8.24.Side-ウチカゲ-テキルの魔道具


 ウチカゲの『影媒体』を音もなく、気配もなく吹き飛ばす魔道具。

 十中八九テキルが作ったと思われる物だ。

 ようやく引っ張り出してきたか、と思いながらしっかりと腰を落として構えを取る。

 あの魔道具の威力と恐ろしさを、よく知っているからだ。


 遠目から敵の姿を視認しているので、どの様な物を持っているかどうかまでは正確に判別はできない。

 しかし銃のような形であるということは分かった。


 あれは応錬が眠っている頃、零漸がウチカゲに教えてくれた物に酷似しているような気がする。

 テキルもその形の武器を作ってみようと、張り切っていた記憶もあった。

 実際に完成した魔道具を見てはいなかったが、ああして現存しているということは、隠れて作っていたのかもしれない。

 作ったからこそ、その恐ろしさが分かったのだろう。


 とはいえ、今その武器と技術は天使共の手に渡っている。

 武器や資料、そのすべてを破壊しなければ、今後また天使は力を付けてやってくるだろう。


「今、最も早くその役目を遂行できるのは私たちだ。天打、次は抜かるなよ」

「──(コクリ)」


 頷いた瞬間、二人は一気に動き出す。

 場所はすでに把握している為、その間合いをほぼ一瞬で潰した。


 接近してみて分かったが、狙撃してきた者は分厚いローブを身に着けており、目深にフードを被っている。

 それが半透明に揺らめているので、恐らくこれも魔道具だ。

 だが目視さえすれば見失わない。


 ゴンッ……ベギョアッ!!

 天打が敵の乗っている大木を根元から殴り、簡単に折る。

 バランスを崩して跳躍したところで、ウチカゲが躍り出て敵の持つ魔道具を優先して破壊しにかかった。


 手刀で魔道具を叩き壊す。

 しかしその瞬間、ブンッと小さめの魔法陣が出現した。


「! テキルの自動防御!」


 パチィンッ!!

 ウチカゲが振り下ろした腕が弾かれる。

 テキルが作り出した自動防御の魔道具は、加えられる衝撃と同じ威力の衝撃を弾き返すというもの。

 完全に相殺されるのだが、今回はウチカゲの腕が弾かれた。

 どうやら、数割ほど強化しているらしい。


「……!」


 魔道具の効果が発動してようやくウチカゲが接近してきたことに気付いた相手は、落下しながら懐をまさぐった。

 そしてすぐにやけに角ばったピストルのような物を向ける。

 飛び道具であることは間違いなさそうだ。

 分かっていて素直に受けてやる義理はない。


 乾いた音が鳴る。

 紙一重で小さな弾丸を回避したウチカゲは今度は武器ではなく本体へと攻撃を繰り出すため、瞬時に肉薄する。


 ゴッ……!

 敵からも同じ魔法陣が展開された。

 衝撃が中和され、即座にウチカゲに帰って来る。


「ぐっ!?」


 体が吹き飛ばされた。

 ウチカゲの本気の攻撃には至らないものの、その衝撃は大木を一つひしゃげさせるほどの威力だ。

 久しぶりに吹き飛ばされた、と思いながら立ち上がり、打ち付けた背中を庇う。

 痛みはそこまででもないが、腰に負担がかかりそうだ。


「歳はとりたくないものだ……」


 この間、ウチカゲのカバーをしたのは天打である。

 ピストルからの攻撃を巧みによけて肉薄し、殴るのではなく捕らえることに重きを置いて攻め立てた。

 腕を網にして覆いかぶせる。


 すると相手は懐からナイフを取り出し、それを即座にピストルに取り付けた。

 無造作にピッと振るうと、天打の作り出した網が一瞬で切り裂ける。


「斬撃増幅……!」

「──(頭を掻く)」


 この相手、魔道具の扱いが上手い。

 何度も使い続けて熟知しているということがよく分かった。

 魔道具に頼った戦い方しかしていないが、逆にそちらの方が厄介だ。

 数種類の魔道具を持っていれば、その数だけ技能と同じ攻撃や防御を行える。


 それに、使っているのはテキルが残したと思われる物。

 一つでも厄介なものは多いのに、複数相手にするとなれば骨が折れる。

 なにより攻撃を無力化され、尚且つ反撃される防御型の魔道具が厄介だ。

 あれをどうにかしない限り、攻撃は当てられない。


 相手がまた銃を振るうと、天打が半分に両断された。

 三枚刃の斬撃の様ではあったが、それを一点に集中させることもできるようだ。


「……」

「天打の速度についていけるのか」


 相手はウチカゲを見る。

 どうにも動きが人間臭い。

 恐らく天使に協力している人間なのだろう。

 昔、宥漸とアマリアズを狙ってきたのは、こいつらかもしれない。


 魔道具袋からカラクリの熊手を取り出し、片手に装着する。

 シャンッ、と刃を伸ばして構えを取り、一瞬で背後を取った。


「!!」


 相手の脇から、銃口がこちらに向いている。

 パンッと乾いた音が森の中に鳴り響く。

 横っ腹を弾丸が貫通した。


「ぐぬ……」


 久しく感じていない痛みというのは慣れないものだ。

 咄嗟に身を引いて距離を取った。

 だがその瞬間には、既にライフルがこちらに銃口を向けていた。


 シッ──……!

 ほとんど音がない攻撃。

 そういった気配もないものだから、ウチカゲは反応に遅れた。


 ドン、と鋭い振動が体中を走り、弾ける。

 ウチカゲは目の前でバラバラになる『影媒体』を見た。

 天打が身代わりになってくれたようだ。


「──(残った腕で地面を叩く)」

「すまん」


 ウチカゲは傷口を押さえながら熊手を構え直し、相手を見据える。

 『影媒体』もすぐに復活してくれるはずだ。

 攻撃に出ようと足に力を入れる。


「……厄介な」


 今度は後ろから気配があった。

 複数名の気配は明らかに……敵の増援だった。

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