【2】後篇

僕は……なぜ彼女が僕の名前を知っているのだろう?と思ったのだが、そんな事を考えている場合ではなく、その少女は、僕の方に近づいて来ると「誰?……貴方が僕を呼んだのか?」と聞いてきたのだ。「うん。そうだよ……。君がリリスの言ってた『癒やしの女神の聖女の使徒』でしょ?……僕は、君が助けを求める声が聞こえてここにやって来たんだ」と、答えると彼女は涙を流し始める。


その後……リリスと『神』の二人が会話をしていたのだが、そこで聞いた話だと、彼女は僕の妹だと名乗るので……どうして僕に妹がいるかが分からないままでいたのだ。


その後『神』がリリィのことについて話すと……。僕が彼女を探しに魔王城に行きたいと言う事を理解してくたり、その後……僕は、彼女の能力を使って僕達がいる場所に『アヴァロン島』の近くにある『魔王城』の近くに転移することになった。その途中……僕は彼女に色々と話をしてあげようと思っていると……『リリス』から『魔剣アスタルト』を渡されて……。「はい……。これが『アスカトルシリーズ』の1本。


リリアナが使っていた『魔剣 アスタルト』よ。


これはリリアナからの贈り物でもあるんだけど……私からもプレゼントしておくわね。」


彼女は、そう言うと僕の手を掴んで……。僕の手に持っていた魔剣『アスカタルト』に触れさせると『魔剣 アスカタルト』は、リリスに返した時の状態に変わっていく。「これなら……もう大丈夫でしょ? でも……本当に気を付けて。魔王城にいる『勇者 ユウト』は、今の貴方では勝てないかもしない。リリアナを救う事に集中した方がいいかもしれないわよ? 私はいつでも見守ってるから。リリアナの事よろしくね? それと……。私に何かあった時に備えて……。この指輪を渡しておくわね。リリスちゃんの事も頼むわよ?……頼んだわよ! ユウト!! 」そう言うと僕の頭を優しく撫でてから『神』は姿を消してしまった。


私達はリリアナとユウトと別れた後……。まずは、魔王城に向かう事になっている。だが、私達が魔王城に向かおうと動き出した直後に、リリィから私達のところに来て「あの……。私……魔王城に行ってもいいですか?」と、言われてしまう。リリアナが行方不明になってから、ほとんど寝ていないはずなのに、まだ、魔王城に行くつもりらしい。私は、さすがに止めようとすると……。「お願いします。私は……私達は、どうしても『ユウト』のところへ行きたいんです。……お願いします」


真剣な眼差しで言うリリィに対して……。私は何も言えなかった。だが、このまま、一人で向かわせる事もできず、私が連れて行くしかないと判断した私は、同行を許可をするのであった。その後……魔王城までの道中を歩いていた私達なのだが、しばらく歩いていると……『リリスさん……。ごめんなさい。リリスさんは……きっと怒ると思いますけど……私のせいでリリアナがいなくなったのに、私だけ幸せになろうとしていると思います……。リリスさんが許してくれれば……一緒に来て欲しいんですけど……。ダメでしょうか?』と言われてしまい……リリスは……私の顔を見ると小さくうなずき「いいでしょう。リリアナを救うために魔王城に向かいましょう。ただし……。必ず無事に帰ると言う約束はしてもらいますからね!」と話すと……リリアナの嬉しそうな表情を浮かべて「はい! ありがとうございます。」と言ったのだ。そしてそれから数時間後……。魔王城の城門前までたどり着いた私達に門番から……『何者だ!ここは『魔族領域』だぞ!……貴様等……人間ではないか!』と言われた。するとリリスは、「失礼しました。私は、リリアナの母『リリアーナ・レティス』の娘『リリアナ』と申します。そして、隣にいるのが、娘と一緒に行動している『リリシア』と申すもの。こちらは私の友人の……『アリア』『アスタ』と言いまして……こちらが……リリアナが連れて来た者達です。私達もリリアナを探すためにやって参りました」と説明してくれて私も、「リリアナを無事に保護したらまた戻ってまいりますので、その時には宜しくお願い致します」と言いながら頭を下げると……『アヴァリス』を取り出した。そして私は、「私は……ユウト様の力を受け継ぎ……そして、彼の心を守る為にもここに来たのです! 」と叫ぶと『神装武具 アヴァリス』から光を放つと……魔王城に居るリリアナの所へ転送した。その光景を見て、唖然とした門番であったが……すぐに我を取り戻し……『アヴァロン島』の方へ急いで連絡を入れるのである。『リリス様の来訪を報告せよ!急げ!!』


僕が、『魔剣アスカトル』を召喚した直後……。リリスと、リリィとリリシアは、『アスタルト』が放つ光が眩しかったのか目を細めていた。僕自身も、『アスカトル』が放ち出した強烈な光の波動に驚いていて……つい声を荒げてしまったのだ。『なんだ!? これ……。力が……。溢れ出てくる感じなのか……。凄いな! こんなの……。まるでリリスに抱きしめられてる様な……温かい感覚になるのか……って……。なんでそんな恥ずかしいこと考えてるんだよ……。』


僕は慌てて、自分の顔が赤くなるのを感じつつ皆に向き直ると……。


僕は皆に声をかけると……「さぁ行こう!皆……」と言って走り出そうとするのだが……。『アステ』が……『待てよ……。俺もついて行くからな。』と言ってから僕の前に出る。「ちょっとまって!」僕は……その行動に驚いたが『アステは、リリスに鍛えて貰ってから僕よりも強い。しかも僕達と違って『神装防具 アスティ』を身につけている状態だし……。』と考えて僕は、リリスに目を向けるとリリィが、リリスの腕を掴んだ状態で僕を見つめるリリシアの横にいた。どうやらリリシアがリリスに事情を説明したらしく……。リリスは、リリアナが、魔王に連れ去られたのは事実なので仕方ないと割り切っているようだった。リリスは、「……わかりました。それではリリアナを救出しに行きましょう。リリシアちゃん。あなたには、ユウトくんと『アスタルト』と共に先に向かって欲しい。私たちは後から合流するわ。それまで、その男にリリシアを任せておくことにするわ。だから……早くいきなさい。」と言うとリリシアは、泣き崩れるようにリリスの前に座り込むと、「リリスさん……ごめんなさい……。」と言うと……。『アスカタルト』を手に取り……。「私は、貴方を裏切ってしまったの……。ユウトに助けを求めても、貴方は助けには来てくれない……。貴方にとって……ユウトは特別な存在だから。私……私……。本当にごめんなさい。」そう言いながら泣いていた。僕は、その姿を見て、僕はなんてことをしてしまったのだろうと改めて思いながら、彼女の手を取ると……。


僕は『アスカタルト』を握るように誘導してから……「君に会えてよかったよ。僕の大切な人の忘れ形見が……まさか……君とは思わなかったけど……。それに君が僕を助けてくれたんだろ?……僕は、あの時から君の事を知っていた。あの時に助けてもらった君が……。君が僕の妹である事は、君を見た瞬間から分かっていたんだ……。」そう言って、リリシアの手を強く握った。リリィが、僕の手を握り返してきて……「え? ユウト……。どうして私だって分かったの?」そう言って驚くのだが……僕は、リリスの事が気になって彼女に話しかける。「リリス……。君に少し聞きたい事があるんだけど……。君は、なぜ僕の妹の事をそこまで詳しく知っているんだ?」と聞くと……。彼女は僕と目が合うと……。真剣な表情で……。


「それは言えない……。ただ……。私にもユウトのお姉さんみたいな人がいたってだけ。その人に……私は色々と教わりたかっただけ……。」そう言ってから彼女は微笑む。


『やっぱり……。』僕は、この場の雰囲気を変える為に話を変えようとして「リリシア……。今は……とりあえず行かないか?」と言うと彼女は、「はい!お兄様」そう言うと、笑顔を見せてくれたので安心すると、すぐに出発することにした。その後……。


魔王城に向かう途中は順調だったが……。城に着くなり門番らしき人物に『ここから先は、許可なきものは入れんぞ! 帰れ!! 』と言われるが……リリィが『神装武具 アスティ』を召喚して見せると、態度が変わるのであった。『この方がリリアナの母親だ!……無礼な真似をすれば、タダではすまさんぞ!! 』と怒鳴っていたのであった。そして城内に入るのに……。リリィは、リリスと離れたくないと言うので……。僕の背中にしがみついたまま移動する事にした。しばらく進むと……。『アヴァリス』からリリアナが閉じ込められている場所を見つける事に成功したと『アスカタルト』から通信が入り……。『リリシアちゃんと合流してから魔王城に突入をしてください!私がそちらに向かいます!』と言うリリスの声を最後に……。僕は、『アスカタルト』が示した方向へ走る事にしてその場から移動を開始した。


僕達が魔王城に入るとそこには……以前戦った『暗黒騎士』が二人と……リリアナが捕まっていた。僕達が駆け寄ると……。その二人は、武器を構えるが……なぜか攻撃をする事はなかった。なぜならば……「リリアナ!迎えに来たよ!」と僕が叫ぶと、「ゆ、ゆうとぉ〜! 」とリリアナは大粒の涙を流して、リリィが差し出した手を掴んで立ち上がろうとするがうまく動けないようだったので……。仕方なく……僕はリリィに合図をするとリリィがリリアナを抱きかかえるようにして立ちあがらせると……。『アスカタルト』を送還してリリスに連絡を取り、そのまま二人でリリアナを運んでもらうことにした。その間……。リリィは、『アスタリ』の召喚を解除して、『アスカトルー』を装備した状態で魔王城の中へと侵入してきた『アストルム』、『アストル』と、もう一人の『アステリオン』と一緒に魔王城の中にいる『魔族』を蹴散らす事にした。もちろん僕は、『アスカトル』と合体した状態の姿で『アスカトルソード』を装備して一緒に戦っている。


そんな僕達の姿を見て、『魔族』達は逃げ惑い始め……『アスター』の力を使おうとすると……。リリスからの連絡が入るのだった。どうやら……。『リリアナを連れて合流しました。これから私達も参戦するわ!リリィちゃんたちは、ユウトくんの指示に従って下さい』というので……。『了解しました。それじゃあ……リリス達も一緒に戦って下さい。僕と、リリアナが前衛で、あとの皆が援護射撃をしてくれる感じで行きます。リリアナ……。行けるかい?』と確認すると、「うん。私は大丈夫。」と言ってくれたので僕は……。


「よし。じゃあ、僕達だけで突っ込むぞ!」と叫ぶとリリアナと共に『アスカトルソード』を手に取ると……魔王に向かって突撃をする。リリスのアドバイス通り、まず僕は……リリアナに防御をお願いしてから攻撃に移る。僕は、リリアナと交互に『アスカトルー』に魔力を流すと……僕は『剣聖 剣神術』『瞬歩』『斬風刃』を同時に使用して……。『魔王』に向かって一気に加速し、その勢いのまま『アスカトルー』で斬りかかると……。その光景を見てリリアナも同じように……。『魔王』の首を切断する事に成功する。しかし……。首が切り落とされたのにも関わらず『魔王』はまだ動くのである。その光景に僕は……。


