第13話
時折うとうとしながら退屈に耐えて、車は大沼インターチェンジからさらに南下し、函館に入った。雪が道の脇にけっこう積もっていて、その向こう側に建物があるせいで全然街という感じがしない。自分が今、街の中心部を走っているのかそうでないのか、時宗には何とも判断がつかなかった。
日はとっくの昔に暮れている。そろそろ夕食の時間だった。
「なぁ、晩飯ってどうすんだ?」
時宗の問いに、今野は道の先を指差した。目的地が一応あるらしい。
「あっこ」
「マックか?」
看板が見えたのでそう聞くと、今野はちらりと時宗を見た。
「函館だぞ? マック行ってどうすんだ」
いや……函館だからなんなんだ。おいマック素通りしたぞ?
まぁ今野の方が土地勘はあるんだ。何が出てくるのか待ってみるか。
今野はさらに車を進め、よくわからない店の駐車場に入っていった。
ラッキーピエロ? ファミレスかなんかか?
何の説明もないまま、今野は車を止め、店に入っていく。心なしか足取りが軽い。
店の中もさっぱりわからなかった。変な店、ということだけはわかる。壁にはなぜか古いテニスプレイヤーの写真が壁一面に並んでいて、壁紙もド派手だった。注文する客でカウンターの前はごった返している。
「おい頼むから説明してくれ」
澄ました顔で列に並んでいる今野に、時宗は耐えかねて聞いた。
「ラッキーピエロ」
「うんそれは看板でわかった。それが何なのかを聞いてる」
「ハンバーガー屋だ。函館にしかねんだ」
「……なるほど」
ローカルフードらしい。
「どれがうまいんだ?」
「チャイニーズチキンバーガー買う。あとラキポテ」
「ふ~ん」
生返事だけして周囲を見渡す。奥の座席に運ばれていく料理に、時宗は目を丸くした。
「おい……オムライスでかくないか? ていうか、なんでハンバーガー屋にオムライスがあるんだ?」
「買ってみたらいんでないか?」
「席、空いてるかな」
「フェリーの時間あるからだめだ。持ってく」
「えぇ……だめか」
メニュー表を見上げる。なんだあの充実した一覧? じっと見ていると、どんどん目移りしてくる。口が止まらない。
「なぁチャイニーズチキンバーガーってどのぐらいの大きさだ? 松とか竹とかってどう違う? オムライスも買ったら多すぎると思うか? あ……でもカレーもめちゃくちゃうまそう……ラッキーガラナってなんだ?」
「お前、自分だって仕事だって偉そうに言ってたべ」
「……」
そうだった。退屈してたから、思わずテンション上がった……。 頬に血が上がるのを感じる。今野が噴き出した。
「お前、いいふりこきで何様かと思ってたら、割とめんこいとこあんな」
「なっ?!」
かぁっと顔が熱くなる。
「は、初めて函館に来たんだ、ちょっと観光気分出したっていいだろ」
ひとしきりクスクス笑った今野は、派手なコーナーを指差した。
「お土産んとこにレトルトカレーあるし、色々買える。車だから、ちょっと荷物増えても大丈夫だ。いっぱい買っとけ」
「すげぇな。グッズとかあるのか? あっでもポテトチップス、敬樹に買ってってやろう……弥二郎は……ていうかお金持ちクッキーってなんだよ」
今野はまた笑い出した。目がきゅっと細くなり、ほころんだ口元が本当に楽しそうだ。
「並んで注文しといてやっから、見てくればいんでねぇか?」
「ほんとか? あっでも注文するのもなんか面白そう」
「しょうがねぇな。注文終わったら、お土産コーナー見に行けばいい」
「わかった」
時宗は今野と一緒に、あれこれ店員に聞きながら注文を楽しんだ。チャイニーズチキンバーガーのチーズ入りが松、ということらしい。ポテト、オリジナルの缶飲料、それにオムライスまでテイクアウトで注文し、お土産をしこたま買い込んだ時宗は、大荷物を持って意気揚々と車に戻った。
「フェリーに乗ってる間、退屈しないなこれ」
「まぁ……駐車場で乗船待ってる間に食べ終わるんでないか?」
「そうか?」
温かい料理を膝に乗せ、漂う香りにうっとりする。
今野は慣れた様子で函館の街を抜け、車はフェリーターミナルの駐車場に滑らかに入っていった。
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