【2】前篇

僕の体にはいくつもの大きな傷ができてしまったのだ。そしてその痛みで一瞬だけ気を失いそうになるがなんとか堪えて、また戦いに集中することが出来たのだ。


その後の戦いの中で、リリスの攻撃が僕の攻撃をすり抜ける現象が起こった。そのせいなのか……次第にリリスの魔力は枯渇していき、最後は……『大魔神 リゼル 』が使ったのであろう強力な闇の魔法で僕ごと城を破壊しようとしてくるのだった。僕は……咄嵯の判断で……リリスの手を握ってしまったのである。そして、その時から僕の体は徐々に変化していったのだった。リリスの手に僕の持つ全ての力を注ぎ込んだ瞬間……。


僕の意識は再び途絶えたのだった。……再び目を開けた僕の視界に広がっていた光景は……。


瓦礫に埋もれて……息を引き取っている……リリスの姿だった……。


僕が目を開けると、そこには見たこともない景色が広がっていた。そして僕は何故かその場所に居ることが当たり前だと感じてしまい違和感がなかったのだ。


(ここは……一体どこなんだ?それに、あのリリスの姿は何だったんだ?)


僕はその事に戸惑っていた。何故なら僕の目の前にいるはずのない人物が立っていたからである。僕はその女性を見て言葉を失う……。何故ならば……その女性がそこに立っているはずがないのだから……。僕はそんな疑問を抱えながら女性のことを見続けると、僕の方を見た女性はとても驚いた表情を見せた後で……。その女性は自分の頬に両手を当てる。その女性が自分の姿を僕に見せつけるかのように身体をクネクネ動かしているのが見えたのだが……。その姿はどう見ても……僕の愛しい人であるルリアの変わり果てた姿だったからだ……。


「ユウト!やっと会えたわね。私、嬉しいっ!!」そう言って、いきなり抱きついてくるその女性の正体を確かめるために僕は自分の手をその女性の背中にそっと置く……。


僕はこの柔らかい感じの肌触りに覚えがある。僕の手が勝手に反応してしまう……。


「ルリア……なん……なの?」僕はそんな質問しかできないぐらい動揺していて声を出すことができなかった。


「私よ。ルリ・エルシルダ。貴方の妻になった者の名前を忘れちゃ嫌だよ」と言って微笑む彼女は……僕には本当に可愛く見えてしまうのだった。僕にとっての理想の女性はやっぱり、彼女以外に居なかった……。僕が憧れている存在はいつも彼女の姿で……その彼女と瓜二つの存在が現れても……。僕は彼女に好意を持ってしまうみたいで胸が苦しくなるのだった。僕はそんな自分に困惑していた。だって……僕が愛していた人はルリアだけだと思っているのに……こんな気持ちになるのは初めてだったから。僕がそんな事を考えているとその人が突然……涙を流すので僕は驚いて心配する。


そして、僕がその人を見つめると、僕に微笑んでくれて嬉しそうな顔をしてくれて……。僕は、その顔に吸い込まれそうな感覚に陥り……。思わずその人にキスをしたのだった。


僕の初めての接吻が……その人になりました……。


それから暫くして僕はその人と話をすることになり……。僕が知っている事を伝えたのだった。……僕はその人の事が信じられなくて、僕だけが夢の中に居るのではないかと思って何度も自分の腕をつねったりもした。だけども、現実であるということは変わらなかったのである。


僕は、自分が知らないうちに『勇者 ユウマ 』の記憶を持っていることにも気が付き始めていたのだ。僕はその記憶から『魔王』を倒すために召喚されたのだということを知ったのである。だけど、どうしてそんな事になったのかまでは分からなかった……。でも僕はそんな事はもう関係が無かったのだ。


僕のことをずっと好きでいてくれるというその人の笑顔だけで僕は幸せな気分になれたのである。……僕はルリアのことを守りたいと思い始める。ルリアは僕の命に変えて守るべき大切な人だと思えるようになったのだった。


そのルリアは……実は、この世界とは別の世界の人だった。……僕はその事実を知った時は驚いた。その異世界で僕は、『勇者 』をしていて、しかもその世界で最強の存在だということがわかった時にはもっと驚いた。……僕は、『魔王』を倒した後に元の世界に戻れると思っていたのだが……。その『魔王』を倒せば元の世界に帰れると言われてしまい、僕は絶望したのだった。そして僕は、自分なりにこの世界での生き甲斐を見つけることにした。……その方法がルリアを幸せにするということであった。


僕達は一緒に暮らすことになったのだった。その家には、僕が召喚される前に僕が住んでいた家の場所と同じところに建てたのだった。そして、僕が持っていたスマホで写真を見せてもらって、同じところに住んでいることを確認したのだ。……そうすると……何故か僕の心が痛くなり涙を流しそうになった。……その痛みは……懐かしさのようでもあった。その家に、ルリアが『転移魔法』を使って移動させたのであった。


僕は……この家で、毎日のように僕とルリアとの愛の営みをする事になる……。……そうしていると僕の中にあった迷いは完全に消え去っていて……今を生きることに前向きになっていた。ルリアは、僕の子供を欲しくてしょうがないみたいで……毎日のように頑張っていたのだった。……その頑張りもあって、その子供は産まれた。僕はその子供がとても可愛いくて仕方がなく……僕にとっては息子のような存在であると認識できたのだった。


それからも僕と息子の二人での生活が続いたのだが、ある時、ルリはその子に名前を『ユイハ』と名付けた。僕が名前を付けたかったけど、何故か僕には名前が思いつかなかった。その事に申し訳ないと思ったが……どうしても付けることが出来なかったので、その子はユイハと名付けられた。


僕はその日、その女の子を抱きかかえてあやしていると、急に頭の中に色々な知識が溢れてきたのだった。その流れてくる情報を理解していくと……。それは僕の息子に対する想いの結晶が産んだ能力であると言うことが判明する……。そして、それだけではなく、他にもいくつかの力が僕の中に入ってくるのを感じたのである。それは、まるで僕の中に吸収されるようにして入っていき……僕の頭の中には沢山の知識が詰め込まれるように入り込んできたので、僕は、気絶してしまった。


目を覚ますと、僕の横で寝ていたルリが泣きそうな顔をしているので、どうしたのかを聞くと、赤ちゃんの声が聞こえなくなったと言っていたので僕は慌ててベッドの下を見ると、そこには小さな赤ちゃんが丸まっていた。……その光景を見てホッとしたのだが……。僕は、その子の事を抱っこして、僕の妻になってくれた『魔王』であるルリの所に向かう……。するとそこには……。僕に力を与えてくれた『女神様 ルリルリーゼ 』の姿があり、僕達の姿を見ていた。


そして僕は、何故か……その姿を見ても恐怖を感じなくなっていたのである。その女性は、僕の事を見た後で……何故か僕と目が合いお互い見つめ合う形になったので、その視線を逸らすことが出来なくなってしまった。その女性を僕は美しいと思うと同時にどこか不思議な感覚を覚えていて……何故かわからないが愛しいと思えてしまったのだった。


僕はその女性から目を離すことが出来ずにいた。


『神龍』が僕を見守っている……。その事に気が付いていた。……だが僕にはそれが不思議でならなかったのだ。何故なら……僕の中の魂の半分があの時に死んでいるはずなのだから……。なのにどうしてまだ生きているんだ?そんなことを考えていると……その『ルリルリ』さんが、ルリの方を見て微笑んでいたのだった。


その笑っている姿はとても魅力的で僕はドキッとしてしまって顔が赤くなる……。


『ユウマ』は僕のことを優しい目で見つめてきてくれて、「やっと会えたわね。……ユウマ……」そう言うと、彼女は優しく僕に向かって話しかけてきた。そして彼女は僕に向かって「私の本当の名前は……。『ルリ・アルシルダ 』といいます……。そして……貴方は、『勇者 』ではありません……。」と言ってきたのだ。


そしてその『女神様』の言葉を聞いた瞬間……僕は頭がクラクラとする。そのせいか僕は気を失ってしまう。


目を覚ましたら、何故か、僕の腕の中で泣いているルリがいたのだった。……ルリに何があったのかを聞いてみた。ルリの話によると、ルリのお腹の中の赤ちゃんの様子がおかしくなっていたのだった。ルリには原因がわからなかったが、ルリルリィザのその症状がどういうものであるかを知っていたので、僕のお腹の中に入った胎児の力を使って治療しようとしたのだが……。上手くいかなくて……。


そこでルリルリィザが僕の体を使って、直接治療することにしてくれていたらしい……。


そして、僕が気を失う寸前、その現象が起こる前までに僕の中に入ってきたもの……。その力は……。『女神様 ルリルリーゼ 』が与えてくれた力で間違いないという結論に達した。……そして僕は……僕の中に居るルリアが……ルリアでないことを察したのだった。


(僕が感じていた違和感はこれだったんだね……。ルリアは僕の知っているルリアじゃなかった……。それに、ルリアが感じたルリアとは違う感覚……。僕達の間に何か壁みたいなのがあると感じられていたのもこれだったのかもしれない……。……僕はそんな事を考えながらその『女神様』のことを思い浮かぶ……。


すると僕の頭に言葉が入ってくる。それは……ルリルリーゼが僕に語りかけている言葉だった。僕はその内容を理解するために頭を動かすが……。その言葉の意味がよく理解できていなかった。


そんな僕に、ルリアは「その声が聞けるのってすごいのよ!普通はできないんだけど……。私も最初聞いたときは凄い衝撃だったから!」と興奮しながら教えてくれるのだった。


僕はルリアに聞いてみることにする。


僕の中にある記憶が正しいならば……。ルリアが愛してくれた人はルリアではなくて……僕が愛していた人の名前は……。僕の記憶の中では、僕を愛してくれている人は、その名前を名乗っていたはずだから……。僕の記憶にあるのは、ルリアが名乗っていた名前の方ではないからだ。


そして僕はその女性の名前を呼んであげることにした。そうすれば、この世界が『偽物の世界 』であることがハッキリとわかってしまうのだから……。そして僕と妻が住んでいる家には『転移魔法』で行けるようになっていたが……。ルリルリーは僕の目の前にいるルリアと同じ容姿の人を連れて行けば問題は無いと判断して僕と一緒に来てもらえるようにする為に、この家に戻って来てくれたようだ。……僕はそうやって、自分の中に流れてくる情報を整理しつつ、僕の中に居るはずの……ルリアのことを探し始めた。


しかし僕の心の中に居るルリアには僕が呼びかけている事がわかるようで、反応が無い。


僕はそのことがとても寂しく感じられてしまって、ルリアを想うだけで涙が流れそうになってしまうのであった。


そうして暫くして僕の中に居たもう一人の人物が目覚めたようであった。……僕の中に居るルリアは、『女神』から『魔王』に変化していて……。その事にも僕は驚きを感じていたのであった。……ルリアが『女神』になる前に持っていた能力は『魔法創造』という能力であり……。『魔法付与』や、『魔法解除』の他にも色々とあった。……その中でも『空間拡張』という能力で僕と『女神様』の家を拡張してくれていたみたいで……僕達の家がかなり大きくなっていた。……『女神様』の能力のおかげで僕達の住む環境は劇的に変化したので……ルリアが眠っている間にその事に付いて詳しく聞くことにしたのだった。そして僕はその話を詳しく聞こうと思い質問をしようとしたが……。


僕は何故かその事に気が付かなかった。……僕は今何をしようとしていたんだろう。どうして僕はその女性に聞きたいことを思い出せないでいたのだろう。僕はその事に困惑してしまうが……。それでも何故かルリアのことを考えていた。……僕が考えているのは、僕をずっと守ってくれている存在の事だ。僕の命よりも大切な存在である存在。……僕はその存在が大好きだったんだ。


僕はそんな気持ちになった時にその女性が僕を見つめてくる。


その女性の顔を見たときに何故か懐かしい気分になっていた。だけど僕の知り合いにはこのような女性はおらず……。僕は一体誰なのだろうかと考えてしまうのであった。…………それから暫く時間が経った後、ルリアと『女神様』が話し合っている内容が理解できるようになり、僕は『魔王 ルリエル』が『ルリ』という名前を持っていることを教えて貰った。そしてルリアは僕の心を読んだ後に僕に対して話しかけてきたのである。


ルリアは、僕の心を読もうとしているみたいだったが……何故か僕には出来なかったみたいで……ルリアは「どうして?なんで?読めない……。もしかすると……あの人の加護の影響で……?」などとブツブツと言い出した。


僕は、そんな様子を見て、僕の心にルリが入り込んだ事が原因でルリの精神が安定しないのではないかと思い至り、ルリに謝った。そして僕は『ルリ』と呼ぶ事にするのだが、僕の呼び捨てにした呼び方が気に入らないみたいで……「ユウ君……。今更そんな他人行儀に呼ばないでください!!私はあなたの婚約者ですよ!?ちゃんと呼び捨てにしてくれないと、嫌です!!」と怒られてしまったのである。……でも……やっぱり……僕は『ユウマ』のままで呼ぶ事にしようと思い直した。そして僕はルリに改めて挨拶をした。僕が意識を失う前の事は覚えているが……。ルリがどうしてあそこに来たのかを聞くと……。どうやら『女神様』であるルリルリは、僕に会いに来たわけではなく、ルリに会うためだったらしくて……。それで僕達が寝ていた寝室に向かったところ、そのルリは僕の中に入っていたらしい。僕は、何故そんなことになっているのかを聞きたくなってそのことについて尋ねようとしたら、急にお腹に衝撃を感じたのだ。僕は突然のことで混乱してしまい……「ぐふぅ……。……く、苦しい……。は、吐きそう……」と言うと僕の口からルリの小さい身体が出てくるのだった。


その姿を見て僕達は驚いていたのだが……。僕は何故かその光景を見て安心していた。そして僕に抱き着いているルリが「大丈夫ですか?」と言ってきて僕はルリに抱きしめられていると、「ルリ……良かった……」と自然とその言葉を漏らす。僕はその言葉に自分自身で違和感を覚えていたが……。その言葉が自然と出てきたのだった。


ルリルリーザ様もユウ君のことを気に入ったようで、「私の事を姉さんと呼んでも良いんですよ?……ルリルちゃんって言うと良いかなぁ~?んー?なんて言って欲しいのかわからないけど、ルリルって言う名前があるんだからルリルの方が良くないかねぇ。……うん、決定!!」などと言っていた。


僕はその会話を聞いていて……(……え?まさか……。)と思ってしまうのだった。……僕には、自分の中の奥の方にある感情と今の僕の中にある『ユウマ・佐藤 優馬』の記憶の両方で、僕自身が戸惑っていた。


「あのさ……。ルリ……。俺とお前って……会ったことがあるか……?」


「えっ!?何言っているんですかユウマは……。私が忘れるとでも思ったのですか?」


ルリは少し怒った顔を見せてきて僕にそんなことを言う。


そしてルリが続けて僕に言った言葉は……。


「あの時約束しましたよね?私を置いて行かないって。だからこれからは二人で一緒の時間を過ごしていきましょうね!」……あの時とは……。いつのことだ……。僕は、そんなことを思ってしまっていたのだ。するとそんな僕の疑問に答えるかのように、ルリの瞳から一筋の涙が流れたのだった。


ルリの泣き顔を見るたびに、僕は胸が痛くなるような感覚に襲われていて、僕はその度に心が締め付けられてしまっていたのだった。……ルリが泣いている理由を知りたい。ルリが泣いた理由は何なのか……。それが気になってしょうがないのだが……。僕は何も聞くことができないでいる。そしてルリは僕の手を掴んで僕の胸にその涙を落として……「お願い……。思い出して……。私はあなたを……。……助けて欲しいの……。」と、ルリルが何か言っていたが……ルリの言葉は最後まで聞くことができなくて、そのまま僕とルリが居る場所に異変が起こるのだった。


そして次の瞬間には……。僕の目の前に居る女性は……『ルリア』になっていた。……僕はルリアに話しかけてみる事にする。


しかし……。その言葉は僕の耳には入ってこなかったのである。ルリアは、何かの作業に集中していて、僕の声は届いていないようだった。僕は、そんな状態のルリアに何度も声を掛け続けるが……。それでも、反応はなかった。僕はその事がとても寂しくなってしまい涙が出そうになってしまうが、何とか堪える事にする。そんな状況になっている僕に……一人の人物が声をかけてくる。その人は……とても見知った人だった。……その人は『ルリア』がとても大切にしている人。『ユーミア


・ アルサーゼル』……僕は『女神様』に聞いてみることにした。……ルリアをこんな状態にしたのは……。ルリアの中に入っているルリの仕業なのかどうかを確認する為に。僕は『女神様』の力を使えるようになったみたいで、この世界での出来事を全て知ることが出来た。そして僕は、『女神様』の力を借りながら、『ルリ』について知ることができた。


そう……ルリは自分の力を使うと僕の心の中に強制的に入り込む事が出来るらしい……。その事については、僕は知らなかったので本当に驚きだった。その事実を知った上で……。僕はもう一度、僕が知っている人と同じ容姿を持った女性に話かけてみたのである。そしてその女性が『ユーミア


・ アルサーゼル』だという事も分かったのであった。……だが……僕は……この『ユーミア


・ アルサーゼル』という人物を全く知らないのであった。僕の心の中に『女神 ルリア』が存在しているように、僕の心の中には……ルリアの分身ともいえる『ユウマ』という人が居る。その人は……僕達と同じ世界から召喚されてきた人だ……。僕は、僕の中で眠っている『ユウマ』からその情報を聞いていたから……。その事に気が付いていた。その人のことを……。だけど……今、僕の前に居るのは、『勇者 ユーミア 』であって、『ルリア


・ アルサーゼル』ではないはずなのに……。何故?どうして僕にはこの人物が同一人物にしか見えないのか分からなくなっていたのだ。…………


「うー……。……ここは何処なんだ?」……俺は何故か意識を失いかけていた……。確か俺の名前は、『田中祐太』『21歳男性』職業は学生で趣味は漫画を読むこととゲームをすることだったと思う。ただ最近、俺の周りでは異世界転生が流行っていて、その影響で自分も異世界に行きたいと思い始めていたんだが……。……そんなことを考えている最中にいきなり背中に痛みが走り意識を失ってしまったのだが……。何故か俺に衝撃を受けた記憶が無いんだよなぁ。……まぁそんな事はどうでもいいや。そんな事を思っていた時に、誰かが俺に話しかけてくる。


「……大丈夫ですか?『佐藤 優馬』君……。いえ……。今は『ユウマ 』と名乗っていましたよね……。あなたはもう既に一度死んでいるのですよ。覚えていませんか?」


俺は『ユウマ』と言う名前をその人から聞いたときに頭を抱えてしまう。その名前が何故なのか……分からないからだ。……だけど何故だ……。何故……この名前を聞いたときに、凄く心が騒めいたのだ? そして、その人はそんな状態になっている僕に向かって説明してくれたのである。


