8.25.不安
前鬼の里に戻った僕たちは、里の惨状を見た。
家屋などが破壊されており、城も少し傷ついている。
田畑は距離があるので大きな被害はないが、その付近に建っている小屋などは粉々になっていた。
農具が散乱し、それらが田畑に突き刺さっている。
ところどころに墜落したと思わしき天使が転がっているのも見て取れる。
最も被害が酷いのは城下町だろうか。
タタレバが戦った時の数倍は被害が出ている様だ。
今も鬼たちが倒壊した家屋の撤去作業と、救助活動を行っている。
僕たちが移動してすぐに、攻めて来たのか……。
倒れてる天使の数を見る限り、戦いには勝ったみたいだけど、空からの攻撃はやっぱり防ぎきれなかったみたい。
結構、ぼろぼろだ。
「皆は?」
「あっちっぽい。城に集まってるよ。二の丸御殿かな」
「了解~。じゃあそっち行ってみるねー」
アブスが翼を広げて滑空する。
城の周囲を旋回しながらどこに仲間がいるかを探していると、アマリアズが言った様に二の丸御殿の正門に集まっていた。
応錬が技能を使って怪我人の治療を行っている様だ。
少し離れたところに着地する。
すると、アブスはすぐに膝を着いて寝転がってしまった。
「ちょ、アブスさん大丈夫ですか!?」
「もう無理疲れた……。体痛い……」
「で、ですよねぇ~……」
結界の上でどれだけ激しい戦闘があったのかは知らないけど、僕の『爆拳』を受け止められるアブスさんがボロボロになるくらいだ。
大天使が一人来たみたいだし……。
それでよくあれだけの時間を耐えたものだと思う。
それから僕たちをここまで運んだんだし……そりゃ疲れるよね。
「アブス」
「「おわぁああああああ!?」」
テケリスがぬぅ、と地面から出てきた。
だが実際は地面から出て来たのではなく、液体状になったテケリスが高速で地面を這い、アブスの近くで人間の姿を形作りながら立ち上がっただけだ。
なので彼の足は未だに黒い液体のようになっている。
いやびっくりした!
めっちゃびっくりした!
「大丈夫か?」
「全然ダイジョバない」
「……この傷。アブスの肉体を焼くほどの炎技能。『
テケリスは難しそうに眉を顰めながら、喉を鳴らした。
どうやらアブスさんと戦った大天使のことを知っているらしい……。
まぁこの人なら知ってるよね。
「あ、あの! テケリスさん!」
「なにかな?」
「あれから何があったんですか?」
「ううん、少々厄介なことになったかな。まぁ本物の技能を持った天使が随分攻め込んできた。あれは邪神復活を阻止をしようとしていた派閥だな。応錬がフウリルとかいう天使に苦戦していたがな」
てことは、ガロット王国の方に邪神を復活させたかった派閥が来たのか。
これは誰の指示なんだろう。
大天使は天使を戦力として考えていなさそうだし……。
なにより被害も甚大なはず。
これ以上の戦いは、相当難しいんじゃないだろうか……?
「被害状況は分かる?」
「天使は九割片付けた。自分の記憶違いでなければ、残りの天使は四名程度かね。大天使の下位互換に自分は後れを取らん」
「こっちの被害は?」
「家屋が倒壊した程度で、死人はほぼいないはずだ。まぁ死にかけは多いがな。鬼はしぶとい。とはいえ、応錬が治してくれている。そっちは心配しないでいい」
「……? そっちは?」
なんか変な言い回しだった。
アマリアズを見てみると、眉を顰めて何かを探している。
技能を使っているみたいだけど、何を探しているんだろう?
聞いてみようとしたところで、僕も違和感に気が付いた。
いつもあって然るべき馴染みある気配がない。
草の根を掻き分ける様にして探してみるが、やはり見つからなかった。
「テケリスさん」
「ん?」
「ウチカゲお爺ちゃんはどこですか?」
「言っただろう。厄介なことになったと」
ひゅっ……と体の底に何かが落ちていった。
急に噴き出すような不安が襲い掛かり、血の気が引いていくのが分かった。
どこに行くでもなく走り出そうとしたが、それはアマリアズに止められる。
「待って宥漸君」
「でっ、でも!」
「大丈夫、ウチカゲお爺さんはここにはいない。テケリスさん、もったいぶらずに教えてよ。私たちはそこまで頭良くないんだから、君たちみたいに少ない言葉で現状を把握できない」
「そうか、すまない」
コホン、と咳払いした後、彼は簡潔にここで起こった事を教えてくれた。
「ウチカゲは天使の転移技能で何処かに飛ばされた。老体とはいえ本質持ちの鬼だ。そう簡単にくたばるまいよ」
「どこに飛ばされたんですか!?」
「それが分かれば苦労しない。とはいえ、見当はついている。さぁ、帰ってきてもらってそうそう悪いが、さっさと準備してもらうぞ? 積年の恨みを今こそ……。参るぞ、大天使の本拠地に」
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