8.16.Side-スレイズ-予想していた襲撃


 結界に守られていたガロット城。

 見たものを感嘆させるほどの見事な造りの門や外壁は美しい。

 数十人の庭師が手入れをし続けてきた自慢の庭も、騎士団が訓練するための訓練場も完備されている。

 だがそこは今、国民たちの拠り所となっていた。


 ここ以外に、安全な場所は既に存在していない。

 結界で守られているのはこの城だけ。

 今も尚国民の受け入れをしており、兵士がその作業に追われている。


 零漸たちが天使を倒すまでの間、ここで防衛線を敷く。

 これをスレイズは騎士団に指示した。


 国民たちは城の奥へ。

 だが戦い、国を守るために存在する騎士団は外に。


 ガロット王国が誇る第一騎士団は複数の役割を持つ兵士に分類されており、その中でも最前線に立つのが重鎧騎士。

 大盾を腕に装着し、槌と剣を携えている。

 槌と剣はどちらかを使用し、使用しない物は背中に携えていた。

 非常に重い鎧と武器ではあるが、これらは後退という二文字を知らない。

 前線を常に維持し続け、後方からの援護をもらいつつ前にだけにしか進まないのだ。

 後退しない兵士ほど、強い兵士は存在しない。


 そしてその後ろに控えているのは中鎧騎士。

 武器は様々だが、基本的には素早い動きを得意とした兵士が担うポジションである。

 槍やロングソード、二刀流などといった武器がメインだ。

 彼らは前線を張っている重鎧騎士の後に敵へと殴り込み、場をかき乱す。

 それ以外にも機動力を生かして奇襲なども仕掛けたりするのが得意だ。

 魔法も、機動力に長けた物を持つ者が多い。


 最後尾に控えるのは魔導騎士。

 遠距離攻撃魔法を得意とする者たちで構成されており、長い時間魔法を使い続けることが可能なものが多い。

 威力と精度を求められ、こうして第一騎士団の中に抜擢される者はエリート中のエリートと言っても過言ではないだろう。

 一人が魔法を放てば、敵は必ず最低でも一人は倒れる。


 他にも役割のある兵種はいるが、第一騎士団を担う者たちは大体がこの構成で結成されていた。

 そして彼らは、国民を守るべく外で構え、陣形を整えていた。


 スレイズは、予想していた。

 今ガロット城を守っているこの結界は、いつ突破されてもおかしくはないと。

 零漸たちを信用していないというわけではないが、天使が攻撃をし続けて長い時間が経っていた。

 彼も、そろそろ限界が近づいているはずだ。

 魔力は無限ではないのだから。


「……一陣、防御結界を」

「? スレイズ様、まだ敵は来ておりませんが」

「来る」


 スレイズがそう呟いた瞬間、白い物体がこちらに飛翔してきているのを確認した。

 前線の立っていた重鎧騎士は、号令を待つことなく魔法を発動させる。


『『エリアシールド』!!』


 重鎧騎士は、防御魔法を得意としていた。

 その中で突破口を作り出す兵たちは攻撃魔法を有している。


 複数人で展開された『エリアシールド』は何重もの壁になって天使の道を阻む。


「『ウォーターハンド』」


 天使の背後から水が出現し、拳の形となっていく。

 直径四メートル程になった水の塊は、重い。

 ぐ~っとゆっくり動き、今度は素早く前に突き出される。


 バリィイィィンッ!!!!

 形成された『エリアシールド』がすべて破壊されてしまい、ガラスの破片となって兵士の頭から降り注ぐ。

 幸い防具を身に着けていたので被害はなかったが、何重にも重ねられた防御魔法を一撃で粉砕してきた天使に、少なからず動揺が広がった。


 彼らの作った防御魔法は、決してやわな物ではない。

 一枚で破城槌を耐え、二枚で爆発を耐え、三枚で砲撃を耐える。

 これが技能であれば一枚で砲撃を耐えるのだろうが、それを彼らは数でカバーしてきた。


 だが、やはり技能は練度が違う。

 水は重く、巨大であり、大砲の何十倍もの質量と重量を兼ね備えていた。

 普通の魔法で作った結界では……足止めにすらならない!


「魔導騎士……! 攻撃開始!」


 杖を持った者たちが一斉に手を天使へ向ける。

 そして各々が最も得意とする魔法を用いて攻撃を仕掛けた。


 流星群が飛翔するかのように色とりどりの魔法が天使へと向かっていく。

 眩しそうに目を細めながら、天使は作っていた『ウォーターハンド』を自身の前に持ってきた。


 バシャバシャシャシャシャ!!

 水の中に魔法全てが入り、消えていく。

 炎魔法や雷魔法もあったのだが、水の質量が大きすぎてまったく意味をなしていない。


「……防いだか」

「ま、全く効いていません!! スレイズ様、このままでは……」

「防いだんだ、見ていなかったのか?」

「そ、それが……?」

「防いだということは、あの攻撃は奴にとって危険だったという事。あの水の塊さえ何とかすれば、攻撃できる」


 スレイズは確信していた。

 自分たちでも天使を倒す術は持ち合わせているということを。

 今の一連の動きでそれが確信に変わったのは大きい。

 ではあとは、どの様にして攻撃を相手にぶつけるか……。


 だがその前に、第一騎士団に危機が訪れていた。


「……マズい……!」


 水の塊が、ゆっくりと上に持ち上げられていく。

 拳の形になっていた水が、手を大きく広げた形へと変わった。

 それがどういう意味を示しているのかは、前線に立つ者たちであれば誰もが理解できた。


 あれを、地面に叩きつける気だ。

 もしそれが実現してしまえば……一気にこちらの戦力が削れてしまう。


「総員防御魔法を展開! 持ち得ぬ者は攻撃準備! 魔導騎士は火力を捨て、最も速度の速い魔法の準備!」

「了解!!」

『『エリアシールド』!』

『『マジックアップ』!』


 シールドが展開され、それが青色に光る。

 この『マジックアップ』は補助魔法であり、展開された魔法すべてに対してある程度の能力を上昇させる。

 これにより、先ほどより『エリアシールド』は硬くなった。


 だが耐えられるかは分からない。

 重力が手助けをし、水の威力は先ほどの数倍になるはずだ。

 そして……勢いよく水の塊が落ちてきた。


「『スローリー』」


 次の瞬間、水の動きが鈍くなる。

 それを見た天使は忌々し気に声のした方向を見た。


「一人だけか」

「させないわよ。スレイズ!!」

「分かっている!」


 バッと手をピストルの形にしたスレイズは、天使へと狙いを定めた。

 この魔法は少々特別だ。

 今回は距離があるので……人差し指のみを立てて、発射する。


「『ショック』、スナイパー」

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