まず……。僕はあの時、僕の心が壊れて暴走してしまう可能性があった事を教えてくれて、そうなる前に僕を殺すためにルリさんが来たこと。それから……僕の魂とルリさんの魂が融合し、僕達の中にあった精神が安定してしまったので……。お互いにお互いの精神に影響を与えて……今の状態に至っている事を教えてくれたのである。そしてその人物は僕と『女神様』の話を聞き終わるまで待ってくれて、それから……。


「これからどうしますか?」と言ってきたので……。「僕は……どうしたらいいでしょうか?」と答えてみると、僕の手を握ってくれて「……私の事を好きですか?私は『佐藤 優馬』の事が大好きです……。私はあなたの婚約者ですよ?それに私ももうすぐで……。……でも、あなたが望むなら……」と言うと、その女性は突然僕の唇を奪いに来てくれたのである。……僕はそんな女性の行動に動揺していたが……僕自身に拒否する理由が見つからなかったのでその行為を受け入れたのだった。


僕はその後、僕とルリさんが居なくなったあとの事をその人に教えてもらうことになったのであった。……その話は僕が思っていた以上に過酷な現実だった。……その話の発端はこの聖国リザリスと呼ばれる国が邪教国家と呼ばれている『聖リザルト帝国』と呼ばれていて、そこに居る人達の信仰する『神』こそが本当の神の子だという『真神教会』が作り上げてしまった国のようだった。


そしてそのリザリスの国がなぜこのような宗教が栄える事になったかというと、リザリスには昔々、一人の女の子が生まれてその子は普通の人とは見た目も何もかもが違う姿だったそうだ。その子供を見た親は「気味が悪い。捨ててきなさい!」と言われてしまい捨てられたのだが、その時に生まれた子は普通では考えられないほど強い力と特別な力を持っていてその子供が歩いた道に生えていた草花が枯れていく現象が起こっていたという。それを見た両親は……自分達の娘が他の人間とは違うと知り恐れて……娘を捨てて逃げる事に決めた。


そしてリザリスが産まれたのは……この辺りの地域で一番高い山の麓でその場所にはリザリス以外の人は立ち入らなかった場所らしく……リザリスを産み落とした母親だけがその場に残りリザリスタを連れて行こうとしたら、母親は山から落ちて死んでしまうのだった。そしてそのリザリスターはそのままリザリースと名付けられ……そのままリザリース王国は誕生する事となる。リザードマン達が暮らしている地域だったのが災いしたのかリザードマンはリザイリースには住んでいなかった為か、そのリザードマンの部族に迫害を受ける事は無かったが……。


そしてその生まれた子供の力を見て周りの人間は恐怖を抱くようになってしまい、誰も近づかなくなってしまったらしい。だがリザードマンが暮らしていない土地だったので食料の問題は起こっていなかったのである。だがそんなある日、リザードマンが住む地域の近くの山の奥にリザリーレスが暮らすようになったのを知った一人の魔導士がこの子を利用しようと企む。それは自分の力を試したいと考えたから……。そしてその魔族は自分の欲望を満たすために、リザリーレストの力を利用したいと、考えたようで……。その者は、リザードマン族を殲滅しようと行動を起こすのだった。


そしてリザーズを実験台にして……その力はどこまで通用するのか調べる事にする。そして……その試みが成功すれば……今まで虐げられてきたリザードマン達の不満が解消されリザリーレスが生きている間ずっと平和が続くと、考えたのだろう。リザリーレスは自分を犠牲にしてまでも……。リザードマンの住む集落を守る事に決めて、一人でも多くのリザードマンが生き延びてくれる事を祈って戦い続けた。その結果、圧倒的な力で敵を殺し続けて……全ての敵の息の根を止める。だが……。最後の一人を殺したところでリザリーレスの力は尽きて、死んでいく。だが……その死ぬ瞬間まで、リザリーレスは最後までリザードマンの為に戦う事をやめなかった……。そして……。死んだ後は……。そのまま土へと返って行った。そして……リザードマン族の者達は……自分達の女王だったリザリーレスの事を思って……女王を祀っていた祠を新しく作ることにする。だが……。そこには、もう二度と悲劇が起きないように、女王に呪いをかけた者がいるという伝説を残して、その伝説の人物に、その呪われた力を打ち消す力を持っているかもしれない。その者を王とする為に……新たな王が立ったという言い伝えを作ったのだ。そして……その後、何百年も後にその伝説が語り継がれる事によってリザードマンは、強大な存在として崇められるようになったという。……そんな事が書かれていて……。僕はその本を読んでいて涙を流すことしかできなかったのだった。そしてそんな話をしてくれた人こそ……。『ルリ』さんだったのである。


僕は、目の前にいるルリアという少女を改めて見ることにした。彼女はルリアさんではなく、僕に何かを訴えてきているように思えたからだ。だから彼女の表情を見ているのだが、それでもまだ分からないのだ。


僕には……ルリアさんの思いがまだ伝わってきていないのだ。そんな風に悩んでいる僕の手をそっとルリアの手が伸びて来て掴まれる。その手に込められた力はとても強く、僕のことを必死に引き留めているように感じられてならなかった。


そういえば……さっき僕の中にいるユウマが何かを伝えて来たような気がするが……あれはなんだったんだろう……。僕の心にユウマの声が届いてきたのだ。その内容は『女神 ルリア 』がユウマの心の中から抜け出してきて、ユウマに『勇者の聖剣』を託したと……。僕はそれを聞いていたはずなのだが……今のユウマに意識が向いてしまっている状況だ。ユウマが『勇者の聖剣』を手にしたことで『聖勇人』に変化し始めていたのだった。


そんなことを考えているうちに……僕の視界の片隅から光が発せられ始めたのだ。その光の出所は……『ユウマ』が持っている勇者が持つと言われる『聖勇人』の力である。そして光り輝くその勇者はゆっくりと起き上がる。


※ 俺……『佐藤優馬』は自分の中にいるルリさんの力を少しだけ使えることが出来るようになっていたのである。その事を知った俺はルリさんの意識を探し始めようとしたのだけれど……。何故か俺は意識を失ってしまいそうになる。その事に俺は困惑しながらも意識を失いかけたのだ。……このままだと本当に気を失いそうなので俺は慌てて『俺の意識』を取り戻すことに全神経を集中させる。


すると俺の体に力がみなぎってきた気がした。そしてそれと同時にルリアが『勇者の聖剣』を手に入れた事で変化し始めた俺の体に起きた事を説明してくれた。俺は『女神様』に聞いた内容を思い出しながら……。




・ 俺達の前に居たのは『ルリ


・ アルサーゼル』という人で、この人が俺の心を救ってくれたことだけは分かった。俺も『女神様』の話をルリから聞いた時に……何があったか理解したからである。


『佐藤 優馬』はルリさんを守るために命を落とした。……その事実だけで、俺は自分が何故、今ここでこうして生きて居るか分からないのであった。だけど俺は『女神様』が与えてくれた奇跡の力で命を取りとめ、再びこの世界に戻れたのだと思った。……そして『勇者 佐藤優馬』も同じように……ルリを守りたい一心で『勇者 佐藤優馬』としての魂の核が砕け散るのを防ぎ、生き返り。今ここに『ルリさん 』を救うために再び立ち上がる事を決意するのであった。……だけど俺はそんな『ルリさん 』が何故『ルリア 』と名乗るのか疑問を感じて、彼女に問いかけてみる。すると『ルリ』さんから衝撃的な言葉が放たれたのである。


『あなたには本当の記憶が無いのです……。』……そう言ったのである。『本当の記憶』とは何なのかと聞こうとしても『女神様』は答えてはくれなかったのである。そして、『女神様』の話では、本来なら俺の心の傷は深いはずだが、俺の中にはもう1人の人格が存在している為……今はその影響もあって『佐藤優馬』の魂も癒されて安定していて『勇者』の力と『女神様』の力を同時に使うことができるのは、その為であると教えられて、それを聞いて納得してしまったのである。


それから、これからどうするべきか?と聞かれて俺は、すぐにでも助けに向かいたいと伝える。だが、ルリアは「私にも考えがある」と言うのであった。


そしてルリアは「私に良い考えがあります。……ついて来てください!」と言い、部屋を出る準備を始めたのであった。その動きの一つ一つがとても可愛らしくて、守ってあげたくなる様な女性に見えた。


俺はルリアに連れられて移動していた時、ルリアの表情が真剣そのものになり緊張感に包まれていたのだ。それは、これから危険な事が行われると察するに十分だったのである。


俺は、その事に警戒しながら移動していくのだが、目的地に着く前に俺はその光景を見て、愕然としてしまったのである。それは……城の内部がまるで地獄のような有様に変わっていたからだった。そう……そこはまさに……血の海でしかなかったのである。


そして……そこで倒れていた兵士は皆死んでいて……その亡骸を喰らっている『魔物 バケモノ 化け物』が数体存在している。その怪物達の容姿を見たが、明らかに人間ではなかった。……その体は人間より二回りも大きく……。そして筋肉の盛り上がりがはっきりとわかる程鍛え上げられていて……。さらに肌の色は緑に近い緑色で……目は黄色く、牙が長く尖っていたのだった。


(この人達が、人間じゃない!?それにあのバケモノみたいなのが、この兵士達を倒したって事か……。一体……。どういう事なんだ……。)


俺が戸惑ってその様子を見つめている間……既に『魔物 バケモノ 化け物 の一匹がこちらに迫って来て襲いかかって来た。


だがルリアは一瞬の内に『聖弓 サングイン


・スナイパーモード』を召喚し矢を放ち……迫り来る『魔物 バケモノ 化け物 の心臓を一撃で打ち抜いてしまったのである。その行動の早さに驚きながらも……ルリの強さを目の当たりして安心した瞬間……その隙を狙ってもう一匹のバケモノが襲いかかって来た。……その時だった!


「やれやれ……仕方がないなぁ……。君達!下がっていろよ!」という声が聞こえてくる。……その声の主を見ると……。それはなんと、あの冒険者 ユウキ だったのだ。そのユウガは大盾を巧み使い……敵の攻撃を全て受けきると、強烈な攻撃を放つ。その威力が強すぎて相手は吹き飛ばされたのだった。



『ルリア 』と僕は……ユウトが目覚めた事によって……ようやく動けるようになることが出来た。そして僕はユウナと共にユウトは『魔導銃士 』の姿になっていたのである。


僕は、魔装剣 を右手に持ちながらユウナに向かって言う。


「さて……ユウナ……そろそろ僕達の役目を果たしに行くぞ?」と。するとユウナは少し驚いた様子を見せつつも僕が言った意味を理解してくれたようで、「ああ……。そうだな!!行くぞ!!」と言って走り出す。


だが僕にはユウカからのメッセージが届いた事で足を止めて、ある人物の元へと向かい、声を掛ける事にしたのだ。……その人物はユウヤという人で、ルリさんの弟らしい。……だが、この人は『勇者の聖剣』に選ばれた『勇者』の資質を持っている人物だという事が分かった。だから……僕が勇者として目覚める事も出来るのではないかと考えて接触する事にしてみたのである。


そしてユウトの方へ視線を移すと、すでに戦闘が始まっていて、ルリアも戦っていたのである。その状況を見て……僕は慌ててルリア達の元に急いだ。……その途中で、僕はルリアに近づいていくが……なぜかルリアは僕を警戒しているような表情をしていたのだ。その事に違和感を覚えつつも、まずはルリアの安全確保の為に『魔導銃 』を構えてルリアの前に立つと……。突然、僕の背後に『魔族』が現れる。その敵に対して、ユウカが『爆裂魔法』を繰り出すと、『魔王軍』と思われるその者達は……その場から消え去ったのだ。そして僕はユウトの戦いを見守っていると、ユウキさんと『勇者の聖剣』が放つ輝きに呼応するかのように……『勇者 ユウマ』が目を覚ました。……ユウマは意識を失う直前にあった出来事を説明し始めるが……。ルリアはその話をユウマがしている途中……僕の手を引いて移動を始める。その動きは、かなり早く、僕は付いて行けずにルリアに置いていかれそうになってしまう。


だが、ユウナとユウトはユウマの話を聞きたいようだったが……今はそんな事を言っていられる状況ではなかったので、僕達と一緒にユウマの案に乗ることにした。そして……その場所へと到着した。


その部屋は『王の間』と呼ばれている場所で、玉座には国王であるアルサーゼルが居たが……アルサーゼルは既に絶命していて……。しかもその隣にアルサーゼルの娘……王女が血だらけになって倒れていたのである。その娘……『アイリ 』さんはまだ生きていたのである。その状況を確認したルリアが慌てて治療を開始し始めたのである。……そんな事が行われている間に……。突如『王の間に現れた人影』がルリアを襲いかかる。その人影の攻撃が、ルリアを襲うと思えたのだが……。何故かルリアの頭上を通り過ぎて行き……代わりに『聖剣 』の刀身が伸びて、人影の首を斬り落としてしまう。すると人影はそのまま姿を消して居なくなってしまった。その光景を見守りつつ……僕は先ほど起きた事を思い出そうとしたのだが、何も思い浮かばないのであった。ただ……一つだけ覚えていることと言えば……。この場にいる『仲間』達が、何かの『スキル』を使用した事だけしか覚えていなかったのである。


俺は今、『魔導銃 』と一体化している状態の俺の体の『中』に存在していた。その俺の意識の中はまるで、宇宙のように広くて果てが見えない世界だと感じた。その広大な世界に存在している俺達は……『神域の宝箱』の中にある武器と装備品を身に付けて戦い続けている。俺は『女神様』の指示を受けて……俺自身の体を操り戦うことになった。だが、俺は『佐藤優馬』という存在でありながら『女神様』の力で強化された事で、『勇者 』の記憶と経験を引き継ぐことが出来ていて……。俺自身でも驚く程の力を手に入れていたのである。


『勇者 』の魂を宿した『勇者 』と融合する事で俺は勇者になることが出来るようになっていたのだ。だが……その力を試そうと、目の前に現れた敵に攻撃を仕掛ける前に俺は一度止まる事にしたのである。なぜなら……そこにはアルサゼル国王様の一人娘の『王女様』と……ルリアさんのお姉さんの『ルリア 』さんが居たのだ。


そして、俺は『闇 魔導師 』の姿に変化して、その二人に攻撃を仕掛けようとするが……。その時だった……。


『その必要は有りませんよ……。……私の言う事を信じて……『私の言葉』だけを考えて動いてください……。そうすれば大丈夫です……。……それにしても……。まさかここまで上手くいくとは私も予想外だったのですが……。ふっ……。』


『女神様の声』が直接俺の脳裏に響き渡ったのだ。その声を聞くと同時に俺は、自分が今まで何をしていたのかをようやく思い出せたのである。……それからすぐに、自分の記憶にある『過去の出来事の一部分』を思い出すことが出来たのだった。その事を確認すると……俺の心の中で……懐かしさと悲しみが込み上げてきたのである。その感情の高ぶりを抑えきれなくなった俺の目からは涙が流れていたのであった。


俺が落ち着くのを待とうとしてくれていたのか分からないけど、その間にルリアともう一人の女の子……ユウキさんが駆けつけてくれたのであった。俺はユウキさんに向かって話す事にした。その話の内容は『ルリア の本当の兄さんが助けに来た事』とルリアとの関係性を話した事だった。それからしばらくしてルリアさんが俺の体に入ってきた時に「私はルリアだよ!」と言った事でユウトが驚いていた。だがその後、事情を聞いた事で納得してくれたのである。それからしばらく経ってからユウキさんから話し掛けられた。その内容は「この世界の平和を取り戻すために、君達の協力が必要だ。協力してもらえるだろうか?」というものだったのだ。


それを聞いて俺は……。ルリアやユウカ……ユウトが一緒に行くと決めたのであれば……自分も着いて行こうと思った。だから俺は、みんなに「この世界で起きている現象は異常過ぎる……。……これは誰かの企みなんだと思う……。だからこそ、この異変の原因を突き止めて解決しないと、大変な事になるんじゃないかな?だから、僕もその調査に参加する事にした。いいよね?」と聞いたのである。すると、俺が言った事に賛成するようにルリアとユウトは言うので、俺もこの調査に同行することにしたのだった。


俺が『勇者ユウマ 』になった事を話すと……なぜかユウキが「やっぱり……。君はユウマさんの弟なのですね。……その事は知っていましたが……こうして本人に会うまで、確信を持つことは出来なかったのです。……実は僕とユウナは幼い頃……ユウマさんが行方不明になってから、この王国に住んでいたんです……。そして僕達の親代わりをユウカさんとルリさん……それからユーミさんが引き受けてくれていました。そのおかげで僕達は、不自由なく生活出来ていたので感謝しています。その三人には返しきれない恩があるんです。その恩を返す為にも、必ずや僕達の手で……ユウマさんとユウキさんを探し出しましょう!」と言ってくれて嬉しかったのだ。


そしてルリアが、その言葉を遮るように発言する。


ルリアの言いたいことは分かった気がしたので俺は、それ以上は何も言わなかった。その言葉の後、僕たちは一旦外に出る事にしたのだった。……ユウヤは俺達のやり取りを眺めていたが……その表情がどこか寂しそうな顔をしているように見えた。だけど、その事に気付いた時には、もう既に彼の表情が変わっていて……。その瞬間に『何か違和感を感じる表情』へと変わる……。


ユウキさんからの提案を受けとった後に僕たちが王城を出た時……『謎の人物』に襲われてピンチになっていたユウヤを助ける事が出来たのである。そしてユウマと名乗る『勇者 ユウマ』が現れたのであった。その勇者 ユウマと融合した事で、『女神様』の恩恵を受けて僕たちの身体能力は大幅に向上することになったのである。


だが、ユウキとユウマ……二人は兄弟でありながら『別人』として生きる運命にあったという事も理解する。だからといって僕は、彼らの人生を否定したくないと思っている。たとえどんな結末を迎えようとも……。その二人が選んだ道を否定することなんて……僕はできないと思っているのだ。……ユウトも同じ気持ちなのかは知らないけれど……それでも僕は『その選択をした人の意思』は尊重すべきだと思ってしまうのだ。それは僕自身にもあったからかもしれないけれど……。


ユウトには申し訳ないが、今は僕自身がどうしたいのかよりも……ユウトがこれからどういう行動を取るのかを確かめたいと思っているのだ。ユウトの事を信頼しているが故に……。そしてユウトが、どのように行動するのかを、僕は知りたいと思っていたのである。


だが、僕自身も『魔人 』と融合してしまい、その『能力』を使いこなさないといけないのに、今の状況に戸惑っていた。『女神様』の『力』を受け継いだからといっても……いきなり実践に通用する程の力を手に入れることが出来たわけではなかったからだ。……僕は焦っていたのかもしれない。


今の自分には足りない部分が多いことを分かっていながら……それを『どうにかしよう!』という思いだけが先行していたような感じがしたのである。そんな事を思っていたら……。ユウマの方からも話しかけられて驚いたのであった。


(……なるほどね……。そういう理由があったのなら仕方がないよ……。僕が君の『力』になってあげるよ!ユウマが『僕』の事を助けてくれるって言ってくれているから……尚更僕がユウマの助けになれるようにならないとだね!!)


