8.19.作戦成功


 飛んできた岩は、アマリアズが何度も受けた攻撃だった。

 だからこそすぐに警告する。


「ぶっ壊して!!」

「了解!」


 僕はすぐに大きく踏み込み、拳に力を入れる。

 初撃ですべて破壊すればいいのなら、さして難しい問題じゃない!


「『爆け──』ッ!?」


 カンッ。

 飛んできたもう一つの岩が、目の前にある岩にコツン、と軽く当たった。


 ガアンッ!!!!

 それはすさまじい威力を持って弾け飛び、爆発を間近で受けたような衝撃が体中に走る。


「ほわああ!?」

「宥漸君!」


 なんっだあの威力!

 ちょっと待っておかしいだろ!


 攻撃された地点を見てみれば、その辺の地面が盛り上がったり、小さな穴が深々と開いていたりしていた。

 弾け飛んだ土塊の粒が地面を抉り、それが集中しているところは地面をめくり上げたのだろう。

 これが技能本来の攻撃力。


 キュリィが使う技能は先ほどの『剛咆哮』のような一度限りの物ではない。

 使い方次第で何度でも最も高い攻撃力を発揮する。


 ていうか……使い方上手すぎるだろ!

 破壊される前にもう一回衝撃を与えるって……!

 あんなん防ぎようないじゃん!


「どぅえっ!?」

「よっと……。気を付けろよ宥漸。相手は中距離特化の技能を持っている。間合いに入れ」

「分かってるけどぉ……!」


 吹き飛ばされていた僕を受け止めてくれたお父さんはアドバイスをくれたが、それができれば苦労はしないんだよぉ!

 あんなの反則でしょどうすればいいの!


「ううん、俺も長い間寝てたけど鈍ってはなさそうだな!」

「え、なにが?」

「ステゴロにおいて、俺は応錬の兄貴より実力はあるんだぞ?」

「嘘だぁ」

「酷いな。アマリアズ! 牽制!」

「分かってる!」

「よし宥漸、行くぞ!」

「おわっ!?」


 急に強い力で背中を叩かれる。

 その勢いに乗って一緒に走り出し、とりあえずお父さんの背中を追いかけた。

 どうするつもりなんだ……?


「……」


 キュリィは無言で手を上げると、こちらに再び土塊を飛ばしてくる。

 もちろんそれは破壊される前に別の土塊に接触させ、強制的に破壊させて攻撃をしてきた。

 アマリアズが幾つかの土塊を『空圧剣』で捌いてくれているようだったが、さすがにすべては処理できないようだ。


 そこで零漸が前に出る。

 土塊から放たれる『遅延ショック』によって、数十倍に強化された攻撃が直撃した。


「フン!」


 零漸は腕を一振りすると、それらすべてを無力化した。

 攻撃はしっかりと入ったはずだったが、微動だにしていない。


「え!?」


 ようやくキュリィが驚愕の表情を浮かべる。

 それを見て、零漸はにやりと笑った。


「はははは! 耐性って知ってるか? 技能とはまた別の能力さ! 俺は、“衝撃”程度では後退しない!」


 そしてもう一歩、前に出る。

 何度か同じような攻撃が繰り返されたが、零漸には一切効いていない。

 その代わり周囲の地面はボロボロになりつつあるが……後で直せばいいので気にしていなかった。

 

 とはいえ相手は空を飛んでいる。

 このままでは距離は縮まらず、一方的に攻撃を受けるだけとなってしまうのは目に見えていた。

 いくら攻撃を完璧に防いだところで、攻撃が直撃しなければ意味がない。


「そろそろだろ」

「あとちょっとだよ」


 バチッ!!

 なにかが翼に当たった。

 慌てて振り返ってみれば、半透明の大きな結界がそこに鎮座している。


「っ! 結界!」

「その通り! 『空圧結界』!」


 魔力にまだまだ余裕のある僕は、即座に追加で四枚の『空圧結界』を作り出した。

 僕たちと敵であるキュリィを囲むように展開し、完全に逃げ場を失くす。

 あいつがただ後退しているだけだったので、その間に『空圧結界』を作っておいた。

 そこに体が当たった時、箱を作る感じで結界を作り上げれば……もう逃げることはできないはず。


「丁度いい広さだな宥漸!」

「天井がちょっと高いけどね!」

「こんな結界……!」


 ゴボッ……と地面が隆起する。

 キュリィがそれに手をかざすと、一気に弾け飛んで結界にぶち当たる。

 大小様々な土塊が凄まじい威力を持って衝突したが、結界には傷一つ付けられていなかった。


 キュリィを倒すためだけに、それ相応の魔力量をこの『空圧結界』に注ぎ込んだのだ。

 そう簡単には壊れはしない。


 もう、自由には飛び回れない。

 動き回れる範囲は限定した。

 手の届かない場所もあるが、それでもアマリアズの遠距離攻撃技能を持ってすれば、誘導は可能だ。


 キュリィとしては、好ましくない展開だろう。

 しかし彼女は……笑っていた。


「……?」

「お前たちは分かってない……。もうそろそろ、落ちて来る・・・・・


 ドンッ……。

 キュリィの予言通り、何かが落下してきた。

 それも相当鈍い音だ。


 結界越しに聞こえてきたのだから、相当な勢いで落下してきたということが分かる。

 キュリィから目を離したくはなかったが、僕は思わずそちらを向いた。


「……!! アブスさん!?」


 白い肉塊が、彼女であるということを教えてくれた。

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