7.22.Side-応錬-下準備
「へぇ、そんなことできたのか」
「知らなかったでしょ~」
「てかそれで大丈夫なのか? 能力半減とかしてない?」
「してないしてない。これが便利なんだよねぇ」
人間の子供の姿になったアブス。
年齢的には中学生くらいだろうか?
若々しい姿になって振舞う姿は、子供のそれと何ら変わりがない。
アブスの分身は少し特別で、人数が増えても能力に差は生まれない。
だが処理能力の負担は増えるため、最高でも三人までしか完璧に操ることができないのだ。
もちろん数もしっかり増やすことができるし、火力や能力値に変動はないが、できたとしても単純な命令しか下すことができない。
なのでアブス本人は、あまり分身を使わないようにしている。
今回の場合は、何か思う所があってこの分身を作り出したらしい。
アブスはアブスなりに、何か警戒をしている様だ。
「そんじゃ、人数は揃ったと」
「そうなるな。翌日に向かうのがいいと考えるのだが……応錬としてはどうだ。お前の策に合う丁度いい時間帯があれば教えて欲しい」
「んー、実は今晩なんだよな……」
「夜か……。夜は私が目立ってしまう。援軍に駆けつけるのは暫くかかるぞ」
「じゃあもっと小さくなったアブス連れていくわ」
「えっ」
「てことでめっちゃ小さい分身頼めるか?」
「ええー……」
渋りつつも、アブスは手の平に小さな分身を作ってくれた。
それを応錬に手渡す。
「小さいから声は聞こえないと思うよ」
「ああ~そういうのあるのか。まぁいいさいいさ。てかアブスがいるなら鳳炎に水の塊渡す必要ないよな?」
「ないね」
「ないな」
「じゃあそのまま行くかぁ」
応錬は伸びをしてパキリと背中を鳴らす。
久しぶりに面白くなりそうだと笑い、天使の拠点がある上空を眺めた。
まだ日は完全に落ちていない。
出発にはもう少しの余裕がある。
「じゃ、その前に拠点のマップを共有しておくか」
「場所を移そう。どこかいい所はあるか?」
「宿とかとってなかったしなぁ~。まぁ普通に人気のなさそうな所行くかぁー」
軽い足取りで移動し、人気のない裏路地あたりに集まった。
人が来ても気付けるように応錬が常に監視し、来た場合は足止めができるように『土地精霊』を使っていつでも大地を動かせるようにしておく。
その準備が終わったところで、『無限水操』で水を作り出し、『回復水』にして見やすくしたあと、施設の平面図を生成した。
三階建ての施設で、一階と二階は実験室、三階は事務室のようになっている。
この中で最も有益な情報がありそうな場所と言えば、三階だろう。
「相変わらず器用だねぇ」
「慣れたもんだ。で、この施設には結界が張ってある」
「これをどうするつもりだ? 壊すわけではあるまい」
「もちろん壊さねぇよ。ずーっと監視してたから抜け道を発見できたんだよな」
「それは?」
「ここ」
施設の周囲に水で結界を模し、一点を指さした。
「ここが? なんだ?」
「どうやら天使だけを感知しないっていう結界ではないらしくてな。ここが出入り口になってんだ」
「ほう?」
「てことは、ここから入るって事?」
「そういうこと~。で、これが開く時間帯が、もうそろそろなんだよな」
「なるほど。見直した」
「……なんでだ」
毎度ごり押しで突っ込んでいく応錬をよく知っていたので、このように長い時間をかけて調べ、最善の手を尽くす姿を見て鳳炎は考えを改めた。
こういうこともできたんだな、という感心の方が大きい。
しかしそうとなれば、そろそろ向かわなければならないのではないだろうか?
鳳炎がそう聞くと、応錬は頷いた。
「結界の扉が開くのは五分。その間に俺は『暗殺者』を使って入り込む」
「バレない自信はあるのか?」
「バレたらバレたで暴れたらいいだろ。まぁそれに、天使は攻撃系の擬似技能を多く作ってるはず。索敵とかは二の次だろ」
「可能性はないことはないが……まぁいい。その方針で」
「よし、じゃあ行ってくるぜ!」
応錬がそう言うと、その場からすっ……と気配が消えた。
注視しなければいつの間にかどこかに去ってしまいそうな雰囲気だ。
しかし瞬きをした瞬間、応錬の姿は完全に消えてしまう。
「ふぇ、応錬さんあんなことできたんだ……」
「私も最近知った。まぁ、あとは任せよう」
「私たちはどうする? 少し下準備した方がよくない?」
「とはいえ何を準備するのだ?」
「決まってるじゃん」
アブスは気分よく親指を立て、キリッとした表情で準備する物を口にした。
「火薬」
「馬鹿か」
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