僕の頭の中にユウマの声が聞こえてくる。……そう、彼は心の中でも喋る事ができるらしいのだ。その事を思い出しながら……。「うん!よろしく頼む!」と答えて……。その後はルリアさんと一緒に、ルリアさんのお家に行くことになったのである。そこで少し休憩してから、ユウナちゃんのお店に『聖武具 』を取りにいくことにした。そのお店の店長でもある『ルリナ』さんにも、ユウマを紹介しないと行けないので一緒についてきてもらう事にしたのであった。その途中も……ずっと考え込んでいたのである……。……………… 僕達がユウトの家に着き……その扉を開ける。その途端……。ユウカさんの「ユウトぉ〜!!」という大声が部屋中に響き渡ると、彼女はそのままユウトの元へと駆け寄ったのであった。


そんな様子を目の当たりにしてルリとルリママさんは笑っているが……。……この光景を見てユウヤだけは「なんだか複雑」といった顔を浮かべていた……。ユウヤの様子からして……『何か隠し事をしているのではないか?』とも思えてしまう。僕はそんなユウヤを見ながらそんな事を考えていたのであった。すると突然……。部屋の中の空間に大きな歪みが発生し始めて、そこから巨大な黒い影が現れる。


その影はだんだんと大きくなり、最終的には人間のような姿をかたどった存在へと変貌していったのである。その姿を見て……。僕たちは身構えたが……。その人物が僕たちに襲い掛かってくる事はなかったのだ。なぜなら、目の前に現れた人物が、「やめろ……。お前はここで……何をするつもりなのだ?『黒騎士』よ……?」と言うと……。僕たちと戦おうとしていた影の動きがピタリと止まり……。影は次第に形を崩すと消えていく。


その様子を確認した人物は、こちらを睨みつけてきていたが……。その視線を外した後にユウヤの方を向くと……口を開く。


その口調や仕草はどこか、ユウヤに似ている気がしたのだ。……もしかしたらこの人がユウヤのお兄さんなのかもしれない。


そして、その男性はユウトのお兄さんだとユウキは告げたのであった。


僕たち『勇者 』の三人に『魔王の魂 』が融合してしまった『闇 魔導師 』と戦っていた『魔導銃 』と一体化して『勇者 』の身体を使っているユウトは……。『闇 魔導師 』が仕掛けた罠に嵌まってしまったのである。


その罠によって……僕の身体は完全に支配されてしまった。……だけどその時……。僕が意識を失いかけていた中で……。『女神様』の言葉が頭に響き渡ったのだ。


『私の言葉を信じてください。大丈夫です……。あなたの仲間を信じてあげなさい。きっと大丈夫ですから。……あなたは『勇者 』です。私の言葉を信じて……。さぁ行きますよ!!』


その言葉を聞いた後……僕はなんとか自我を取り戻す事に成功した。その事を確認すると同時に……。ユウヤの事を『信じてあげよう』と強く思い……必死でユウヤに自分の気持ちを伝えたのだ。するとユウヤはすぐに動き出してくれて……『聖具』を手に取り『魔人 』に立ち向かっていく。


その隙をついて僕は、僕の身体を乗っ取ろうしている『闇 魔導師 』の『闇の呪い』を振り払おうとするが、うまくいかずにいた。……だがそこに現れたユウキのおかげで、『闇の呪い 』を一時的に解除する事が出来たのだ。そのユウキに事情を説明する。


「実は……。俺もユウキと同じ状況に陥ってしまった事があるんだ……。……あの時は本当に大変だったんだよ……。でもユウキのおかげで助かったんだ。ありがとうな。だから俺は、俺なりの方法で、みんなを……ユウトを助けるために頑張るぜ!」とユウキに伝えると……彼は「……わかりました。……僕には僕にしかできない事を考えましょう。僕は僕の信じる『正義』のために行動します。僕に任せてください。」と言い残し……姿を消したのである。それからユウトの方を見ると……。『光の壁』を使って、僕を守ろうとしてくれるユウキの姿が目に映った。


それを見た瞬間に……「俺が守られているだけで良いわけがない!」と思い直し……。ユウマがくれた『能力』を使いこなせるようになる為に集中する。その最中……。僕の中から、謎の人物が現れてきたのであった。その人物は「君は『勇者 ユウマ』だろう?」と僕に向かって話しかけてくる。それに対して僕は「ああ……。その通りだ……。あんたの名前は何て言うんですか?」と答えたのである。するとその人は、僕の言葉を聞いてニヤリと笑うと言ったのだ。


『俺の名は……。『アスタロス・ヴァングリード』だよ……。君の兄さんから『この世界で起きている異変』についての情報をもらってね……。こうしてやってきたという訳だ。』


「なるほどね……。……もしかして……僕に力を貸すつもりでここに来たのかい?」


『ふふ……。察するのも早くて結構だが……。俺は、俺の好きにやらせてもらうだけだ。ただ……。君の中にいる『もう一人の僕』が気に食わないからね。ちょっと『邪魔させてもらうよ』』「ちょ!!?待ってよ!どうしてそうなるのよ!!」


「おい!……勝手に話を終わらせんな!……ユウマには手を出さない約束だぞ!!」


僕とルリアさんの二人がそう叫ぶと、僕は『光の結界壁』を発動させる為に……呪文を唱えようとしたのである。だが……次の瞬間には、謎の人物と融合した僕の中に存在していたユウマは……姿を消してしまった。それと同時に……僕の中のユウマが消えたことで……。謎の人物と一体化していたユウトも元の状態に戻ってきたのだ。そしてユウマは、謎の人物の方へと歩み寄り……。謎の人物と向かい合った。


『久しぶりだね……。元気そうでよかった……。』「ユウマこそ……『勇者 』になってくれて嬉しいわ。まさかあなたまで『聖樹の都 アース』に来ることになるとは思わなかったけれど……。」


二人は笑顔を見せながらも……お互いに見つめ合っている。そしてしばらくすると……二人は話を始めたのだ。……その内容は僕が気になる部分が多かったのである。まずユウナちゃんの話によると……僕がユウナちゃんの家を訪ねた時……僕はユウナちゃんに会っているのだという……。そしてユウナは僕たちが来たことに驚いていたが……「ユウトが来てくれた!」という喜びからなのか……彼女は泣いていたらしいのだ。……確かにユウナちゃんが泣くなんて事は、今まで見たことが無かったので僕は違和感を覚えたのは事実だったが……。そんな事を言われても、当時の僕は……自分が誰かなんて分からなかったので……。僕は何も答えることができなかったのだが……。そんな様子に気づいたのか……ユウナちゃんは僕に声をかけてきてくれたのである。


「ごめんなさい。いきなりこんなことを言って……。そうだよね。……だってユウトくんが記憶をなくしている事くらい分かっていたはずなのに……。」


『……いいや。構わないさ。ユウトの事を助けに来てくれただけでも嬉しかったんだ。それだけで僕は十分救われたよ。ユウナがいてくれないと今の僕はいないかもしれない。』


「うぅ……。そんなことないよぉ……。ユウトく〜〜〜〜〜〜ん!!会いたかったよぉー!!!ずっとユウカとユウヤの傍にいたのに……ユウマに会いたくて仕方がなかったよぉ〜〜!!でももう二度と離れたくない!お願い!!これからはずっと一緒にいようね!」とユウナちゃんはそう叫びながらユウマに抱きついた。それを見ていたルリが羨ましそうな顔をしていたが……今はとりあえずユウマ達の方に意識を向けることにする。そして僕は二人を見守りながら……二人の話が終わり次第……ユウナちゃんのところに行くことを決めたのであった。するとユウヤがルリナちゃんを庇いながらも、「この化け物が!!お前の目的はなんなんだ!!」とユウカに向かって言い放つと……彼女はこう言ったのである。


「……私の目的?そんなのは決まっているじゃない。私は私の息子を取り返したいだけなの。ユウトは私の息子。あの子は『スキル』のせいでおかしくなってしまったけど……それでも私にとっては大切な息子。あの子を取り戻すためならなんだってしてみせる!!」と……。その言葉を聞いて僕は思ったのだ。……彼女は『狂っている 』と……。彼女はユウトの母親なのだ。だけどユウヤから聞いていたユウトの情報だと……彼女の年齢は既に50歳を超えているはずである。それが外見が15歳の少女と変わらないというのは……。おかしいと思ったのだ。だから僕は……。ユウヤと『勇者 』に『光 魔導 師』の身体を借りた状態で……。ユウリさんの所に行こうと提案する。それにはみんな同意してくれたのだ。……そして僕たちはユウリさんの元へと向かったのだった。


僕がみんなを連れてユウリさんの元へたどり着くと同時に……。僕たちの目の前には、大きな『闇の呪い』が出現してユウキを襲う。そして僕の方にも、大量の黒い手が襲いかかってくる。僕はユウヤの方を向くとユウヤは『闇』を振り払うが『闇の呪い』の攻撃に少し苦戦をしているようだ。その事に気づきつつも……『勇者の聖剣 』に魔力を込めた。そして『闇』を振り払い……。僕がユウキを守る為に、『聖具』を構えていたのだ。僕が構えたのを確認した後に、みんなも『闇』に向けて攻撃を繰り出していく。だが……。その攻撃は全く効いていなかった。その様子を見ていてユウトも焦っていた。だが……そこにユウヤが現れたのであった。ユウヤが持っている『闇属性武器 』とユウトが作り出した刀がぶつかり合い……激しい戦闘を繰り広げていく……。そして……お互い一歩も譲らず……拮抗しているように見えたその時だった。突然、ユウトは膝を地面につけてしまう。それと同時に……『闇』と戦おうとしていたみんなも次々と倒れ始めていったのだ。その様子を確認すると、すぐに僕は立ち上がりユウマの方へ駆け出す。だがその前に『魔王の魂 』と一体化した謎の人物が、立ちはだかったのであった。謎の人物は、不気味な笑みを浮かべると僕に攻撃を仕掛けてきたのだ。その瞬間……ユウマに「……待ってくれ!」と言われた気がしたが……。僕にはユウマの事を気にしている余裕などはなかったのである。


謎の人物の動きはかなり速かった。僕は『ステータス強化』を使って対抗するが、全く敵わずにいたのだ。……どうしようかと考えていたが、そこでルリアさんが「ユウト様!!『光の矢』を使いましょう!!!このままじゃ負けちゃいますよ!!!」と言う。その言葉で我に返った僕はすぐに魔法を使うことにした。だが『闇』に操られていると思われるみんなが、邪魔をして思うように『光 の 矢』を放てずにいると……ユウナちゃんがユウヤと謎の人物の間に飛び込んでいったのだ。


ユウナはユウヤに回復魔法の呪文を唱えながら……必死で抵抗する。……僕はユウナちゃんが心配だったのだが……今は、謎の人物が僕を狙ってきているのが分かっている為……僕もその事だけに集中できるのだった。僕はユウマのおかげで手に入れた能力を発動させて……『魔王の加護』『能力付与 』の二つの能力を試していく事にする。……だが『勇者の剣 』を持っているはずのユウトの方を見ても……『能力解放 』を使ったユウトが見当たらない……。どういうことかと不思議に思っていた時に僕は思い出したのだ。『魔王の眼力』によって見えるようになったユウトの姿は、いつもと変わっていた事を……。それを見た僕は慌てて周りを確認してみると……僕のすぐ近くにユウマの姿を見つける。彼は僕と同じようにユウナ達を助けようとしていたのである。その瞬間……ユウトの能力が使える僕と、ユウマの力を同時に使えるように『光』の力が混ざり始めたのだ。そして僕は『光と闇』という二つの力を合わせた技を放つ。すると……『魔王 対勇者 決戦』の時より……強力な光の衝撃波を生み出すことができたのである。


それを受けた謎の人物の方は……。少し苦しそうな表情をしながらこちらを見ていたが……何かを思い立ったかのように「……やっぱり邪魔をするのね。でも……あなたの思い通りにはならないわ。私が必ず……息子を助けるんだから!!」と言って僕に近づいてくる。そして次の瞬間……僕に向かって手をかざしてきたのだ。


(まずい!この感じは!『呪われし大地』で戦った『邪神王 』と同じ気配だ!!まさか……。)


僕は『呪い』に対する耐性は持っていないので……すぐに逃げようとすると……『光の結界壁』に阻まれてしまい……逃げる事が出来なくなってしまったのである。そして謎の人物はニヤリと笑うと僕の体を掴み「あなたに恨みはないけど……死んでちょうだい!」と言い……僕に『闇の呪い』をかけて来た。僕はそれをまともに喰らってしまい意識を失いかけるが……『勇者の聖剣 』からユウヤの声で僕の事を呼ばれたのである。僕はハッとして自分の状態を確かめてみたが……不思議なことに特に変わったことは起こっていない……。僕がどうしてなのか考えていると……僕の中で声が聞こえてくる。


『おい!お前!今の状態は……危険すぎる!!俺の力を渡しておくから……なんとか耐えてくれ!』そう言われてからしばらくして……。『聖具・龍玉の雫の剣』が僕の前に現れたのだ。そしてそこから出てきた光が僕の中に流れ込んできて……。


『聖具・竜王の牙 の鎧』


『聖具・天馬の翼』


が僕の中に装備されたのである。


僕はユウマが残してくれたであろう力に驚きつつも……僕は謎の人物から距離をとる。すると僕の周りに無数の『闇の刃』が現れ、僕を襲う。僕は聖剣を握りしめながら……『聖盾・星盾』を展開すると『聖武具 シリーズ』の力で『闇の呪い』を完全に防ぐことに成功したのだ。僕は安心していたのだが……。


「あら?……まさかそんな事ができるとは……。」


「くっ……はぁ……はあ……ふぅ……。今のは一体なんなんだ?」と息を整えながらも……。ユウトに問いかけるが……ユウトは「悪いけど……それは言えない。」と答えたのだ。


「ユウト……。お前……大丈夫なのか?なんともないのか!?」


「うん。平気だよ。ユウヤが僕に『勇者の力を』託してくれていたみたいで……。」


「ユウト!!お前……記憶を……戻っているのか?」


「うーん……。なんだろうね。記憶喪失になってからは……自分が誰かなんて分からないんだよね……。」


「そっか……。なら良かった。本当に良かった……。……でも記憶が無いんじゃ……。あの人は倒せない……。ならせめて……。みんながあの人を止めてくれた隙に……ユウトを救わないと……。でもあの『呪い』が邪魔をしている……。どうにかしないと……。……よし!!あの呪いだけは絶対に許さない!!」


「……ありがとうユウヤ。……そうだよね……。僕たち二人でユウナちゃん達を守ろう!!」


「おう!!」


それから僕はユウナ達の元に行き……。ユウヤの方に意識を向けると……そこには『闇属性』の黒い炎と黒い風が渦巻いていた。そしてその中に入るとユウキの姿が目に入る。……ユウトはその事に気づいたのだろうか?僕はユウヤに『念話 』を使って確認しようとするが……何故かユウヤと連絡がつかなかったのである。ユウヤの事が気になったが、僕もユウヤに言われた通りに……。『闇』からユウトと謎の人物を守るために……。ユウマにもらった『聖武具』の力を全力で使う。すると僕の手からは白い『聖なる光』が出現し……。ユウヤが生み出した闇の渦に光を放ち続けた。すると徐々にユウヤが作り出した『闇』が消えて行き……。最後には完全にユウヤの『闇 』が無くなったのだった。


「さすがは……勇者の『称号』を持つ男……。厄介だったけど……。もう私の方が上だわ……。私の力に耐えられなければ……死んでいたかもしれないのに……。運が良い子だったのね……。だけど、私は息子を助けるまでは……止まらない……。私を止める事が出来るなら……やってみなさい!」


謎の人物は僕に攻撃を仕掛けてくると……。今度は先ほどとは違って僕の攻撃が通じたのであった。僕には『聖闘術 』があるのでダメージを与えやすいのだ。それに聖剣も持っていた為に相手の呪いを打ち消す効果があったようだ。だが……僕の攻撃はすぐに防がれてしまう。その様子を確認すると僕は再びユウヤの事を確認した。ユウヤも僕のことを見て微笑んでくれていたのだったが……。僕はあることに気づく……。


ユウトの『闇の呪い』が弱まっているのに……。ユウキの姿が全く見当たらないのであった。


【『勇者の加護』】


(『聖具 』と『光 の 加護 』が合わさったことにより……僕の中には二つの力が存在しているのを感じる……。)


謎の人物に僕は攻撃を仕掛けて行ったのだが……。彼女は、僕の動きを見切って攻撃を簡単に避けてしまっていた。そして僕は彼女の動きをじっくりと見ていく。すると不思議なことに……僕は、彼女の戦い方が手に取るように分かるようになってきたのだ。そこで、ユウナに回復して貰っていたみんなの様子をチラッと見ると……。みんなが『闇の呪い』の影響から立ち直って来ていたので、みんなに声をかけて僕の元に集まってもらう。そして謎の人物が僕の事を警戒しながら見つめていると、みんなが合流してきたのだった。そこで僕はユウナに「……ユウトの事を頼むよ。僕は、ユウマを助けに行ってくる。」と告げてからユウマのところに向かうことにしたのだ。すると「待ってくれ!」と言われて呼び止められる。振り向くとユウマは、「……あいつの相手をするなら俺に行かせて欲しい。俺は、勇者の力を引き継いでいるし……何より、あいつと話がしたい。……俺を息子と呼んでくれたんだ。だから話をしてみたいんだよ!」と言われた。僕は一瞬、悩んだのであるが……。


「分かったよ。任せるよ。でも……無理しないでくれよ!」と言うと……。「もちろん、そのつもりだよ。それと……」と言ってから、謎の人物を見つめると……ユウナ達を庇いながら謎の人物と向かい合うのだった。


「おい!お前ら、こっちに来ても良いが……。巻き込まれても知らないぞ!俺とあいつの戦いは……。尋常じゃない力をぶつけ合っているからな!それに、あいつに近づかない方が良い……。……あれが……本当の『闇 の 勇者』なんだ……。」