『これが……魔族の再生能力なのか……。これなら……いくら倒してもキリがないじゃないか。……それならば……これでどうだ!!』僕は『アストロス・ブレイド』を二刀流に持ち替えると、『剣技融合』を使用してから……。


『聖魔法 光属性浄化』と『神槍 雷神槍』を同時に使用したのだ。『神力』によって増幅させた光の力を使って光の輪を作り……。その輪が回転を始めると……。まるで巨大なレーザー砲のように光の柱が放たれると……一瞬のうちに『魔王』の体は粉々に吹き飛んでしまい……。残った胴体部分は、灰になって消滅するのだった。僕は、急いでリリス達に通信を入れるのだが……『アスティ』から『マスター……凄すぎですよ……。』と言われてしまう始末であった。僕は……。『アスカ』の力を解放させると……リリアナの方を向いて……。


「今の内に……。早く行こう!リリアナ。僕達の後ろに隠れていてね……」と言うと、僕の背後を守るようにしていたので僕は、そのままリリスたちと合流しに行くために走り出すが……やはり、僕達が入ってきた門番がいる部屋には、多くの『魔族』が待ち構えており、僕は、『神装防具 アスカタルト』の特殊スキルを使用する。僕の目の前に、小さな黒い盾が浮遊し始めた状態で現れると……『アスタリアソード』を振り抜くと、衝撃波が発生すると同時に僕の体を浮かせてから……『アストラルウォール』の効果が切れて落下するが……すぐに体制を整えて、今度は、黒い盾に『アスト』を付与した状態で振り下ろす。『アスタルト』と『アスト』の効果を合わせたその一撃は、『アスト』が放つ闇のオーラに包まれながら、敵に向かっていき……敵を包み込むと……敵の体が闇に染まるのだった。その隙に、部屋に侵入すると……リリスは、『アスタルト』を呼び出していた。


そして……すぐに僕に指示を出すので、僕はリリシアを呼び寄せてから、彼女のことを背負うと、先ほどの黒いオーラの範囲外に脱出するのである。『アスカ』からリリアナを解放すると……僕のそばに来てくれたリリアナに対して、「リリアナ……。少し離れていてくれ。」と声をかけると……『アスカタルト』を握り締めながら僕は、『神装武具 アスカトルー』を召喚した。『アスカトルー』の装備が終わると……。僕の前にリリスが駆けつけてきて、その後ろには……すでに『アスター』を装着したリリアナの姿があり、僕は『アスカタルト』に自分の『魔晶石』のエネルギーを供給するイメージを行うと……。


「みんな。準備はいいかい?」と尋ねると……。全員が僕の方を向くと……。『はい!』と答えてくれるのであった。


「それじゃあ……行くよ!!」と言うと……僕とリリスは『魔王』の元へ、リリアナ達は僕の背後に回り込んでくれて僕が攻撃しやすい位置に移動をしてくれているようであった。


僕は、リリスと一緒に『アスカタルト』の特殊効果を発動させる。すると『アスカ』の力を使いこなす為の訓練をしていた時と同じ感覚に襲われると……。


「これは……。この感じ……久しぶりだけど覚えてる……。やっぱりそうだ。……私の体の中に……力が溢れていくみたい……。でも、これだと……。私の体の方に負担がかかり過ぎちゃうかな……。」と言うのであった。僕とリリシアの会話を聞いてか……。


「お兄様?大丈夫ですか?なんだか……。お兄様のお顔が……赤いような気がしますけど?」と言われると……。


「うん……。多分大丈夫だと思うよ。ただちょっと……。あの時の事を思い出しただけだよ。心配かけてごめんな……。もう少しで……あいつを倒し終えると思うからさ。そうしたら……一旦休憩しよう。そしたら……。僕の体に何が起きているのか教えるから……。それと……。僕のこの力は『神力』と呼ばれる特別な力で、『聖女』のリリシアや、『聖女代理リリアナちゃん』、『勇者』のリリスとリリィには、まだ使えないんだ……。それに……。今から使う力に関しては……。僕しか扱えないはずだから……。後……。もう一つあるんだけど……今は秘密にしておかないと……大変なことになるから言えない。だから……。もうしばらく待っていられるかい?』と言うと……。


「わかりました。それでは、それまで……。リリシアちゃんを守り続けます。お姉ちゃんにも手伝ってもらってね。……リリスもリリィもいるし。リリアナちゃんや……。えーと……。誰だっけ……名前聞いてなかったわ。」と言うのである。すると……。


『はい。リリスです!リリスって言います!!私は……。ユウトさんとリリアナさんのサポート役になります!なので……。これからよろしくお願いします!!……あ!そういえば……。忘れてた。……ユウトさん。私が言うのは違うかもしれないんですが……。私達三人に『神力』を分け与えて頂きありがとうございます。おかげで助かりました。本当に感謝しています。』と言ってきたので僕は、『気にしないで。それよりも……。今はこの戦いに集中して欲しい。僕は、必ず皆を生きて返す。それが、僕がこの世界に転移して最初にした約束だから。』と言うと……。


「ふふふ。やっぱり……お兄様らしいですね。そういうところが大好きなんですよ。」と言い……。僕も笑顔になるのであった。


それから僕は、リリスと『アスカタルト』で『神速斬』を連発しながら……『アスカトルソード』で敵を切り裂いていくと……。『神技 聖十字斬 剣神術』で敵を攻撃し続けていると、敵が僕に襲いかかってきたが……。その攻撃を……。僕は、『魔弾生成』で作った無数の魔結晶でガードすると、リリスに向かって「今のうちに!お願い!」と叫ぶ。


すると……『魔王』は僕達から少し距離を取ると……大きな黒い塊を作り出す。それは徐々に大きくなっていくが……。僕の目線からは、それがまるで太陽の様に見えたのだ。しかし僕は慌てずにそれを冷静に見ていた。おそらくあれが本命の一撃だろうと判断したからだ。『アスカトルー』の能力を使えば、その太陽の軌道すら変えることはできるし、そもそも避けることもできると思ったからである。だが僕はすぐに攻撃に移ることにする。リリスも同じ判断をしたらしく……。すぐに『神速撃』『神槍』で連続攻撃を仕掛けていたのである。僕は、『魔王』の攻撃に合わせて……剣神術 天翔剣を使用する。僕の周りに光が集まり、空に向かって上昇していく。僕が飛び上がると同時に、僕の目の前に大きな光の輪が現れる。僕は、『アスタルトソード』と『アストルーソード』を構えると『アストルブースト』を纏わせるのである。僕が剣を振り下ろすとその光の輪が回転すると……そこから巨大な光の柱が発生し、巨大な魔王の放った闇を一瞬でかき消すとそのまま魔王の体を包み込むのであった。


光が収まると……そこには……僕の知っている魔王ではなく、普通の少年の姿に戻っていた。僕はすぐに『アスカトルー』を構えなおすと警戒をするのである。しかし……その瞬間……急に全身に激しい痛みを感じると、その場で倒れてしまうのである。それと同時に僕は意識を失ってしまうのだった。


僕が気がつくとそこは見慣れない部屋の中だった。僕は慌てて起き上がり周囲を確認していると、リリス達がそばにいた。


そしてすぐに……リリアナが、「大丈夫ですか?どこか具合の悪いところはありませんか?」と尋ねてきたので、とりあえずは……。『神力』を限界まで使いすぎて気絶していただけだと説明したのだ。僕は『アスカトルー』と『アスター』を装備していたせいなのか……。はたまた『アスカトルー』に蓄積された力を解放したからなのか……。とにかく、いつもより消耗が激しかったみたいだった。


そして僕は……リリシアのことをリリアナ達に託す事にしたのである。『アスカ』が、まだ僕の中に残っている以上は、僕が近くにいない方が都合がいいと考えたからでもある。もちろん……『アスカトルー』の特殊スキルを僕以外に使用すれば……。使用者に多大な負担がかかると言う事も関係しているのだ。


そんな僕の言葉に対してリリスは……納得したみたいだったが、リリアナは少し心配そうな顔をしていたのだが……。結局は僕の提案を受け入れてくれた。僕は、『アスカトルー』を装備している状態のまま『アスタリアソード』を呼び出して、装備する事にしたのであった。『アスカ』の力は僕の中で封印しているが……。装備することは可能なはずであると……。


『アスカトルー』を装備したままでも、『アスタリアソード』を使用することが出来るとリリス達は驚いていたが……リリスはすぐに、僕の言葉に納得してくれると……僕が、先程まで使用していた装備を全て解除して回収してくれて僕に渡してくれたのであった。


リリスは、すぐにリルの元に戻ると何か話を始めたのである。僕はリリス達と少し離れて待機する事になったのだが……僕が、『アスカトルー』と『アスタ』を装着している状態でも問題なく使用できることをリリスは不思議に思ったのか、僕の体を観察しながら調べ始めてくると「ちょっと失礼……」と言って……。僕の胸に手を当てると心音を聞いていたのである。僕はその光景を見てドキドキしていたが……彼女は真剣な表情をして考えていたようで……暫くしてから僕を見つめると……。「どうやら貴方は嘘はついていないようですね。どうしてそんな事ができるのかわかりませんが……。それなら……私の能力を使う事は出来ないはずですよね?」と言われたのであった。僕は、リリスが何を言いたいかわからないと言うと、自分の能力を詳しく教えてくれて「……実は私の固有能力は、相手との魂と心を通わせれば……。相手に、私の言葉を聞かせる事が可能なのですが……。それなのに……。何故か貴方の声は私に聞こえないのです。私には不思議な感覚なんですが……。私にも説明ができないです。すみませんでした……。変なこと言ってしまって。私達の会話を聞かれないようにするために……あんな事を仰っていたんですよね?ご迷惑をおかけしました。もう、大丈夫です。後は……お兄様に全部任せます。」と言うのであった。僕は、「うーん。まぁそうかな……。それに……俺も君を騙したかった訳じゃないんだよ。だから、あんまり気にしないでくれよ。それよりもさ……。君の事を聞いてもいいかい?……えっと……。名前は……リリスって呼んでいいのか?それと、さっきの話だと君は、『神域の聖女代理』らしいけど、聖女代理ってなんなんだい?」と言うと……。リリスは自分の名前を教えてくれると……。聖女がこの世界で活動できなくなった場合に備えて、『代理聖女』として選ばれた存在だと言ったのであった。リリスの説明によれば、聖女には特殊なスキルが備わっているらしく……。それは『神の癒し』という聖女の祈りを込めた力らしい。


リリスの言う通りならば、おそらく僕達を生き返らせた時に使ったのだろうと思ったが、僕がそのことを尋ねる前に、彼女は突然「私もお兄ちゃんの事が知りたいから質問していいですか?」と言われて「……ああ。別にいいよ。」と答えると……。僕に『鑑定』の天職があるとわかると……驚いた顔をしながら「お兄ちゃんは……もしかして『勇者』とか『賢者』の職業も持っているんじゃないのですか!?」と言うのである。


僕はリリスの言葉に対して「『勇者』、『賢人』、『聖者』、『神子』、『聖魔』だよ。」と言うとリリスも「やっぱり!それで、今までどんな生活をされていたのですか?」と聞いてくるので僕は……。まずは自分が、何故こんな場所にいるかを彼女に説明する事にする。


