3.6.上流


 アマリアズの技能で案内をしてもらい、僕たちは無事に上流へとやってくることができた。

 この辺りは森は静かだが、川の流れが少し早くその辺りは騒がしい。

 滝が三つほど連なっており、岩なども大きくその辺に転がっている。

 手つかずの森の奥は巨大な樹木が自分の存在を誇示するかのように地面にはみ出すほどの根を張っていた。


 やっぱり上流の方にまで来ると、森の奥深くまで来ることになっちゃうなぁ。

 この辺の木は樹齢何年なんだろう?

 鬼の里からここまでは遠いから、木材を取りに来るのにこんな所まで登っては来ないからなぁ。

 そういえば木材って何処で調達してるんだろう。

 僕たちが使ってた修行場にあった樹木も大きかったけど、あの辺りの木には手をつけてなかったはず。


 ……あ、その辺にある木が大きすぎて、建材に使うために伐採する木も少なくていいのかな?


「それはどうだろう……?」

「あれ、違うのかな」

「そもそも鬼たちは長生きだし、木材なんて針葉樹だったら八十年くらいで使えるようになるからね。それにこんなバカでかい木を使うより扱いやすい若い樹木を建材には使うよ」

「へ~詳しいねぇ~」

「まぁね~。樹木にコブとかがあると年輪とか凄いことになるし使いにくいんだよ」


 一体何処でそんなことを覚えて来たんだ……。

 まぁアマリアズはなぜかいろんな事を知っている人だし、今更気にしないけどね。


 さってと、結構上まで歩いてきた。

 魔物の気配とかこの辺にはないから安全かな。

 川も滝壺以外は基本的に浅いから、溺れることはないと思う。


 えーっと、確か……。

 ベドロックを探すのには川の中にいる魚の動きを見ないといけないんだっけ。

 香によって惑わすから、魚の動きが変になる。

 それで魚をおびき寄せて、動けないベドロックの近くに来てもらって捕食するっていうのが狩りのやり方らしい。


 でもベドロックの香がどこまで効果があるのかいまいちわかってないんだよね。

 多分そんなに強力な物じゃないから、近寄ってきた魚にしか効果を発揮しないんだと思う。

 川べりを歩いて魚を探していくしかないかなぁ。


「……見えない」

「そりゃそうだよ。魚は鳥とかに狙われないように背中が黒く、魚に狙われないように腹が白い。生きるために進化した結果そんな色合いになってるんだ」

「どうやって探そう?」

「んー、そうだなぁ……。川の魚は警戒心が一層強いからね。砂利を踏んだ音を聞いた時点で隠れられるのがオチかな」

「むぅ……」


 ……あ、でも魚がいないってことはベドロックは近くにいないってことになるかな?

 香に惑わされた魚は近づいても逃げないってアマリアズが言ってた。

 どの道水の中にいる魚を探すことに変わりはないけど、逃げないんだったら探しやすいよね。


 そのことをアマリアズに聞いてみると、何度か頷いた。

 僕の言っていたことは正しかったみたい。

 じゃあ早速川べりを歩いて香に惑わされている魚を探しいていこう!


 アマリアズは対岸から探してくれるので、僕たち二人は川を挟んで上流へと向かって歩いていくことになった。

 川の中をよーく観察しながら、転ばないように足場の悪い川辺を慎重に超えていく。

 滝壺などには魚が多く居るはずなので念入りに探してみたが、時々小さな魚が近くを泳いでいるだけで大きな魚は見えなかった。


 んー、ここにはいないかな。

 さっき見た小さな魚は僕を見ると逃げていったし、香で惑わされてないっぽい。

 それじゃあ今度は……ああ、滝を越えなきゃいけないのか。

 ちょっと遠回りになるけど、迂回していこう。

 アマリアズも真っすぐいけなさそうだしね。


 そう思ってアマリアズを見ると、手に大きめの『空圧剣』を作り出していた。

 なにをする気なんだろうか、と思ってみていると大きな『空圧剣』を両手で持ったままふわりと浮いていった。


「ええーーーー!!?」

「おっさき~」


 ええーずるいぞ!!

 ってそういえばアマリアズの『空圧剣』って投げなくても自動で飛ばせる能力あったな!!

 それの応用で大きな『空圧剣』を作ったのかぁ!


 む、むむむむ……。

 これでは置いていかれてしまう……。

 何か使えそうな技能ないかな?


 ……んー……『空圧結界』……かなぁ?

 何とか足場にできないかなこれ。

 そういえば何枚も作ったことないや。

 試してみるのも兼て、これを使って階段を作ってみよう!


「よし、『空圧結界』」


 階段をイメージして『空圧結界』を使ってみると、案外すんなり作り出すことができた。

 半透明の結界なので見えにくいが、それによって足を踏み外すことはなさそうだ。

 魔力消費もあんまりなかったので何枚も作れるらしい。

 僕はすぐにテンテンと『空圧結界』で作った階段を上っていき、滝を越えることができた。


 登り切るとアマリアズは意外そうな顔をしてこちらを見ている。

 僕がしてやったりという顔を向けると、くすくすと笑われた。


「技能は応用することができる。忘れないようにね」

「……先に言っといてよ……」


 うん、それもうちょっと早く聞きたかった。

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