8.13.侵入
「可笑しいっすね、『ドームシールド』は地面にもめり込ませてたはずなんすけど……」
「そんなことより魔力は大丈夫?」
「まぁまぁかな」
零漸とカルナは、明らかに技能持ちと思われる天使と対峙していた。
一人はよーく見覚えのある天使で、他は初対面だ。
しかし一気に八人と戦うということになると、さすがの零漸とはいえ魔力切れを心底悔やむ。
アブスが気を利かせて光が入ってくれるようにしてくれて助かった。
もう少し遅れていたら、城の方にこの天使を流してしまっていた事だろう。
「今作った結界だけど、強い衝撃には流石に耐えられないから気を付けてくれな。魔力全然込めてないんだわ……」
「仕方ないわよね。まぁあなたは私を守ってくれるだけでいいわ」
「それはずっと前からしてるぞ。『身代わり』は常時発動中だ」
「安心したわ」
カルナは腰に携えていた二振りの直刀を抜刀し、天使を睨む。
零漸はその一歩後ろに立って軽く構えを取った。
今回の主力はカルナだ。
自分は援護に集中しようと、若干の間合いを取って足を踏ん張る。
「この二人か?」
「技能を持ってるのはね」
「じゃあさっさと終わらせよう。もうじきだしな」
「ええ、もうじきだからね」
天使たちが各々武器を手に取った。
どうやら……人間を始末するためにここに入ったわけではないらしい。
彼らの目的は、やはり技能。
八人で手早く終わらせるつもりのようだ。
そして一番奥にいる天使。
零漸が吹き飛ばしたはずだったが、やはり回復系技能を持っていたのだろうか。
傷一つない姿で空を飛んでおり、こちらを鋭い目つきで睨みつけている。
あれだけ睨みつけて来るということは、それなりに負荷では負ったのではないだろうか。
そんなことを想像しながら、若干口元を緩める。
「ざまぁみさらせ」
「……! やりなさい……!」
七名の天使が翼を広げた。
それと同時にカルナが二振りの直刀をくるりと回す。
「『スローリー』」
ガガクンッ……!
急激に体が重くなったことを察知した天使は目を見開く。
体の小さい二人の天使は自身の翼の動きをこれ以上早く動かすことはできないらしく、地面にべちゃりと落っこちた。
カルナの技能は二つ。
『スローリー』と『クイックリー』。
たったこれだけではあるが、『スローリー』は相手の動きを遅くさせ、『クイックリー』は対象の動きを素早くさせることができる。
非常にシンプルな技能ではあるが、シンプルだからこそ強い。
「『クイックリー』」
「お、俺にも?」
「一緒に行くわよ」
「はいはい……よっ!」
タッ……と動いた瞬間に、二人は既に地面に伏せている小柄な天使の前に立った。
カルナはそのまま二振りの直刀を振り下ろす。
カンッ。
硬い感触が伝わって来たので即座に身を翻して攻撃を続行。
どうやたこの天使の羽は非常に硬いらしい。
普通の刀では傷どころか羽を散らすこともできなさそうだ。
しかし、動きはこちらの方が早い。
空を飛んでいる五名の天使は今二人が移動したことに気付いたらしく、急いでこちらに狙いを定めている。
だがその前に、零漸は一人の天使を始末した。
ボギリ。
両足で天使の頭部を挟み、体をねじってから戻す勢いを使って首の骨を折る。
今の零漸ができるのはこの程度だ。
とはいえ古くから身に着けている技術をいかんなく発揮した。
「小さいのは弱いな」
「そうね~」
ザスッ……とカルナも余裕を持って一人の天使を仕留めた。
脇腹から直刀が刺さり、反対側の脇腹から切っ先が飛び出している。
技能を使われる前に倒す。
これが、昔から行ってきた敵と相対する時の対処法。
とはいえさすがに残りの五体からの攻撃は発動させてしまった。
「『バネラット』」
空を蹴り、ぐんっと接近してきた天使にラリアットを零漸はかまされる。
避けることは早過ぎてできなかった。
威力は相当なもので一気に吹き飛ばされていくが、そう簡単にやられるようなことはしない。
「バネっすか! こりゃびっくり!」
「!」
腕を掴んで鉄棒で逆上がりをする様にグルンッと一回転し、腕をしっかり掴みながら足を相手の首と胸に置く。
体を変な形で固定された天使は翼を動かして逃れようとしたが、そもそも低空飛行からの攻撃だったため、地面に接触する方が早い。
零漸を吹き飛ばした勢いそのまま、頭から地面に打ち付けて長い距離を滑る。
そして止まるか止まらないか、という所で零漸は天使の腕の関節をパキッと外してやった。
「ぐぁあ!?」
「お前らほんとに技能持ちの天使っすか?」
「『ウォーターオイル』……!」
「うげっ」
急に足元から水が湧き出してきた。
それは一気に零漸の体を包み込んでしまう。
(窒息狙いか……!)
最後の抵抗だと言わんばかりに痛みを堪えて笑う天使。
水の中で視界が歪んでいても、それがよく分かった。
上から何か聞こえた気がした。
敵そっちのけでそちらを見てみれば、何かが勢い良く降ってきている。
零漸は久しぶりに、嫌な予感がした。
この水……なんだかぬめり気がある。
オイルが入っているのだとすれば……。
「『爆拳』!」
(あっ──)
シュッ……──。
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