そう言ってユウマは剣を構えると謎の女性に向かって歩いて行く。それを見た謎の人物は、ユウマが自分に向かって近づいて来るのを見てからユウマに向かって話しかけてきた。「ふふ……。またあなたに会うことになるなんてね……。ユウマ君……。……どうしたの?そんな怖い顔をして……。あなたが『魔王 』になる前に……あなたは、私を殺すために、ここにやって来たのでしょう?なのに、なぜ躊躇しているの?早くやり合いましょう。私はいつでも良いわよ!」そう言うと謎の人物はユウマの方を見て笑みを浮かべる。しかし……その顔を見て僕は驚いた。その笑顔はどこか悲しげで……。それでいてとても美しいと思ったからだ。だが、僕は今そんなことを考えている場合ではないと思い直してユウマに「おい!何をやっている!!今はユウヤの事も心配だし……。この女の事は後回しだろ!」と言ったのだ。僕はすぐにユウマの元へ行こうとすると……「ユウヤは大丈夫だよ……。あの人がなんとかしてくれてるはず……。それに……。僕はどうしてもこの人と話がしたかった……。僕のお父さんの……お母様と……。……ユウヤが……教えてくれたから。……あなたは……僕のお母さんだって事を。」


ユウマがそう言い切ると……女性の方は動揺しながら話し出す。


「そ、そうなんですか?私はてっきり……ユウマ君のお父様に嫌われていたから……。」


そう女性が言った後にユウトが言葉を挟む。


「それは違います。あなたのお母さまはユウキさんを愛していました。そして……あなたの事を心配していました。あなたは自分の事をあまり話すような人ではなかったようですが……。」


僕は二人の会話を聞いてからユウトに向かって質問をする。


「……どういう事?二人は知り合いなのか?」


「ううん。会ったことはないんだけど……。僕が小さい頃にユウキは言っていた事がある。僕に妹が居て……その子の名前が『ユウミ』っていう名前だってことをね。」


それを聞いた瞬間に僕の頭に『ユウキ 』『ユウノ 』『ユウタ』の顔が浮かんできた。僕はそれをユウトに伝えると、僕達は驚きながらも、二人に話しかけようとした。だが……ユウナは、僕達が近づいた事で……少し不安になったのか、ユウマにしがみついて離れなくなってしまったのである。ユウトはそんな彼女を安心させるために「僕は大丈夫だよ。必ず戻ってくる。約束する。だから安心してくれ。」と言ってからユウマと向き合ったのだ。僕はそんな様子を確認しながらユーミン達に「ユウナを連れてみんなのところにいてくれ……。」とお願いしてからユウト達の方を見ると、すでに戦いが始まっていたのだった。


「どうして……。なんで……。なんでユウト君が……ユウマの味方をしてるの?私が分からないとでも思っているの?」


「ごめんなさい。僕には記憶がないから分かりません……。けど……今の僕の記憶の中にはユウマのお母さんである『ユウミ』という名前の女性が僕の心の中に残っているんです。……ユウキさんの想いと一緒に……。そして……ユウマの中に……ユウトが宿った時……。僕の心の中で『もう一人の僕』が目覚めたんですよ……。きっと……。」


それからしばらくの間、沈黙が続く。そして謎の女性はユウナを抱き締めながら「ユウミ……。……いえ、ユウト君ね。あの人は私の事をユウキに聞いていると思うけど……。あの人に私の話なんて聞かないほうがいいわ。……あの人はユウキが亡くなってからは私を恨んでいたから……。それに、あの人は、あの時からずっと苦しんでいる……。……あなたは私と話をしているみたいだけれど……。あの子達の前で戦えば……ユウキが止めようとするかもしれない……。そうなればユウキの邪魔をしてしまうことになる。それだけは絶対に嫌なの……。私は……あなたと戦いたくない。」そう言われると、ユウトは……黙ってしまったのである。ユウトはその様子を見てからユウキと謎人の女性を見つめてから……ゆっくりと歩き出し始めた。ユウトはユウマの隣に立つと、剣を抜いてユウナの母親である人物に向けてこう告げた。


「……あなたと戦う気はないよ。僕も……あなたと話をしたくてここまで来たんだから……。僕は、勇者の力と経験を引き継いだから、『闇の力』に対抗することができる。ユウキから受け継いだ『光』の力で、あなたの中にある闇を浄化することもできるはずだ。だけど……。それでも戦う気が無いのであれば……。……もうすぐ『闇の神』との戦いが始まる。その戦いの後に『勇者』としての記憶を取り戻した僕は、『闇』を消す為にも、あなたと戦って倒さないといけない……。だけど……今のままだと僕には出来ないんだ。僕は『闇の呪い』をかけられている……。僕の中に封じられた力を呼び覚ましてくれるのなら……。僕の力を解放することが出来るというのなら……協力してほしい……。」


それを聞くと、謎の人物は「本当にユウト君は……私の事を覚えていないのね……。」と言うと、「分かったわ。ユウト君。私の名前は……。」と自己紹介を始めたのだが、それを遮るようにユウマの声が聞こえてきた。「待ってくれ!俺の母さんの名前を言ってみろ!!」とユウマが叫んだ。その声の大きさにびっくりしていたのだが、ユウナは、「あー、あぁ~!!ママ!!ママ!!!ママァー!!!会いたかったのぉ~。ユウちゃん!ユウマ!ユウマなの?ユウくんも一緒にいたの!?ねぇ!パパは?パパもいるの?」と叫びながらユウナがユウナのお母様に抱きついたのだ。


それを見た僕たちは……「えっ?」「……どういうこと?」「これは……一体どういう事ですかね……。」「ユウヤが……ユウマの父親って……。それに、僕の中に……もう一つの人格があるなんて……。……どういう事なんだ……。」などと呟いていた。すると……謎の女性に抱きしめられたままユウナが「あっ!」と小さな声を上げてから……涙を流すと……ユウマと目を合わせて微笑んで「あなたがユウマ君だったのね。……私ね。あなたが生まれる前に、お腹の中のあなたの魂と会っていたの。……だからあなたの事を知っているの。あなたが、ユウトの力を引き継いでいるなら、私は、あなたの母親でもあるわよ。」と言ったのだ。それを聞いた僕たちは、唖然としていたが……とりあえず落ち着く事にしたのだった。ユウマのお母さんと会うまではユウマに『勇者の力』の事は伏せておくつもりだったが……今更、隠し通す事は難しいと悟ったのである。そこで僕は、「みんなには説明を後回しにして申し訳ないが……。ユウマの話だけでも聞いてあげてほしい……。ユウリにも協力してもらってもいいだろうか?」と言うと、ユウヤは「もちろん!僕のお父さんが関わっていることだもん!それにしても……。まさか、ユウトの中にあった力が、ユウマのお母さんのものだったなんて……。信じられない……。でも確かにそう考えないと、辻妻が合わないし……。そう考えるしかないのかな……。」と困惑しながら話すと、謎の人物が僕たちの方に近づいてきて話しかけて来たのだ。


「ごめんなさいね。驚かせて……。それと……。……ありがとう。あの子の側に居てくれて……。私じゃあの子を救えなかった……。……あの子が生きていると知ってから、ずっと探してたのよ……。やっと見つけ出したと思ったら、この世界に来てるっていうじゃない?……しかも勇者だなんて……ね。それもユウキの子供だなんて言われても……私にはどうしようもなかった……。でも、ユウト君に頼まれて、私もあなた達と一緒にこの世界で生きていこうと思ったのよ。ユウキの息子のあなたなら信頼できると思ったから……。私はね。ユウト君のお母様と、あなたのお父様とは幼馴染みで仲が良かったんだけど、私は小さい頃に病気で命を落としているの。そのせいで……。……ユウト君とユウキは……本当の兄弟のように育ったの……。私が死んだ時は……。まだユウマ君が生まれたばかりで……。その時に『ユウミ』の事を『ユウキ』に伝えてしまった事が全ての発端なの……。そのあと……私達はユウキと連絡が取れなくなったの……。ユウキが亡くなった後、ユウミは『光の巫女』に選ばれていたから、その役目を全うする為に奔走して忙しかったらしいの……。そして、ユウノが生まれてからしばらくした後……。あの子は……。自分の体に何かが起き始めている事を察知するの……。……それは……ユウナが生まれてくる前に起こった事で……私は、それがどんなものなのか知らなかったの……。そしてあの日……。……あの人はユウミにだけ全てを告白した。あの人はあの子を愛していて……あの子に嫌われるのを恐れていたの……。でも……ユウト君とユウキの命を救うためには、どうしても言わなければいけなかった……。でもあの人は……。ユウノと……ユウミを巻き込むような事はしないと思っていた。私もユウキもね……。」


それから僕たちは黙りこんで話を聞いていたのである。


「そして……。ユウナが生まれてきてしばらくしてから……。突然……『魔王が現れた!』と世界中に伝わると……世界中の人達はパニックに陥ってしまう……。私達は、ユウノを連れて逃げるように避難を開始したわ……。でも……。ユウキとユウミは最後まで残った……。二人だけは知っていたから……。ユウトとユウキを救える唯一の方法は……あの子達の体を交換することだって……。そうすれば、あの二人は助かる。……でもね……。結局……私は間に合わなかったの……。二人が亡くなったと聞いたのはユウミからだったわ……。そして……。二人は最後に約束してくれたわ。自分達が死んだ後は、私達の事をお願いしますって。私はユウト君が生きていた事も嬉しかったの……。だってあの子達を守れなかった私達が、せめて二人の子供のことは守り抜こうと誓っていたから……。だから……。ユウマ君。あなたは、私の分までユウキ達の分も長生きするのよ……。約束できる?ユウマ君。」と言われてからユウマが返事をする。


「分かった。……僕には何が起こっているのか分からなくて……。どうして良いのか分からないけど……。それでも僕にできることを全力でやってみるよ。だからさ。僕の中に閉じ込められている、ユウトの意識が表に出られる方法を教えて欲しいんだ……。」と言うユウトの問いに対して「それは……。ユウト君にしか出来ないわ……。ユウト君には特別な能力が備わっているの。……きっと……『闇』が封印されていた『闇の王剣』の『闇剣』に関係しているのかもしれないわ……。あなたの中にある、『闇の剣』を開放する方法を教えるわ。だけど……それを使うかどうかはあなた達の意思次第なの……。まずはユウト君が持っているという、『光聖神杖』を貸してほしいの。それで私が知っている方法では、あなたが眠っている状態で、ユウト君の意識を宿した『闇の剣』の核に『光の玉』を当てることで『闇の呪い』が解けていくはずだわ。……ただし……その方法がうまくいったとしても、その後どうなるかは……保証できないの。だから、無理強いはできないけど……やってくれる?」と聞かれたので、ユウトはすぐに了承した。


「うん。僕に出来る事があるなら協力したいです!僕はもう、一人にはなりたくないんです……。」


ユウトは悲しそうな顔をしながら言う。それを聞いた僕は、「分かった。……ユウマ!協力してほしい!」と伝えると、「いいよ!俺も母さんを助ける手伝いが出来るならやりたいから!!」と言いながら、ユウナのお母様に光の聖杖を手渡したのである。その光の聖杖を渡された瞬間……ユウナは驚いた様子だったが……すぐにその光を見つめて「これは……。まさか『闇聖』なの?この力……。私に託されたという事ね……。私にも分かるわ。」と呟いた。それを見た僕は、「これがユウトが言ってた『闇』ってやつかい?」と聞くと、ユウナは「えぇ。間違いないわ……。これこそが『呪い』よ。『呪い』が『闇』を呼び起こしてしまった。そして……その『呪い』を消す事が出来るのも『闇』だけなのよ。だけど、今のユウマでは使えないはずよ。あなたの中にある、『闇の神』の力はあまりにも強大すぎるの。それを使えるようにするには時間がかかるわ。だけど……。今は時間がないのよ。ユウヤ君とユーミイちゃんには、悪いけど少しの間、私の中にいてもらう事になるの。ごめんなさい……。」と言ったのである。僕は、「ユウヤは、僕たちと一緒にいた方が安全な気がするが……。」と言うと、ユウナはそれを否定した。


「ユウヤ君は……まだ幼いわ……。それならばユウト君の中にいる方が危険は少ないはずよ。もし、本当に危険があるとするなら……『魔王軍四天王の一人』『魔獣使い ジャグウス』に狙われる可能性が高いから……。あの人はとても厄介な相手よ……。それに対抗する手段を持つとしたら、同じ力を扱えるようになるしかない……。でも、その力はユウナちゃんのものだから……私にもユウナちゃんの力が必要なの……。だから……。ごめんなさい。……それに……。」と言葉を詰まらせたのでユウマがそれを引き継ぐ。


「ユウリに協力してもらって、僕の中のもう一つの人格に干渉できれば……。そこから『光属性の波動魔法』を使って『光の呪い』を打ち破れば、ユウトの中から出て行けると思うんだよ。だから、それまでは我慢して欲しい……。ユウリには辛い事を頼むことになるかもしれないが、なんとか頑張ってほしい。」と言われたのである。


(……ユウヤには僕の中で過ごしてもらっても問題ないだろう。しかし、この先の戦いは厳しくなってくるだろう。『勇者』といえど子供には厳しい現実になるかも知れないな……。僕は『勇者』としてユウヤが成長するのを支えようと思っているし、その為なら何でもするつもりだ!それに……僕たちが戦えない状態になっているのなら、その分の穴埋めをしていかないと……だろ?)と僕が思ったところで……ユウマも同じような事を思っているらしく、僕の考えを理解した上で、僕の意見に同調してくれたのである。そして僕はユウマ達に「とりあえず……。僕はこれから、その『勇者の力』を解放してくる。その後は僕にも分からないけど、なるべく早く戻って来るつもりだ!じゃあ……ちょっと行ってくるね!」と言うと「……あっ!僕にも……一つ考えがあるんだ。ユウナさんの言う通り、まずはユウトの中に入る事にするよ……。」と言うと、ユウマは自分の中にいるユウナに問いかけたのである。するとユウナが「そう……。じゃあその間は任せるわね。あなたなら安心して、全てを任せる事ができるわ。」と微笑むのであった。


ユウマ君が『光の勇者』となってから数日経過しているが……まだ『勇者の力』を完全に制御出来ているとは言い難い状況だった。『闇魔王』の力が封印されていると思われる『闇玉』を見つけるのも難しいと思っていたのだが……あっさりと見つかった。なぜならば……ユウトの目の前で浮遊していたからである。そして、それは今から10日前に遡る……



「母さん。僕たちは、しばらく離ればなれになって戦うことになるかも……。ユウマがね。そう言ったんだ。僕としては、一緒にいて欲しかったんだけどね……。でも、ユウマにだってユウミ姉さんとの思い出の場所とかあるみたいだし……。そこは仕方ないかなって思ってね。それで……。僕はユウトの中で眠ることになったから……。しばらくお別れだよ。……ごめんね。母さん。また会おうね。母さんの作るご飯美味しかったよ。僕が大きくなった時には、もっと色々な物を食べさせてよね!それから……ユウキ兄ちゃんが残してくれた剣と鎧は大切に使うからね。ありがとう。父さん。」と言い残すと、ユウマ君の姿が見えなくなるのである。


ユウトは驚いていた。


自分の中に入っていたものが消えた感覚があったからだ。


「ゆっ……ユウト!大丈夫!?」と声をかけてきたのはユウキだった。


「うっ……うん。何とか平気かな……。でも、どうしてこんなにいきなり、僕の中に戻ってきたの?」と不思議に思っていたことを素直に口に出す。するとユウキは、悲しそうな顔をしながらも……こう答えるのだった。


「……僕達はもう……長くは持たない。そんな気がする……。それこそ……『呪い』に打ち勝つためには……それしか道はないってことなのかも……。だから……僕とユーミイがここに残り、君が一人で戦いに行くべきだと思ったんだ……。本当は僕達も最後まで残るべきなんだと思うけど……。今の僕は力のほとんどを使い果たしてしまったし、このままだと君の成長を阻害するだけだ。だからさ……。君は僕達の分まで……強くなってくれ……。君がどんなに強くなろうと……君だけは守れるように……頑張るからさ。ユーノ……頼んだよ……。」


ユーキが真剣な顔で言うと、それを見たユウミもユウトの頭を優しく撫でながら言う。


「うん。わかった。……私はあなたがユウキや私を守ってくれた時のように、あなたの事も守るよ。だから……安心していて良いからね。」と笑顔を見せながら言っていた。……こうして僕は、母さんとお爺様と一緒に王都まで旅をする事になったのだ。僕が眠っている間にも話は進んでいったらしい。まず最初に、僕はユウトが『闇魔王』の魂と繋がっているのを知ったので、僕は急いで闇王剣の元に向かうと……ユウトに「ユウマの体に入ってくれないか?そうしないと『呪い』は消えないんだよ。『呪い』は『闇玉』が関係しているんだって。だから……お願いできる?」と頼みこむのである。その話を聞いていたユウトはすぐに了承した。


「分かりました。僕はユウヤの体に憑依すればいいんですか?」


「いや、憑依する必要は無いよ。僕の中に戻ってきて!僕の意識の中に話しかけてくれればいいよ。」と言うと、ユウトは驚いた表情をしていたが、すぐに理解したようで「分かった!……じゃあ……行ってくるよ。……僕の体のこと……頼んでいいかな……。」と言って、僕の中に入っていくのだった。そして、その後、闇聖の『光の聖杖』を手に入れたのである。


ユウトの中に僕とユウキが入ったことで、ユウミに異変が起きる。僕たちの意識が完全に消える寸前の所で、ユーミンの声だけが響いていた。「……ユウナ。聞こえるかしら……。あなたにしか出来ないことがあるわ……。あなたなら必ず成功してくれるはずよ……。私には……もう時間が無いわ……。だから……後は……よろしくね……。ユウリ……後は……頼んだわよ……。」と言い終わると……ユーミが倒れ込む音が聞こえたのだ。それを見た僕は慌ててユウミの元に駆け寄ったのであった。そしてユウキも僕の横にやって来て心配そうな声で聞くのである。「……一体どうなっているの?何か起きている事は間違いなさそうだが……。ユウナの様子がおかしくなったのも……そのせいなのかな……。ユウミはユウナに何を託したというのか……教えてくれるかい?」


僕は、「……わからない。だけど、ユーミちゃんの口ぶりから考えると……多分『勇者の力』を解放する為に必要な事を伝えたんじゃないかと思うよ……。」と僕が話すと、ユウナは「私も詳しくは分からないわ……。でも、きっと……。それが、あなた達を強くするのに必要だと判断したんじゃないの?私が知る限りの事を今から伝えるわ。私にわかる事だけでいいならね……。まずは『闇魔王』の力を使えるのも『光』の力を持っている者だけ……。」と言うとユウキは「……僕とユーミの持っているこの力だね……。『闇』の力と対をなすのが『光』のはずなんだ。つまり……。」