そして……。彼女が「私は……その人達を知っているかもしれない。もしかすると、私が知っている人達の可能性が高いと思います……。」と言うのである。僕は、彼女の言葉に「えっ……。それは……どういうことだい?」と言うと……「詳しくは言えないですが……。この世界に来て間もない頃は……『異世界召喚魔法陣』が作動していない時でしたから……。その時は、本当に大変だったんですよ。何度死のうと思ったくらいで……。」と言うので、僕は驚きを隠せなかったのであった。なぜなら……。彼女は、その三人の関係者かもしれないのだから……。


それから……僕はリリスに、三人とも元気にしてるよと言うと……。彼女は安心した様子だった。リリスが知っているのはその三人だけだったみたいなので……。後二人、この世界にきている可能性を伝えたのである。僕はそこで疑問に思っていたのがリリスが言おうとしている『この世界にきて間もない頃は……『異世界召喚魔法陣』が作動していないとき』という言葉について聞いたのだ。するとリリスはこの世界の仕組みについて語り始めたのである。僕も知らなかった情報も多々あったので、かなり勉強になったのである。


この『聖教国』で暮らしていると、ほとんどの人は知らない事実であったが……。


この『神聖皇国の大森林』には、『神』がいるとされている森があり、そこには……。僕が『聖剣 アスカトルー』で倒した『アスタルトソード』と『アスターソード』が存在していたのである。つまり、あの二本の剣は、『アスタルト』『アスター』と呼ばれる武器の本体だったということだ。僕が、『聖剣 アスカトルー』と『聖剣 アスタロス』を使って倒さなかった場合は、あの剣のどちらかは、僕に宿ったままだった可能性があったのである。そして、剣の『アスカ』の力を完全に制御できれば……その力を別の人間に譲渡することも可能だというのだ。ただ、剣と適合できる人間が極端に少なく……さらに言えば、剣の『加護』を譲渡するためには、お互いの同意が必要で、更に、一度剣と『アスカ』が融合したら二度と元に戻すことはできないみたいである。僕も『アスカトルー』を制御できるようになったら、『アスタリアソード』を使いこなせるようになるとは思うのだけど……。今はまだまだ、使いこなすどころか……。使いこなしたとしても……。僕自身に『アスカトルー』が侵食されてしまいかねないため封印している状態であると言うのだ。……そして……僕が気を失っていた間にあった出来事をリリスから色々と教えてもらった。


まずは『アスタリアソード』だが……。僕が気絶した時点で……なぜか僕の中に入り込んでいたみたいである。『アスタリアソード』は、その本来の力を発揮したがっていたが、僕の中にいたせいなのか……。僕の体の一部に融合してしまっていたのである。リリス曰く、普通はありえないことであり、そんなことがおこるのは……何か特殊な力が作用した結果ではないかという話をしていたのである。


リリスによると、『アスカトルー』と『アスカタリアソード』を同時に装備できるのは僕だけだと言われたのだ。リリスの推測では……。おそらく僕が……本来、剣が持つ力をコントロールできていない状態だからだと思うと……彼女は僕が目を覚ました後に説明してくれたのだ。そして『アスカトルー』をリリスの固有能力を使って、強制的に僕から外すと言うのだ。リリスの能力は……。僕を『鑑定』したときに得た情報を元にして……相手から情報を聞き出す事ができるみたいだ。


『アスカトルー』の能力を強制解除すれば……『アスカトルー』と融合した状態の『アスカタリアソード』も同時に消滅するらしいのだ。リリスが言うには……『アスタリアソード』の能力を全て使う事が出来なくなるとの事であった。……確かに『アスカトルー』の能力は強力だったが……。僕は、もっと他のスキルや能力を『アスカトルー』が持っているのではないかと思っていたが……。そう言う事ではないのだろうか?まぁ僕が、『アスカトルー』の能力を完璧に使えなかっただけなのか……それとも……。他に何かあるのかわからないけど……。


とりあえずリリスに言われた通りにすることにした。リリスが僕に話しかけてくる。……もちろん、僕は念話をリリスに送っていない。なので、リリスは不思議そうな顔をしていたのだが……しばらくしたら僕の考えを理解したのか、「貴方に話したいことがあります。私の心の中に入ってくださいませんか?」と僕に伝えてきたのである。僕は、「わかったよ。」と言うと、僕はリリスに近づき手を握るとリリスの心の中へ意識を向けたのであった。


私は今……心の中にある場所に来ていた。その場所の名前は、『精神の世界』と言う。この場所に来るためには……。自分の魂が傷つく必要があると言われているのである。そんな場所で……私達二人は向き合うようにして立っていたのであった。リリスは……私を見て驚いた表情を浮かべると……「貴女は誰なの?」と私に声をかけて来た。……どうやら、私の事を思い出せなくなっているようだった。


私の名はミリアナと言うらしいが……。私は自分の本当の名前を思い出す事はできなかった。ただ……私にはどうしてもやらなければならないことがあったのだ。それは……私が、私の記憶を失う前の私を探さなければならないと言う使命があったのである。……私の体はボロボロになっていて……自分の体のはずなのに……動かす事もままならなかったのであった。


そんな私の姿を見ているだけで胸が締め付けられる気持ちになりながらも……私は……。私の記憶を探す旅を続ける事にしたのである。リリスには、「貴方は誰?」と言われてしまったのであった。……やはり私は……自分に関する記憶を……忘れてしまっているようだ……。


「ねぇ……貴女の名前を教えてくれないかしら?」と言うので……「私は、ミリアナというのよ。」と答えたのだけれど……。彼女は、私が言った名前に覚えがなかったのか「……ごめんなさい。思い出せないの。」と言って……頭を押さえていたのであった。そして「私がここにいる意味はもうないから……」と言いながら消えていったのである。


彼女がいなくなってからも、しばらくの間……私はリリスの消えた空間を見つめたまま呆然と立ち尽くしていたのであった。私に残された道は……。彼女に会うことしかないと思い……。『精神の世界』にいる彼女と再び会う為に……必死に足掻くことを決意して、行動を開始したのである。……私はリリスに会いたい一身で……まずは自分の力を知ることにしたのだ。……そして知ったのが、『神聖皇国』で暮らしている人々は全員、『神聖術』と呼ばれる……不思議な力を持つ事が出来るみたいである。……そして……リリスもその力を使えるみたいなのだが……彼女の場合は、『神』の声を聞くことができるらしく、そのお告げを聞いたり、未来を見ることも出来ると言っていたのである。……しかし、リリスの能力はそれだけではなかったのだ。彼女の力は……他者の心を覗けるのである。リリスはその事にとても驚いていた。そしてその能力のおかげで……この国の仕組みにも気づくことができたようである。彼女は、まず『聖教国』の中心に位置する……巨大な建物に目を付けた。そこは『教会本部』と呼ばれていて……その奥にある部屋に……。リリスが捜し求めている存在がいる可能性が高い事がわかるのだった。リリスは、すぐにでもそこに向かおうとしたが……。リリアが止めると、私と二人で行くからここで待っているように言われて……。私たちは外で待機しているように指示されたのである。……リリスにお願いするべきかどうか迷ったが……リリスに迷惑をかけたくなかったので、一人で向かうことにする。リリスには、もし私が戻って来なかったら、その部屋に入るために扉を開こうとしてくれればいいと伝えたのであった。


私はその建物の目の前まで来たのだが……。入り口がないのである。どうやら……普通の方法で入ることはできないようだった。……そこで……『聖魔』を発動させてみると……何故か簡単に入り込めたのである。しかも……。『聖属魔法』を使えるようになったみたいなのだ。


そこで私は、『光球』を作り出して浮かせる。……『聖魔法』は、基本となる四属性とは、少し毛色が違った魔法を使う魔法のようなので、この魔法の使いこなし方も練習しておく必要があったのだ。『聖教国』で、リリス以外の人にこの姿を見せたら大変なことになるので……。この国の人達がいないところで練習する必要があったのだ。……この国では『光球』すら作れないので……ここでは『聖魔』を使った魔法しか使うことができないので、『聖魔』でできることの確認は重要だったのである。


ちなみに『聖魔』の魔法を試しているときに分かった事なのだが……。どうも『聖』の力は『悪』に対抗できるようにできているらしい。『悪』には『聖』の力と相性が良いと言うことだ。『聖』の力を使って発動した技は、『邪悪』な存在に対しては絶大な効果をもたらすみたいである。なので、リリスと一緒に行った時は、この国の人々を怖がらせないためにも……『神聖術』を使わず、他の力で戦おうと思っている。


私は、『聖属性』と『聖魔法』を使いこなすための練習を始めた。……この二つの違いは……『聖魔法』の方が『聖属』の力を扱うための物と言うことだろう。つまり、『聖なる魔力』を使って攻撃するのが『聖魔法』で……。『神性』や『神聖なる加護』の力を応用して使うものが『聖属性』と言う感じなのではないかと思う。……ただ……この違いをはっきりと説明することは難しいのだけれど……。私の直感では……似ているが違う気がしている。そしてもう一つは……魔法には、基本的に呪文と言うものがあるが、その言葉の意味は分からない事が多いが……。中には詠唱することで理解できる言葉も存在するようなのだ。例えば『風刃』『火球』『雷電』『水流』『砂嵐』『地脈』『岩礫』『土壁』などがそうだと思われる。これらは『四大元素』と『自然の五大現象』を表していて……。それぞれ、その魔法に適した条件を現す言葉であるみたいだ。これらの言葉で表した魔法の場合は、必ず発動するという特徴があるのだ。


それから『神聖魔法』と違う点だが……。回復系の『神聖術』や『浄化』などは、神の奇跡を起こすことが出来るが……。補助的な力であるみたいである。そして、『聖教魔法』の方はもっと攻撃的なものが多く、強力なものが多かったので、そちらの習得を目指した。そして、気がつくと……。夜になっていた。かなり長い間集中してやっていたようだ。私は、『光属性魔法』を使って、周りを照らすことにした。すると、そこには……いつの間にか『結界』が張ってあったみたいで……中に誰かがいたのである。慌てて中に入り込むと……一人の女性が立っていたのだ。


その女性は……。白い服を纏った綺麗な女性だった。リリスと同じ髪の色で、肌が白く、美しい人だったが……。なぜか違和感を感じる人物でもあった。彼女は私に向かって微笑むと……。「貴女に用があってここに呼んだのですけど……。遅かったのですね?」と言って、首を傾げるのであった。「貴女は誰なんですか?」と聞くと……。「私? 私の名前は、アリサよ?……貴女のお名前は?」と言われたのだ。だから私は、「私は、ミリアナです。……貴女に会えて良かった!」と言って抱きしめると……彼女は、「ちょっとミリアナ!……痛いですよ?……それに……どうして私は貴女を知っているのかしら? 貴女に会うのは初めてなのにね?」と言ったのである。……そう言って不思議そうな顔をしている彼女を私はさらに強く抱きしめると……。彼女の胸に顔を埋めたのであった。そう……この人は間違いなく私の知っているリリスだと確信したからである。


