7.26.Side-応錬-息も絶え絶え
応錬が作った『無限水操』の中で瓶が割れると、液体がその中に混じる。
だが粘液質な物体らしく、水に溶けるということはなかった。
ようやく自由になれたと認識したのか暴れるのを止め、眼球を一部作り出して応錬とアブスを見る。
こちらに泳いで来ようとしてきたので、応錬は即座に水の水圧を上げてその場に固定させた。
さすがに得体のしれないものが近づいてくるとなると、反射的にこうしてしまう。
だがそれをアブスがやめさせようとしてくる。
髪の毛を引っ張りながら液体を指さし、全力で首を横に振る。
安全かどうかあの存在を知っているアブスですら分からない、というのにそう簡単にあの液体を解放したくはなかった。
「おい本当に大丈夫なのかあれ!」
「──(コクッ!)」
「さっきわかんねぇって言ってたじゃねぇか!」
だがそれでもアブスは応錬の髪を引っ張り続ける。
声は聞こえないが、明らかに開放してやってくれという意志が伝わってきた。
本当にこれを解放して大丈夫なのかどうなのか……。
アブスはこの存在を知っているようだが、得体が知れなさすぎる。
しばらく考えに考えたあと、応錬はアブスを信じることにした。
バシャッと音を立てて『無限水操』を解除すると、中にあった液体が床に張り付く。
少しの間動かなかったが、ゆーっくりと目玉がこちらを向いた。
それだけで恐怖を感じそうになったが、応錬は液体の周囲に『多連水槍』を大量に作り出して警戒にあたる。
すると、アブスが肩から降りた。
「お、おい!」
「──!」
「…………」
液体にアブスが近づくと、目玉がそちらを凝視する。
何か声をかけているようで、それに応えるように液体が振動した。
すると、目玉に口が生成される。
「きっも!!!!」
「アブス、アブス、あ、ブス、あぶ、す」
「え、マジで知ってんの?」
「御仁、ご、じん」
喋るのが難しいのか、辛いのか……。
液体は息を切らしながら、何とかその言葉を口にした。
だがアブスの言うとおり、この存在は知っており、更に無害であるように感じられた。
なにか伝えたくて、瓶を破壊しようとしていたのだろう。
と、いうより……。
応錬が使った『清め浄化』で随分ダメージが入ってしまったのではないだろうかという心配をしてしまう。
「御仁」
「……お、俺のことか……?」
「申し訳な、いが、助け、て、は、くれ、んか」
「お、おお……? てかお前誰だよ。アブスは知ってるみたいだけど」
「アブスとイウボラ、の、兄、だ」
「え、まじ?」
バッとアブスを見ると、全力で首を縦に振っている。
ようやくこれが一体何かを理解したところで、警戒を解いて『多連水槍』を解除した。
しゃがみ込み、未だに気持ち悪く蠢いている液体に声をかける。
「アブスの兄貴か……。お前ここで何してんだよ」
「この肉体では、は、なし、が……」
「ああそうだな。でお前どこにいるんだ。アブスとイウボラの兄貴なら助けるけど」
「本体は地下にい、る……。自分、あやつ、る、術者、が……四、めい……」
「ほう。そういう技能か。全員この施設にいるんだな?」
「然り」
そう言われたので、応錬は『操り霞』で地下を探してみることにした。
もし人の姿ではなく、このような液体で存在しているとするならば……探すのは明らかに容易なはずだ。
因みにこの施設にいる研究者は先ほど作った『水龍』と『泥人』で七割始末できている。
あとは最下層にいる研究者だけの様であり、そちらに意識を向けてみれば確かにプールのようなものが発見できた。
その中に人間を投入し、機械で持ち上げている。
この液体が、もしかしたらアブスの兄であるこの液体なのかもしれない。
「これか……? お前名前は?」
「テケリス」
「ああ、じゃあこれっぽいな。天使と人間の会話でもお前の名前出てきてたみたいだし……。て、いうことは……。テケリス、お前技能を付与できる技能を持ってるのか?」
「然り」
「マジかよ」
「作ることも、でき、る」
「ヤバすぎる」
しかし、これでようやくわかったことがある。
擬似技能は、このテケリスによって作られていた。
アマリアズや宥漸を狙う理由としては、技能の種類を増やすためだったのかもしれない。
天使や人間の頭だけでは、どの様な技能があるのかは流石に分からないだろう。
知識の中の技能が有限である以上、他の技能持ちから技能の知識を収集したかったのかもしれない。
だがこのテケリスさえ解放してしまえば、天使は擬似技能を所持する天使を作ることはできなくなるはず。
詳しい話はテケリスからじかに聞くとして、まずは助けることを目的に動くことにした。
思わぬ情報源が出てきたことには驚いたが、これは非常に有益だ。
応錬は気合を入れて殲滅作業に取り掛かる。
今も尚『泥人』と『水龍』が密かに暗殺を行ってくれているので、もうしばらくしたらテケリスがいる地下水槽までたどり着けそうだ。
「アブス、鳳炎に伝えてくれ。もうそろそろ殲滅できるから施設内の調査を手伝ってほしいってな」
「──!」
「殲滅……だと? 無理だ、敵の数、が、お、お、すぎ、る……」
「何とかなるもんだぜ」
応錬が指を鳴らすと『操り霞』で確認できていた最後の天使が姿を消したのだった。
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