4.9.決壊


 目の前にいる悪魔の言葉に一瞬驚いて動きを止めてしまったが、すぐに反論する。


「「うそつけ!!」」

「ええええええええ!?」


 天使であれば、こちらの情勢など五年の歳月をかけて調べていたに違いない。

 友好関係を築いている鬼と悪魔の名前くらい、知っていてもおかしくはないだろう。


 それに、こいつが偽物である可能性が高い理由は、もう一つあった。


「どろどろしてるんだから変身とか得意そうだもんね!」

「その通りだ宥漸君!」

「僕のアイデンティティをそんな風に言わないでくれるかな!? 変身技能は持ち合わせてないよ!!」


 いやそう考えるのが普通でしょうよ!!

 天使は技能を持ってるんだからそういう変身技能を持っていてもおかしくない!

 それにこの拘束……。

 僕たちを生け捕りにしようとしていることがありありと伝わってくる。


 戦うにしてもこれ何とかしないとな……。

 幸い生け捕りを目的としているみたいだから、殺すようなことは絶対にしてこないはず。

 だったら脱出できる機会は十分にあるはずだ。


 だけどこれ……!

 ぜんっぜん抜ける気配しないんだけど!!


「ぬうううううう!!」

「気持ち悪いなぁ!!」

「酷い……。ま、まぁ悪魔だし……いいし……別にいいし……」


 悪魔がしょんぼりしながら頭を掻いている。

 そして腕を組み、どうやって二人に自分が味方だと説明すればいいか思案しているようだった。

 だがその姿は余裕のある振る舞いにしか見えず、宥漸はカチンときて油断している間に脱出方法を考え始めた。


 僕は両手を、アマリアズは両手両足を完全に拘束されてしまっている。

 爆発系技能は全部吸収されてしまうから、爆拳を使っても意味がない。

 捨て身の攻撃もすべて耐える白い肉塊は移動速度も速く、隙が無いように思えた。


 これは切断系技能の方がいいのかな。

 でも僕そんな技能持ってないし……。

 あ、いや……『貫き手』っていう技能があったな!!

 ああでも拘束されてるから意味ないかもしれない!


 考え事をしていると、悪魔が声をかけてくる。


「とりあえず自己紹介するね? 僕は中級悪魔のアブス。技能持ちの悪魔だよ、宥漸君」


 そういいながら、黒く長い髪で見えにくかった折れ曲がった角を触る。

 中級悪魔ということで角の大きさは少し小さいらしい。

 だが折れ曲がった角というのは、技能持ちの悪魔である証。

 技能を持たない悪魔は、基本的に真っすぐで真っ黒な角を持って生まれてくるが、稀に曲がっているか、ねじれている角の個体も生まれてくる。


 厳密にいえば他にも技能持ちの特徴がある角が幾つかあるが、一番分かりやすいのは折れ曲がっているかどうかで判断がつく。

 なので彼女は、明らかに技能を持っている悪魔だということが分かった。

 ということは、四百年以上生きているということになる。


 アブスはこちらが何か反論してくる前に、捲し立てるように説明を続けた。


「昨日ウチカゲから連絡があって、急遽僕が二人の護衛、保護を仰せつかった。天使の脅威から守るために。魔族領は忙しいから僕しか来れなかったけど、落ち着いたら援軍が到着するよ」

「信じられないね!」

「ダチア様からもう一人居ると話を聞いていたけど……君は誰だろう……? 名前を伺ってもいいかな?」

「余裕こきやがってぇ……!」


 アマリアズがご立腹である。

 なんとか腕を引き抜こうと必死ではあるが、アブスの拘束は強力で抜ける様子は一切なかった。

 拘束を破る技能はアマリアズも持ち合わせていないのだろう。


 かくいう僕も何にも持ってないけど!!

 ああくそう!

 抜けろおおおおおお!!


 すぽんっ。


「……おっ?」

「えっ?」


 僕の中の魔力が少し抜かれた。

 その感覚を感じ取った瞬間、近くにあった白い肉塊が力を失ってべちゃりと落ちる。


 アブスはそれにとにかく戸惑った。

 今二人を拘束している白い肉塊は自分の体だ。

 だというのにその一部が完全に力を失ったことに驚きを隠すことができず、焦った。

 まるで体の一部が不自由になる感触が襲ってきたからだ。


 チャンス!!

 僕はそう思ってすぐに構え、思いっきり拳を振るう。


「『爆拳』!」

「ちょま──」


 ボガアアアンッ!!

 直線状にあった木々を巻き込むほどの大爆発が発生し、僕の体も吹き飛んでいく。

 相変わらず本気を出すと体が飛んで行ってしまうが、今回はこれくらいしなければならない程の敵だと感じた。

 宙を飛びながら体勢を整え、地面に着地する。

 そしてすぐにアマリアズの救出に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る