しばらくするとリリスが、「もう……大丈夫ですから……ミリアナ、苦しいわよ?……でも、ミリアナには感謝しないとね……。……ありがとう」と言うのだ。それを聞いた私は涙が溢れてきてしまい、「リリス!!ごめんなさい!!」と言いながら抱きついてしまったのである。そしてそのまま泣き続ける私の背中をさすってくれたリリスは、「何がなんだかわからないけれど……。何か思い出しましたか?」と聞いてきたので……私は大きくうなずくのであった。私はリリスに自分の記憶のことをすべて話すと……。


リリスに私の心の中の事を尋ねてみる。するとリリスは、自分が覚えている限りの事を教えてくれたのだ。……どうやらリリスの記憶は曖昧な部分が多く……私達と同じように……自分の名前を思い出せないみたいなのであった。そして彼女は……。リリスとして生活しながら……ずっと記憶を探していたみたいである。……私達と同じように、リリスも私の名前を思い出す事が出来なかったらしい……。そして私のことを話してくれるのだが……。私は彼女に会う前から名前を知っており……。そして……彼女のことも良くわかっているつもりだったのだと……。そして私の話を聞いていたリリスは、嬉しそうな表情になると、「ミリアナ……私のために泣いてくれて嬉しい……。私は、貴方のことが好きみたい……」と言われてしまう。私は、リリスの言葉に戸惑いながらも、「あ、あの……リリスは記憶が無いんだよ?」と言うと……。「それでもいい……。私はミリアナの事が好きなんです……」と言ってくれたのであった。


そして私達はしばらくの間、二人きりで過ごしたのであった。……しかし……。この幸せな時間は……すぐに終わりを告げることになる。なぜなら突然、この場所の入り口に現れた人がいたからであった。


その人が現れた時、最初は、リリスが言っていたリゼルの関係者ではないかと思い、身構えたが……。どうも様子がおかしかったのだ。


「えっ!?」


と驚いた声を上げた後に……。すぐに悲しげな表情で下を向いてしまうのだ。その様子を見つめていたリリスが話しかけてきた。どうやらこの人は……『聖教会』が召喚したという勇者の一人みたいだ。……どうもこの『聖教国』はおかしい……。リリスも同じように思っていたようで、この国に違和感を感じているというのだ。


「あの……。もしかして……あなたが……リリナさんでしょうか?」


と彼女が言った瞬間、彼女の雰囲気が変わったのである。そして……私も、彼女の言葉を聞いて驚いたのだ。それはリリスも同じようだった。


彼女の言葉にリリスは……。驚きながら……。リリアのほうを見る。するとリリスは……私だけに聞こえる声で囁いたのである。


(ミリナ様……。もしかしたら彼女は……私の大切な友達かもしれない……。)


(えぇ……リリスも気づいたの?)と答える。そして私が思ったのは……やっぱり『神眼』の力を持っているリリスには隠せないのかな……ということである。


しかし……。そんな会話をしているうちにも、彼女の態度の変化には変化がなくて……。私とリリスが知り合いではないとわかった途端に、急に冷たくなってしまったのだ。そしてすぐにここから出て行ってほしいと頼まれてしまったのである。私は、その態度の変化を見ていて……嫌な予感しか抱けなかったのだ。


『聖教教会』の神官に言われたとおりに行動したほうがいいと思う……。だけど……。こんな状態で、ここから出て行きたくないと思ったので……。


リリスもリゼルに相談してみようという事になって……。一旦二人で城に帰ることに決める。だが……リゼルが戻ってくるまでに時間がかかってしまい……。その間、私たちが外に出ないように『監視役』までつけられたのであった。『監視』を付けられたことで、ますます不信感が増していくのだった。そんな中で……。


私達の目の前にいるこの女性に対して違和感が強くなる一方である。私は『聖教国』について考え始めると……。リゼルが戻ってきた。


彼は、『監視役』を追い払って事情を聞くと……。「やはり、ここは危険です。すぐに移動しましょう!」と焦り始めていったのだ。そして私たちは、『聖魔導師協会』本部があるという場所へ移動する事にしたのである。だが……そこでも予想外のことが起きてしまったのであった。……リゼルが転移魔法を使って移動しようとしたその時である。「あれれ?君たちどこかへ行くのかい?僕たちも一緒に行ってもいいよね? ねぇ?リリムちゃん? そうだよねぇ? ね? そうだよなぁ!お前は黙ってろ!!」と一人の男性が言い出すと……リリムと呼ばれた女性の肩をつかんで強引にこちら側へ引き寄せたのであった。その男性は、『聖教王国』で見たような……派手な服装をしていた。


「おい……。俺の質問が聞こえなかったのか?」とリドルと名乗った男が言うと……。「リドル! 何するんだ!!……って……。あっ……。ごめんなさい……。僕は『聖王都』で商人をやっているラズベルと言うものだ……。そのぉ……。『聖騎士』様とはどういう関係なのかなって思って……。それで気になってついてきちゃったんだけど……だめかな?」と言って頭を掻きながら笑ったのだ。その姿を見て私は、「『聖騎士団』って……意外に自由な人たちが多すぎるのでは?」と思いつつ……『神速』を発動させて一気に近づいていき……。『瞬足』『雷剣』を使って切りかかろうとしたが……。それを阻止されてしまう。


「おっと……。さすがにいきなり攻撃するのはやめてくれないか?……まあ仕方ないけど……。『神聖結界』」


そう言うと彼の周囲に透明な結界が出現して私達を囲むように広がったのだ。その瞬間……私の体に異変が起きる。『聖属性』耐性が付与されたのである。それを見た私は……急いで結界の破壊を試みる。


しかし、なかなか破壊できずにいた時に……。今度は私の方に向かってリドルの放った攻撃魔法が迫ってきたのである。慌てて避けようとしたが間に合わず直撃したのであった。しかも結界内だったので威力が数倍に跳ね上がってしまったようである。私はその場に膝をつくと……。体が痺れて動けなくなったのである。それを確認した『監視』がやってきて拘束したのだ。


「くそっ!離せ!!」と私は叫ぶと……。リリスも同じように拘束されていたのである。


私は必死に動こうとするが……。力が入らず……。何も出来なかった。するとそこに……「ちょっとやりすぎじゃないかい?」と言いながら、リリスを拘束している男の横に一人の少女がやってくる。その少女は……白いドレスを纏っていて、頭の上には猫のような耳があったのである。


リリスはその子を見ると嬉しそうな顔になり……。「リル様……」と呟いていたのであった。すると彼女は、リゼルと私のところにも歩いてきて話しかけてきた。


「久しぶりだね!リリス。リゼルさん!」と言った後に……私達を拘束していた男に向かって、「リドル!……リリスを解放しないと大変なことになるよ?」と忠告するのであった。リゼルはすぐに私達から離れるように指示を出して私達を解放すると、「すいません。……お怪我はありませんでしたか?」と言って謝ってきたのだ。私は、「いえ、ありがとうございます。……おかげで命拾いしました」と言うと、彼はほっとした顔をすると、「本当に申し訳ございませんでした。まさか……このような事態になるなんて思っていなかったのです……」と言って謝罪した。私は、そんな彼に……。


「どうしてあんなに強い結界を張っていたんですか?」と尋ねると、「それは……」と言いかけて、少し考えてから説明してくれたのだが……。結局リゼルもわからないようだった。「あの方は……」と何かを言いかけたリリムに、リルが「今は、それより早く移動した方がいいんじゃないかしら……」と話す。「えぇ……そうですね。リリムも、もういいですよね? これ以上は、時間の無駄ですよ」というリリスの問いに対してリリムはうなずくだけだった。


その後、私達はすぐにこの『聖教王国』を脱出する事に決めて……転移魔法の使い手であるリリスによって移動をする事になったのだが……私はどうしても気になっていたことを質問することにした。それは……。先ほどからリルの事を警戒している感じを出しているこの女の子の正体についてである。「リゼル……。この子達は……いったい?」と聞くと……。「……実は私もよく知らないんですよ……。彼女達と一緒に旅をしたことがあるので……ある程度はわかるつもりなのですが……。それに……私もあの子のことは……」と言うと、なぜかリリアナの方を見て悲しそうな表情を浮かべていたのである。するとリゼルは、「私とリリスとミリアナ様で『聖教会』に乗り込んだ際に、ある女性と出会ったのですが……。彼女の事を私は知っているはずなのに……。思い出せないんですよ」と話してくれたのである。「……リゼル……。リゼルなら思い出せるかもしれないから……。……後で調べてくれるかしら?」とリリムが話しかけると……。リゼルが首を振って拒否したのだ。「……私も知りたい気持ちはやまやまですが……今は時間がない。それよりも……すぐに移動しなければいけなさそうですね……。……あの……私達が転移した後……しばらくしてから、リリスのところに戻れるようしますので……どうかこの場に残っていただけないでしょうか?」と言う。リゼルはリリスのことを知っているようだった。しかし私はリリスの友達として確認したいことがあったので……。リゼルにお願いをしてみた。そして私は……。リルが言った言葉が気になってしょうがなかったのであった。


私達の目の前に現れた女性は……。『神界の女神様』とよく似ていたのである。


私がこの世界に来て最初に見た光景は……。私と同じぐらいの歳の男性だった。その男性は……。私が召喚された際にいた神官の男性に指示を出すと、その場から離れていったのである。私は、この男性と話をしないといけないと思ったが……。私はその時……自分の置かれた状況を理解していなくてどうしようもなかったのだ。だが……私の周りにいた他の人達の様子を見る限りでは……。召喚される前に私のいた教室の中にいた人達のようであった。ただ……。みんながみんな、この状況を受け入れているわけでもないようであったが……。


しばらく経つと……『勇者』を名乗る男性の姿が見えないことに、周りの人たちも気づいたようで……周りが騒がしくなってきたのであった。すると……『聖女』のミリアナと名乗った女性が、「あなたたちは『聖教会』で保護されます。『勇者』の捜索については、追って連絡があると思うので……。それまではこの場で待機していてくださいね」という。その話を聞いたクラスメイト達のほとんどは安心したような様子になったのである。そして私は……その安心しきった雰囲気の中でただ一人……『神隠し』にあったようにこの世界にやって来た私だけが……。現状を冷静に考える事が出来たのであった。私は『異世界転移』という非現実的な出来事に遭遇したことで……。どこか興奮している面があり、現実離れをしているこの世界でこれから何をすべきかを真剣に考えようとしていたのであった。


ただ……。私は、自分一人では、この世界で生きて行く事は出来そうもないなと思っていたので……。とりあえず、誰かと仲良くなって、いろいろ聞いてみるしかないと思ったのである。そして私なりに考えた行動を実行してみることにしたのだ。それは……まずは他のクラスの人と会話する事であった。私は、近くにいる女子生徒の所に行こうと思ったが……私が近づいてきたことに気づいて警戒し始めたのか、逃げ出そうとしていたのだ。私は何とか彼女を捕まえる事に成功して……。彼女と話ができるように交渉を始めたが……うまくいかない。そんな時である。突然……私の方に複数の男たちが近寄ってきて、「おい。お前達、何やってんだ? こっちへこい!」と言われた。私達は言われるままにその集団の元へ移動すると……。「お前達の名前は?」とリーダーと思われる男に声をかけられたのだ。私は、「名前を教えろって言われても……。俺……わかんないんだよな……。あっ……。俺は佐藤裕太です」「俺は渡辺和馬です!」


