7.20.擬似天使
天使の姿となったアシェラがグッと力を込める。
狙いを定めた彼女の目は、明らかに自我が失われていた。
そして彼女の擬似技能『剛槍』が放たれる。
以前見た時よりも威力が増しているようで、槍の周囲には風のようなものが可視化できるほどに纏わりついていた。
槍の周囲を取り巻いており、それが純粋火力を底上げしているようだった。
「宥漸君!」
「大丈夫!」
ケンラさんを後ろに隠し、片手だけでその槍を受け止める。
ガンッと鋭い衝撃が腕に走り、しばらく勢いと戦うことになったが何とか打ち払って空の方へと飛ばした。
「ま、前よりも強い!」
「とりあえず拘束するよ!」
「了解! 『身代わり』!」
アマリアズに身代わりをかけ、二人で一緒に走り出す。
アシェラはそのまま新しい槍を『槍造』で作り出し、今度はアマリアズに狙いを定めた。
ブンと投げられたかに思われた槍だったが、それはいつの間にか手に中から消えていた。
「……?」
「どういうことだ? 何故アシェラが天使の姿となっている」
ウチカゲお爺ちゃんがいつの間にか現れて、アシェラの持っていた槍を片手で握りつぶす。
「アマリアズ、宥漸。説明できるか?」
「その前に止めないと! 屋敷壊れちゃう!」
「それもそうだな」
じっと標的に狙いを定めたウチカゲお爺ちゃんは、一瞬でアシェラさんの後ろに移動して手刀を繰り出す。
トンッ……と見事に決まったはずだったが、アシェラは気絶することなく槍を作り出して斬りかかった。
それを素手で受け止め、再び握りつぶす。
「効かぬか」
また槍を作り出し、斬りかかる。
だがウチカゲお爺ちゃんはすぐに受け止めて握りつぶした。
そんな攻防を四回ほどやったところでようやくアシェラが飛び退いて後退し、槍の切っ先をアマリアズとケンラに向けた。
ブンッと投げられた二つの『剛槍』はやはりすさまじい威力であり、『身代わり』を掛けているアマリアズは受け止めきることができずに吹き飛んでいった。
ケンラさんは自力でその槍を日本刀で弾く。
相当無理をしているようで、一発弾くだけでも精一杯の様だ。
その間に、僕とウチカゲお爺ちゃんが距離を詰める。
バッと飛び掛かって僕が転倒させ、ウチカゲお爺ちゃんが上から押さえてくれた。
鬼の力で抑えられているのだから身動きなど取れるはずもなく、ずっと暴れているようではあったがもう起き上がれなさそうだ。
しかしまだ技能は使える筈。
しばらく大人しくしてもらうために何とかしたいところで、リゼさんが顔を出した。
「なっ!!? て、天使!?」
「リゼ殿! これを気絶させてくだされ!」
「えっ!? 了解!?」
ばっと近づいてきたリゼさんが、アシェラさんの背中に触れる。
「『雷縛』!」
雷の糸がアシェラさんの体に巻き付き、電撃を加えていく。
しばらく痙攣していたが途中でピタッと止まり、動かなくなる。
どうやら気絶してくれたようだ。
……リゼさん、絶対アシェラさんって分からず結構本気で雷魔法使ったよね……?
アシェラさん大丈夫かな?
僕がそう心配している間に、ウチカゲお爺ちゃんが脈を計っていた。
どうやらまだ息はあるようで、ケンラさんに縛り付けておくようにと指示をする。
まだ生きてるならいいか……。
「ちょっと待ってねぇなんで天使がいるの!? ウチカゲ説明して!?」
「私も分からん。何故アシェラが……」
「……え? えっ!!? この天使アシェラなの!? うっそ!!」
ま、まぁリゼさんの反応はよく分かる。
僕も何でアシェラさんが天使の姿になったのかよく分かってないもんなぁ。
でもアマリアズ、何か知ってたっぽい。
知ってたって言うか、気付いたって感じだったけど。
「……あれ? アマリアズ?」
「タースケテクレー」
「アマリアズ!?」
アマリアズが飛んで行った方角を見てみれば、松の木に引っ掛かってぶら下がっていた。
完全に身動きが取れない状況らしく、手だけをこちらに振っている。
よくそんなきれいに飛んで行ったな……。
とりあえず助けに行こうか……。
「ていうか、『空圧剣』で斬ればよかったのに」
「これウチカゲお爺さんの大切な松の木でしょ? 斬ったら怒られそうだったからやめた。それにそっちも落ち着きそうだったし」
「まぁそうなんだけどね?」
『空圧結界』で階段を作りながら、アマリアズに近づいて手を貸した。
これ僕がアマリアズに『身代わり』使ってなかったら激痛だっただろうな。
松の葉ってトゲトゲしてるし。
「……」
「? 宥漸君何を考えてるんだい?」
「いや?」
すぐにばれるな……?
まぁいいや早く助けちゃおう。
アマリアズを助けたあと、二人で『空圧結界』の階段を下りる。
で、アマリアズ何かに気付いてたよね。
「アシェラさんが天使になった理由分かったんだよね?」
「それは分かってない」
「あれ?」
「だけど、もっとやばいことは分かってる。ウチカゲお爺さんも見当はついてるんじゃないかな」
「それはなに?」
皆の下に戻る道すがら、答えを急かす。
するとアマリアズは、心底面倒くさそうな顔をして教えてくれた。
「擬似技能を持ってる天使は、擬似天使。つまり……全部“元人間”ってことだよ」
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