4.12.応龍の居場所


「応龍?」

「ああ、応錬かぁ~。確かに魔族領に封印されてるし、一番合流しやすくはあるね」


 そういえば、どこに封印されてるかってアマリアズから聞いた。

 確か……。


 一体は魔族領の深い洞窟の奥に。

 一体は海の中に。

 一体は広すぎる高原の下に。

 一体は深く危険な洞窟の最奥に。


 アブスが言うには魔族領に封印されているという話だったので、応龍は深い洞窟の中に眠っているのだろうということが分かった。

 でも名前は応錬。

 どうやら僕のお父さんではないらしい。


 ……待って?

 もしかして僕たち……。


「今から……魔族領に向かうの?」

「そうだけど?」

「ええ!? だだ、大丈夫なの!? なんか危険な魔物いっぱいいるらしいし! ていうかアマリアズ、昔一回死にかけてたじゃん!!」

「昔はね? 私もまだ弱かったし。今なら宥漸君の『身代わり』もあるし大丈夫でしょ」

「そうかもしれないけどー……」


 できればあんなのと何回も戦いたくない。

 だけど魔族領に行くとなったらそうも言っていられないだろうし、道中で何度か襲われれることは想定しておいた方がいいはずだ。


 なんで一番最初がそこなの!?

 もっとほら、高原とか、海の中とか!

 あるじゃん安全そうな場所が!

 僕はアブスに抗議する。


「何でよりにもよって最初がそんな危険な場所なの!? 安全なところから行こうよ! その人? たちも強いんでしょ!?」

「強いというか規格外というか。技能を沢山持ってて勝てる見込みないなぁ」

「ほら! じゃあもっと安全な場所から……」

「でも魔族領は悪魔が住んでいる場所なんだ。だから、案内ができる。それに……」


 場所も把握しているし、安全な行き方もアブスは知っている。

 だがそれよりも、応錬の封印を解く理由はあった。

 宥漸に笑いかけながら、その理由を教えてくれる。


「あの人が、四人の中で一番強い」


 アブスが知っている限りだと、戦闘経験こそあまりなかったように思えるが、その技能の数と威力は他の三人を凌駕する。

 水系技能を得意としており、そのほかにも空気系技能をいくつか持っていたはずだ。

 とはいえそのすべてを把握しているわけではないので、他にも特殊な技能を持っているはずである。


 もし、彼の封印を解き、それを察知した天使と人間が襲ってきたとしても、彼であれば一人でそのすべてを払いのける力を持っている。

 天使のことも知っているはずなので、話をすれば確実に協力関係を築けると確信を持っていた。


「それに、意外と優しい」

「い、意外と?」

「それじゃ、ちょっと昔話」


 アブスは人差し指を立てながら、思い出すようにして一つ一つ語り始めた。


「脅威を倒した四体の救世主だったけど、その力の代償は大きかったの。世界をめちゃくちゃにしたのがその四体ということになってしまった。何も知らない人は、彼らを殺そうと軍隊を派遣した。それに対抗したのが、彼らに昔から助けられていた人たち。人間、悪魔、鬼の三種族ね」


 その話を聞いて、アマリアズが頷く。

 なんだか似たような話を、彼から聞いたことがある。


「永い眠りから目覚めた応錬は、自分たちのせいで助けた人間、種族が争うのはおかしいと言い、自分たちが封印されることで、戦争をする理由を失くしたの」

「……それに、他の三人も同意したってことですか?」

「その通り」


 だが当時、アブスは他のことで忙しかったため、実際にその場に立ち会ったわけではない。

 最後に見送ることはできたが、それだけだった。


 しかしそのおかげで戦争をする理由は失われ、人々は昔と何ら変わらない生活を過ごしたらしい。

 悪い奴らが邪神を復活させようと封印を解きに来ようとした例はいくつかあったらしいが、強力な技能を持っている四体の下には誰もたどり着けなかったようだ。


「と、まぁそんなこんなで、応龍の決定によって平和が戻りましたとさ。まぁ会ってみれば印象変わるだろうけどね」

「へ、へぇ……」

「それじゃあ行きましょっか」


 そういい、アブスは翼を動かして飛び上がる。

 下半身を溶かし、白い肉塊を作って僕とアマリアズを包み込んだ。

 最後には箱のような形になり、その中に座り込んでいる二人の様子を面白そうに見つめる。


「「おわああ!?」」

「君たち歩くの遅いだろうから、飛んで持って行くね」

「一言あってもいいでしょうよ!」

「そーだそーだ!」

「よーしじゃあ魔族領へ~!」


 大きく翼を動かすと、二人を運んでいるとは思えない程の速度で進み始めた。

 どうやら翼にも白い肉塊を付けて大きくしているらしい。

 一気に空気を掴み、それを押す形で飛んでいく。


 この調子で行けば魔族領までは五時間程度だ、とアブスは言っていたが、その言葉を聞き取る余裕は二人になかったのだった。

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