「あたしは相沢真奈美って言います!……あのぅ……」と三人が一斉に喋り出したせいで……。「わかった! お前達の名前覚えるからちょっと黙れ!」と男に注意をされてしまった。


その男は、「さっきからうるさいぞ!!……で?俺達になんの用なんだ?」と言ってきたのである。私は、「あのぉ……。俺……記憶喪失らしくて……その事で相談できる人がいればいいなって思って」と言いつつ……。男の様子を伺うことにした。「はぁ~……。面倒だ。こんな事に関わりたくなかったのによぉ……」と言うとその男は大きく溜息をつくと……「仕方ねぇか……。おい。ついて来い! 少し話を聞いてやるからよ!!」と言われてしまったのだ。私は、この男がどういう立場の人物なのかわからなかったけど……。素直について行く事にした。


案内されたのは小さな会議室のような場所であった。中に入ると数人の人たちがいたのである。その中には先ほど会ったリリアナの姿もあり……。「あれっ!? 君はさっき私にぶつかってきた子じゃないの! ここで会えるなんて運命だね!」と言っていた。すると、その中の一人の女性の方が私達の存在に気付いたようである。


彼女は……私達が入って来るのを見ると……こちらに向かって駆け出してきたのだ。そして、その勢いのまま私の体に抱き着いて来たのである。私は、いきなり抱きしめられ……混乱した状態で固まってしまっていたのであった。するとその様子を見ていた他の人達が慌ててその女性を引き剥がすと、「姫様!……いきなりそういうことをするのはおやめ下さい!!」と言う。それを聞いた彼女は、「ごめんね。つい……」と恥ずかしそうな顔をすると謝っていた。


「えっと……初めましてになるよね?……私はここの王城でメイド長を務めています……アンナ・リリスと申します」と言い自己紹介をしてくれたのである。


それに続いて「リリスの双子の妹のリゼ・リリスです」と言って挨拶をしてくれたのである。私はその言葉を聞いて驚いた。というのもリリスという名前には聞き覚えがあったからである。『リドルさん』の本名にリリスという文字が使われていたはずだからだ。私がそのことを考えていると……私の考えが読めたのか……。


リリスが、「リドルとは親戚みたいなものです。彼の母親が私の実の母親の妹に当たる方になります」と話す。「じゃあ……もしかしたらリリス様は……」と言う私の言葉を途中で遮ると、「その先は言わなくても大丈夫よ! 多分あなたの思っている通りだと思うからね」と優しい笑顔を見せてくれたのである。すると私の事をずっと睨んでいた少女が、「リリスさん……。あの人は……どうしてあんなに親し気にリゼルと話をしているんですか?」と質問をしていた。


私はそれを不思議に思い、リリスの顔色を見たのだが……。「そうですね。簡単に説明するのは難しいですが……リリムもいずれ分かる日が来ると思います」と言って話を流したのだ。私には何も教えてくれないので……もどかしいなと思っていると……。「……それでリリムちゃんでよかったのかな?……リリムはどうしてこの場にいるんですか?」と話しを変えてきたのである。


リリムは急に話を変えられたことに不満を感じたのか……。「どうしてリゼルさんの事を知っているはずなのに忘れているのですか?」と話しを変えて返していた。しかし……それに対しては誰も答えようとしない……。すると「リリム……あなたはリゼルに何か思う所があるのでしょうけど……。それは私達にとっても同じ気持ちだからだよ。私もリゼルにいろいろ助けてもらったことがあるし、この国の為に働いてくれた事も知っています。そして私達の大切な友人だったことも……。だからこそ……。リゼルが私達の敵になった以上は……。戦うしかありません……」と言うと私達の方を向いたのである。その言葉を聞いたリリムはまだ納得できていないようであったが……。それ以上何も言わずにうつむいていた。そんな中、「ところで……。ユウト達はどうやってここまで来たの?」というリリスの問いに対して、私達はリリアナが使った転移魔法でここまでやって来たと説明したのである。するとリリスが……。「リリアナはリゼルが召喚されてからずっと行方不明になっていたのですよ……。どこに行ってしまったのかは分かりませんが……。彼女が転移魔法の使い手ということは……やはり……。リリスもあの子の居場所は知らないんですよね?」と話し始める。


そして私は、私達と一緒に転移をしたリリアナという少女の話題から、あのリゼルと呼ばれる女性の話を聞きたいと思い、私なりに聞いてみることにしたのであった。


私はリリスの言葉を受けて、あの時のリゼルの行動を思い出していた。……私とリリスは、リゼルが消えた瞬間を目撃したはずであるが……。しかし、なぜか私はあの時の出来事をよく思い出せないでいた。まるで、その時にだけ意識を飛ばして、自分の都合のいい部分だけを映像で見せられているかのように、私に見えた光景と見えていない部分が、私にはあるように感じられたのである。そんな状況だったので……とりあえず……。リリスが説明してくれるであろうことを私は待つことにして、ただじっと話を聞いていたのであった。そしてしばらく時間が経つと……。私にもわかる話が始まっていた。まずはリリスは……なぜ自分がここに呼ばれたのかを説明しはじめたのである。


「……まずは現状の説明をします。……実は少し前の話なのですが……魔王軍の幹部を名乗る人物が私の元に訪ねてきました。……そこで魔王軍に協力するように言われてしまい……。仕方なく協力する羽目になってしまったんです……。


もちろん最初は断ったのですけど、断れなかった原因があって……。私は……その時すでに、勇者召喚の準備に取り掛かっているところだったのだけど……。その作業を中断しなければならなかった。それもこれも……。『魔族』がこの世界にやって来るせいなんです! 奴らは、『人間』の世界が滅ぶ前に、自分たちの住みやすい世界を作りたいと望んでいるようで……。そのために邪魔な『神域』という場所を破壊するためにやってきたのです……。……つまり私は『聖教会』に所属している『神教聖女』という立場にあるので……。


私が『聖教会』の意向にそぐわない行動をすればどうなるかというと……。この世界の破滅につながる可能性がとても高いということです」という話を聞くと、リリスと仲良さそうにしていたリゼルという女性の正体について考えることになったのである。あの女性に違和感を覚えた私は、「そういえば……リリス様はさっきからあの女の人の事を呼び捨てにしてるので親しい関係なんだと思ってたんですが……。あの方は……何者なんですか?」と聞いてみた。


リリスは私の疑問にすぐに答えてくれず……。少し考えるような素振りを見せた後に、「それは私が答える事ではないから言えないの。それに今は……そんな事は関係ないわよ。それよりもこれからの事を考えないといけないと思うのよ。……私は……」と言うと今度は、リリムを見て……。「……ねぇリリアナ……。今の状況って……。あなたにとっては最悪だわよね?」と問いかけたのである。


リリムは突然話しかけられて戸惑った様子だったが……。しばらくして、「……どういうことでしょうか? 最悪の状況は、私たち『四魔将』全員が敗北してしまうことだと認識していましたが……」と返答をすると……。「違うの……。そうじゃなくて、あの子が言っていたでしょう? このままだと世界は滅ぼされるって……」と言い出したのである。すると私は……リリムの方を向いてしまった。その私の反応が気に入らなかったのか……。私の方に向き直ると、「……何か?」と言って私の事を睨みつけてくるので……。その表情が怖くて私は慌てて視線を逸らすと……。


「あの子はリリアナと違って、少し特殊な力を持っていて、他人の心が読めるみたいです……。でも私はリリムの心だけは読めませんでした……」と説明するのであった。それを聞いた私はリリスに「そうなんだ……。でも、さっきの会話はリリス様も、私に心を読まれている事に気が付いていなかったですよね? 」と尋ねると、彼女は私の顔を見ながら……。「リリムが特殊なのかもしれないけど……。あの子に私の心の中が読めないのも当然ね……。あの子の場合は、リゼルにもらったスキルの力を使っている可能性が高いわ。だから私は彼女の事がわからないし、あの子の本当を知らない。それに……さっきリリアナに聞いたのよ……。『四魔将』全員が集まっている理由を教えて欲しいって……」と言って話を打ち切ると、「リリムが『特殊』だって言ったのはそういう意味もあるんだけど……。それだけじゃないのよ……」とリリスは話を続ける。私はそれを聞こうとしたが、それより先に……。リリムの方が質問を始めたのである。


「そういえば、どうしてあなた達がリゼル様が『特殊』であると思ったんですか?」とリリスに向かって尋ねたのであった。


「……簡単な話です。リリム以外の皆はすでに知っているからね……。リゼルの異常さを……」と言ってリリスは他の者達の顔を見渡したのだ。すると「えっと……。よく分からないですけど、その話をもっと詳しく聞かせてください」とリリムがリリスに言うと彼女は……仕方がないと言った感じの様子を見せながらも説明をはじめたのである。……まずはリゼルのステータスの話になったのだが……『神剣』を使わない状態であっても、『魔将軍』に引けを取らないという話をしていた。さらに『魔力吸収能力』を持っているという話もしていたが……私もリルも知らなかったのである。しかし……リリナスは知っていたようであった。


それから……私が知らない情報も出てきていた。まず最初にリリムは、この国の王族の一人がリゼルだという話を聞いたのである。そして……「私もリゼルが王族の一人であることは知りませんでした。確かに、王城で暮らしていた時に見慣れない女性が何度かこの部屋に出入りをしていたことがあったのは記憶しています」と話し始めた。しかしリリスはそんな彼女を無視して、「まぁリゼルは隠していたつもりはないのよ……。この国が魔王軍によって滅ぼされた後、この国では混乱が起こって……。生き残った一部の人達は、この国の王女として、リゼルの存在を隠して匿おうとしたみたいなんです。だから、表向きはこの国の女王と王妃の娘になっているらしいです」と言って話し終えたのである。……するとリリムは、リゼルの本当の素性を知って驚きつつも……。「……もしかして、私達は……。その方のために、ここまでやって来たということですか?」と質問を投げかける。


「リリス様はあの人を知っているのですね?」と聞くとリリスは、「リリム……あなたならあの人がどんな人物か知っているんじゃなかったのですか?」と逆に聞き返していた。そのリリスの言葉を聞いて、リリムが不思議そうな顔をすると……。「……あぁ……。ごめんなさい。そうですね……。この国のお姫様ですよ。名前は……。アイナ・フローラ……といいます。そして……。リゼルが私達の味方をするようになったのは、おそらく……この国を救うためだったはずですよ。だから私達に敵対の意思なんてありません」と説明していた。


