『さようなら』で終わり、『さようなら』で始まるラブコメ!

夕日ゆうや

さようなら

 献花台に花を添えて僕は引き下がる。

 男の子だから涙を必死にこらえて葬式に参加する。

 隣の家で窓を開ければすぐ手の届くところにある、いやあった彼女。

 親同士が仲良くしていれば、そりゃ僕たちも自然に仲良くなる。

 だから、こうして献花台の前で泣いている。

 でももう会えないことを知っている。だから僕はこう告げる。

『さようなら』

 誰かの声が僕の耳朶を打つ。

 爽やかな風が身体を吹き抜けていく。

 暖かく湿った空気。

「まだ十五歳なのに」「犯人を逮捕できないものかね」「これじゃあまりにも不憫よ」

 周りにいた大人がそう言うが、僕は違う。

 犯人には怒りの鉄槌を。

 慈悲なんて必要ない。

 死ぬまで苦痛と嘆きの中死んでいくといい。

 僕の愛する真彩まあやを殺したんだから。

 愛していた。愛し合っていた。

 彼女はどこまでも純粋無垢で人を疑うことを知らない危なかっしい子だった。

 そんな彼女がなんで死ななければならない。

 なぜ生きてはいけない。


※※※


 ふらつく足取りで学校に向かうと、そこには波瑠はるがいた。

「よ。秋斗あきと。大丈夫?」

 この間の事件を知ってか、波瑠は様子をうかがうように訊ねてくる。

「うん。大丈夫」

「そうはみえないけど……」

 波瑠が困ったように頬を掻く。


 真彩が死んでから二ヶ月。大掃除していると、一冊の大学ノートを見つける。

 僕はそのノートを手にする。

 そこには真彩の毎日の日記が描かれている。

「あれ? こんなの買ったっけ?」

 それに真彩と交換日記などしたこともない。

 僕は空いている空白に僕の日記を書いた。

 すると、そのあとに文字が浮かび上がる。

 真彩からの返事だ。

 死んだはずの真彩からなぜこんなメッセが届くのさ?

 混乱する中、真彩と確認するため、また自分が秋斗であることを証明するため、いくつかの質問を応えてきた。

 そんな中で一部誤解はあったものの、まさしく真彩だった。

 交換ノートで、こんなことができるなんて驚きだ。


 その数ヶ月後、波瑠が量子もつれ準備機構を開発。それで向こうの、僕が死んだ世界線へいけるカプセルを作ってくれた。さすがは科学者である。

 波瑠や他の生徒に見守れながら僕はカプセルの中に入る。

 波瑠がスイッチを入れ、僕は徐々に身体が消えていく。

 最後に一言。みんなにどうしても伝えたいことがある。


『さようなら』

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