8.18.この場の違和感
「よぉ~っし……!」
「これで、最後ッ!」
「ガッ……!」
見事な回し蹴りが顔面にヒットし、横回転しながら天使が吹き飛んでいく。
零漸の物理攻撃は強力だ。
これが技能ではないのだから、大したものである。
二人が対峙していた天使はそこまで強くなく、『剛咆哮』を放ってきた天使もそれだけしか強力な技能を持ち合わせてはいなかったようだ。
空を飛んでいるので仕留めるのに少し苦労したが、相手も接近型の擬似技能だったので、返り討ちにして今に至る。
そう、どうやら相手をしていたのは擬似天使が二人と、本物の天使が一人だった。
明らかに技能と呼べるほどの強い攻撃を繰り出してこなかったのだ。
こちらとしては良かったのだが、零漸は小さく舌を打つ。
ガラガララ……と上空から結界の破片が落下してきたのだ。
これが意味することは、結界が破壊されたという事。
魔力を使って補強する暇すらなかった。
つまり、一撃の下に『ドームシールド』が破壊されてしまった、ということである。
上で戦っていた時の擬似天使が入って来て、城の方へと向かっているようだ。
人間を、襲う気なのだろう。
「お父さん!」
「分かっているが、あれは技能持ちじゃない! アマリアズを助けるぞ!」
「分かった!」
アマリアズはあれからずっとキュリィに相手をしている。
時間的には数分程度だが、戦闘時の一分は恐ろしく長い。
早く助けに行かなければ。
そう思って振り返ってみれば、目の前が真っ暗になった。
ほとんど一瞬の間に何があったのか。
疑問が浮上するが、それは次に訪れる衝撃が教えてくれた。
「のああぁ!!」
「ふぉべっ!?」
顔面にアマリアズが飛んできて吹き飛ばされる。
二人仲良く地面を転がった。
なんともないが、衝撃はしっかり伝わってくるものだ。
アマリアズに気を使いながら上体を起こし、立ち上がる。
「おいおい、どうした……?」
「どうしたじゃないよ! なんっだあいつマジで嫌い!」
「キュリィのことだよね。どんな技能持ってるか教えてもらっていい?」
「なんであいつがあれ持ってるか知らないけど……。キュリィが使う主な技能は『遅延ショック』だ!」
「なにそれ」
お父さんもピンと来ていないらしく、小首を傾げた。
さすがに自分が持ってない技能は分からないだろうしなぁ……。
で、その技能ってどんな技能なの?
そう聞いてみると、アマリアズは忌々し気に一点を睨む。
二人が視線をそちらに向けてみれば、キュリィが翼を広げて飛んでいた。
「『遅延ショック』……。あいつは土系の技能に付与してるみたいだけど……簡単に言えば二回分衝撃が発生する。で、二回目の衝撃の方が高威力になるんだ」
「……なるほど?」
「よく分からんな?」
「つまり二回目の攻撃には当たるなってこと!!」
それは分かりやすい!
……だけどその攻撃で、さっきアマリアズこっちに吹き飛んできたんだよね。
生身だったら本当にやばかったのでは?
てなるとそれだけの攻撃力があるってことだよね。
しばらくの睨み合いのあと、零漸が眉を顰める。
あまり頭の良くない零漸ではあったが、こうした戦闘面ではそれなりに頭の回転が速い。
現在の状況と今も尚こちらに敵意を向けてきていることに、彼は違和感を持っていた。
「……アマリアズ」
「え、なに零漸さん」
「あの天使は、攻撃が利かないことを分かって、ずっと攻撃して来ていたのか?」
「へ? ……まぁそうだけど……?」
アマリアズの回答を聞き、零漸は上を見る。
破壊された『ドームシールド』の穴から、擬似天使らしき者共が侵入して城の方へと降りていく。
そちらにはカルナがいるし、ガロット王国の精鋭騎士団もいるので、そう簡単にはやられはしないはずだ。
だが、『ドームシールド』の上で戦っていたアブスとリゼの状況が気になり始める。
アブスの白い肉塊も見えない。
しばらく続いていた『雷砲』の音も、今思えば聞こえなくなっている。
二人は、大丈夫だろうか?
そして零漸は、『身代わり』が付与されたアマリアズを長い間攻撃し続けていることに、一番の違和感を覚えていた。
並大抵の技能ではこの防御技能を突破してダメージを与えることはできないだろう。
精々吹き飛ばして衝撃を与えるくらいだ。
炎や雷と言った技能であれば別ではあるが、キュリィ自身はそのような技能を持っていない。
戦っても意味のない相手が、ここに三人存在している。
出鱈目に高い防御力を誇る零漸と宥漸を相手にするのは、この状況では意味がない。
だがキュリィは逃げていなかった。
なんなら未だに攻撃の意志がある。
「……出てきた天使の中に、弱い奴がいるのが気になってたんすよねぇ~……!」
「お父さん、何か分かったの?」
「あいつ、時間稼ぎしてるぞ。中に入ってきたのが本隊じゃない……。ということは……!」
バッと空を見る。
穴が開いた『ドームシールド』が見えるが、その外では既に戦闘が行われていないようだった。
「リゼさんたちの方に行ったのが本隊か!」
「えっ!?」
「こっちで戦闘が開始したのが合図になったんだろうな。隠れていた本隊がリゼとアブスを襲ったんだと思う」
「じゃ、じゃあ早く戻らないと……」
「いいや、こっちの脅威を排除するのが先だな。俺たちは飛べないし、なんなら、あいつが行かせないだろうからな」
キュリィはこちらの会話が終わった瞬間、手を動かして土塊を幾つか作り出した。
それは、すぐにこちらへ向かって飛んでくる。
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