僕はその話を聞きながら、ある考えが浮かぶのである。


そして「もしかして……。ユウミは……『光』を操れるようになったから……。ユウナに託す事が出来たというのなら……もしかして僕にも可能かもしれない!」と思い立ったのである。それを聞いたユウトはその考えに驚きを隠せなかった。なぜなら…… 僕たちの中で一番、能力が高くなかったのはユウトであり、次に僕とユウナだと思っていたからだ。しかし、その考えはユウナによって否定されてしまう。


「残念だけど……。ユウトにその資格があるとは思えないわ……。あなたにはまだ早いのよ……。それに……。あなたの場合は『呪い』のせいで『スキル』自体が使えない状況だからね……。」と言うと続けて、「あなたには『呪い』の力が作用していないわ……。『光属性』の能力を扱う事ができると思うの……。それに『呪い』を打ち破る事も出来るかもしれない……。可能性は0ではないわ……。」


そう言うとユウトは、「それじゃあ……。僕は、母さんが言うように……ユウキ兄さんとユウミさんが遺してくれた剣と鎧を身に付けて……ユウリさんの『勇者の力』の発動の為に動くことにします……。僕が役に立てるなら……。」と言っていたのである。それを聞いてユウキが僕に言うのである。


「僕たちがこの状態になってしまった以上……。ユーミイの力が必要になる可能性がある……。彼女は『精霊魔法師』だよね……。もしかすると……彼女の力を借りる必要があるかも知れないな。」と言う。それを見ていたユウトにユウミは言う。


「私の力は必要ないわ……。私はもう長く生きられないだろうから……。後は任せるよ。」


そして僕とユウナは再び旅に出ることになる。僕達が向かう先は王都になるのだが、この世界を救う為に、ユウトが動き出すことになるのだった。


それから数日が経過していたのだが、ようやく目的地に到着する事になる。王城に到着した後、すぐに女王陛下の元へと通されるのである。そこには、王弟や『光の勇者』がいて、既に戦いは始まっていた。僕たちは、それぞれ戦うべき相手がいるのだと悟ると別れて行動を開始する。


「じゃあ……行ってくるね!父さん。お爺様。ユウトの事を任せるよ!お母様とユナのこともよろしく頼むからね。ユウトは僕よりも、ずっと強いから……。大丈夫だと思うけど……。ユウキも無理しないでね……。僕もそっちに向かった方が良い気がするんだ。」


僕はそういうと、ユウミのところへと移動を始めると……お爺様も僕に続いてきている。すると……ユーキも「僕たちも、一緒に行くことにするよ……。ユートが心配だしね……。ユーミもそう思うでしょ?それとも、一人で行くつもりなの?」と言うと、ユーミが微笑みながら言う。


「ううん。もちろん一緒に行こうと思っているよ……。ユウキはユウミちゃんをお願いね。ユウトの事も頼んだよ。ユウキはユウミちゃんと一緒に戦ってくれるよね?」とユウキを見ながら話すと、ユウキは笑顔を見せて「当然だよ!君に言われなくてもね……。さぁ、急ごう。時間が無いからね。ユーナさん。君も付いて来る気みたいだが、今はユウトと共に動いてくれると嬉しいんだけど……。」と話す。


ユーナが僕と一緒にユウトについて行きたいと思っていたことを言い当てられた僕は驚いていたが、僕は笑顔で「……そうだよ。ごめんなさい。でも、あなたが居てくれたら心強そうな気がするんだけどな。ダメかな……。」と言うとユーナは嬉しそうにしているのであった。そんな様子を確認したユウキが呆れたような顔をしているとユウトは「ありがとうございます!それじゃあ……。早速ですがユーミンの力が必要かも知れません!僕と一緒だと時間がかかると思いますので……。先に僕が向かった方が早いですよね?」と話してきた。ユーキはそれを見越してユーミと相談しに行ったようだ。


ユーキが戻ってきた後に、ユーキが「分かった。じゃあ、ユウト頼んだよ。君に僕の力の全てを与えておくから……。これで君なら『スキル』の使用が出来るはずだよ。あとは頼んだよ。」と言うと僕の体に光が降り注ぐと、体中にエネルギーが流れるのを感じたのだった。それから、僕は母さんと一緒に王都へと向かう事にしたのである。それからしばらく歩いて、僕たちは無事に王城に辿り着く。すると、王弟が王城の外に出ようとしていたのだ。僕と母さんは咄嵯に身を隠すが、ユウトだけは堂々と王城を進んでいく。王弟はそれに気づいて「んっ……。誰だ!?」と話しかけると、ユートは不敵な笑みを浮かべて答えるのだった。


「ふぅ……。やっと気づいたんですか?……遅いですね。まぁ……良いでしょう。とりあえず僕の邪魔をするつもりですか?……それならば……。僕の相手をしてもらおうか?」と言うと『闇』の力を具現化させて剣を取り出すと王弟に斬りかかる。その一撃を受け止める王弟だったが……。その顔には驚きが見て取れた。


「貴様……。一体……何者だ?」と質問をしていたのだが……次の瞬間には吹き飛ばされてしまうのである。


そして王弟の体が宙に舞うのを確認するとユートはそのまま歩き始めるのだった。その様子を見ていたユーミは「……嘘。今の一瞬で……。あの人がユウキに剣術を教えてくれたのね……。ユウキも凄いとは思ったけど……。彼はそれ以上のレベルだわ……。」と言うとユーキは、「ユウトには、まだまだ教えてもらいたいことがたくさんあるんだよ……。」と答えてたのであった。


僕とユーミはユートの後を追って、王都を歩いていると……。一人の女性と出会う。そして彼女は僕を見て、少し悲しげに僕を見るのである。その女性の目からは涙が溢れており僕は、どう声をかけていいのか困ってしまう。すると……女性は僕の腕を掴みながら、涙を流し続けていたのだ。それを見たユーミが、「……この人って確か……ユートと婚約していた……。……まさか……。ユートはこの人の命を救うために……?」と言うと、その女性が話し始める。「あなた達には本当に感謝しております。私のせいで、ユウキとユウナは死にましたから……。私がもっとしっかりしていて、二人の手を引っ張れていれば……。こんな事にはならなかったのに……。」と言うと泣き出してしまうのである。僕が、なんと声を掛ければいいのか悩んでいる時にユーミンは女性の手を握る。その行為を見た僕は……ユーミンも泣いているんだなと思うとユートが残した言葉を彼女に話すことにした。


「あなたのせいじゃないよ。ユウミもユウキもユウヤも同じ事を言ったんじゃないかな?自分が一番大切な存在を守るために必死になっただけだよ。それはあなたもわかっているはずじゃないか?それに……君を守る為の行動は間違っていなかったんじゃないかと思うんだ。君が生きている限り、二人も死なずに済んだかも知れないからね。」


それを聞いた彼女は……ユーミの方を見るとユーミは、「……私も、同じ事を言いたい気持ちなんですよ。だから泣かないで下さいね。私はもう泣かないと決めていますから。だからあなたも泣いちゃだめですよ!」と言う。その言葉を聞いた彼女は、また号泣してしまうのだった。そして、ユートを救いに行くために行動を共にする決意をしたのだった。その後、僕らはユウトを追いかける為に行動するのだが……。既にユウトは、かなりの魔物を討伐していたのだった。


「この辺の奴らは片付いたかな……。次に向かわないとな……。」と言うとそのまま、奥へと進んでいくのである。その頃には王城周辺は、魔物によって完全に支配されていた。僕は魔物に囲まれて動けず……。そこに王弟が現れた時、「……助けてください!お願いします!……僕は何も悪い事はしてないのです!!」と叫ぶのだが……僕の言葉を無視して攻撃を開始してきて、それを防御した時である。突然僕の目の前に母さんが姿を現すのであった。


「あなたは何をしているの!自分の子供が苦しんでいて黙っていて!!……それに、なぜあなたのような『人間』に私たちが助けを求めなければならないのよ!ふざけるんじゃないわよ!!」と言ってくるが、ユートが母さんの服の袖を掴む。


「母さん!待ってくれ……。ユウト君は、まだ、子供なんだよ。それなのに『勇者』として召喚されたみたいで、どうしたらいいのか分からないんだよ……。」と母さんを止める。すると母は僕を見つめてくる。


「ごめんね……。ユウキ君が、そんな風に思ってくれていたなんて思わなかったから……。でも安心して!ユウキ君のことも、この子の事も守れるからね。この子が無事に帰れたとしてもユウナが居るから大丈夫だと思うのよね。」と言うとユウトに回復魔法を発動させるのである。それからユートは立ち上がり、ユーミに襲いかかろうとするが……。


「お前も『人間』の癖に俺に逆らう気なのか?お前が邪魔するなら……。ここで消えてもらうぞ?」と言い放ったのだった。


しかし……ユートの一言に激怒した母さんが「何を言っているのかしら?あんたみたいなガキンチョなんかに私の子供たちを傷つける権利があると思ってるわけ?」と言うと同時にユートが吹っ飛ぶ。それを目撃した僕は、ユーミと一緒に行動を開始するとユウミもユーミンも僕たちについて来てくれる事になったのだった。そして……僕たちがユウトに追いつく頃には……。既に、ユウキやユーミと同じぐらいの少年が戦っていたのである。僕はユーミンと一緒にユウキの援護に向かうと……僕はユーキの横に着地する。そしてユーミはユートの横に降り立った。


するとユートはユーキを見ながら、「やっぱり来たのか?さすがに『聖勇者』だな……。それじゃあ……。」と話を始めるとユウキが「君とは戦いたくはないんだよ……。僕の方もユートの手助けがしたいと思っているんだけど……良いかな?」と言うとユーミは微笑みながら言う。「もちろん、構わないよ!ユウトを助けようと思っている人は多い方が良いしね!さぁ、一緒に戦いましょ!」と二人で意気投合していたのだった。そして僕はと言うと、さっきの一撃を受けた事で、ユートに対する怒りを抑えられなくなっており、攻撃を仕掛けるとユートが吹き飛んでいく。


僕はその隙を突いて、追撃の体勢に入るのだが……次の瞬間に、ユーミが僕とユートの間に入り込むとユーナが「させないわよ!」と言い放ちながら僕の攻撃を弾き飛ばす。そしてユーミンが「私がいる限り、ユウキちゃんに手出しさせないわよ。……でも……ユウキの友達のあなたまで、手加減しないから。」と言う。


僕が、「ありがとう。……それじゃあ、ここから先は僕の相手をしてくれるかな?」と言うと僕は構えたのだった。するとユートは僕の攻撃を受け流しながら、僕に対して攻撃を開始したのだった。僕はその一撃を防ぐと……「へぇ……。なかなか良い反応速度してるじゃん!……でもね。……僕の方が速いよ。」と言うと僕の体にはユートの『闇の魔力』が流れ始めるのだった。するとユートの攻撃の威力が増していき……僕の体に痛みが走る。


そんな状況に焦りを感じている僕の耳には、リスタの声が届く。『ご主人様……ご無事で……。すぐに加勢いたしますからね!』僕はそんな声を聞いて冷静になることが出来たのだった。


僕は、「ありがとね。おかげで目が覚めたよ。君が居なければ危なかったかも……。」と話すと僕の頭の中にはリリスが話しかけてきてくれたのだ。そして……。僕はユウミに指示を出すと、ユーミは「わかったわ。……ユーミはユウキのフォローに向かってくれる?私がユウキのサポートをするわ。」と話し、それを聞いたユウキが「分かった。それなら僕が……。ユウミの方に回ろう。そっちは頼む。」と話を始める。それを見た僕は「ふぅ……。やっと落ち着いてくれたみたいだな……。それに、ユーミが付いてきてくれて助かったな……。僕一人なら……間違いなく押し切られて負けてたからな……。でも……。今は……僕だって『闇魔王』なんだからな。絶対に……ユウヤは殺させやしない!……僕は僕のために、そして、仲間を守るために……。」と呟くと……僕の中に再び力が流れる感覚を覚えるのだった。


ユートに吹き飛ばされた僕だったが……何とか意識は保つ事が出来た。


そして僕は立ち上がると、ユートが吹き飛んだ先にはユートとリリカとユウヤの姿があったのである。その光景を見て、ユートの仲間の一人の少女は驚きながらもユウキに声をかけてくるのであった。


そして……その言葉を聞いた僕はユウミと共にユーキの方へと向かう。


だが……その前に僕の前には一人の少年が立ち塞がってきたのだ。


その男の子は僕の事を鋭い目つきで睨みつけながら「おい……。貴様は誰だ?」と声をかけてきたのである。


それに対して僕は「お前が、あの三人が言っていたユウトか?」と言うとユウトは「……お前に名乗る必要なんてないだろう。どけよ!」と言うのだった。その言葉を聞いたユーミは、ユウキにアイコンタクトを送る。


(ユウキ……。どうしよう……。ユウトくんに話をしても聞いてくれそうにないわ……。ユウキに少しだけ時間を稼いで貰ってもいい?)と言うとユウキが答える。(任せて!僕もユートに話を聞きたいからね……。でも、少しだけでいいから時間は欲しいかな。)というとユートはユーミに対して、ユーミは、その提案を受け入れて話を始めたのである。


その間……僕の目の前にはユーミではなく、先ほど僕の目の前に立ち塞がったユウキと名乗る少年がいた。


ユウトはそれを見て……「……なるほどな……。俺と戦うためにここに現れたってわけね。それで?俺に勝てるつもりなのか?……俺は、こいつらの親父を殺しに来たんだぜ?それでもやるっていうんなら……。俺も容赦は出来ないな。」と言うと、僕の体が黒い炎に包まれてしまうのだった。そして僕の体は勝手に動き始めてユウトを殴り飛ばそうと拳を振り上げたのだが……。その直前に僕が僕の事を制止する。その行動に驚いたのは、その場にいる全ての者たちだっただろう。そして僕の体を包み込んだ炎は、まるで意志があるかのように僕に話し掛けてくる。


『久しぶりだな……。『黒焔魔装神 アックス』……。いや……『黒炎王』と言った方がお前には分かりやすいか?俺の名は『ヘルヴァ―ド』……いや……。俺の本体はもう死んでいるが……『魔王 サタン』によって『魔王』の力を得た『暗黒魔獣』の一体『ダークネススライム』であり、この肉体が破壊されない限り何度でも蘇る事が出来るのだよ……。そして……今の肉体は、この『黒騎士 ナイト』と呼ばれる存在だ。まぁ……そんなことは、どうでも良いことだな……。』


『黒焔』は僕の意思とは無関係に僕の中で喋っているが、どうやら、この世界に存在する魔物では無いらしいな。それに、この『勇者』と呼ばれている者にも興味が出てきたぞ。だから……この『勇者』と戦ってみたいと思う。……それに……。この世界での本当の目的を果たすためならば、この程度の敵は倒せないとな……。そんな事を考えていた僕であったが……。突然『勇者』であるユウキがユートと戦おうとしていた僕の体を押さえつけたのだ。


『お前の考えている通り、俺はこの『聖剣』を使って、『暗黒』を打ち払う『光』となり……。この『異世界』に平和をもたらす為に戦うのが使命だ。でも……。今、目の前に倒れているユウトの父親を助けられないと意味が無いから助けたいと思っているのも事実なんだ。……お前の言っている事もわかるけど……。この男を助けてから『聖戦』に望む事にするよ。それが……。『聖剣士』として正しい行動だと信じるよ。だから……。お前が邪魔するんじゃねぇよ!!』と言うとユウトは、そのままユウトに向けて剣を振るうと……僕の体に痛みを感じる。そして……。その衝撃で僕の体が弾き飛ばされると……ユウトはユートに攻撃を開始していた。その様子を確認するとユーミは、ユートの前に移動する。


「ユーミさん……邪魔しないでください。こいつは僕が倒しますから!」ユートは僕のことを見向きもせずにユーミに対して攻撃をしようとした時である。僕は……『闇魔王化』を解いて元の僕の姿に戻る。


それを確認したユークは、「おいっ!!何をしてるんだよ!あいつを倒すチャンスだろ?」と言うが僕は、「……それは無理だと思う。彼は恐らく……『魔王化』の能力を発動しているんだよ……。」と言い放った。


すると、ユウトの動きを見たリリスが、「……ユートさんの言うとおりだと思います。おそらくですが……。あれだけの攻撃を受けてもダメージは与えられていないと思われます。そして……『聖魔法』では、彼の能力を完全には打ち払えないかもしれません。ユート様が全力で戦っても勝てるかどうか怪しいでしょう。……しかし、このままでは確実にユウト様が不利になってしまい、最悪命を落としてしまいかねません。ここは……私に任せていただけないでしょうか?もちろんユウキ様たち全員を危険に晒さないよう配慮させていただきますので……。」と言う。


それを聞いたリリスの仲間たちは、それぞれユーミの指示に従いユーミの援護に回ろうとする。そんな中……僕は……ユートのことを見ている。ユートは「なんなんだ?急に弱くなったのか?さっきまでの威勢はどこにいった?」と言うが、ユートは気づいているようだな……。


すると、リリスが僕の方を向いてくると、「……どうなさいますか?」と聞いてきたのだった。


そして僕は……ユートの方に近づきながら、「ユートくん……。僕は『闇属性』を極めるために修行の旅をしているんだけど……。『聖』と『闇』の戦いに興味があって見学させてもらうよ。でも……さすがに危なそうな時には、手を出すよ……。それにしても……君とは仲良く出来そうだよね。これからよろしくね!!」と言って僕は微笑みながら握手を求めたのだ。そんな様子を見たユート君は、「お前みたいな奴には絶対負けたりなんかしないから!見ていろよ!」と言って手を握り返してきたので僕は「君こそ、あまり僕を舐めないでよ……。」と言い返したのである。


そしてユウトは僕からリリスへと視線を変えると「リリスちゃん……。悪いけど俺の事を止めたりしたら……容赦は出来ないぜ……。それとそっちの二人も俺の事は知っているんだろう?俺を止めたいんなら止めてみるんだな!」と話始めたので僕は「ふーん……。ユートくん。もしかして、あの三人の仲間になりたいの?そっか……。そっかぁ〜……。」と言うと僕の中のユートの表情が変わり……僕の事を鋭い目つきをしながら睨んできたのだった。


(……あ……。こいつもしれっと『勇者』の称号を利用して自分の仲間にしようとしていたな……。……僕にはバレないとでも思ったのか……。甘いね……。)と僕は思っていたが……。ユーミだけはその考えに気がついて、ユートに話しかける。


「ユウトくん……。あなたの考えに私は賛同できないわ……。私たちはあくまでも『魔王軍』なのよ……。確かに魔王様の命令は『勇者』を捕まえる事かもしれないわ……。でもね……。私達『闇魔王軍』の目的は魔王軍の『闇属性』を極めたいだけであって『魔王』になりた訳じゃないわ。むしろ魔王軍は魔王さまが目指す理想の社会を実現する為に必要な力を手に入れるための組織よ。それを忘れないで欲しいのよ。……わかった?」


