8.14.親子共闘


 凄まじい爆発が発生し、大地が揺らいだ。

 地面がごっそりと抉れて生身の生物はなんの痕跡も残ることなく木っ端微塵となった。

 瞬時に加熱された水は水蒸気となり、その中に含まれていたであろうオイルも気化してさらに激しい爆発が発生する。


 まさかこんなことになるとは思っていなかった宥漸は、吹き飛ばされながら腕を組んでいた。


「こんなはずじゃ……」


 ゴンッ。

 構造物にぶち当たってようやく勢いを失ったあと、のそり、とその場から脱出する。


 お父さんが捕まってたの見たから攻撃したけど……。

 アマリアズもお父さんにならどんな攻撃してもいいって言ってたし、大丈夫だと思って思いっきりぶちかましたけど……何処にいった?

 結構吹き飛ばされちゃったのかな。


 キョロキョロと辺りを見渡して探してみるが、零漸の姿は確認できなかった。

 しかし前方の方で何か動くものが視界に入る。

 先ほどの爆発で空けた穴から手が伸びてきて、地面をしっかり掴んだと同時に体を持ち上げる。

 無傷の零漸がやれやれ、といった様子で苦笑いしながら出てきたようだ。


 見事に頭上から『爆拳』を喰らったので地面に体がめり込んでしまったが、それだけ宥漸の攻撃が強力だったという事。

 そのことを嬉しく思い、くつくつと笑っていた。


「少しは手加減しなさいよ、まったく……」

「お、カルナの方も大丈夫か」

「あなたが『身代わり』使ってくれていなかったら今頃こうして喋ってないわよ」

「まぁまぁ、あいつも分かってやったんだろ」

「こういうのは打合せしてからやるものよ」

「それはそうなんだけどな」


 とはいえ、知らない内にここまで成長していたことを本当に嬉しく思う。

 最後に見たのは赤ん坊の頃ではあったが、こうしてしっかり大地に足を付けて立ち、言葉も流暢に喋っていて、ましてや共闘することができている。

 親としての自覚はあったが、こうしてみると分かっていない事の方が多い。


 もっと一緒に過ごしてみたかったなぁ、という後悔が芽生える。

 もうどうしようもない事ではあるが、非常にカルナを羨ましく思った。


「いいなぁ」

「ん?」

「何でもない。さて、さっきの爆発で残りの天使も少し吹きとばされたか」

「ええ。まぁすぐに戻って来るけどね」


 零漸の言う通り、宥漸が起こした爆発により天使は吹き飛ばされていた。

 ようやく起き上がっているところらしく、体勢を立て直している最中だ。


 その間に宥漸がこちらに走って来る。

 アマリアズもようやく地面に到着したらしく、手にしていた『空圧剣』をそのまま武器にして身構えた。


「お、これは心強い味方が来たじゃないか」

「お父さん大丈夫だった!?」

「俺はこの程度じゃ痒くもないぞ。それにしても良い攻撃だったな! 感心したぞ~!」

「私は肝冷やしたわ! 爆風がこっちにまで来たもんだから『空圧剣』の制御大変だったんだぞ!」

「い、いやぁまさかあそこまで爆発するとは思わず……」


 たはは~と笑っているとお父さんが前に出た。

 片腕で飛んできた槍を上に弾き飛ばし、足を踏み込んで槍が落ちてきたと同時に石突を殴って相手に返す。

 カーーンッと良い音が鳴って飛んで行った槍は、天使の横を通過する。


「惜しい!」

「流石に悠長に話している時間はないわよ」

「なぁに、俺たち全員めちゃくちゃ硬くなってんだ。少しくらい無茶してもかゆくもないさ。宥漸、もちろんアマリアズにも『身代わり』を付与してるんだろ?」

「もちろん!」

「よっしゃ、じゃあ気兼ねなく暴れられるな」


 零漸が拳を合わせ、カンッと音を鳴らす。

 技能は使えないが体術には相当な自信があるので、魔力が回復するまでの間は肉壁拳陽動役として前線に立つことにした。

 技能を一切使わずに戦うというのは本当に久しぶりなので、うまく動けるか怪しいところではあったが、この編成であれば大丈夫だろうという確信がある。


 前衛に零漸、カルナ。

 その後ろを宥漸が固め、前衛も担当する。

 後衛にアマリアズが待機し、遠距離攻撃で援護をしてもらう。


「てことでよろしく!」

「了解!」

「まぁそれが妥当だよねぇ」


 立ち位置が決まればやることは自ずと決まる。

 それと同時に天使五名も準備を整えたらしく、翼を大きく動かした。

 零漸とカルナが一気に前に飛び出し、一拍遅れて宥漸が前に出る。

 アマリアズは即座に『空圧剣』を作り出してそれを天使に向けて飛ばした。

 だがそれは簡単に叩き落される。


 タンタン、タンッとまったく同じ歩調で走る零漸とカルナ。

 息はぴったりと合っており、前に出てきていた天使二名に肉薄する。


「そう簡単にやられはせんぞ『紅蓮──』……!!」

「お、気付いたっすか」


 零漸の後ろに『空圧剣』が二振りあった。

 カルナの後ろにも、同様に二振りの『空圧剣』が待機している。


「剣使うのは苦手なんすけどね!」


 一回転して『空圧剣』の柄を手にとり、天使に向けて一気に振り抜く。

 回避すれば破裂することを知っていた天使は、すぐに技能を発動させた。


「『リバース』!」

「あ、まじっすか」


 ッパパァンッ!!

 天使にあたる直前に破裂した『空圧剣』の勢いは、零漸にだけに注がれた。

 防御力がありえない程高いので全く痛くはないのだが、天使にはダメージが入っていないらしい。


 どうやらカウンター系の技能の様だ。

 攻撃の衝撃をこちらのみに返されるとなると、少々面倒くさい。


「『スローリー』」

「んぐっう!?」


 パパンッ!!

 カルナが対応していた天使は防御系の技能を持っていなかったらしく、急に現れた『空圧剣』の破裂に巻き込まれた。

 体勢を崩したところをすかさず狙い、胸部に二振りの直刀を差し込む。

 それを脇腹から無理矢理肉を引き裂いて抜き、絶命を確認。


 その瞬間、前衛を張っていた二人の背中に悪寒が走る。

 地面に足を付けている天使が、こちらに腕を向けていた。


「『剛咆哮』」

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