3.7.様子のおかしな魚
それから二度ほど滝を越え、更に山奥へと来ることになってしまった。
様子のおかしな魚はいくら探しても見当たらず、見つかったのは木の間を抜けて飛んでいく鳥くらいだ。
川の中に落ちて流れていく葉っぱを見ながら、僕たちは少し休憩していた。
さすがに歩き詰めだったので疲れてしまったのだ。
この盥……邪魔だなぁ……。
「なかなかいないもんだね」
「だねー」
「まぁそう簡単に見つけられるとは思っていないけどさ。っていうかこの辺は山の奥だってのに何もいないみたいだ。私の『空間把握』でも何も見つけられないよ」
「僕も気配を感じ取ってはいるんだけど、危険そうなのは何もいないね。まぁいいんじゃない?」
「静かすぎるのは少し不気味なんだけどねぇ……」
アマリアズがさらに上流の方へと目をやった。
でもさっき鳥とか見たし、何もいないって訳じゃない。
虫もいるみたいだったから森自体は死んでないと思うけど、確かに大きな動物はいないなぁ。
食べるものが少ないから下の方に降りてるのかな?
うん、それが可能性としては高そうだね。
てことは里の方に獣が多いかもしれない。
これもウチカゲお爺ちゃんに帰った時でいいから話しておこうっと。
さ、休憩もそこそこにもう少し探してみようかな。
ベドロック、いないと困るし……。
まったくマレタナゴめ……なんて面倒くさい魚なんだ。
畑仕事の敵だなぁ。
「よいしょっと。さ、行こうか」
「そうだねー。んじゃ私はさっきと同じように向こう側から探してみるね」
「了解~」
アマリアズは『空圧剣』を作り出し、ふわりと浮いて対岸へとすぐに渡った。
さすがに僕の技能はあそこまで小回りは利かないな……。
まぁもっと技能が増えるかもしれないし、今後に期待ってことで。
盥を頭に乗せて、川べりを歩いてベドロックの香で惑わされている魚をもう一度探していく。
ここから先はしばらく滝がないらしく、ひたすら山を登りながらの捜索になりそうだ。
とはいえ、ずいぶん上流に来てしまったからか、次第に川の幅が細くなり始めている。
先ほどまでアマリアズに声をかけるときは大きな声をあげなければならなかったが、今は普通に声をかけるだけで会話をすることができる程に狭まっていた。
こんな上流に本当に居るのかなぁ?
とりあえず前鬼の里には二つの川が流れているから、最悪そっち方面も探してみないとね。
パシャ。
何かが跳ねるような音がしたため、僕とアマリアズはすぐにそちらへと注意を向けた。
じっと観察してみると、再びパシャリと魚が跳ねる。
あれは何の魚だろう?
見たことのない色をしているけど……結構大きい。
こんな上流にあそこまで大きな魚がいるもんなんだなぁ。
「……宥漸君。これ、当たりだ」
「え?」
当たりってことは……これがベドロックの香に惑わされている魚って事!?
本当に!?
もっとよく見るため、僕は見やすい位置へ移動して観察する。
すると先ほど跳ねた魚が二度、三度と同じ行動を繰り返し続けていた。
よく見るとその魚は体中がボロボロで、跳ねると同時に石に体当たりをしている。
どうしてそんなことをしているのかよく分からなかったが、いつの間にかとなりに来たアマリアズが理由を説明してくれた。
「あの魚はシールドデフレクタ。めちゃくちゃ硬い鱗を持ってる魚なんだけど、今はベドロックの香で惑わされていて、自分の鱗を剥がそうと石に体当たりし続けてる」
「ベドロックはそんな事もさせられるの?」
「うん。硬い鱗は噛み砕かない限り消化しにくいからね。ベドロックの食事方法は丸のみが基本だから、できるだけ鱗を剥がして食べようと思ってるんだと思う」
「な、なるほど……」
確かに自分を守ってくれる鱗を剥がそうとしてるのはおかしいもんね。
魚の種類を知っていたアマリアズだから気付けたのか。
いやぁ、連れてきて正解だったね。
でも川の中を見る限り、ベドロックらしき影は見えない。
何処にいるんだろう?
「ここからそう遠くない場所にいるはずだよ。居るのは上流。香を嗅がせ続けないと惑わせる効果が切れるからね」
「だから上流に棲んでるんだね」
「そゆこと」
なんにせよ、いるってことが分かった!
あとは探すだけだけど……ここからが大変そうだなぁ……。
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