そう言ったユーミの言葉を聞いて僕は……『勇者』が『暗黒魔族』に説得される姿を目にする事になった。しかも『闇』を司る者が『闇』を滅ぼそうとする者を説得すると言う、ある意味凄い状況になっていたのだった。


(ユートの奴……。あの女の仲間になってどうするつもりなんだよ……。魔王軍が魔王になる為に動いているとか言われても……あの魔王の娘がいる以上……。俺達は従うつもりなんてないのに……何考えてるんだ?)と思っていた僕だったが……僕の体は僕の意思とは無関係に勝手に動き始めていて……ユートの体を黒い炎に包み込むと……。ユートは地面に崩れ落ちたのだった。それを見たユーミが慌てて駆け寄ると、すぐに回復魔法の『ヒール』を唱えていく。


そしてユートは、その隙に僕の方に振り向くと睨みつけてくる。


「てめぇ……。絶対にぶっ殺してやるから覚えておけよ。」ユートは僕の事を殺すと宣言してきたので……「それは無理だよ。……君の力は僕には通用しない。なぜなら……君の攻撃はすべて『僕に届いてすらいない』からね……。」と言うが、ユートは聞く耳持たずに再び攻撃を始めようとしていたが、そこに、僕達の目の前に一人の女性が姿を現す。その姿はまるで女神のように美しい姿をしていた。彼女は僕のことを優しい笑顔を浮かべると僕に向かって「……ありがとう。私の願いの為にあなたのような人に出会えて嬉しいです……。」と話してくれたのである。


(…………。これは……。もしかすると……。リスタと同じ『聖魔法』の力を感じる。つまり……。この人が……。この世界の『聖女』なのだろうか……。)と思っていると、その女性は僕を優しく抱きしめてきて……僕にしか聞こえないように話し始める。


「……私は『聖剣 カリヴァー』の人格が具現した存在で名前は『カリス・アメイズ』といいます。……私は『魔王軍』に保護されて『聖剣 カリヴァー』の力を使うようにとお願いされています。しかし……。私がこの『聖剣 カリヴァー』を振るうことで『暗黒』を『暗黒魔素』を打ち消すことになってしまいます。……そこで私は考えたのです。『この剣』は『暗黒魔核』と共鳴してしまうという特徴がありまして……。私以外の『聖属性持ち』の方々には扱えません。しかし……貴方ならば扱う事が出来るのではないかと思いました。」と僕に言ってきたので……僕は、この女性のことを警戒しながら、「そんなことはありえないと思うけど……。一応は調べさせてもらうからね。」と話すと、僕にキスをしてきた。僕は咄嵯に女性を引き剥がそうとしたが……。どうやら僕の動きが封じられていることに僕は気づく。


そして僕を離すと……、「この『勇者 ナイト』様と戦える機会などこの先無いかもしれません。……もし戦う意志があるのであればこの『聖剣 カリヴァー』を使ってください。この『聖剣』と共鳴する貴方は私にとって必要な人材なのですから……」と言ってくれたので……とりあえず僕は剣を振ってみると……簡単に剣を扱うことが出来たので……この『聖剣 カリヴァー』に認められたような感じがしたのである。それを確認した僕は再び目の前に現れた女性に話しかけると「さっきは助けていただいてありがとうございます。僕の名は『ライト・エイカード と申します。貴女の……お名前を聞かせてもらえますか?」と言うと、『カリバーの聖女』と呼ばれるその女性は僕の手を掴んでくる。


「……私は、リリスさんと同じように『光の巫女』と呼ばれます。今はリリスさんが封印されているので……一時的にこの世界を救う力を宿すことが可能な存在です。」と教えてくれながら、『聖属性』の能力を高めて……僕の体にリリスと同じような光を纏わせて僕の体に同化させる。


僕は、自分の体に起きている変化を体感すると……。『闇属性 能力強化』『闇属性付与(エンチャントダーク)』のスキルを獲得して更に……僕が元々持っていたスキルである『闇の加護』の能力を最大まで高めることができるようになった。それから僕は『魔王因子所持者 覚醒』を発動させると……今まで見たことのないくらいの量の『魔核 暗黒石(ダークストーン)』が出現し始めると辺り一面を真っ黒な魔力で染め上げて……それをすべて取り込むと『漆黒のローブ姿に変化していく』のであった。そして完全に意識を失ってしまうとその場に倒れてしまう。それを見たリリスが心配をして駆けつけてくれると、リリスは僕の事を抱き抱えてリリスの部屋へと連れて行くことにしたようだった。そして目を覚ますと、リリスと僕とユウト以外の姿が見えず、ユウトの姿は見当たらなかったのだった。僕はリリスから話を聞くと……どうやらユウトはリリス達に迷惑をかけないように姿を消して、ユート一人で何処かに旅に出たと言う事がわかった。僕は「そうですか……。ユートくんなら問題はないでしょう。」と話すと……ユウトがいなくなったことでユーミは安心している様子だったのである。


その後……ユウミが仲間になりたいと言っていたのだが……僕はそれを拒否したのだった。僕は、このユーミと言う女の子は悪い人間ではないのだろうと思ったのだけど……何か信用できなかったので断ったのだ。そんな僕の事を気にする事なくユージが、「おい……。ちょっと、こっち来いよ!」と言ってきたので、僕を強引に引っ張るので僕は仕方なくユージについて行く事にしたのである。


暫く歩いていくと町の入り口らしき場所にたどり着き……そこには馬車があった。僕達がそれに乗り込むと、何故か馬は動かなくなっていた。僕が「どうしてこんなところに馬車が?」と思っているとその隣にいる男に話しかけられると「俺の名前はラクスだ。お前たちが乗っているのは俺の馬車だ。」と言ってきてくれたのである。


僕はユーミの方を見るとユーミは驚いた表情をしながら……その男性を見つめている。


(……ユーミの反応は正しいね……。なんせ、今ここにいる男は……。おそらく『元英雄』の可能性が高い。それにユートの気配もある。恐らく……この馬車の中にいる全員がユートと同じ境遇の人たちなのかもしれないな……。)と思っていると……。僕の考えを読んだかのように、ユーミは僕の方に振り向いてくると……その男性は僕達の名前を教えてほしいとお願いされたので、まず最初に自己紹介を始めた。するとユーミが……なぜか僕の手を握って握手してくる。それを見た他の面子も、僕のことを警戒するように見ている気がしたが……僕の事はどうでも良かった。問題は……この『勇者 ユート 』のほうだと思っていたからだ。


そして僕達の話を興味深げに聞きながら「……なぁ……。君たちは何の為に旅をしているんだい?特にそこの女が気になるんだが……一体何を企んでいる?」と言う質問に対して僕は、僕自身が勇者の『勇者 ユーマ』の記憶を持っていることと……勇者が世界を支配すれば……平和な世界になると考えているので、僕は『勇者 ユート に協力するつもりだ。』と答えると、「それは素晴らしい考え方だと思う。是非私に協力してほしい!……ところで勇者 ユートとは……まさか!?」と言いかけてユーナが「……あなた。ユートに会った事があるの?」と言うと、「……いや。そんなはずないと思うんだけどな……。ただ、そんな名前の勇者がいたな~と、思っていただけなんだが……。」と言葉を濁すのだった。僕はユートとユーナの知り合いだったと思われる男性の顔を見ていたのである。


(……ユーミの話からすると……ユートはユートでユートのことを知っていないし……。僕の方からも何も言わない方が無難かな……。ユートも僕と初めて会った時は知らないフリをしていたから……。きっと何か訳があるはずだ……。うん。この場はとりあえずユーミの話に合わせてみよう……。)と僕は思った。するとユーミは、突然涙を流して……「やっぱりそうだよね……。あのユーマは死んだんだ……。私がもっと強くなっていれば……。ごめんなさい……。本当に私が弱くて……ユーマが……。」と呟くように言う。そして僕はユーミの頭を優しく撫でてあげてからユーミのことを抱きしめた。そしてユートは、ユーゴの方を見てから、「ユーヤの事もユートに聞いてみたかったけど、今は、ユーマの事を優先したいから、後回しにしても良いかな?」と話すと、「俺は構わんぞ。まぁ……。あいつのことだから、死んではいないと思うけど……。」と話す。


すると僕は、「そうか……。ユートは生きてるか……。よかった……。僕も会ってみたいな。」と言う。すると僕の事を見ながら……「ふーん……。お前らって不思議な関係なんだな。お互いのことをまるで親友のように信頼していて……。それでいて……。どこか……恋人同士のように見えなくもないな……。あはは。冗談だよ!」と言ってきたのである。僕は少し動揺しながら「そっ……そんなんじゃありません。勘違いしないでください。それより……これからどこに行けば良いんですか?」と言うと……馬車が急に動き出し始めたのだ。僕はそれを確認すると、僕以外の4人が驚く。そして、ラクスが「これは……。」と驚いていたのであった。


暫く進むと……馬車の前方に、山が見える。それを見たユウトは「よし。とりあえずここで一泊して、朝になったら出発しようぜ!!」と言ったので、僕達は了承するとそのままユウトの用意してくれたテントに入る。だが、どうやらユウトは僕達に、先に寝るように促してきたので、お言葉に甘えて休むことにした。僕はこの『漆黒のローブ姿』に着替えたあと……。ベッドに入って就寝をするのである。


目が覚めると僕は自分の体がおかしいことに気づく。なぜなら自分の腕の部分が黒く変色していたのだ。慌てて確認するが……僕の腕はちゃんとした肌色をしていることから……おそらく自分の意思に関係なく『暗黒属性(ダークネス)』が付与されてしまっているのだと気づいたのだ。そして僕は急いでリリス達を呼んでこの状態をなんとかできないのかを聞いてみると……リリスとアリスさんは「う~ん……。無理じゃないかな……。とりあえず試したいことがあるのだけど……」と言ってくる。それに対してユウトが……「とりあえず……見せてくれないか?もしかしたら何か方法があるかもしれない……」と言われて……僕の体はユウトに見てもらうことになったのであった。それから僕以外の人達はそれぞれ別の部屋に行くが……しばらくして戻ってきた時にユウトの顔色は優れなかった。そして「ダメだったか……。どうする?」と言うユウトに対してアリスが答えたのだが、その内容は驚くべきものだった。


なんでも、『闇の力』を持つ『魔王因子 保有者』である僕には……ある特殊な能力があるらしいのだ。その能力は、自分が所持する闇属性の能力を最大限に高めて発動できるというものなのだという事がわかったのだったのだ。さらに闇属性の能力を使用する際には『闇属性能力強化(エンチャンントダーク マジック)』と呼ばれる能力を発動しなければならないらしく……闇属性能力強化は闇属性の力を強化するだけでなく、『闇属性付与(エンチャントダーク)』と呼ばれる強化効果もあるため僕は自分のステータス画面を開くように指示を出すとそこには新たなる文字が表示されていたのである。……そう『魔王因子(ブラック)


能力(ポテンシャル)


覚醒(オーバーフロー)


状態(フェーズ)1 』と言う能力名が記載されており、更に……能力の説明欄を見てみると……闇属性の能力強化に加えて……『闇属性強化』と呼ばれる特殊能力が追加されていることがわかる。僕はそれを見ると……『闇の加護』と似たようなものだと感じたが、実際に使用していないから何とも言えないが、『闇魔法』を使う場合には威力が上昇するような気がしたので「僕に使ってみてよ……。」と言う。その僕の反応を見たユウトは「いいのかい?」と言ってくれたので、「ああ……。頼む。」と答えてみた。


すると次の瞬間僕の体の周囲に真っ黒な霧が出現し始めていくとその霧に触れた物体は見るも無残に引き裂かれていき消滅していく現象が発生する。そしてそれが収まると……僕の体からは大量の血が流れるのであった。それを見たユウトは焦りながら僕の体に治癒の光を当てるが……。僕の出血は止まらなかったのである。それどころか……。今度は、僕の体を蝕むかのように、僕の体内から黒い何かが出現し始めてユウトはそれを確認し始める。


ユウトが何やら唱え始めると僕の身体の異変は徐々におさまりを見せてきたのである。どうやら僕の身に起きている異常事態の原因がようやく理解出来たようで「……おそらく『魔王因子 保有者の覚醒』によって君の体に『暗黒のオーラ』が発生している。それが原因で君は『死』に近い状況に陥ってしまったようだ……。だが……。今の状況ではまだ大丈夫なはずだ……。それに君がこの状態で『魔王』の力を制御すれば、君自身の中にある魔力が増大する可能性もあり、今の状態よりもかなり強力な存在となるかもしれない。それにまだ『レベル2 』の状態であるのなら……このまま『レベル5まで上げることを目指すべきだろう。」とユウトが僕に伝えると……僕の目を見つめてくるのだった……。僕はその提案を受け入れて「じゃあ……。早速、お願いします!」と言うとユウトは微笑みながら、「よし……。今から特訓を開始するが……絶対にこの事は口外しないと約束してほしい。今から行うことは決して他人に見られてはいけないんだ。もし見つかれば大変な事になる可能性があるからな……。」と言われたので僕は迷わず「わかったよ……。」と答えるとユウトは嬉しそうな表情を浮かべて僕の手を握るのである。僕はその握られた手に何かしらの力を感じた。


そして僕は『漆黒のフード』を身に付けて、ユウトと共に森の中に入るとそこでユウトの指示通りに行動する。僕は意識の中で何か違和感を覚えるのだが、すぐに気づかれてしまい……結局それは気のせいではなかったのである。どうやら僕の中にあった何かはもうすでになくなっていた。そして『漆黒の剣 エクスカリバー』を取り出した後に僕はそれを握りしめて構えていたのだ。


その後……しばらく時間が経過すると僕達の目の前に現れた魔物達を相手にして戦い続けた僕だったが……どうにも様子がおかしい事に気づき始めていた。最初は気にしなかったが……よく考えてみるとあまりにも数が多いのだ。それに明らかに今までに戦ったことのない種類の魔物ばかりだった。すると僕の考えが顔に出てしまったせいなのか……リリスが僕に「ねぇ……。さっきから感じてるこの嫌な気配の正体に気づいたみたいね……。恐らく……。これ……。多分、魔王軍だよ。」と言うと僕は少し驚いたが、「え!?まさか……。そんなわけないよね……。」と僕が苦笑いをしながら答えるとリスタが「いえ……。おそらく……。」と言葉を濁したのだ。するとユウトも同意するように話しだしたのである。


僕は二人の意見を聞くと「でも……。僕達がこんな場所にいるなんて誰にもわからないはずなのに……どうして魔王軍が……。」と言いかけると、ラクスが話し始める。「……恐らくだけど、ユーマが私達の前に現れてから、各地で魔族が活発化し始めたからじゃない?……ほら、ユーマって……ユーマ自身は、人間を皆殺しにして、世界を滅ぼそうとしたでしょ?」と聞くのでそれに対してユウトはすぐに否定したが……。


それならば何故このような現象が起き始めたのかを考えている最中にあることに気がついて……ユーマの配下だと思われる人物をユウトは思い出してみた。そう……ユーミの事である。そしてユウナは、ユーミは、勇者として世界を救った功績から……『勇者教 聖女』の地位を得ている事を知ることになるのであった。ユーマの話をした後に僕はふと思い出して質問してみる。「そういえば、ユートはいつからここに来たんだい?」と聞き返すと……「俺は最初からこの場所に居るけど……。」と言われて驚く僕であったが……。


すると僕は自分のステータス画面を開いてからある項目を見てみる事にした。すると……『闇の魔王』に僕の体が変化している事が判明したのであった。


『闇魔法の力 覚醒


(リミットブレイク)』の効果により……自分の体に異常な程の魔力が内包されていることを認識した後……。リリスから聞いた話でユウナも僕と同じように、魔王軍の残党である四天王を仲間にしていることを聞き僕は驚いてしまう。しかも僕の知っている四天王の他にも三人の仲間にしているとユウナから聞かされた僕はユウト達にこの事を内緒にすることを条件に……僕の『闇魔法』を使ってユウト達の仲間の捜索を手伝うことにする。それからしばらくして僕と、僕の眷属となったユウトは『神界』に戻ることにした。だが僕はユウトの言う通り魔王因子の力を完璧に操るために……。『魔王因子 能力 覚醒(オーバードライブ)


状態(フェーズ)3』という能力を取得することに成功するのであった。


そして僕の力を得た後、ユウは魔王軍を殲滅するために……。リリスとアリスを連れて森の奥地に向かっていく。残されたリリスは「……本当に行っちゃったね……。ユウちゃん……。大丈夫かな……。心配……。あっそうだ……。ねえ……。アリス。……これからも一緒に居てくれる?アリス……。」と聞いてきたので……。アリスは「もちろんですよ。」と優しい声で答えるとリリスの頭を撫でながら、抱き寄せて落ち着かせる。それからしばらくして……ユウトは無事に戻ってくると僕達は、再びユウトの家に戻り今後の作戦を考える。


ユウトはリリスとアリスを家に送り返したあと、この国の姫であるルシアに会いに行くため城に向かうと伝えて……。それから、ユウトを僕の所へと送り届けるのだった。僕達二人が部屋に入ると……既に僕の知らない間に、先ほどまでの部屋にはルアとリルの姿はなく……。その代わりに……ルアの妹のミーティア王女が立っていたのであった。そして僕達の存在に気づくと……。ミーティアはユウトに対して挨拶をする。ユウトは突然の事で、かなり動揺していたのである。どうやら……この少女がミーティア王女だとは知らなかったようで、名前も知らずに今まで会話をしていたようだ。そしてユウトは自分の立場を説明し始める。すると少女の表情に変化が現れた。ユウトの話を聞いて何かを感じている様子を見せた後に……「ユウト様ですね!お待ちしておりました。私はユウト様に救われた一人なのです。実は……。私の国である、『イシス国』は、『魔王』を名乗る者に侵略されて……私の父上と母上は殺されてしまい……。今は私が国を取り仕切っております。ただ、この『イシシ共和国』では、『魔王軍』に対抗するには力が足りません。どうか……私に力を貸してくれませんでしょうか。……それに……あなたが持っている『漆黒の鎧 ブラックメイル』を纏っているユウトさんならきっと……。この国の希望になってくれると信じています。……だからお願いです……。私と共に戦ってくれないですか?」と言ってきたのでユウトは少し悩んだ後に……。「……わかりました。協力します。」と即答で答えてしまう。そしてその返答を聞いた僕は心の底から呆れていたのだった。僕は仕方なく……その申し出を受けることにした。


「わかった……。その話を引き受けるよ……。」と言うとユウトは嬉しそうな表情で僕に微笑んでくるのであった。その微笑んだ時のユウトの顔はどこかで見たことのある笑顔だったので僕は少し考えてしまったが……。どうせ思い出せないと思ったので……それ以上考えることはしなかったのである。


