4.3.君の父親


「邪神が一体。霊亀が君のお父さん」

「……本当に?」

「本当に」


 真面目な顔は一切崩れる様子がない。

 これだけは信じてもらわなければならないという、アマリアズの意志が手に取るように分かった。

 しかし、どうしてもすぐには信じられなかった。

 理解が追い付かないのだ。


「え。えっ……」

「ま、邪神四体は人間の姿を取ることができたからね。ていうか本当は邪神じゃないけど『応龍の決定』でそうなっちゃったんだ。都合のいいように捻じ曲げる代わりに、代償として一つ不利なように記憶が捻じ曲げられる。ああ、じゃあその邪神についての話だったね」


 僕が放心しているのにも拘らず、アマリアズは話を続ける。

 得意げに指を鳴らし、思い出すようにして宙を見上げたあと一つ一つ教えてくれた。


「あー、そうだなぁ。邪神四体は、過去にこの世界を壊しかけたとされている。ガロット王国はそれによって一度滅び、他の国々も大きなダメージを負った。それを阻止したのは当時の人間たち。彼らを何とか誘い込み、協力して『封殺結界』へと閉じ込めた……」


 四百年前。

 復活した邪神は世界で破壊の限りを尽くそうとした。

 魔族領が破壊され、ガロット王国が滅び、他の国々も地図から消え去ったとされている。


 そこで人間たちが考案したのが、封印魔法。

 使用されたのは封印した相手をに閉じ込める魔法であり、もし封印が解除されると中にいる存在が確実に死亡するという『封殺結界』だった。

 これでもし封印が解かれても安心という訳らしい。


 であればさっさと解除して殺してしまえばいい話なのではあるが、この結界は封印を解いた本人すらも死に至らしめるので、誰も手を付けないようだ。

 それに、封印場所は普通の人間が到底たどり着けるような場所ではない。


 一体は魔族領の深い洞窟の奥に。

 一体は海の中に。

 一体は広すぎる高原の下に。

 一体は深く危険な洞窟の最奥に。


 ほとんどはひどく危険な土地であり、到達するのに困難を要する。

 唯一安全な高原は、そのどこに眠っているか分からず、探そうとした者たちもいたようだったが結局無駄足を踏むことになったらしい。

 どうして探しに行こうとしたのかは謎でしかないが。


 つまるところ、彼らは見つけに行くことができない程危険な土地に眠っている。

 当時はそこまで危険な土地ではなかったのかもしれないが、今はほとんどの種族がその地を踏むこともできない程の危険地帯だ。

 だがこれにより、世界に平和が訪れたのは事実。


「……と、一般的には書物とかに残されてる」

「というと?」

「四体が世界を滅ぼしかけたってのは『応龍の決定』で捻じ曲げられた嘘。この技能は術者が望むことを現実にさせる反面、その代償として一つ術者に不利な様に事実が改変される」


 では実際の彼らは何なのか。

 それは……。


「その四体こそが、この世界を救った救世主であり……元凶。まぁそれは私たちのせいなんだけどねぇ~」

「ど、どういうこと?」

「ああ、なに。簡単なことさ。彼らにくっついていた本当の邪神が顕現したんだ。で、彼らがそれを止めちゃったって訳」

「その邪神を止めるのに『応龍の決定』が使われたって事?」

「ああ、そうなるね。そのせいで彼らが悪者に仕立て上げられた。代償でね」


 ……ん?

 アマリアズって邪神……え?

 今自分の事邪神って言わなかった?


 それに気付いて口を開こうとしたが、その前にアマリアズが話はじめる。


「邪神を倒すのに『応龍の決定』を使用し、その代償として彼らが世界を破壊しようと目論んだ邪神だと、この地上全ての者たちにねじ込められた。でも、彼らはもう一度『応龍の決定』を使ったんだ。そのせいで、普通の封印が『封殺結界』に変わってしまった。さて、何に使ったと思う?」

「……え? いや分かんないけど……」


 スッ、と僕の方に指を指した。

 表情は先ほどと打って変わって、にこやかなままではあるが、それがなんだか恐ろしかった。

 次に聞く言葉を聞きたくない。

 だが好奇心は抑えられないし、アマリアズが言わない選択肢を取るとは思えなかった。


 だから聞かざるを得なかった。

 彼らが何に技能を使ったのかを。


「宥漸君。君を、四百年後の世界に飛ばしたんだ」

「……へ?」

「要するに君はね……。四百年前に産まれた人間なんだよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る