その話を黙って聞いていた私は……。「そのアイナという人は生きているのですか?」と疑問に思った事を聞いた。その私の問いに対して、リリスは……「生きてるわ……。ただ、あの子に会うのは簡単ではありません。だから会うために……ユウトに協力してほしいのよ……」と言っていた。それに対して、私は、あのリゼルの実力を考えるとそれは不可能だと思っていたので、「……僕の力でなんとかなるものなのでしょうか?」と聞いてみる。するとリリスは、「……たぶん無理でしょうね。……でも……。あなたは違う。……あの子と会った時に……何かを感じたはずだけど、それは何か分かるかしら?」と言われて……。あの時に起きた不思議な感覚について思い当たる事があったので私はその出来事をリリスに伝えようとしたのだった。


そして、リリスがユウトと話している最中に、リゼルは私達がいる部屋へと転移してきたのである。私達は突然の来訪者に驚いたが……。しかし、彼女が転移してくる前に聞こえた音で……すでに転移する前から、ここに転移するだろうと分かっていたのでそこまで驚かなかったのである。しかし、あの時とは違って……私は、転移の瞬間を見たわけではなくて……事前に転移して来る事が分かっていたせいなのか……あまり驚きはしなかったのである。そんな事を考えていると……私の前にあの女性が現れたのだった。


リゼルが転移して私の前に現れた瞬間……。彼女はなぜか、私達を警戒しているような目で見ているように感じた。そしてすぐに……私の後ろの方に移動して、警戒しているような視線を向けている。


私はなぜこんなに敵視されているのか分からなかったが、すぐにその理由を知る事になった。私が自己紹介をしようとすると……リリスに止められて……。そして……私が名前を言うより先に、リゼルが口を開いたのである。「あなたの名前は、私も聞いています。私に名乗る必要はありません。あなたが誰であるかなど……すでに知っていますから……」と言ってきた。その言葉を聞いた私は、やはり彼女は私の心を読むことが出来るのではないかと思ってしまったのだった。


僕はリリスとの話を終えてから、先ほどまで見ていた夢の内容を思い出していた。それは……夢の中である人物が僕を呼び出してきたのだ。そしてその人物は僕の前に姿を現したのである。


そこで、僕は自分の意識をはっきりさせると……。そこには……見たこともないような美少女がいた。しかしその女の子は……。何故かルリの姿に変化したのである。そして、その変化させた張本人は僕に近づいてきて……。いきなり胸ぐらを掴んできた。そして、その女性は僕に、「私はあなたが好きなのよ……。それなのに……他の女と仲良くしないでほしい……。ねぇ? 私だけを見てほしい……。お願いよ」と言って、僕にキスをしてこようとする。だがその時……誰かが僕の事を呼んでいた気がした。そしてその直後……。急に場面が変わったのだ。


そこは……見覚えのある場所だったが……。僕は今……どこかの洞窟の中に閉じ込められていて……。手足を縛られている状態で放置されていたのである。しばらくすると一人の男が入って来た。その男に見覚えはなかった。その男は、「どうやら君の仲間が全員死んだようだよ。それで、君は今どこに居ると思う?」と話しかけてきたが……僕が何も言わずに黙っているとその男に「仲間を殺したのは俺じゃないんだぜ? あの化け物共だ……。あいつらに捕まったのが運の尽きだったんだ……。まぁ俺は、君のことを見捨てたりはしねえよ。俺と一緒にこの国から逃げようぜ……」と言われた。


その後、少し会話をしていると……外が騒がしくなって来て……。そして突然、洞窟の扉が開かれて……二人の魔族の男性達が中に入ってきたのである。するとその二人を見てから……。その魔族の一人が僕に向かって「おっと、こいつが例のガキか? 」と言うともう一人の方が、「おい、あんまりいじめんなよ。大事な商品なんだからさぁ」と言って笑い始めた。


その会話の後で……僕はその魔族達の手によって連れ出されることになったのだが……。途中で、僕の手を引っ張ってくれていた男性が足を滑らせて……転んでしまう。そして僕はその隙に逃げ出したのだ。その魔族は追いかけてきてはいなかったが……。僕はそのまま走って逃げた。


しかし、その道中に魔物に遭遇をしてしまう。その魔物は巨大なドラゴンだった。そして、そんな魔獣が僕を見つめながら……。「……貴様があのお方のお気に入りだと聞いたが……。お前にはもう利用価値は無い。だから、ここで殺させてもらう……」と言って、僕に襲い掛かって来たのである。そして……そんな魔狼の攻撃を受けて……気が付くと、目の前に……『魔王』が居て……。その『魔王』に僕は殺された。


その光景が……リリスが『勇者』である『神剣使い』リリアナと出会ってからの事を話し終わった後に起こった。そして……。『魔王』である『聖魔将』が『勇者』によって倒される所も、ユウトと『神剣』の力がぶつかり合う事も……。リリスは全て話したのであった。その話を私は静かに聞いていたのだが……『聖剣』の『力』を使って『魔将軍』と戦った話は私も知っている話だったので、その話でユウトと『勇者』が出会った事に納得がいったのである。……だけどリリスの話が終わらなかったせいで、私の知らない情報がまだたくさんあるのだと思う。その話を聞いた私達の中で、リルだけは何か思うことがあるらしく……真剣な表情で考え込んでいた。そんなリルの様子に気付いたリリスはリルに近付いて声をかける。するとリルがリリスに質問を投げかけたのである。


「リリスさん、そのリゼルさんの事を教えてください」


するとリゼルは……「えっ? どうしてリリナが私の正体を知っているんですか?」と不思議そうな顔をしていた。その質問にリリナが、「だって、私はあなたの実の姉なんですよ」と答えると……リゼルはリリナの事を見る。すると……「あぁ、そういえば……。確かに私にそっくりですね……。ということは……リリナ、本当にあの人の生まれ変わりだったんですね」と呟く。そしてリリナも……「はい。私はあの人の記憶を引き継いでいるんです」と話すと……リゼルは……「……そっか。やっぱりそうなのね……。私はてっきり、私はあの人に愛されていなかったのかと思っていましたが……。……そういうわけではなかったんですね。良かったです」と言って嬉しそうにする。


それから私達は、リゼルから詳しい事情を聞くことになったのである。リゼルは、この国の王家の血を引く人物であり、しかも王位継承権一位なのだそうだ。しかし彼女はその事を知らなかったみたいだったけど、それでも彼女は王女として過ごしていたというのだからすごいものであると思ったのだ。しかしある時から……この国にある問題が浮上してきたのだという。


その問題とは、国王に子供が産めない身体だという事が発覚したのである。それからしばらくしてから……。彼女の母親でもある王妃様が亡くなった時に……。リゼルは自分の母である彼女について調べたのだそう。その事で分かったことは、自分の母が元々病気で体が弱い人間だったらしいが……。しかしそんな彼女は自分を産んだせいで……その病気が悪化してしまい亡くなってしまったということが分かったのである。その事からリゼルは……自分に王位を継ぐ資格があるのだろうかと考え始めたのだという。……だが、彼女にはまだ子供を産むことが出来る体でいたので……。リゼルは悩んだ末に、王位継承者の資格が無いという事を伝えることにしたのだとリリスに話したのであった。


そしてリゼルはリリスに、自分が王族ではないという事実を伝えたのだが……。リリスがそれに反論をする。それはリリスが言ったとおり……リゼルは王の血筋を持つ人物であり、そして何より彼女は……その事実を知っていても今までの生活を送っていて、国民からも支持されていた存在でもあって……誰も彼女が王族でないなどと信じられなかったからである。そしてリリスは……その事について詳しく説明すると……。リゼルはそれを聞いて納得するしかなかったようだ。しかし……それでも彼女はその事を信じる事は出来なかったようである。


そんなリゼルに対してリリスが、私が知る限りでは彼女は『聖魔将 魔皇 ザリウス』を倒した時に、『光の聖女 マリアベル・ド=ラ=ドルセイユ』と、あの子であるルリと会っていたはずですよ……と教えていた。すると……その名前を聞いた途端にリゼルは驚いた顔になっていたのである。そして……リリスはリゼルが驚くのを見て微笑むと……。今度は私達の方を向き直して……『ザリオンの民の国 アルン』で起きた出来事を、詳しく私達に説明し始めたのだった。その話の内容は……『魔将軍 大鬼 オーガン』や、ルアの両親に化けた『影人 スキュラ』の事件も含めての話である。その話の最後に……。リリスはこう締め括ったのである。


「私が言いたいのは……。もしかしたら、その出来事にリゼルが関わってるんじゃないかと思うのよ。……もちろん私の推測でしかありませんから……」


僕は今、城の外へと出る道を探そうとしていて城内を彷徨っているのだが……。先ほど僕が目覚めた場所は、僕の家の近くにある『ルイン王立魔法学園』の校門付近だった。僕はなぜここに居るのか分からないまま、この場所に来たのだが……。僕が見たのはこの学校の正門ではなく裏門のようで……。そこから出た僕は……。この城の近くの草原に転移をしたのだ。そして僕はそこで目を覚ますと、近くに大きな屋敷があった。その建物の前では……僕にそっくりな人物が倒れていたのだ。その人は、僕と同じように、何者かに襲われていた様子で……。僕の方へ歩いてくると僕に話しかけてきたのである。


「……君にお願いがあります……。私の代わりに……どうか……リリアナ姫を助けてほしいのです」とその人物は……まるで僕に助けを求めているように思えた。しかし……僕がその人物に「どういう意味ですか?」と問いかけるが……その返事はなかった。すると、そこに急に誰かがやって来る。そして僕が驚いていると、その人が近づいてきて……急に僕の胸ぐらを掴み始める。そして僕は、その人の行動に疑問を感じながらも、なんとか振り解こうとするが……力が強すぎて敵わない……。


「ねぇ……。ユウ君。今の状況……分かるよね? それなのにあなたは、私の事を放置したんだよね……。そんなのひどいよ。……でも……いいわ。あなたはきっと私の事が好きなんだと思うから。だから、ユウ君は私と一つになる運命なんだと思うのよ……。ねぇ、今からユウ君がこの世で一番愛するのが……このリリナお姉ちゃんじゃなくて……この私のはずだって事を証明してあげようかな……」と言ってリリナさんが服を脱ぎだそうとする。僕はそんな状況で必死に抵抗するが……リリスが、リリアナの姿に変化をして……「ユウト様……この女性は何者でしょうか? 」と言いながら近付いてきたのである。そのリリスの言葉を聞いた僕は、リリナさんの様子がおかしい事に気が付いたのであった。


「リリスさん、この人は……おそらくですが……リリアナさんですよ」とリリスに教えると……リリアナの顔をしていたリリスはその言葉を聞き、「……えっ? 本当にそうだったのですね。……しかし、何故こんなことになっているんでしょうか? 」と言う。するとリリナがリリスの方を見て……。「私はね、リリス……。もうすぐ私は消えるはずだったの。でも、あの男が現れて……。私を殺しにかかったの……。だから私とあの男が戦う事になったんだけど……。あの男は私を操って……。そして、あの男は……あの女と一緒に私を殺すために追いかけてくる……。あの二人の目的は私の力なの……。だから……早くここから逃げて……」と言って苦しそうにし始める。僕は慌ててリリナに駆け寄るが……リリナは意識を失ってしまった。