そして僕は改めて……。自分が今置かれている状況をユウトに説明すると……その説明が終わるとユウトは「そう言えばユーマ君とユウトはどんな関係なんだい?」と聞かれて……。ユウトは、僕の過去と『漆黒の魔王』になった理由を話し始める。それを聞いたユウトは「そうだったんだな。君は……『魔族の王』とまで言われる『魔王』になったんだな……。でもどうして君が……?」と言ったので僕は、「わからない……。僕が『魔王』になった理由は……未だに謎なんだけど……。『覚醒』したことで何かが起きたようなんだよ。」と答えてみるが……。結局わからなかったのだ……。それからしばらくの間、僕は、ユウト達に協力することになったので、僕は『イシシ共和国の防衛大臣兼参謀』に任命されることになったのだ。


僕は今、『ユウタロウ・イシシマ』と名乗っているのだがその事実を知る者はごく僅かしかいない。それはなぜかというとその本当の名前が『漆黒の仮面騎士 ユーマ・ライデッカー』であることをこの世界で知る者が少ないからであるのだが……なぜ少ないかというとそれは簡単なことだ……。そもそも僕の本名である『ユウタロウ サノクラ』を知っている人間は誰一人いないからだ。なぜならば僕の名前は『ユーマ』と言う偽名を誰かに勝手に付けられてしまったからだ。そして僕はこの世界に来てから自分の名前を呼ばれるたびに違和感を覚えていたがようやく納得する事になる……。その名前を付けられた原因がわかったからである……。


どうやら僕の名付け親はあの男らしいが、あの男は僕のことを本気で殺しにきていたのだと思っていただけにショックが大きく、僕はしばらく動けなかったのだ……。その理由というのが……。この国の王族達が僕の名前を決めあぐねていた時にある人物の名前が挙がると……。それに決まったらしいのだ……その名前はなんと『サノスラ ライラ』という名前であったらしくそれをそのまま付けたということだ。それを知った時にはもう手遅れであり……。もう二度と『サノラ』という名前で呼ばれないことを祈ることしか出来なかった。


僕の本名は……『ユウマ ソウスケ』である。僕がユウト達と一緒に旅をして『イシシ共和』の姫のルアを助けた後のことである。ユウトは僕達と別行動をとる事を決める。それは僕達の正体がバレないようにするためだ。この世界にはまだ魔王軍が暗躍している可能性が高い為、勇者として動くのが危険と考えたからなのだが……。どう考えてもそれは間違っていたのである。勇者として行動した方が安全だと僕は考えた。


そして、ユウトは『魔王軍 四天王』の残り三名を倒すべく……。『魔王軍 幹部 暗黒龍 ディスト』と戦い……。圧倒的な力を持って倒すと……残りの二人の居場所を聞き出すことに成功していた。そして……僕が『闇魔法』を使い、自分の眷属にして従えさせた魔物のリリスを連れて魔王城に向かい始めると……。ユウトとアリスに別れを告げて僕は二人とは別れたのである。それからすぐに僕は『女神像』を出現させると僕は、そこに入ろうとした時に、僕は背後から誰かが近づいて来ていることに気がついて振り向くとそこにはリルがいた。僕は、咄嵯の出来事に驚きを隠せずにいた。すると……「ユーマ。久しぶりだね。ユーマに会えるなんて……本当に私は幸せだよ。だって……ずっと会いたかったから……。」と言いながら抱きしめてきた。


その瞬間に……僕の心臓の音は大きく跳ね上がると顔は赤面してしまうが、何とか平静を保つように頑張ったが、内心ではパニック状態だったと思う……。そんな中で冷静さを保ち続けることが出来るのだろうかと思いながら僕はなんとかして落ち着こうとするのであったがやはり無理である事を自覚してしまったので、仕方が無く、僕の方からもぎこちないが抱き返す事にしたのであった。そして数秒程抱き合ったあと、彼女は離れて僕に向かって話し始めてくれた。……僕はこの時をどれほど待っていたのだろうか。僕は彼女の話を真剣な眼差しで聞いていた。それは彼女にとって大事な事である事は僕にも理解できたからこそ……僕は彼女が話し始めるのを黙って待ち続けていた。それから……数分後にようやく話す決心が出来たようで僕に向かって話しかけてくる。その内容は……この世界を救う為に僕の力を貸して欲しいと頼まれたのだ。僕はもちろん引き受けることにしたのである。そして、僕とリルが会話を終え、リルは家に帰っていくが……。僕はというとリリスの元へと向かったのである。それから僕はリリスと合流してから魔王城へと向かうことにする。


リリスは僕のことを見つめて……嬉しそうに微笑んでいた。リリスも、どうやらユウトと離れることが寂しかったようだ。そのせいか……少しばかりリリスの機嫌が悪くなったのである。だが、そんな事は気にしないで僕達は歩き始めた。そんなリリスの様子を見た僕は思わず可愛いと思ってしまったのだけど……それを口に出すことは出来ない状況になってしまったのだ。そんなリリスの様子を不思議に思った僕は「どうした?リリス。そんなに不機嫌なのか?俺にできることなら何でもするぞ。」と言ってみるとリリスは不貞腐れたような態度で……「ユウトさんの所に行っちゃダメですよ。絶対に……。もし……約束破ったら怒りますからね!」と怒ってきてしまった。僕は慌てて、ユウト達と合流するのはもう少しだけ待ってほしいと伝えると……少し拗ねた感じで了承してくれた。それから、僕とリリスは、森の奥へと進んでいくが、しばらく歩いて行くと大きな広場に出ることになるが、そこで、僕は不思議な光景を見てしまう。そこには巨大なクレーターができており、そこを中心に森の一部に穴が開いていたのである。その場所をよく観察してみるとその場所だけが切り取られたかのような痕跡が残されていたので僕は疑問を感じてしまう。その時、僕はこの場所で何が起こったのかは、僕には全く想像がつかなかったのである。


そして……しばらく歩いているうちにリリスは、ふとしたきっかけでユウト達の現状を把握することができ、ユウト達に僕の情報を伝えるのであった。それを知ったユウトは、「わかった……。じゃあそろそろ合流するとしよう。」と言ってくれた。その言葉に、僕の心は躍り始めていた。やっと皆に再開出来るんだなと思ったのだ。そう思うと心の底からの嬉しさを抑えることができなかった。だから、僕の表情に笑みがこぼれ始めるが、僕は必死に堪えていたのである。


それから僕は『女神像』を出してユウトが待つ場所に行くのであった。その道中は……リリスの足が遅いのでゆっくりと移動することになるが……。そんな事は関係ない。僕は……これから再会する仲間のことを想うだけで、胸が張り裂けそうな気分になる。……それほど、楽しみだったのだ。僕は……その思いを抑え込みながらも、『イシシ共和国』を目指して移動することにしたのである。そして……。僕とリリスが、『イシシ共和国』に戻ると……懐かしい仲間達が僕の目の前に現れるのであった。


僕はユウトから『イシシ共和国』に戻らないでそのまま旅に出るように指示されるのだが……正直言って不安に思っていた。というのも、僕が知っているユウトという人間は……自分の命を大切にしていたはずなので、自分が死ぬかもしれない危険があるとわかっている戦いに向かうなんておかしいと感じるからだ……。僕はそのことについてユウトに対して質問すると、ユウトは……「そうだね……。確かに今の僕は、自分より弱い人達を守るために戦おうと思っているんだよ……。それがこの国の王様として……いや……人として当たり前の行為だと思わないかい?」と言われてしまい……。その通りだと思い、僕もユウタロウと一緒に戦うことにしたのだった。


その後……僕とリリスとユウタロウはユウナさんとユウキと合流して『イシシ共和国』を離れると……。魔王軍を倒す為に行動を始めるが……。魔王軍幹部である暗黒龍ディストと魔人族の四天王の一人である『氷雪将軍フリージア』が待ち構えている魔王城へと向かっている途中、暗黒龍ディストと戦うことになったのだが……。僕はディストとの戦闘の中で、違和感を覚えてしまう。それは、なぜだろう……僕はなぜか違和感を覚えてしまったのだ。それは僕が暗黒龍ディストの技を全て回避することが容易であったことに起因するのである。本来、魔王軍四天王の強さはかなりのものなので僕には勝ち目がないくらいなのだが……。それでも僕の体からは違和感が消えず……。僕は暗黒龍ディストをあっさりと倒してしまう。その結果を僕もユウタロウも予想できておらずに驚いた。だが……それよりも問題な事が起ころうとしていることをユウタロウが気づくと僕に伝える。そして、そのユウタロウが気が付いた事とは、魔王軍の四人目の幹部が現れたことだったのだ。しかも……僕の記憶に間違いがなければ……。この人物は……僕がこの世界に迷い込んだ原因となった少女であり……。『勇者 サノラ』の『聖属性 光 魔法』を使う『勇者』である。そして彼女は『魔王』によって召喚されて魔王軍に加わっていたらしい。この世界の勇者は魔王軍の一員になりうるのである。この勇者は『闇属性 闇 魔法』を使うらしい。この勇者の名前はなんというのだろうか……。まぁいいか……。今はそんなことよりもこの場を切り抜けることが優先だ……。と僕は考えていると、勇者がこちらに向かって攻撃を仕掛けてきそうだったので僕が『闇』を纏った剣で対抗しようとしたが……僕は『闇』の力を解放しても何故か『闇』を扱うことが出来なかったのである。この事実はあまりにも衝撃的で僕は動揺を隠せなかった。何故……こんなことが起こるのだろうかと。僕が勇者と相対するのと同時にユウトが、勇者と戦っていたが……どうやら互角に戦っていた。しかし……。勇者の力は圧倒的でユウトは劣勢に立たされる。僕はその様子を見ていることしかできなかったのである。すると、突然僕の身体に異変が起きたので僕は慌ててその場を離れようとするが……。どうやら間に合いそうもなかったので仕方なく僕は『無力魔法』を全力で使うことにするが……。僕は……自分の身体に何かが入り込んでくる感覚に陥り、吐きそうになるのであった。


「ユーマ!危ない!!!」と言ってくれてユウタロウの声を聞いた直後、僕に向かって斬撃のような攻撃をしようとしていた勇者の放った魔法『氷』が直撃したのを見てユウタロウと僕は絶句した。


それからすぐに、ユウナは勇者の追撃からユウマを護るように前に立ちふさがりユウマの代わりに攻撃を受けることになったのである。


それからすぐにユウナとアリエスが僕とユウトの元に駆けつけて来てくれたので僕とユウトもユウトの味方になってくれるようにお願いして僕達は勇者と戦い始めるが……どう見ても不利である。なぜなら、僕とユウトは攻撃が全く効かないからである。それに相手は勇者だ……。ステータス差もありすぎてどうにもならなかったのだ……。それから数分の間、防戦一方の状況が続いた時に僕達の背後から声が聞こえてくるので振り返るとそこには、先ほど別れたはずのリリスとリルがいたのである。僕は、二人が来てくれたことに嬉しくなってリリスの方に手を伸ばすが、僕の手を取ろうとする気配がなく僕は戸惑ってしまう。その様子を感じたリルは僕の方に駆け寄ってきて僕を抱きしめてきたのであった。


その行動に、僕はリルと別れる際に約束したことを思い出した僕はリルに「……ごめんね……。僕の為に頑張ってくれてるんだよね?ありがとう……。でも……。もう大丈夫だよ……。だって僕には頼れる仲間たちがいるからね。」と言って僕はリルから離れようと試みるが……リルはそれを許してくれなかった。それどころかリルの行動はさらにエスカレートして僕の顔を思いっきり引き寄せてから口づけまでして来たのである。そんな二人の様子を見せつけられた僕とユウトは……お互いに見つめ合ったあとで苦笑いをする。そんな僕達の様子をユウナとアリエスが見ていることに気づき僕はユウトと二人でユウナ達のところに移動し始める。それから僕は『神装武具 アヴァリス』に念話を使って話してみると『闇』の扱い方を教わることに成功する。僕はその『神装武具 アヴァリス』に意識を向けると……。


僕は、『神装 闇 魔法』が使えるようになり、その力で僕の周りに黒い膜を張ることに成功した。それからユウトと一緒にユウナとユウキ達の元へ移動を開始するが……その時、僕はあることに気づく……。そして……僕の視界の端では、僕に寄り添うようにして歩いていたリルとリリスの表情を見ると、二人は笑顔を浮かべていたのである。まるで……僕の心の中を読んでいるかのように。


僕は『神具 聖鎧 ホーリーアーマー』を呼び出した後で、僕が出せる限界の魔力を込めた『白魔法』の結界を展開しようとしたが……。その僕の姿を見てユウトは、僕とリル達の事を羨ましそうに見ていたので、僕の気持ちを理解してもらえたのかと思ってしまう。それから僕は……『闇』を纏った状態のユウトの肩に触れて『聖』の力を付与した。それを見たリリスとリルも、僕と同じようにユウトの『光』属性の魔法を付与することにしたのである。僕はユウトに付与したあとで『イシシ共和国』に戻ってから『魔王 ルシフ』を倒す為に移動すると言うユウトに対して、魔王を倒すなら急いだ方が良いと思うと言った。そんな時……リリスから僕に「私の転移の能力で移動すれば早く着けますよ?」と言われたので僕は迷わずに了承したのである。その後……僕はユウトの体を借りてリリスと共にユウトとリルの体を転移させてもらうのであった。そして……その瞬間……。僕は僕の知らない記憶が脳裏に流れ込んできて僕は混乱してしまうのであった。そんな僕は、自分の体に何が起きているのか全くわからなかったのである。すると……。僕の体は……リリスの体に変化が起こり始めていた。


ユウマさんが私に何かをしたのでしょうか……私はそう思って彼の顔を伺うが、ユウトさんは何が何なのかわかっていないようで驚いているようです。……そこで私の中で疑問が生まれる。彼は一体何をしたんでしょうか……。まさか……『イシシ共和国』の王様だから、何かの力を使えてもおかしくないですよね。それにユウトさんは王様なんだから当然といえば当然なのですが……ユウトさんの力は『イシシ共和国』で見せてもらったのですが……この能力が……あのユウトさんの本気だったんですかね。……まぁいいでしょう。それよりもユウトさんの様子が変ですね……。これは……私がユウトさんの体を奪った影響なのかもしれません。とにかくユウトさんと話し合いたいと思います。


それからユウナさん達がこちらにやってくると……なぜかリリスはユウナさんに謝っています。それからユウナさんが、ユウタロウさんとユウマさん、それからリルさんとリリスさんとリリアナさんとユウキさんが魔王軍の幹部の一人と戦っていることを伝えてくれるとユウタロウさんも戦闘に加わることになったようなのだが……どうして魔王軍の幹部である魔人族の四天王の一人である『氷雪将軍フリージア』を簡単に倒せたんでしょうか……。それに今のユウマさんの状態といい魔王軍幹部と戦っても平然としている姿には違和感しか感じられないんですよね……。それと……さっきからユウトさんの様子もおかしいのも引っかかる点なのです……。


それからすぐにフリージアを倒したユウマさんの姿が見えたので皆で向かうことにするのだけど……。何故かユウトさんの体を借りているはずの、リリスの髪の色は黒色ではなく銀に近い色になっているのはなぜなんですかね……。とりあえずユウトさんが無事な事を確認した後で私達はユウトさんに抱き着いてみました。そしたらなんとなく安心できた気がしたんです。ただユウトさんの方は何故か顔色が少し悪いので回復魔法を使うために離れると言い出してしまった。そして……。私はユウナちゃんとアリエスさんを呼び出す。この三人とは一度、一緒に行動しているしユウタロウとも知り合いだからだ。それに今……私の体の中にもう一人の魂がいるはずなのに、なぜか……この世界に来てからは一度も会ったことのないもう一人の幼馴染のユウカの声が聞こえたのに私は驚くのであった。ユウナさんに事情を話したらアリエスが「じゃあ……。ユウトの体が危ないかもしれないんだね?……急いで助けに行こう!」と言ってくれたので……早速……この三人と合流させてもらえることになり、私達はユウトさんの身体の元へと向かうのでした。


僕が目を覚ますとそこは、どこかの建物の中だったが……。周りにリル達の姿が見当たらないのである。そんな僕の身体に異変が起こっていることに気づき……。僕も勇者もお互いが驚愕したのだ。なぜなら、僕の目の前にいる人物は勇者と同じ名前であるユウヤで、どうやら僕の身体の中にユウヤの魂が入っているみたいだからだ。ユウトが、僕の中に入ってきたときにも似た感覚があったが……。ユウヤが勇者と知って驚いたせいか……今はその感覚がないのである。だが、僕が意識を取り戻した時に僕の身体に異変が起ころうとして、僕は自分の体に何が起こったのかわからない。だが……このまま放置しておくのは良くないと思い、僕は慌ててユウマの記憶を頼りに『闇』を自分の身体に宿らせる。それから自分の体を見渡したが特に異常は見られない。それからしばらくすると僕の意識が戻ってきてユウヤがこちらの様子を伺っていることに僕は気づいた。それからすぐに僕は……自分が意識を失う前のことを思い出そうとするが……頭が痛くなり始める。すると、そんな僕の様子を見てユウヤは、僕の背中に手を当ててくれたので……僕は落ち着いて考えることが出来るようになってきた。そのあとユウトは僕の状態がわかると「お前が何者か知らないが……俺と戦え!……じゃないと……。俺は……。」と言っていた。そして……ユウナが僕の元に現れたと思った瞬間に僕の視界が突然……変わり始めていくのである。


その事に僕が戸惑っていると、そこに現れたのはユウトさんで、ユウトさんに説明してもらおうと話しかけようとした時にユウトさんに口づけされてしまっていた。僕は……こんなところでなんて事を!……と思って焦ってしまう。そんな僕の様子をユウナは不思議そうに見ていたが……僕は気にしないことにしたのである。そんな事をしていたからか、ユウトが何かをしていたのは分かっていたけど、何をしているのかまではわからなかったが、僕の身に何か起こったことだけはわかっていた。でも……それを知る術はなかった……。そして僕には……『神装武具 アヴァリス』の能力を使ってリリスと共に転移させてもらいながら……僕の意識は再び暗闇に飲まれてしまったのである。


次に目が覚めると、今度は先程とは違って辺り一面真っ白の世界にいたのだ。しかもその場所は何処なのか分からない……。そこで僕は「ここが夢の中でないことを信じろ……」という言葉を思い出した後に、「『アヴァリス』の力を解放しろ!」と言う言葉も浮かんで来たため、僕は迷わずに『アヴァリス』を召喚してみる。その途端……『闇属性の波動』を放ちながら剣が現れた。僕は、その光景を見たあとで「これが……僕の『神装武具 アヴァリス』?」と口に出し確認してから……念話機能で「リリス。聞こえる?」と聞いてみると……。すぐに念話が繋がり僕はリリスと会話ができるようになり、僕に何が起きたのかを聞いた。その結果、僕は、リリスの転移によって『イシシ共和国』に連れて来てもらったということがわかり僕は納得することが出来た。僕はそれから、『アヴァリス』で僕の周りを包み込むようにして『白魔法』を発動すると結界を展開することができた。さらに僕は、『闇魔法』を『アヴァリス』から放出すると……僕の周りには黒い膜が出来上がったのである。それから僕は、僕自身の状態を詳しく把握することにした。


