第13話 母上様

「お帰りなさい。アキト、ギルちゃん」母の声がする。


「ただいま、母さん、今日は休みだったのか」母は、俺を養う為に、ほぼ休み無く働いている。休みでも時間を無駄にしたくないらしく、掃除や料理を手抜きせずに動き回る。


「うん、今日はお店が暇だったから早く上がらせてもらったのよ」早くに結婚し、俺を生んだがすぐに父が病気で死んでしまい、女で一人で家計を支えている。よその母親と比べるとまだまだ娘のような容姿である。


「母上様、お手伝いいたします」ギルは鞄から飛びだすと、母の元に駆け寄り掃除の手伝いを始めた。


「あら、ギルちゃん、ありがとね。でも、アキトと遊んでていいのよ」母は優しく微笑む。


「いいえ、アキトも手伝うのだ」ギルは洗濯物を指さした。たためという事らしい。


「本当に、ギルちゃんのお陰で助かるわ。今時の玩具のロボットって凄いわね」母は、ギルが普通に売っているオルナスと同じもので、他所のオルナスもギルのように自分で思考して動く物だと思っているようだ。


ギルを拾って来たあと、彼を修復する為に俺のバイト代金をつぎ込む事になった。元々、俺がバイトを始めたのは家計を少しでも助ける為だったのだが、ギルの言う部材を手に入れるには、不可欠であった。

母は、家計の心配などしなくて良いから、自分のやりたい事、欲しい物にバイト代を使いなさいと言ってくれた。決して楽では無かったであろうが、他の子供に引け目を取らしたくないということらしい。


お陰でギルは1年かけて、今のように自由に動けるようになった。ギル自身も母に恩義を感じているらしく、彼女の喜ぶ事は率先して行うようになった。疲れた母のマッサージも彼の仕事であった。 


目立つ事が嫌いなギルが、あのオルナスの格闘技大会に出ると言ったのも実は賞金100万円が出ることを知り、少しでも家計の足しにしてもらえればという彼の恩返しの気持ちだった。


ギルから賞金を受け取った母は、喜んだがこのお金は使えないと言って、ギルの為に貯金するという事であった。


「助かったわ。二人ともありがとね。後は良いから二人で遊んで良いわよ。あっ、少しは勉強もするのよ」


「母上様も、たまにはゆっくりお休みください」ギルは心配そうな声で労った。


「大丈夫よ、ギルちゃん。私は止まると死んじゃうのよ。本当にありがとね」彼女はギルに優しくキスをした。なぜかギルが恥ずかしそうな仕草をしたような気がした。




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