪魔なんだよ』というセリフの意味を考えないと。
現時点で引っかかってる部分は、『お前のじいさん』という書き方。海斗のじいさんだとは思うが、取りようによっては時宗のじいさんを指しているようにも読める。次は『箱の中身はなんだ?』という問いかけ。この部屋にある箱のどれかにメモを残したのか、あるいは箱というのは何か別な物を指しているのか。
さらに『掃除の時に邪魔なんだよ』というセリフ。弥二郎が時宗の部屋を掃除することはないということを知っていないと、この言葉の違和感には気づけない。だからこれは確実に自分に向けたメッセージだ。
そういえば館林のコンビニで、黒いワゴンの連中は「お前、時宗っていうんだろ?」と言った。自分をターゲットにしているかのような言い方。
「あ」
時宗は、あることに気づいて思わず声をあげた。
そうだ。どうして今まで思いつかなかったんだ?
根本的なところを見逃していた。俺はアホタレだ。海斗の言うとおり、どうしようもない無能だ!
なんで俺は考えもしなかったんだ? 海斗が起きたら、まず質問をしないといけない。最初に聞かなきゃいけなかった質問だ。それを最後に思いつくなんて、ほんとに、ほんとにどうしようもない。
『お前のじいさん』という言葉の持つ意味に、時宗はようやく思い至った。ただ、それでも矛盾は残る、なぜ弥二郎は拉致されたのか。なぜ、弥二郎は回りくどい方法で時宗にメモを残したのか。
それは後回しだ。
首を動かして時計を見る。7時半。今日の行動の計画を立てる。2人を寝かしておいて、まず今から箱を漁る。何もなければ仕方ない。今日の一番重要な予定は、祖父に会うこと。うまくいけば、今思い当たったことすべてに答がでる。
祖父に会う。そのとんでもなく困難な課題に、時宗は武者震いのように体を震わせた。
待ってろ。俺の考えが正しければ、弥二郎は間違いなく無事だ。そして俺のじいさんとの話し合いがうまくいけば……事の真相が手に入る。
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