まず僕は、自分の体を『闇』で覆い尽くせることを知った。それに、今まで僕の魔力ではできなかった魔法を使うことまで出来ていることに僕は喜びを感じた。その次に、僕は僕自身に対して回復魔法をかけることにした。何故なら、この体は、僕ではなく『ユウヤ』の体だからである。その事で……もしこの体がユウトのものなら良かったのに……と思ってしまった。僕は『光属性の魔力球』を生成してからそれを手に持ち「ヒール!!」と叫び、光に包まれる。すると体の傷や体力が完全に回復したことがわかると「凄い……。こんなことができるようになるなんて……。これは……本当に僕の力なのか?」と独り言を口にしてしまうほど、凄まじい効果だと思えるものであったからだ。その後……リリスやリル達が近くにいることを感じ取れたのだが……。何故か僕の傍から離れずに付いてきているようである……。それから少しだけ離れた場所で話し声が聞こえてくる……。多分、僕の体に何が起きているのかをリルが説明しているようだ……。しばらくしてから僕の身体が突然動き出してリル達の元へ近づいて行くではないか……。どうなってるんだよこれ……。そう思っていたら、いつの間にか僕もリルの近くに移動していてリルに頭を撫でられていたのだった……。


リルの話を聞いて、とりあえず状況を理解したが……正直まだ信じられない出来事が起こっている。それにしてもリリスってあんなに強いのか?……俺にはよく分からなかった。だって俺の目には見えなかったからな。それからリリスの強さの件に関しては一旦保留することにして俺はこれからどうするかを考え始めていた。


まずリリアの居場所を探さないといけないから『イシシ共和国』に行ってもいいんだけど、リルが『魔王 ルシフ』の話をしてくれているから『イシシ共和国』に行ったらリリアにも迷惑をかけてしまう可能性がある。それに『魔王 リリス』のことも心配だから……。そうなると俺が知っている国と言えば『オキノ王国』と『シシオ帝国』だけだ。だが、リリスの実力を見る限りだと、魔王軍に対抗できるのは勇者くらいしかいないだろうから……リリスが一人でいるところを狙われたら危ないだろう。それに勇者と魔王軍の四天王が戦っている場所に勇者が不在っていうのも問題な気もするしな……。『魔王軍四天王リリス』にリリアが捕まっている可能性が高いのも気になるところである。とりあえず……俺は今、俺が居るこの世界がどこの国かもわかっていない。リル達に聞いたところで分かるかどうかも怪しいものだ。だけど、ここに留まっていても仕方がないのは事実だしな。


「なぁ……。俺を元居たところに戻してくれることは出来ないか?」


「うーん……。それができればいいのですが……。」


俺の言葉を聞いてリリスは申し訳なさそうな顔をしていたが……。


「ユウト殿が元の世界に帰りたいのは当然の事だな……。すまないが私も出来るならば協力してやりたい。」


リリスは困った顔で答える。だが……リリスの言葉を聞いていたリリスは「リリスは、リセルに頼まれて、僕と一緒にユウト様のお世話係としてユウトさんと行動を共にしていたんです。だからリリスが謝る必要はないよ。それにリリスがユウトさんのお願いに応えられないのも無理はないと思うし。」「そっか……。リリィやアリスが言ってたけど、今この世界は大変なことになっているんだろ?……そんな中、俺の勝手で皆を振り回してしまったのは悪かったと思っている。皆に危険が迫ってるのかもしれないんだ。」


「そんなことないですよ!ユウト様。ユウト様のおかげで私達はこうして生き延びられたんですよ。」と笑顔で言うと……リルも続けて言う。「そうだぞ。むしろ、感謝しか出来ないよ。……ありがとうユウト。そしてごめんなさい。私が弱いせいでユウトや皆を巻き込んでしまっていたのだから。でも……。ユウト。ユウトは、私の大切な友達だと思っていて良いかな?」と……。その言葉を聞き、俺が黙ってリリィ達の方を向くと……リリシアやリルと同じように笑みを浮かべてリリスやアリスが首を振っていた。そんな様子に安心して……。


「リリアナも助けに行かないと……。でも……今の俺には何もできる気がしない。だから、もう少し待っていてくれないか?……。今はまだリゼルの所へ行って、リゼルに修行をつけてもらえないか頼んでみるつもりだから。それと、もし、リリアナを攫っていった相手が勇者なら……。俺の力で何とかしたいとは思う。」


「そうね……。わかったわ。……リリスさんとリリアちゃんを頼むわ。私は、勇者との戦いに備えて強くなることにする。それに勇者と戦うなら戦力は多い方が良いものね。勇者は『光属性』を持っているはずでしょ?それなのに私と相性の悪い『闇属性』を使うユウトが一緒にいたほうが、きっと心強いはずだわ。」


俺は……。俺のことを見てくれて仲間になろうとしてくれて受け入れてくれたリルに感謝しながら、そして俺が『闇属性』を使うことが知られてしまったことに後悔しながらも、「分かった。それじゃ俺はもうしばらくリル達には内緒にしてくれるとありがたい。俺が『闇魔法』を使うことを知っているのはリルとアリスと『アヴァリス』だけで充分だと思うから……。それからリリアの事は任せてほしい。……必ず見つけ出すから!」と答えた。そうして今後のことをある程度決め終えた時、ふと思い付いたことがあったので、それを確認するためリリスに声をかける。


「リリスは、『神装武具 アヴァリス』の能力を知ってるか?」


「はい……。それは……『闇魔法』と……そして『闇属性魔法』が使えるようになることですよね?確か……その能力についてはリリアさんが言っていたと思います。ですけど、『闇魔法』は……まだ使えませんけど。」


俺の質問に対してリリスが答えた。やっぱり、リリアナの奴が説明してくれたのなら間違いないようだな……。


「なるほどな……。確かに『闇魔法』はまだ使えない。ただ……。『闇属性魔法』なら……使えるようになったみたいだ。試したことはないけど……。多分使えるはずだから……後で使ってみるけど、その前に聞きたいことがあるんだけど……。いいか?」


「はい。なんでしょうか?」


「『闇属性』と『闇属性』を使えるようにするにはどうすればいい?」


「そうですね……。闇と向き合って……認め合えればいいのかもしれません。私の場合は『神』の力を借りることが出来ましたが……。他の人の場合は分かりかねます。ちなみに……。その『神装武具 アヴァリス』の力があれば、多分、『アヴァリス』を扱えるようになるんじゃないかと思っていますが。『神』の力が無くても、武器に認められた者はいるらしいので。それから、もし、闇を受け入れられるようになるまで時間がかかったとしても……。『闇』を受け入れることが出来た後に……。今度は『神』の力を借りて、力を解放することが出来るそうですよ。なので、『闇魔法』に関しては……。リリスさんもユウト様と同じように努力次第で覚えられるのではないかと思っております。まぁ……まだ先になるでしょうけど。……あとは……。『アヴァリス』の能力は、『闇魔法』だけではなく……。色々な力を使えるようになるということも伝えられております。例えば……結界とか転移みたいなこともできるようになりますから。」


俺の言葉を聞いたリリスは少し考えてから俺の問いかけに対して答えると……『闇魔法』の説明も付け加えてくれた。そして俺の問いに対して丁寧に答えたリリスは微笑む。その顔を見た俺は……この子は、リリアに似ているなと感じながら思ったのだ。その事をリリスに告げてから、俺はこれからどうするべきかを考えていた。するとその時だった。突如目の前の光景が変わったのである。


リゼルによってこの場に連れてこられた僕達は、この世界の状況と『神』について話されたのだが……。その後、リセルやリリィ、リル達と共に、僕もこれからの行動をどうするかを考えようと話をしていた。そんな中……僕はこの世界に突然飛ばされて来た時の事を思い出したのだが……僕には気になっていた事がもう一つあったのだ。僕はリルに「なあ……リル……。ちょっと聞いておきたい事があるんだけれど……。」「何?ユウト……。なんでも相談してね。私にできることがあれば協力させて欲しいの。それに、私がユウトにしてあげられることは本当に少ないかもしれないけど……。」


僕が声をかけると、リルは僕の手を両手で握りしめてきた。


「ありがとう……。実は俺の世界とリル達の世界で時間がずれていることが関係あるんだけどさ……。『リリアナ・クルス』が行方不明になったのは、リゼルと出会ってすぐだっけ?」


僕の言葉に……リルが真剣な顔になって考え込んでいた。リリスはというと「ユウトさんが……何を考えているのかわかりませんが……。リリアさんの捜索に関して……何かしら手がかりが掴めるかもしれませんから……。教えてください。お願いします。」と僕に向かって頭を下げた。僕がリリアナの名前を出すと、皆が黙って注目している。そんな中……リルだけは、難しい顔をしていたが……。「そういえば……。確かに……。リリスさんやアリスと出逢う前からユウトは……リリアさんを探していると言っていなかった?それに私達がユウトに会ってすぐにリリアさんの姿は見ていないし……。そもそも……『魔王城』に行った時には既にユウト達は、あの部屋にはいなかったはずよ……。」と言い出した。そのリルの話を聞き、皆の視線が俺に集中する。


「ああ……。俺が居たのは『魔王城』じゃなくて、リリシアが暮らしていた村にある洞窟の中なんだ。」


「なんですと! それでは……。ユウトは……。魔王軍幹部である『リリス・リリアナ』と……行動を共にしていたってことになるぞ!どういうことだ!? リリアナは魔王軍四天王だろ!しかも……勇者である私ですら倒せなかった相手なのだ!……それを……。ユウトが一人で倒したって言うのか?」


俺の言葉を聞き、リリィが驚いていたが……リリシアやアリス、そしてリルやアリスが驚きの声を上げることはなく、俺を睨みつけてくるわけでもない。そんな中、俺は、どうして皆が驚いた表情をしているのか理解できなかったので、理由を聞いてみたら……リリィ以外の三人が説明を始めてくれた。だが俺はそれよりも『勇者』『勇者パーティー』と言う言葉が気になってしまったのだ……。そこで俺は思いきってリル達に聞くことにした。


「あのー……。今更だけど……俺は勇者様と会ったりとかしてないし、それに勇者様がどうのこうの言う以前に……俺はただの冒険者だから、リリィが思ってるほど特別な存在じゃないよ。……俺には、よくわからないんだけど……。『アテトの加護』を持っていると『勇者』と呼ばれるって……聞いたことがあって……。それのせいだと思うんだ。」


「なるほど……。でも『アテイタの加護』を持っているって言っても……。リリスはともかくとして……。リリィは『魔剣 アスタルト』と契約してなかったのに……。どうやって……リリアナを倒すことができたの?」


俺の話を聞いたリリシアは不思議そうな顔をしてから質問してくる。俺もその事に疑問を持ったから……疑問をそのままぶつけてみる事にしたのだ。


「それがな……。その……言いにくいけど……。『神装武具 アスカトルシリーズ』を手に入れて……。俺の固有能力が目覚めるきっかけになった時に……なぜか、リリスと一緒に、その……。『アテイタ』? って人のところに行けたみたいなんだよ。」


俺は言葉を詰まらせながら……『神』の力の事を説明して、俺の固有能力を覚醒させる切っ掛けになった時に起きた不思議な現象についても説明すると……。リリスが興味津々な様子だったが……他の人達は特に気にならなかったらしく、特に反応しなかった。そんな時……突然目の前に映像が現れたのである。


「これは……なんだ?」僕はそうつぶやくと同時に、周りを見渡してみるけど……リルもみんなも同様に混乱しているみたいだ。


すると……そこに映し出されたのはリゼルだった……。その映像の中で『アヴァリス』から『聖光砲』を放とうとしている勇者と対峙する僕の姿が映されているのだが……。僕が『神装武具 アヴァリス』を手にした瞬間の映像で止まっていたのである。そして映像の中にいるリリィの姿を見た途端、映像が変化し始めたのだ。そこには、この世界の景色が写し出されたのだが……そこは先ほどまで見ていた風景とは少し違っている場所だった。それはまるで地球上の何処かに転移してきたかの様な感覚に陥った。その場所に立っているリリィは……なぜか、涙を流してこちらを見ながら必死な形相で叫ぶような仕草をしてる……。その隣にいるのは……リリシアなのか? なんだろう?……なんか凄く嫌な予感しかしないんだけど……。僕の隣を見るとリリスやリゼル達、そしてアリスと『リザード族』もいて、その後ろには大勢の人達が居るけど……。あれ?……リリアナは居ないのかな? そして、僕はその映像に目を奪われていると……。突然……映像の中の世界が崩壊し始めると僕はその衝撃に巻き込まれてしまい、僕は地面に押し倒されたのであった。


リリスは目の前に表示されている画面から『アスタロッテ』を呼び出してほしいと言われた為、私はその通りにした。


私が画面に手をかざすと……私の目の前には、『神界の神アスタロッテ』が姿を現すと彼女は嬉しそうに微笑むと私を抱きしめる。


私は、抱きつかれて恥ずかしいと思うのであるが、何故か悪い気はせず……。むしろ嬉しい気持ちになっている自分に気がついて驚くのであった。「リリス……。おひさ〜。元気だった?……私も会いたかったよ。」そう言うと『神』は微笑んでくれたのである。その後……私が挨拶をするのに合わせて『リリス』が私達のところまで来てくれてから『アスターシャ』を紹介してくれたので、リリス達も簡単に自己紹介を行うことになったので私達も一緒になって名前を名乗ったのだ。それから『リリス』は『神』に「私に何か話があったのですよね? 何でしょうか?……あぁ……。そういうことですわね……。『魔王城』ですか? そうですねぇ……。確かに『アテナ様』は今『リリス』と話をしていますから、『アテナ様』の許可があれば、いつでも行けますけど。『魔王城』に行ってどうするのですか?」『アテナ』というのはどうやらリリアナのお母様の名前みたいである。


「いえ……。まだ何も考えてはいませんが……。私とユウトだけで行ってこようと思います。それと、私達が不在の間に、もしリリィに異変が起こった場合には、そちらの対応をおまかせしたいのですが……。」私達は、『神』の話を聞きながら今後の行動について話していた。その後……私は、どうしても聞いておきたい事があり質問することにしたのである。まず……私達の状況についてだが……『リリアナが行方不明になった事でユウトの心の傷が大きくなっており、この世界の時間軸が少しずれた事』が原因で、この世界の時間は少しだけずれてしまったのである。だが、この世界の時間を正常に戻す方法については『神』が知ってはいたものの『ユウトと二人でないと出来ないため』と話すと、リリス達を連れて行くことはできないと説明してきたのだ。そのため私達の目的は『魔王城にリリアナがいるかどうか確認する事』『魔王城にいる間にユウトの心を完全に癒やす事ができるように準備すること』『魔王城を後にする際……もしも私達に何かあった場合に対応可能な体制を構築するために、ある程度の戦力を整える』と言う3点になり、リリスからの提案もあって……まず、最初に行うべきなのは、リルやアリス達に『魔剣アスカトルシリーズ』の使い方を教えることだという話になって、私は『魔剣アスタルト』を取り出すことにした。「あら……リリスちゃん……久しぶりだね〜。どうしたんですかね〜。そんな怖い顔して。それにしても……相変わらずかわいいな〜」


私は自分の手元にある『アスタルト』を眺めていたら突然背後から誰かに声をかけられた。私は慌てて後ろを振り返ると……。「『アテナ様』……」「ふぅ……。良かった……。覚えていてくれたんですねぇ。リリスちゃん」と『神』が言うのを聞いて……。「あの……私を知っていただいてるのですね。」とつい口に出して言ってしまったのだ。だって……今まで一度も見たことも会ったこともない人から声を掛けられるなんて普通ありえないことだと思うからだ。だが、『アテナ様』は、「当たり前じゃない!……忘れたくても忘れられませんよ……。」と言ってくれたのである。そしてその後は私の方からユウトの話を聞くと、「なるほど……。ユウトは心優しい少年だからね……。」とつぶやく様に言った後、『神界で預かっているリリアナの捜索に協力してあげる代わりに魔剣アスカトルシリーズを貸して欲しいという要求は受け入れてもらえましたけど……問題はどうやって協力してもらうのかですけどね〜……」と言い出したのだ。リリスは『リリアナの母』と言う事もあり、『神界』と繋がりがある事はわかっていたけれど……。その情報を聞き出すために、私は、リル達を呼んできて貰うことにした。それからすぐに皆が揃ったのだが……。「さて……。それで……。リルさん達に、聞きたいことがあるのですけど。……いいですか?」と『アテナ』が言うと、リリィ以外は全員揃っていたので『アテナ』の方へ向き直ると……「えぇ。問題ないですよ」と答えたのだ。それを聞いたリリスもリルの言葉を聞いて納得すると『神』との話し合いに参加する事になった。「実は……あなた方にお貸しした魔剣なんですけど……。リリスちゃんが持って行ってしまう前に一度試してみて欲しかったんですよ。それで……今から……その力を皆さんに体験してもらおうと思いまして。」


『神』が笑顔で言うのを見て私は、何をするのだろうと疑問に思った。「じゃあ……お願いします!」『神』はそう言ってから右手を掲げると魔法陣が現れた。その様子を見ていて不思議と安心感を感じている自分がいて……。なんでだろうと思いつつも……『魔剣アスカトル』を構えると……。『アスタルト』が輝きだすと刀身が少しづつ伸びていき、最終的に1メートルぐらいの大きさになるのを確認する。


リリスも驚きの声を上げていたが、一番驚いたのは、アリスと『神獣王 ハクリュウ』だったみたいだ。『神装武具 アヴァリス』を見ているアリス達には理解できたみたいだけど……。他の人にはただの棒切れにしか見えないと思うから仕方ない。それから私は『神界』の『聖騎士』が使用している訓練場に移動して、『魔剣士の訓練を始める事にするのだった』。


僕とリリアナは、突然目の前に現れた映像からリゼルと戦っている僕の姿が映された。映像に映る僕は……なぜか全身が血だらけになっていた。僕がそんな状態で戦っている映像を見せられ……困惑してリリスに話しかけようとした時に「お兄ちゃん!!」そう言いながら部屋に入って来た一人の女性が映った。僕はその女性の姿を見て……なぜか胸が高鳴るのを感じた。僕は……なぜ彼女が僕の名前を知っているのだろう?と思ったのだが、そんな事を考えている場合ではなく、その少女

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