3.8.ひっそり隠れるベドロック
あれから少し経ち、僕とアマリアズは水の中に足を着けてベドロックを捜索していた。
何匹か様子のおかしい魚がいるということも分かったので、この辺りにいることは確かだ。
だけどなかなか見つからない。
ベドロックは強力な吸盤を岩にくっつけ、生涯その場所から動くことはないらしい。
なので比較的見つけやすい場所に居ることが多いらしいのだが……。
「見つからなーい」
「もしかしたらまだ小さいベドロックなのかもしれないね……」
「小さくてもシールドデフレクタみたいな大きい魚も食べるの?」
「香で操られた魚は大体食べるよ。さすがに大きすぎるのは無理だろうけど……うーん」
もし、食べられない程の大きさの魚を香で捕まえた場合、食べられる大きさになるまで自分のことを守ることに使用するらしい。
でもシールドデフレクタは岩に激突して鱗を剥がしてたよね。
あれって食べる気満々じゃないのかな?
もしあれだけの大きさの魚を食べられるんだったら、すごく大きいと思うんだけど……。
うーん、どうなんだろうなぁ。
とりあえずもう少し探してみるしかなさそうだね。
水中だとアマリアズの『空間把握』も発動しないし、僕も魚の気配はほとんど感じ取れない。
明らかな敵意を向けている場合は分かるかもだけど……。
魚は基本的に臆病だからね。
盥を頭に乗せたまま、僕はもう少し上流を探してみることにした。
隠れやすそうなところを重点的に探してみるのだが、岩の下にはおらず、ひっくり返してみても香に惑わされている魚がよろよろとその場を逃げていくだけ。
んー、まだ上かな。
香に惑わされている魚がいるわけだしね。
そう思って上流へと歩いていく。
水を搔き分けながら進んで行くと、小さな滝が流れている場所に辿り着いた。
段差が低いので大きな音は聞こえないが……これより上流にベドロックは行くことはできないはずだ。
となるとこの辺りに絶対いるはず。
そう思って注意深く水の中を観察してみる。
小さな滝によって生み出される波と空からの光が反射して中を覗き見ることは難しかったが、異様に黒い物体を発見することができた。
なんだろうと思って手を伸ばしてみると、威嚇するかのように手に喰らいつこうとしてくる。
「わわっ!」
すぐに手を引っ込めて事なきを得たが、その魚は一向に動こうとしない。
絶対にこれだと確信して、アマリアズを呼ぶ。
「アマリアズー! 見つけたー!!」
「お!」
石を足場にして軽快なステップでこちらへとやって来たアマリアズは、すぐに指が指されている場所を確認する。
そこには確かにベドロックが居て、ぱっと見では気付けないような場所にひっりと隠れていた。
良く見つけたものだと、アマリアズは僕を褒める。
「お手柄だよ宥漸君! さてと、このベドロックはどうやって水底に張り付いているのかな……? よし、宥漸君。小さめの『空圧結界』を水面に作ってみてくれる?」
「分かった。『空圧結界』」
アマリアズの注文通り『空圧結界』を水面に作り出した。
半透明の『空圧結界』は波を遮り、光を照らさないようにしてくれて、水の中の様子が鮮明に分かるようになる。
良ーく確認してみると、ベドロックは大木の根に吸盤を張り付けているらしい。
石だったら何とか破壊して運ばなければならなかったので、これは幸運である。
アマリアズが『空圧剣』を作り出し、根を切り取るように突いた。
何度か同じことをしていると、ようやく根を切り離すことができたようだったが、意外に大きい根っこは半分以上が水底の地面に埋まっている。
そこで今度は力の強い僕が思いっきり引っ張り上げることになった。
腰に力を入れて立ち上がるようにして持ち上げると、意外とすんなり持ち上げることができ、根にくっついているベドロックがじたばたと暴れている。
生命力が強いらしいので、しばらくそのままでも問題ないのだとか。
「おおー! 気持ち悪っ!!」
「色合いは不気味だよね~。よし、じゃあそのまま持っててね。盥に入るくらいの大きさに根っこを切っちゃうから」
「分かった」
すぐに根は切断され、盥にすっぽり入る程に調整された。
その後盥に水を入れ、ベドロックをその中へと静かに入れる。
不満げに水をバシャバシャを飛ばしてくるが、それ以上のことは何もできないようだ。
動けないから回収自体はとっても楽だったね。
よーし、これを持って帰ればマレタナゴ問題が解決するぞー!
で、でもここから帰るのか……。
結構大変だなぁ……。
「……ねぇアマリアズ」
「いやな予感がするけど一応聞こう。なんだい?」
「『空圧剣』で僕たちを乗っけて帰れないかな?」
「無理だよ!」
「無理かぁ~はははは」
移動型の技能じゃないもんね!
そりゃそうだよね~。
僕の『空気圧縮』はその場に固定されちゃうから移動させることはできないし、じゃあ結局歩いて帰るしかないかぁ~。
まぁ仕方ないね。
笑いながら僕は帰り路へと足を進めた。
少し困ったように頭を掻きながらその後をアマリアズが付いてくるのだが、その時、とんでもない異臭が鼻を突く。
「くっさ!! ナニコレ!」
「な……!?」
「!? なんかいる!」
「嘘!?」
僕は森の奥で何かがこちらに近寄ってくる気配を感じた。
水っぽい音を立ててやってくるそれは、巨大な山椒魚のような見た目をした魔物だ。
巨大な舌で口元を舐め回し、僕が持っている盥を凝視した。
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