8.15.介入
ズドンッ!!!!
天使が一気に上空に飛び、後方からの攻撃をやり過ごす。
最初からこれを狙っていたのだろう。
だから前衛を務めて攻撃する天使の数が少なかった。
地面が抉れて隆起する。
空気が振動して酷い耳鳴りが周囲を支配した。
この『剛咆哮』は自らの声を溜めておくことで強力な空砲として射出できる。
この技能を発動させている間は、自分の声が周囲に聞こえなくなるのが唯一の欠点だ。
発動と未発動を繰り返えして、来たる時にこの技能をぶっ放す。
約五百年分の声を凝縮した攻撃。
いくら防御力が高かろうと、これだけの威力と微振動を直に喰らえばただでは済まない。
一人の天使が技能を使って土埃を一気に払う。
技能発動地点から地面がめちゃくちゃになっており、四人を探すのは手間取りそうだなと思っていた刹那、急に地面が無事な箇所が出現した。
「「あ、あぶなぁ……!」」
「なん……!?」
宥漸とアマリアズが地面に手を付けている。
「おお~! いいねぇ……! よくやった二人とも!」
「ちょっと肝を冷やしたわね」
零漸はビッと親指を二人に向ける。
間近で技能の発動を見ていた彼は、何が起こったのかしっかりと理解していた。
アマリアズが地面に手を置いた瞬間、空気の衝撃波のようなものが何度か地面から放たれた。
あれは『衝壁』という技能で地面から衝撃波を発生させて攻撃を防ぐという防御系技能だ。
しかし発動時間が酷く短いので、連発して『剛咆哮』を防いだのだろう。
そして宥漸は『空圧結界』を三重にして展開していた。
二人とも先ほどの技能の脅威度を肌で感じ取ったらしく、宥漸に至っては魔力をしっかり込めて結界を作ったらしい。
若干の疲労が見て取れるが、あの程度であればすぐに回復するはずだ。
更にカルナも『スローリー』を使って技能の接触時間を遅延させた。
威力を軽減させるまでには至らなかっただろうが、そのおかげでアマリアズの『衝壁』が見事に『剛咆哮』に直撃し、威力を軽減させたと言えよう。
いい連携だ。
零漸は再び天使を視界に納め、構える。
時を同じくして、バゴッという音が後方から聞こえた。
「うぐっ!?」
「!? アマリアズ!」
後ろを見やれば、アマリアズが勢い良く転がっていく姿が見えた。
宥漸が『身代わり』を使っているので怪我はしていない。
だが、どこから攻撃が?
吹き飛ばされながら体勢を立て直し、両足を地面につけたアマリアズは滑りながらとある方向を見る。
そこには因縁とはいえずとも、アマリアズと宥漸を前鬼の里から逃げる原因を作った天使がいた。
「キュリィ……!」
彼女は頭上に土塊を五つほど作り出しており、それをアマリアズに一つ投げたらしい。
僕はすぐに駆け寄ろうとしたが、零漸が止める。
「宥漸! 待て!」
「なんで!?」
「こっちにも敵がいることを忘れるな! アマリアズ! 踏ん張れよ!」
「しゃーねぇーなぁー!!」
「すぐに片付ける! 宥漸、こっち手伝え!」
珍しく口調が汚くなるアマリアズ。
やけくそ気味に技能を展開し、時間稼ぎを目的としてキュリィと相対する様だ。
今対峙している天使の中で、最も強いのは彼女だろう。
一時的とはいえ、一人で対処するには荷が重いように感じられる。
こちらに残っている天使は残り四人。
面倒くさそうなのは零漸が相対したカウンター技能を持っている天使だ。
もう一人は先ほどの『剛咆哮』に気を付けなければならないが、あそこまで強力な技能だと、再び使えるようになるまで時間がかかるはず。
残り二人の天使は未だにどの様な技能を使うか分からない。
「あなた、魔力はどう?」
「まだまだ危険域」
「じゃあさっきみたいな感じで」
短い会話を終わらせ、同時に地面を蹴る。
すると、天使は上空へと逃げた。
やはり制空権を取られてしまうと、こちらとしてはできることが少なくなる。
零漸が技能を使えたら話は別なのだが……。
「宥漸!」
「え、なに!?」
「俺が飛ぶ! 下から『爆拳』を撃て!」
「え!? ……あ、なるほど!?」
零漸は宥漸の方へと全力で走り、大地を思い切り蹴り飛ばして可能な限り跳躍した。
彼の持つ『大地の加護』のお陰もあって、身体能力は少し上昇しており、更にカルナの『クイックリー』でできることは大幅に増えている。
宥漸はすぐさま下に潜り込み、渾身の力で技能を使う。
「『爆拳』!!」
ドガァアアンッ!!
爆風を全身で受け止めた零漸は、そのまま上空に放り投げだされる。
爆発によって伴う煙に一瞬隠れた零漸は、いつの間にか一人の天使の側にいた。
「は!?」
「よぉ!」
ガッと足を掴み、グンッと体を持ち上げて翼を掴む。
捕まえた天使はカルナの『スローリー』が付与されているので、普通に飛ぶことは難しくなっているはず。
そこに零漸という重りが追加されたのだから、滞空を維持できるはずがなかった。
ガクンッと態勢を崩してしまい、急速に落下する。
「っ……! 『防破』……!」
「うわあぶなっ!」
急に爪を立てようとしてきた天使の攻撃を躱し、背中の方に回り込む。
腕を掴んで背中に回し、バキリと音を立てて関節を外した。
「がっ……!」
「今の防御無効化的な技能だろ~。やめとけよなっ!」
「や──」
ズガンッ……!
そこで丁度地面に着地した。
二人分の重さに加え零漸は膝を背骨に落とすようにして着地した。
生身の天使であれば、これくらいの攻撃で簡単に倒すことができる。
手を払いながら立ち上がり、上空にいるであろう残り三名の天使を見上げた。
「おい……! なんであんなに強いんだよ……!」
「知らないわよ! 今まで私たち隠れてたわけだし……戦闘なんてこれが……」
「……そろそろ、思考を変えてみるべきだな。こっちは任せたぞ」
一人の天使は、ずいぶん余裕そうだった。
虚無から槍を作り出し、それを持ったまま……“ガロット城”を見据える。
「!! カルナ!!」
「ええ!」
カルナが走り出したと同時に、天使もガロット城へと飛んで行く。
あの天使……!
国民を殺しに向かったのか!
「お、お父さんこっちは!?」
「二人は何とかするしかない。やれるな?」
「勿論! でも早くしないと……」
「分かってる」
後方からは未だに破裂音が響き渡っていた。
アマリアズはあれから懸命にキュリィと戦っている様だ。
何とか早く合流しなければ、ならない。
「さぁ、降りてこいくそ天使。飛んでても埒が明かねぇぞ」
この言葉を天使に届かせる気はなかったが、翼を閉じて急降下してきた。
ここからが、本番だ。
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