リリナの様子を見ていたリリスはリリナを抱えて、「ここは危険なので移動をしましょう。ユウト様は……この女性を背負ってください」と言ってリリナを背負い、歩き出す。そしてしばらく歩いた所で、遠くの方に『ルクス帝国』の国旗が見える。僕は「リリスさん、このまま『帝国』に行くのはまずいのではないのですか?」と聞くと……。リリスは少し考える素振りを見せると……。「そうですね……。とりあえず、ユウト様が知っている場所で安全な所まで行きましょう」と話し、僕達はそのまま『王国』を出ていくのであった。


そして僕達は、『帝国』とは反対側の方向に向かって進み、森の中に入って行く。そしてリリスに「……そういえば……ユウトは、私達の仲間になるつもりがあるのかしら? もしそうなら……。歓迎するわよ?」と聞かれた。


僕はその質問にどう答えればいいのか分からずに黙ってしまう。そしてそれを見兼ねたのかリリナが口を開いて「リリス……。もしかして……まだ迷ってるんじゃないの? リリスの本当の目的を、私に話してくれないかしら? そうすれば、私も決断できるかもしれない」と言ったのである。


僕はこの発言を聞いて疑問を感じる。どうしてこの二人はお互いの事を信じ合えるのだろうか……と……。普通だったら、リリスがリリナを騙していて、何か理由があってリリナに嘘をついている可能性も十分に考えられるのに……。その事を考えても不思議に感じてしまったのである。そして……二人の関係を知りたいと思ってしまう。


すると……リリナが、「ユウト、どうしてあなたがそんな顔をしているのか知らないけど……。私達は親友なの。それは今もこれから先も同じで変わることはないし……絶対に変わらない」と言われてしまう。そして……続けて、「あなたには……もっと私達を頼ってほしいと思っているの。だから、ユウトはもう少し自分の意見を言うようにしても良いのでは? と思っていて……。それで……あなたは私達の仲間の誘いを受けるべきなのよ。……もちろんリゼル様やルア様と敵対することになるけれど……。その選択はあなたに任せるわ。それにね……リリナと私は同じ『聖魔将』として……。同じ『魔王 リゼル 』に仕える身だし……。その事は……あなたにも分かるでしょう。だから、リリナとリリスの力を借りてみても良いとは思っているの。だからね……遠慮なく相談してね」とリリスに言われてしまった。そしてリゼルとリリスが僕の方を見る。すると……。「あのね……。リリスと私の目的は一緒だけど……。私達はそれぞれの目的があるから……。その目的を達成する為に……。私達が協力する事はできないの……。それに……。私達は『魔将軍』の一人を倒した事で『七英雄 ルミエル・アー・シ・ドルセイユ』から……。……いいえ、全ての世界から……。その存在を知られるようになっていて……。今は……リゼたんやルアと会うわけにはいかないのよ。だから、仲間にしてほしいと言われた時は、断らせてもらっていたわ。そして今回の『魔皇 大鬼 オーガン』や『影人 スキュラ』を倒す為だけに集まってくれた時には、協力してもらえる事を約束していただけるみたいよ。そしてその時が、今回のような緊急事態が起こった時の事でもあるらしいの……。


でも……。リリアナ姫だけは特別で……。ユウトとルリは別扱いになっているらしく……。その辺りに関してはリリスとも話ができて良かったと思っているわ」と言うと、リリスが僕を見てきて微笑んでくる。そして、その後で……「それと……。私の事は呼び捨てにしてくれると嬉しいのよね。……だって私の方がお姉ちゃんなんだもの」と僕を見ながら言うとリリスは僕の事を抱きしめてくる。僕はいきなりの出来事に困惑していた。すると……「ちょっと……。いくらなんでもずるいわ! 私が……先にユウトを勧誘したんだもん!」と言ってリリムはリゼルを押し退けて抱きついて来ると僕の頬にキスをする。そして「うふふん♪ 私の名前は、リリス・ルーティシア・シルフィよ。リリスでいいわ。それから……よろしくお願いね。私のユウくん……」と言ってきた。僕は何も言わず苦笑いをしていたのだった。


そんな三人の様子を見たリリナはため息をつくと、今度はリリムに対して注意をしてくる。「あなたねぇ……私のユウト君にそんなに馴れ馴れしくして欲しくはないんだけど……」と言って、なぜかリリスに文句を言い始めたのであった。僕はその様子を呆れた顔で眺めていた。そして、僕達のやり取りが終わったところで森を抜けて、町へと辿り着くことができた。そしてその町で一泊して、また歩き出したのである。僕たちは、今……。大きな湖にやって来ていたのだ。そこは……『アルミス湖』と呼ばれており、この大陸の中でも有名な観光地として知られている場所なのだ。この景色を楽しむのに最適な場所で……。多くの人達が訪れるのだが……。僕たちが着いている頃に、雨が降り出し始めていたのだ。僕達は急いで屋根のある場所に避難するのだが……。そこで不思議な人物を見つける……。その人は傘を差していないにもかかわらず、全く濡れておらず、水の中に立っているように見えた。その様子に驚いた僕は思わず「……誰?……ですか? 」とその人物に声をかけたのであった。


すると……。その人は振り返ると……。こちらを見て、話しかけてくる。「……お前さんは、わしが怖くはないのか? 普通の人間ならまず近づこうとしないはずじゃが……。それなのに……。まぁよいか……。それで、この湖に来た目的は何なのじゃろうかな?」と言ってきた。


僕はその人の質問を聞いて、「……この湖の水を飲みに……。この水の事を知れば何か……答えが出ると思ったからです」と答えて、湖の水を手ですくって飲んでみた。僕はその味を感じて驚いていると、「そうなのか? そんなに美味しい水ではないがのう……。おぬしがそう思うならばそれでも良いだろう。しかし……。そうか……。お主も……選ばれた者の様だのぅ。……さあ、早くこの『神』に会いに来るといいぞ」と言われる。


その言葉を聞いた瞬間にリリナとリリスの二人は同時に驚くと、「えっ?『水の女神 レイファ』様に会えるのですか?」「本当なのですか?


『聖魔帝 リゼル』ではなくて?……あの方に聞いたのですよね?


『レイファー』に会うにはどうすればいいのですか? 教えてください」と言いながらリリナは『女神』に詰め寄っていく。すると……その『女神様』は慌てながら、両手を振ると、「えっと……違うんだ。『リゼル』の奴が、勝手に勘違いをしただけで……。私は別にあの子の味方ではないんだよ。ただ……私も会いたい相手がいるんだけど……そいつに会った事がないのが悔しくて……ね。それで、私の友達である『レイファルシア』に、あの子と一緒に頼もうとしたら……あの子に怒られてしまったから……。仕方なく……。私はあの子と敵対しているわけではないよ」と言っていた。僕は、目の前で起こっている出来事があまりにも理解できないでいたが、『勇者召喚』によって巻き込まれている状況だとすると……『水の女神様 イリス・アクアマリン 』という事になるのだろうか? しかし……なぜここにこの人が居て……。そしてどうしてこの場所を知っているのか分からない。僕はリリスの顔を見ると、この女性の正体について気が付いたようで、少し困った表情をしている。そしてリリスは、『レイファ』に話し掛ける。「まさかとは思いますけど……あなたは『レイファン様 』ではありませんわよね?」と聞くと、その女性は嬉しそうな顔をして、その質問に答えてくれる。「……そうだよ!……久しぶりですね。リリスさん、そしてユウトさんにリリナさん。私の事を覚えていてくれたのね」と言われてしまう。僕とリリナとリリスの三人は、リリナを先頭に並び、リリスが最後尾で歩いており、僕達四人は横並びになっていた。そして……この会話の途中で……僕は一つの考えが頭に浮かんだ。


それは……この『世界樹の巫女』は、自分の能力である、『精霊眼』を使う事で、自分の知っている人を探し出す事が出来るのではないか……。と思いついたからだ。そして試しにリリスに向かって、「ねえ……。その……あなたの後ろに隠れているのは……もしかして……。僕の知ってる人では無いのかな? 僕の知り合いの『世界樹の巫女』の人かもしれない……」とリリスの背後を指差すように言い始める。するとリリスは、「……ユウトが言う通り、私の後ろの方に隠れていて……。でも大丈夫だから出てきてくれない? 私達の敵じゃないのよ。それにあなたの大切な仲間の一人なのよ。ユウトが言っていることは本当の事だから……」と言うと……一人の女性が姿を現す。


「あっ!やっぱり、ユウくんが私の事に気づいてくれてる!……私だよ?……わかる? 覚えてくれているのかなぁ? 私……すごく不安になってるのだけど……。だって、ユウくんが私の名前を呼ぶまでは……姿を見せないで待っていてほしいと言われていたから……。」と言うので、その言葉を聞き流しながら僕は考えていた。そして、目の前の女性が『リゼル』に捕まった時に言っていた言葉を思い出そうとすると……。その名前が出てきたのである。それは『レイナ リゼリーナ ルアセリア 』という名前であった。そして僕は、その人物が誰かを理解した途端に、驚きながらも「……もしかして、ルア姉? 本当にルア姉なの!? なんで……ここに居るの? だって……ルア姉はこの国の姫様なんじゃ……?」と呟いていた。すると、そのルアは、目に涙を浮かべ始め……そのまま僕に飛びついてきたのである。僕は慌てて避けようとするが間に合わずに抱きしめられてしまう。そしてルアはそのままの勢いで倒れ込みながら僕の上に倒れ込んでくる。


僕はルアに押し倒されながら、抱き締められているので身動きを取ることが出来ないでいた。そして……僕とルアの様子を見ていたリリスやリリナ、リゼルやリゼッタは僕達が急接近したことで嫉妬をし始める。


ルアは……僕から抱きついたのではなく……。僕を押し倒すようにして倒れたのだが……。なぜか僕を離してくれなかったのだ。そんな様子をみていたリリスとリリナとリゼッタの3人も我慢できなくなったのか、「私のユウト君から離れなさい!」と僕とルアの間に割って入って来る。


僕はそんな様子を見ていたが……このままでは非常にマズいと感じ始めていた。そして……なんとかしてこの場から抜け出さないとと思い始めて、力尽くで逃げ出そうとした時だった。その瞬間だった……僕達は突然光に包まれてしまい。その場所から強制的に連れ出されてしまったのだ。その光の場所は……どこかの部屋の中であり……目の前には……リリスが僕を守るような形で立っていてくれた。その姿を見て僕は心の底からの安堵を感じていた。


しかし……その僕の行動に驚いたリリスは、僕を睨んできてしまう。僕はその事に焦ってしまう。すると、その部屋の中にはもう1人の女性がいたのだ。その人物は、僕の方を見ると笑顔で「ユウちゃん♪ 元気そうで良かった♪」と言ってくれるので、その顔を見るなり、僕は「……お母さん?」と思わず言ってしまっていたが、リリリもリゼルもリリスさえも驚いた顔でその人物を見つめていたのであった。その人は僕に近付いてくるとその人物の頬にキスをして、僕の頭を撫でると、今度はリリナの方へと向かっていくと、僕と同様に頬にキスをする。


