4.10.状況を覆す方法
駆けつけた後、すぐにアマリアズに声をかける。
「アマリアズ大丈夫!?」
「どうやって抜けたの!?」
「分かんない! 抜けろって心の中で叫んだら抜けた!」
「ちょ、私のもやってみて!」
「了解!」
アブスの方はアマリアズが確認してくれている。
襲ってきたら教えてくれるだろうし、僕は救出に専念しよう!
手を掴み、抜けろと心の中で叫ぶ。
するとアマリアズの周囲にあった白い肉塊も力を失い、すぽっと手を抜くことができた。
だがやはりというべきか、体の中の魔力が少し抜ける感触が伝わってくる。
「これ……!」
「え、何か知ってるの? ていうかこれ技能?」
「技能だこれ! 『決壊』だよ!」
「けっかい?」
結界ではなく、決壊。
この技能は結界に込められた魔力と同等以上の魔力を使用することで、結界を破壊することができる技能らしい。
先ほどの拘束も魔力が込められていたので、使用することができたようだ。
ここでこの技能が発現したのは嬉しい。
よし、『決壊』を使えばあいつなんて怖くない!
逃げることに専念しながら戦おう!
「それでいいよね!?」
「上出来!」
アマリアズが手を振るうと、空中に『空圧剣』を幾つも作り出す。
完全に攻勢の構えに出ているようだが、逃げる事前提って忘れてないよね?
大丈夫?
未だ登る黒煙と土煙が混じる中、妙な気配を感じ取れた。
アマリアズも『空間把握』でそれは分かっていたらしく、より一層警戒心を強めて睨みを利かせる。
煙を払うようにして出てきたのは、体が辛うじて繋がっているアブスだった。
爆発にギリギリ耐えたようではあるが、体のパーツはばらばらだ。
腹部は皮一枚しか繋がっておらず、胸部と左半身はなくなっている。
頭と首だけは残っているが、君が悪いほど不格好になった彼女は困ったように頭を残った右腕で搔いていた。
「どうやったら信じてくれるのかなぁ……」
まだまだ余裕のありそうな言葉に、恐怖を抱く。
あれだけ体がボロボロになっているのにも拘らず、普通に喋ることができているのに驚くしかなかった。
ほぼ不死身なのではないか。
そんな懸念が脳裏をよぎるが、それはあながち間違いではなさそうだ。
僕たちの足元にあった白い肉塊が、力を取り戻したように跳ねてアブスへと集まっていく。
溶けた下半身に融合し、飛び散った白い肉塊が集まるにつれて体が元通りになっていった。
不思議なことに服も再現され、無傷な悪魔がそこに立つ。
「あの、ほんとに……僕は味方なんだけど……」
「「……」」
ここまで敵意を表さないとなると、さすがにこちらが間違っていたような気がしてくる。
構えは解かないが、アマリアズと顔を見合わせる。
「な、なんか……変じゃない?」
「いやでも変身してる可能性が……」
「確かにそうだけど……」
「だから変身技能なんて僕は持ってないってのー! 持ってる技能は『肉塊変化』と『一個体完全調略』だけだよぉ!!」
「『一個体完全調略』って洗脳技能じゃないか!!」
「どぅええええ!?」
やばい奴じゃん!!
えっこの人マジでヤバイ人じゃん!!
やっぱ信じちゃいけないと思う!
僕は構えを解かずに警戒をした。
だがアマリアズは、ゆっくりとした動きで技能を解除していく。
「え!? どうしたのアマリアズ! 洗脳受けた!?」
「いや、大丈夫。どうやら本当に味方だったみたい」
「そうなの?」
その言葉を聞いて、アブスは心底安堵したようで、ほっと胸をなでおろしていた。
しかし僕としてはまだ信用できない。
どうしてアマリアズが味方だと断言できるのかすごく気になるんですけど。
そんな視線を向けていると、まぁまぁと手で制しながら説明してくれた。
「私も技能を聞いて味方だって思ったんだ。『一個体完全調略』っていうのは洗脳技能なんだけど、目を合わせただけで洗脳することができる。もし向こうがその気なら、人質を取るはずだし、二体一で不利に戦う必要はないはず。それに、なんだか戦闘に消極的だったし」
「えっこの技能、目を合わせるだけで良かったの!?」
「……なんで本人が知らないの」
「ずっと頭捕まえて目線合わせさせてた……。時間かかる技能だとばかり……」
「あ、そう」
なんか出鼻挫かれてない?
まぁ、いいか……。
うん、確かに今のアマリアズの説明で、アブスが味方だってのはなんとなく分かった。
……てことは……。
僕たち、助けようとしてくれる人に攻撃しちゃったって事?
「ごめんなさぁあああい!!」
「いやいやいやいや大丈夫大丈夫!! 僕不死身に近いから!! それより」
可愛らしく首を傾げながら、手を顎に添える。
アブスは僕をじっと見つめたまま、何か考えているようだった。
「宥漸君、さっきの技能、なに?」
「? 『決壊』ってアマリアズから聞きましたけど……」
「あ!!!!」
急にアマリアズが大きな声を上げた。
僕とアブスはそれに驚き、彼の方を凝視する。
何に気付いたのだろうか、と思ってみていると、急に僕の方へと体を向けて肩を掴んできた。
「わっ!」
「天使に対抗する手段が見つかったかもしれない!!」
「え!?」
さっきの話の中で何に気付いたっていうのさ!
脈絡全然なかったと思うんだけど!
だがアマリアズの目は希望の光が満ちている。
これさえあれば、数も分からず、実力も分からず、更に人間を味方にしようとしている天使にも確実に対抗できる手段が用意できると確信を持っていた。
手に入れる力を込め、僕に言う。
「宥漸君!」
「な、なに?」
「あの四体を! 解放しに向かおう!!」
「「……え?」」
悪魔であるアブスもその言葉の意味が分からず、僕と共に素っ頓狂な声を出したのだった。
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