その行為に驚いているリリナに、「ごめんね~。お待たせしちゃって。さあ……。こっちへ来て……今度は私から抱っこさせてもらう番よ」と言うと僕と同じようにリリナを抱き締めて、優しく語りかけるように話しかけ始めたのだ。僕はその二人の様子を眺めて微笑んでいるのだが……。僕に近づいて来たのは……。


リゼルの「……お前は何者なんだ? この部屋には誰も入れないように命令してあったはずなのだが?……お前のような存在は……私の記憶にはないのだが……。いったい何者なのだ?」という言葉に僕は、この世界の事をまだ詳しく理解していないのを思い出して、説明を始めたのである。「あの……僕の名前は佐藤優馬と言います。この世界に召喚されて……。あの時は、いきなり知らない場所にいて、とても怖かったんです。そして……あの『魔族』に殺されそうになっていた時に助けてもらったんですよ。その時に『女神』の『イシス アクア ルリア』という『聖魔帝 魔王 』と戦っていましたが……どうなっているのでしょうか?」と言ってみた。


すると、その『水の女神 イリス 』と呼ばれている女性は少し困惑したような顔をしていた。その女性を見たリゼルが、「この者は、私が直々に手を下すべき相手のようだ……。覚悟するがいい」と言って攻撃魔法を放つ準備をしていた。僕は慌ててリゼルの魔法の邪魔になるように立ちふさがり、攻撃を弾くために魔法陣を発動させた瞬間にリゼルは消えてしまっていた。そしてリリスが僕の横に立っていた。そして僕達二人が同時に驚くと、目の前には先程まで『女神 レイファ』だと思っていた女性の姿がいつの間にか無くなっており……。その代わりに一人の少年が現れて僕達を鋭い目つきで睨んでいたのだった。


リゼルはいつの間にか、僕達の前から姿を消しており……。僕は目の前に現れた男性を見て警戒する。僕は、この男性の事を知らなさ過ぎるが、おそらくだがリゼルの言っていた「あの方の手駒」なのではないかと思う。その根拠は……。僕に攻撃を仕掛けてくるときに「私の大切な人のために死ね」と言っていたからだ。僕に対して「手出し無用」と言っていたはずのリゼルが、リリナを危険にさらすとは思えなかったからである。僕は目の前の男性を注意深く観察していたが、この男性が僕と同じ『勇者召喚』でこちらの世界に呼ばれたのであれば、『聖魔帝 魔王 』になっている可能性が高いのではないだろうかと考えていた。


僕は目の前にいる『魔帝』がどのような人物なのかが知りたかったので、「……あなたが『魔帝 リゼル』が大切にしている『聖魔帝 魔帝 リベルタス』なんですか? 僕の『水の聖勇者 水魔将リゼル 』に、何かを頼まれているんじゃないのかなぁ……と思っていますけど……。違うのかな?」と問いかけてみた。


『レイファ』は一瞬だけ動揺したように見えた。その反応に僕は少し期待しながら、「もし違ったのなら、あなたが今感じていることを教えてください。そして……。あなたの本当の姿を僕に見せてはくれないのかな?」と言うと……。『レイファ』の身体が淡く輝き始めていく……。そして徐々にその姿が変わっていくとそこには、『女騎士姿 聖魔帝 魔将軍 リゼ』が立っていたのである。


僕は、その光景に目を疑うが、確かにリリスに聞いた話では……。『リゼ 』と『レイファス 』と『リゼル 』と『ルアセリア 』は、同じ人物であると聞いてはいたが、あまりにも見た目と中身の違いが大きいため……同一人物であると言われても……信じることが出来なかった。


そのリゼさんの姿を見たリリナが「ユウト様……騙されないでください。その者が、『聖魔将 魔王』である事だけは確実です!ユウト様が戦う必要はありませんわ。私が倒してきます。ユウト様に害を与えるものは、たとえどんな相手であろうと、許すわけにはいきませんから」と剣を構えていた。そして、僕が止める暇もなく、リリナは飛び出していき、リゼルを切り捨てるつもりだった。僕はリリナの行動が予想通りすぎて、リゼルが消えた場所を凝視してしまっていたのだ。リゼルはその姿を消すことが出来る能力を持っていたのだ……。そのため……。


そして、僕の隣で僕の腕を掴みながら話を聞いていたリリスが、突然、「ユウト!危ない!」と叫んで僕を突き飛ばすと……。リゼが突然僕に襲いかかってきており……。僕はそのリゼの一撃を受けて吹き飛ばされてしまう。そしてそのまま、壁に打ち付けられてしまい意識を失ってしまった。僕は薄れ行く視界の中に……心配そうに見つめながら僕の名を呼ぶ……ルア姉の姿が見えた。……それから、どれほどの時間が経過したのであろうか……。僕は誰かに体を揺さぶられる事で目が覚めたのであった。僕が起き上がると目の前には、リリナの背中があった。そしてその視線の先に、僕に抱きついている『ルア』と僕を見下ろしていた。リリナがいた。僕が目覚めた事に気がつくとリリナが「良かった……。無事でよかったよ……。ユウト……大丈夫?」と僕を心配してくれる。


僕はルアの方を見上げながら「ルア姉?……あれ?ルア姉?なんでここに居るの? ここは?それに……なんでリリスとルア姉がいるの?リリスはルア姉と一緒にいるから理解できるけど……。なんでリゼルやリゼは……一緒に居るの?……あっ!!……ルア姉の格好は……何なのそれ……その鎧は……。なんかのコスプレ衣装なの!?……ルア姉が着るような物じゃないでしょ?」と言った瞬間だった。僕の横からいきなり「ぷふっ……」という笑い声が聞こえてきたので、その方向に顔を向ける。すると、そのには、リリナの後ろ姿で……そのリリナの顔が真っ赤になっていたのだ。


「……な……なんて事を言うのよぉ〜……。こ・これは、リゼルに無理やり着替えさせられたのよ。こんな服じゃなかったんだもん……。」と涙目になりながら訴えてくる。僕はそんな様子を見て笑ってしまうと……なぜか僕とルア姉のやりとりに嫉妬したリリナとリリスとリゼルの三人が、一斉に攻撃を放ってきたのだ。僕は完全に不意打ちを食らいその場に倒れ込むと同時に……意識を失うことになる。


そして僕が起きた時は既に戦いは終っており、なぜか僕は『ルシア』と呼ばれる女の子に抱っこされていて……なぜか……僕は、この『リディア大陸の全ての街を統べる女王陛下』だという『姫神王』になっていたのだった。この世界は、僕達が住んでいた世界の過去で……。『ルシア』という少女が魔王を倒してくれていたのだが……。どうも僕は『ルミア』という存在で、『女神の加護』を受けていて、魔王討伐後に生まれた娘であり、その後『女神の加護』の力により、成長を止めてしまった存在だとわかった。しかも……その力は強すぎるらしく……寿命すらも無くなっていたらしい。つまり……不老不死の存在と化していた。


そして……僕は何故か……その『ルア姉 ルシア リリアナ』から『ルティア』と呼ばれていた『聖女』が『水聖獣 水魔将軍リゼル』と結婚したのと同様に……この『聖騎士 女将軍 水将 ルリナ リアリス リゼル』と結婚しており、さらには……『水魔将 聖女 リリア リゼル』と結婚をしていたのだ。……そして『魔将軍聖女 魔帝 聖美』とも結婚していたのであった。


ちなみにだが……。この『リリアちゃん りりあ君 リゼル君』達は、リリスによると、元々はこの世界の住人だったようなのだが……。なぜか僕をこの異世界に連れてきてくれた張本人でもある。この三姉妹の他にも、『ルリア』、『リゼル』という名前の女性達がこの世界では存在していたのだが、みんなは死んでしまい……。リリナ達の話を聞く限りでは……。『レイファス 』だけが生き残り魔王を倒す旅に出ていたようだ。どうやらその『聖勇者レイファスさん』が魔王を倒した際に得た力により、この世界に残っていた『リリアさん りりあさん りぜるさん』を『聖武具 』に変えて、僕に渡したようなのだ。


そして……僕が目を覚ましたのは、僕の寝室で……。僕は、僕の妻である四人に囲まれながら寝ており、その光景に僕は驚きの声をあげる事になるのである。僕に抱きしめられている状態のリリスは、まだ眠いのか目を閉じており。僕に寄り添いながら眠っているリリナが僕にしっかりとしがみつき……。僕にキスをしているリゼルと……。僕のお尻のあたりに顔をすり寄せてきているリリスの胸の感触が気持ちよく。その二人の行動のせいで……。僕の息子が大きくなってしまったのだ。それを見たリゼルは、リリナをどけて起き上がると……。


僕に向かって「ふふ……。もう朝ですよ……。ユウト……そろそろ私と楽しみませんか?私の身体は最高ですわ……。ほらぁ……。」と言ってくるので僕は慌ててしまう。そしてリリナとリリスが飛び起きると……二人同時にリゼルに対して「ダメぇー!……ゆうとのはじめては、私のものなんだもん!」「私のユウト様に、変なことを吹き込まないで!」と言い合いをはじめてしまう。その様子を見ていた僕が困っていると……僕の隣で一緒に布団を被っていたはずの『ルチアさん』が居なくなっている事に気がついた僕は……焦ってしまい、「えっ!?ルア姉?どこに行ったの?」と言うと……。僕の隣から突然「おはようございます……。私はずっとあなたのそばにいますわ。……愛していますよ。……さぁユウトはこっちに来ましょうね♪ 今すぐ私が可愛がってあげますよ。」と声がした。僕がその方向を向くと……『レイファス 』と『水聖将 水魔将 水将 ルティア リリス 』の姿がそこにあったのである。


そして……。その『ルヴィア』の姿は『女魔将 聖魔帝 聖将 ルリア』になっていて、その姿を見たリリナが「あなたが『魔帝 聖将 魔将 ルアリアス』ですね。あなたには用事はありません。さっさと消えなさい!!」と言うと……。僕にしがみついていたリゼルは僕から離れる。僕とルリさんは、突然現れたその人達から、逃げる為に……ベッドから飛び降りると、僕達は部屋から飛び出していった。しかし……その人達の速さには敵わず。簡単に僕とリリ姉を捕まえられてしまう。僕が「離してよ!僕は……行かなきゃいけない所があるんだから……。」と言うが……誰も聞く耳を持たない。僕が諦めて大人しくしようとした時だった。


「ちょっと待った!!ユウトくん。やっと見つけたわ。……ユウト君。ユウト君はこれから何をするつもりなのかな?」とその聞き覚えのある優しい声に振り向くと……。そこには、ルシアの姿があり、その隣にはルティアもいたのである。二人は、僕の目の前までやってくると……僕と手を繋いでいるリリ姉を見るなり、「あら……。これはどういう事なのでしょうか?ユウトさんの大切な人は、私がユウトさんをお世話するのですから。早く離してくださいませんこと?」と言って、リリスがルリの手を振り払おうとした。


ルリはそのルリスの事を睨みつけながら、「いい加減にしてくれないかしら……。ユウトの側にいて良いのはこの世界でただひとり。ルアだけなんですから……。あなた達こそ邪魔しないでくれませんか?」と僕を守るようにしながら、僕を背中に隠してくれたのだ

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勇者だらけの異世界生活 あずま悠紀 @berute00

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